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台湾役者日記

台湾役者日記

大敵當前

■■2004年12月11日付

■ スターリングラード

テレビで『大敵當前 ENEMY AT THE GATES (スターリングラード)』(2000年)を観た。

ジュード・ロウ、ええわぁ~。

いやあ、『スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー』(以下、『スカテン』と略称)のときにはそれほどとも思わなかったのだがそれは『スカテン』が芝居(重視)の映画ではなく美術と編集(が目玉)の映画だったからで、ジュード・ロウに許された演技の幅は脚本上もとても狭いものだった。ところがこの作品では、ジュード・ロウ演じる「ワシーリー・ザイツェフ」には、いろんな表情を見せられるだけの「尺(=フィルムの長さ)」が与えられている。無力な丸腰の兵士だったのが、銃を持たせれば凄腕の狙撃兵。冷静な仕事師でもあれば恋する青年でもあり。「ワシーリー・ザイツェフ」は全編ほぼ出ずっぱりだ。凡百の役者だと味付けが濃すぎて途中で飽きられてしまうのだが、ジュード・ロウはすごい。まるで「ごはん」のようにいくらでも観ていられる。調べてみればこの人もイギリス人だった

やっぱりイギリス役者はやってくれる!

敵役のドイツ軍狙撃の名匠「ケーニッヒ少佐」のエド・ハリスもいい。大学時代にどっかの名画座で『アンダー・ファイア UNDER FIRE』(1983年)を観たとき、悪辣な歴戦の雇われ兵を演じるこの人を見て以来、その存在感の確かさにはずっと敬服してきた。「ゴリッとしてる感じ」の人物を演じさせたらこの人の右に出るものはない。トミー・リー・ジョーンズがジャガイモくらいの固さだとしたらエド・ハリスは石である。ほんとにゴリッとしてる。

あと、この『スターリングラード』の監督はジャン・ジャック・アノーという人である。この人の映画は、『ブラック・アンド・ホワイト・イン・カラー』(1977年)、『人類創世』(1981年)、『薔薇の名前』(1986年)の3本をかつて映画館で観た。(『愛人/ラマン』(1992年)はテレビで観た。)

この人の作品は、なんと言うか、こっちの腹にドッカーンと来るような「ヤラレタ感」は与えてくれないものの、どの映画も不思議な魅力をたたえている。

まず第一に、この人の映画はどれもこれも舞台背景がきわめて特殊かつ大掛かりである。『人類創世』(原始時代)にも驚いたが、『薔薇の名前』(中世イタリアの修道院)にはもっとびっくりした。今日観た『スターリングラード』にしたって、どこにそんな土地があったんだと言いたいほど広大な「戦災地」を用意している。まあある程度はコンピュータで作ってるのかもしれないが。で、そういう特殊かつ壮大な舞台装置がまったく破綻なく見ていられるというのは、これは監督が美術その他に対していかに研究を尽くし、ビジョンを明確にしているか、ということを意味するのだ。ビジョンを明確にし、それを美術部その他のスタッフに指示して、目の前に実現させなければならない。気が遠くなるほど細かい検討と決断があってこそ、これらの作品の「画面」は出来上がるのだ。

第二に、この監督のエライところは、それにもかかわらず作風があっさりしているところだ。そこが不思議。どの映画を観ても「読後感」(じゃないよな、どういえばいいのか?)はさっぱりしている。主人公の運命が二転三転して最後の5分で大どんでん返し、とか、敵役が死ぬ前に2分15秒しゃべる、とか言うことはまず絶対にない。回想シーンもあんまりないんじゃないか。とにかく素直。どんなに特殊なオハナシでも、映画としては淡々と進む。

この特徴は最初の作品である『ブラック・アンド・ホワイト・イン・カラー』のときからそうだった。エロエロのドロドロになってもおかしくない『愛人/ラマン』にしたって、なんかとてもあっさりしてたように思う。それが物足りないと感じることも、わたくしにはありました。が、いま思うとこれは、「映画」監督としてのジャン・ジャック・アノーの自信の表れではないかと思われる。つまり、これらの作品には映画としての栄養分はもう十分すぎるほど含まれております。それを享受できないようでは、アナタ、映画の見巧者とは言えませんよ、と、そういうことなのではないか。ハイ、すみません。

ところで、映画館で観たジャン・ジャック・アノー監督作品のうち『人類創世』と『薔薇の名前』の2本には、『スターリングラード』でも主人公の先輩兵士を演じているロン・パールマンが出ている。一度見かけたら忘れられない俳優である。とくに『人類創世』でこの人の演じる「原人」は、まるで本物の原人さんに来ていただいているのかと見まごうばかりの「原人ぶり」だった。『人類創世』は、忘れ得ぬ映画のひとつである。 



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