049777 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

waiting for the changes

waiting for the changes

15話:赤と黒

「行けぇぇ!!」
翼はトリガーを引く。ブラック・バードからエネルギー弾とミサイル、リニア弾が放たれる。世界政府軍の防衛用戦闘機が一瞬にして3機破壊される。すぐさま地上に向かってリニアガンを放った。防衛兵器が次々と炎を上げ鉄の塊へと姿を変えていく。ヴィラも高い機動力を武器に世界政府軍の戦艦を破壊した。相手にとっては一瞬の出来事だった。
「漆黒の鷹だ!よし!我々も行くぞ!!」
“鷹”が居るだけで反政府軍の士気は全然違ってくる。急に動きの良くなった反政府軍のGたちを世界政府軍のGたちが必死に迎撃する。反政府軍最強の機体が目の前に居る。
「うわああ!“漆黒の鷹”だぁ!!」
「火線を“鷹”に集中!撃破せよ!」
飛び交う指令に、飛び交う銃弾の雨。“漆黒の鷹”はその中を華麗に泳ぐ。
「“漆黒の鷹”と思われる機体を確認。世界政府軍と戦闘中の模様。・・・我々にも被害が出ています」
「うむ・・・、“漆黒の鷹”とはな。世界政府軍(やつら)を蹴散らした後に厄介なものが残るな・・・」
傭兵組織の戦艦の中で、オペレーターが部隊長に振り返りながら報告した。傭兵の中でも“漆黒の鷹”は有名人だ。彼の能力は誰もが一目置く存在となっている。今はどちらかと言えば世界政府軍に矛先が向いている。それが無くなれば傭兵組織に向くことは目に見える事実だ。
「3セクション部隊に告げる。“漆黒の鷹”を確認。迎撃に向かってくれ」
ブラック・バードとシャイニングに20機近いフライング・アタッチメント装備のGが差し向けられた。


「すげえな・・・」
「気を引き締めろよ。味方の流れ弾に当たるヘマはするなよ?」
「わかってるよ」
クリムゾン・イーグルとスピルスは、ほぼ同じ速度で飛行しながら戦場へと向かう。反政府軍と傭兵が世界政府軍を押している感じだった。EVEが戦闘状況を分析し、モニターに表示させる。表示されると同時にレッシュの頭にもダイレクトにその情報が伝わってきた。
「仕掛けるぞ!」
「よっしゃ!!」
レッシュの掛け声と同時に2機は一気に機体を加速させる。スピルスは急降下し、洋上の戦艦に狙いを定めた。戦艦のブリッジではアラートが鳴り響く。とんでもないスピードで接近する“兵器”としてレーダーには表示される。
「急速接近する熱源を確認!ミサイル・・・これはGです!」
「何だと!?こんな速さで動けるわけが・・・」
それが最期の言葉だった。戦艦はブリッジをマシンガンで破壊され爆発を起こし海に沈んだ。翔はスピルスを直角に曲げ、水面スレスレを、水しぶきを上げながら飛行する。
「G接近!迎撃追いつきません!!」
そしてまた、1隻の巡洋艦が海の藻屑となった。スピルスは低空飛行した状態で港へと侵入した。マシンガンで、迎撃システムをことごとく破壊していく。
「こんなものか・・・」
翔は正直、拍子抜けだった。ハワイは世界政府軍の太平洋の拠点。つまりは、防御は万全でないといけない。それがこの様だ。防衛側は戦争において基本的に有利とされる。やはり、反政府軍と傭兵の同時攻撃は厳しいのだろうか。
「一旦、レイザーに引くか・・・防衛も心配だ」
翔はスピルスを急上昇させ、レイザーの元へと飛んでいった。


