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無事にヨーロッパ旅行から帰国して、再び日常へと舞い戻ってまいりました。 モン・サン・ミッシェルを訪れて以来、なかなか風邪の症状が抜けませんが、おおむね元気に過ごしております。 今日は、大切なことを打ち明けたいと思って筆をとりました。 突然ですが、これをもちまして「目と耳の悪いビジネスマンの一筆」を終了させていただきます。 色々悩んだのですが、本業と家庭のことをやりくりするなかで、自分なりに納得のいく質の文章を執筆するための時間を確保できなくなりました。 「時間が足りないのなら、少しずつ書き進めて不定期に更新すればいいじゃないか」 そう自分に問うてもみたのですが、それに対する答えは「NO」でした。 ごく個人的な想いとして、 「ブログ(日記)は、毎日一定の質の文章を書き続けなければ意味がない」 と考えるからです。 もちろん「文章を書く」という行為を止めようとは思いません。 これからはブログとは違った形で、詩なりエッセイなり、あるいは小説なりを自分のペースで書いていくつもりです。 以前も触れたことがありますが、「文章を書く」というのは内省的な行為であり、わたしのような人間が日々をよりよく生きていくために必要なプロセスです。 自分の考えたこと、感じていることを文章に移し変えることによって、自分の至らなさに気づいたり、これからを生きる指針を得たり、わたしにとってはそういう効能があります。 このブログを立ち上げて以来、自分と同じように何かしら弱みを抱える方々にとって、前を向く力を得られるようなコンテンツをご提供したいと願ってまいりました。 果たしてどれくらいそれが成し得たのか、わたしには分かりません。 ここで出会うことのできた親愛なる皆様と再びどこかでお会いする機会に恵まれたなら、そのときは今より少しでも成長していたいと期しております。 読んでくださる方々に、愛や感謝、思いやりや希望、優しさや真実へのまなざしをお伝えできる人間になれますように。 これまでこのブログを読んでくださった皆様に心からの感謝を表し、筆を置きたいと思います。 皆様、本当にありがとうございました。 どうかいつまでもお元気で。 「目と耳の悪いビジネスマンの一筆」運営者 ミンミンぜみ
今回の旅も、クライマックスを迎えました。 パリからバスでおよそ4時間かけて、モン・サン・ミッシェルを目指します。 こんもりと幻想的な姿が遠くに小さく見えてきた辺りで昼食をとりました。 ![]() 遠くに見えてくるモン・サン・ミッシェル メニューはもちろんモン・サン・ミッシェル風オムレツ。 妻の友人たちは、「あれを食べてお腹をこわした・・・」と口を揃えて言っていたし(笑)、「あまりおいしくない」という評判を聞いていたので、かなり警戒していました。 ところが、いざ食べてみると、みんなが言うほどまずくはありません。 オムレツよりも面食らったのは、同地の名物シードルでした。 シードルと言えば、リンゴの甘酸っぱい風味がなんとも言えない美酒というイメージがありますが、こちらで振る舞われたものは何かがちょっと違いました。 一口すするとなんとなくリンゴの香りがするような気もするのですが、その後に動物園というか牛舎というか、野生的な香りが鼻をつきます(笑)。 同行した方々はみなシードルを注文したのですが、誰もがしかめっ面でやるせない表情を浮かべていました。 ![]() モン・サン・ミッシェル風オムレツ ![]() シードル 何はともあれ、名物というのだから、これはこれでよしとしましょう。 気を取り直して再びバスに乗り込み、およそ15分ほどで夢にまで見たモン・サン・ミッシェルに到着しました。 ![]() 目の前のモン・サン・ミッシェル 周囲を浅瀬に囲まれた山上の修道院は、まるで想像上の場所を絵画にしたような非現実感を湛えていて、背筋がゾクゾクしました。 