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ねぼすけの読書感想日記

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ねぼすけ2004

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2009.01.17
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カテゴリ:書評

田中利幸「空の戦争史」〈講談社現代新書1945〉(講談社、2008.6)を図書館で借りて読んだ。

以前、「三千年の海戦史」を読んで、とても面白かったので海戦の次は空戦ということで借りたものである。実は内容は、空の戦いや国家の空軍戦略や戦闘機・武器の性能のたぐいの話では全くなく、最初から最後まで空爆(爆発物を使う空からの攻撃)のうち、「非戦闘員である一般市民の殺傷を目的とした無差別爆撃が、なぜ非人道的と考えられながら、ごく普通の戦闘方法として用いられるようになったのか」に徹底して焦点が当てられている。

確かに昔から、海戦や陸戦は主に戦闘員同士の戦いであるのにもかかわらず、なぜ、無差別爆撃という非戦闘員の殺傷を目的とした戦闘行為が許されているのか不思議であった。この疑問が氷解しただけでもとても意味のある本であった。

空爆の歴史は、1783年11月21日にパリ郊外で人間が乗った気球が歴史上初めて空を飛んで以降、1849年のオーストリア・イタリア戦争(第一次イタリア独立戦争)において、オーストリア軍が考案した風船爆弾(ショックヒューズ付き爆薬を取り付けた小型風船)がベニス攻撃に使用されたことで始まる。その後、1903年12月17日に米国オハイオ州のライト兄弟が最初の飛行機浮揚に成功して以降、第一次世界大戦中の1914年8月30日のドイツ軍機によるパリ攻撃(鉄道駅を狙って投下した爆弾がそれ、市民の女性一人が死亡)が、本格的な空爆の始まりである。

19世紀末には、空からの攻撃や空爆が、近い将来の戦争において主要な戦術の一つになるであろうことは予測されていた。と同時に、この戦術を採用するか否かによって戦場での優劣がはっきりと分かれ、勝敗の決着がつくまでの戦闘期間がきわめて短くなり、結果的に戦闘での死傷者数が少なくなるという楽観的見通しもあった。また、爆撃の破壊的影響があまりにも大きいために戦争はそう簡単には起きなくなり、平和な世界になると予測する者もあった。しかしながら、現実はそうはならなかった。

当初は、敵国の軍事施設を爆撃目標としていた爆弾が、その周辺に落ち非戦闘員の殺傷につながり、その報復の連鎖で無差別爆撃が容認されていった。その際の空爆の目的は、「敵国人の戦争意欲を挫くこと」であった。第一次世界大戦では、結果として、空爆が敵国市民に多大な恐怖心を与え、そのことによって敵国社会の秩序を乱し、ひいては戦勝に貢献できる可能性があるということが軍の理論として採用された訳である。また、第二次世界大戦においては、この理屈が徐々にエスカレートし、爆撃機の爆弾搭載量向上や殺戮能力の高い高性能焼夷弾も開発され、戦略爆撃(敵国の生産力を労働力も含めて減退させる爆撃)と呼ばれた、非戦闘員の攻撃対象とした無差別爆撃さえ一般化されていった。

かくして第二次世界大戦中に、1945年の春までにはドイツ131の都市が、英米軍それぞれ100万トンの爆弾による空襲を受け、60の主要都市はすべて破壊され、60万人の死亡者と350万戸の全壊家屋数に至った。また、日本においては、非白人に対する米国の人種差別もあり、当初から都市の焦土化を狙った容赦のない無差別攻撃であった。1945年3月10日零時8分から開始された午前2時半までの東京での絨毯爆撃で一般市民9万7千人が死亡したことをはじめ、米軍は日本本土に16万8千トンの爆弾・焼夷弾を、全国100あまりの都市に投下し、空爆だけで56万人の死亡者に至ったわけである。

なんて悲しい不合理な事実だろう。静かな怒りを感じる。
名著と思います。ぜひ、一読すべき本です。 (星五つ:★★★★★)



空の戦争史






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Last updated  2009.01.17 19:32:08
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