反政府軍と世界政府軍、そして、傭兵組織が謎の機体をレーダーに捉えた。それは熱源、スピードから戦闘機と予測された。
「アンノウン接近!戦闘機の模様!方角から恐らく、我々傭兵かと」
傭兵たちは連絡を取り合い、ハワイ強襲部隊の1機体と直ぐに照合する。
「未確認機体接近!!・・・戦闘機です!データに照合・・・これは!!」
「どうした!?」
世界政府軍指揮官は身を乗り出して、固まってしまったオペレーターに問うた。オペレーターからはあってはならない解答が返って来る。
「データに照合・・・“漆黒の鷹”です!!間違いありません!!」
「馬鹿な!?“漆黒の鷹”はBエリアに居るはず!!間違いではないのか?」
「いえ!熱紋、反応からほぼ“漆黒の鷹”、“ブラック・バード”と一致しています!」
もう1機現れた“漆黒の鷹”の情報は反政府軍を駆け巡る。もう1機の“漆黒の鷹”はBエリアで凄まじい勢いで、味方機を撃破している。この突如現れた“漆黒の鷹”の光学映像がハワイ防衛司令室へ送られてきた。その姿は“漆黒の鷹”ではなく赤い戦闘機だった。
「赤い・・・鷹・・・?」
「全機に通達!未確認の赤い戦闘機を確認!以降、その機を“赤い鷹”と称す!」
そして、反政府軍も“赤い鷹”のその姿をレーダーに捉えた。世界政府軍以上に彼らは驚愕する。
「Fエリアに“漆黒の鷹”と思われる戦闘機が出現!・・・これは一体・・・」
「何・・・?」
ブリッツェンは信じられなかった。“あの機体”は世界で1つだけの機体。同じ機体はありえない。情報が流出したのか・・・?それも考えられない。アレの整備を担当する者は選ばれた者たちだ。彼らに限って外に情報を流すことなどありえないからだ。だが、目の前には“漆黒の鷹”と同じ反応を示す、戦闘機が居る。それは紛れも無い事実だった。
「“深紅の鷹”と呼ぶべきかな・・・」
ブリッツェンはキャプテンシートに深く座り直し、髭をさすりながらその姿を見つめた。翼に通信を入れようとした瞬間、ハワイの上空で“扉”が開いた。すべての世界が一瞬止まったような感覚をブリッツェンは覚える。“扉”から、ミサイルのようなものが出現し、“扉”は閉じた。たった1発のミサイルのために“扉”を開くとは・・・。よほど重要なミサイルなのだろう。何事も無かったように戦闘は続く中、そのミサイルは真っ直ぐ、戦場のど真ん中を目指していた。
「ミサイルを迎撃!!」
ブリッツェンは迎撃指示を出した。が、ミサイルは空中で爆発した。突然磁場が起きる。
「ラジオジャマーか!?」
世界政府軍がラジオジャマー弾を放ったようだ。耐性のある機体でないとこの中で通信を行うことは不可能だ。反政府軍、傭兵組織に混乱が見受けられる。恐らく世界政府軍は耐性を持たせた通信システムを使用しているのだろう。世界政府軍のGの動きには変わりを見せない。
「何だ!?・・・ラジオジャマーか!?」
翼は突然取れなくなった通信システムを見て、ギリッと歯をかみ締める。味方の機体に戸惑いが見え始めたからだ。接近しなければ味方の通信が聞こえない。翼の周りの味方たちが翼の指示を受け、散開していった。


「だから違うってば!!」
通信を傍受していた真琴がヘッドフォンをかけたまま、叫んだ。その声が騒がしかった格納庫を静まり返らせる。真琴の技術力を使えば、通信の傍受は簡単なのだが、傭兵のルールでは無許可の装置による無線傍受は違反とされる。この際、堅いこと言いっこなしだ。ちなみに、友子たちは真琴が勝手に艦の電波を拝借してこんなことをしていることを知らない。見つかったら、確実に消される。
「どうしたんですか・・・?」
「あのね、ちょっと聞いてよ!“クリムゾン・イーグル”のことを赤い鳥とか、深紅の鷹だとか・・・」
熱くなっている真琴に整備の少女が冷静に突っ込んだ。
「普通は知らないと思いますよ。新型なんですし、それに、赤い鳥なら“レッド・バード”とかの方が覚えやすいじゃないですか」
「うぐっ・・・」
「機体って言うのは、カッコいい名前も重要ですけど、覚えやすさも重要ですよ」
正論を言われて、真琴は何も言えなくなった。Gの名前は簡単で覚えやすい名前が多い。“クリムゾン・イーグル”なんて長い名前は普通避けられる。“レッド・バード”の方がシンプルでいいかもしれない。気持ちが揺らぎ始めたとき、通信にノイズが走った。機械を上からバンバンと叩いて見るが故障ではないようだ。
「あれ?・・・ノイズばっか・・・」
異変はハワイエリアすべてに広がっていった。


「はぁ!!」
ヴィラのシャイニングがグロリアスを吹き飛ばした。黒いシャイニングの周りには機体の残骸が積み重なる。このエリアにいるのはヴィラの敵ではないようだ。その時、ライフルが肩を掠める。ヴィラは反応し、それをギリギリで回避した。
「くっ!!」
目の前に居たのは見たことのあるグロリアス・スーパーだった。グロリアス・スーパーのパイロットから声が届く。ヴィラは通信が取れないため、通信を全方位に開いていた。そのため近くに居たビリシャ声を拾ったようだ。
「あの時の黒いシャイニング!!」
「あ・・・、あの時の!」
ビリシャが先に仕掛けた。ライフルを撃ちながら突っ込んでくる。ヴィラは逃げるように回避行動を取るしかなかった。今は残骸でほとんど身動きが取れない。空に出れば、フライング・アタッチメントと取り付けているシャイニングが有利な立場に立てる・・・はずだった。そのグロリアス・スーパーは同じように飛んできた。
「嘘っ!・・・っ、しんどいわね・・・」
ライフルを撃ちつくし、ビリシャはそれを捨てブレードを左手から引き抜いた。刃が展開し、ブレードの一般的な長さになる。盾を正面に構えながらシャイニングに激突した。
「あの時の屈辱!!!」
「くっ!!」
ヴィラの黒いシャイニングもブレードを引き抜き、グロリアス・スーパーと対峙した。その時、ヴィラの目に衝撃的なものが映る。動きが止まったシャイニングにビリシャは大声で叫んだ。
「戦闘中に何をしている!」
「待って・・・アレは何・・・?」
機体で指差した先には2機の赤と黒の同型の戦闘機が激突していた。それは共に人型へと形を変え、更に激しくぶつかり合う。
「馬鹿な・・・あれは“漆黒の鷹”・・・なぜもう1機“ヤツ”が居る!?」
「こっちが聞きたいわよ!」
ハワイの戦闘は終わりつつあった。それが更に2人の戦いを目立たせることになった。


「何だ・・・」
翼は赤く光る戦闘機の姿を見た。どこかで見たことのある機体。形、装備は若干違えど、翼は直ぐにそれがブラック・バードと同型機だと気づく。
「馬鹿な!?同型機・・・なのか」
翼は機体を戦闘機へと変形させ、その赤い戦闘機へと向かう。レッシュはこちらに何かが向かってくると言うEVEのシグナルにその方角を見た。
「戦闘機接近!・・・機種該当あり」
「あれは・・・ブラック・バード!!」
それは“あの時”の機体そのままの姿をしていた。実際、レッシュは“漆黒の鷹”を見たのは初めてだった。データや映像がはっきりと残らないのは、彼と戦ったものはすべて消えているからだ。漆黒の鷹”の情報はどれも漠然としたものが多いのにも頷ける。それほど彼は圧倒的な力を持っていた。だが、その“鷹”の姿は見覚えのある機体だった。その黒い戦闘機は真っ直ぐにこちらに向かってくる。レッシュは正面から黒い戦闘機に突っ込む。どうしても確かめたかった。何故、“あの時”の機体が今目の前にあるのか。
「度胸のあるヤツみてぇだな」
翼は同型の赤い戦闘機への興味より、こっちに向かってくるパイロットの方に興味があった。かなり度胸のあるパイロットと見える。翼はエネルギー砲のトリガーを引く。それと同時に赤い戦闘機からもエネルギー砲が放たれた。2機とも回避し、超高速ですれ違う。お互いの機体が風圧で激しく揺れた。
「くそっ!」
「さすが、“漆黒の鷹”だな」
ブラック・バードの翼が羽ばたいた。急激に旋回し、すぐさま“クリムゾン・イーグル”の後ろに付いた。EVEの警報がコクピットに響く。レッシュは、その能力まで同じことにこの“ブラック・バード”があの“ブラック・バード”であることが証明された。
「可動翼!か!」
レッシュの言葉にEVEが反応した。その言葉にレッシュは驚く。
「プロテクトレベル1解除。コード“可動翼”システム最適化中・・・。可動翼起動まで8秒」
「可動翼!?この機体にもあるのか!?」
「はい、搭載されています。・・・起動確認、システムコンプリート。可動翼システム起動」
レッシュは“クリムゾン・イーグル”を“あの時”と同じように羽ばたかせた。レッシュより驚いたのは翼だった。目の前居る赤い戦闘機が同じように羽ばたき、こちらに迫ってくる。
「何ぃ!?どうなってんだよ!?」
羽ばたくように飛ぶ2機の赤と黒の戦闘機の戦いを破壊されたGから這い出してきた世界政府軍パイロットたちが見上げる。
「何だありゃ・・・」
「あれ、同じ機体だよな?」
「多分・・・」
「さっき、“赤い鳥”とか隊長が言ってたよ」
「どうでもいいけど、あいつ、“漆黒の鷹”と張り合ってるぜ」
今や、“漆黒の鷹”に敵う者は居ないといってもいい。その事実上世界最強の男と赤い同じ機体のヤツが同等に競り合っていた。既に、次元が違うとかそういう問題のレベルではない戦いが繰り広げられる。


赤と黒の“鷹”が日の暮れかけた空に交錯していた。




© Rakuten Group, Inc.