フランス人のガイドさんの後について哨兵の間へ入り、土産物を商う繁華な通りを進み、階段を踏みしめて高台へと上っていきます。 ![]() 観光客でにぎわう 眼下には海が見渡せるようになり、辺りの空気も少しずつ神聖さを増しているように感じられます。 ![]() モン・サン・ミッシェルの外の風景 頂に建つ尖塔が刻々と近づき、いつしかわたしたちは修道僧たちが暮らす一帯に足を踏み入れていたようでした。 ノイシュヴァンシュタイン城でもそうだったように、ここモン・サン・ミッシェルでも薄暗い階段が随所にあって、目が悪いわたしは何度か落っこちかけました(笑)。 教会、礼拝堂、食堂、迎賓の間、修道僧の遊歩場・・・そこが岩山の上にあることをすっかり忘れてしまうくらい、神域での暮らしぶりに感じ入ってしまいました。 ![]() ミカエル像 ![]() 教会の床の模様 ![]() 広間にて そもそもこの修道院が建設される発端は、アヴランシュの司教オベールが夢のなかで大天使ミカエルに会い、「ドンブ山に聖堂を建てよ」とお告げを受けたことに始まるのだそう。 とんがった頂の上に石板を敷き、空白となった部分をうまく埋め合わせながら上階を支えるように建造物を設計したというのですが、8世紀の人々にどうやってそれを実現できたのか、にわかには信じられません。 人間の想像力、あるいは技術力に、感服せずにはいられない場所でした。 山を下り最後にその威容を撮影して、帰路につきました。 ![]() 最後にもう一枚 実を言うと、午前中の移動の時から身体の節々にけだるさを感じ、決して快調とは言えない状態にあることを自覚していました。 バスに乗ってモン・サン・ミッシェルの魔法から解き放たれてしまうと、いよいよ悪寒がし始めました。 「まずいなぁ・・・」 妻から風邪薬をもらって飲み、パリへと戻る5時間くらいの道のりは上半身にパーカーをはおり、横たわったまま過ごしました。 おそらく時差と疲労が重なったためだったのでしょう、バスのなかで休息すると、悪寒はどこかへ消え去りました。 夕食はサンジェルマン・デ・プレの裏通りにあるレストランで牛肉の煮込みと赤ワインをペロリと平らげ、復活の気配を感じました。 ホテルへ戻る途中、添乗員さんと運転手さんの粋な計らいで、エッフェル塔のライトアップを見物させてもらえることになりました。 時計が22時を指すと、エッフェル塔のあちらこちらが明滅を繰り返し、ただでさえ人目を引く鉄塔が異様な存在感を放ちます。 ![]() エッフェル塔のライトアップ 5分、いや10分くらいそれが続いたでしょうか、けっきょくそのイルミネーションを最後まで見届け、ホテルへと帰りました。 バスのなかで休みつづけていたためか、妙に気分がハイになっていました。 パリでの最後の夜を、このまま終わらせてしまっていいものか・・・。 そんな想いがあって、締めくくりにホテルの31階にあるバーに行ってみようということになりました。 黒色のスーツを着た男性が迎えてくれて、「どうぞお好きな席へ」といった身振りをしました。 さすがに窓際の席は満員で、わたしたちは窓から少し離れたソファに腰を下ろしました。 ちょうど2種類あるオリジナルカクテルを一つずつ注文し、薄暗い店内に響く人々のざわめきに耳を澄ませました。 日本にもこの手のバーはありますけれど、一杯数千円のドリンクを頼む気にはなれないので、足を踏み入れることはありません。 だけど、やっぱりここはパリだから、それくらい高価なお金を払ってもいいかなと思ってしまうんですね。 23時、窓の向こうのエッフェル塔が、再び瞬き始めました。 ![]() バーの窓越しに点灯するエッフェル塔 ミントの葉がたっぷりと入ったカシス風味のカクテルをすすりながら、パリの街のフィナーレを見届けました。 今日も長い一日でしたが、素晴らしい体験に満ちていました。 ありがとうございました!! ●今日の天気 モン・サン・ミッシェルはくもり時々晴れ。 ●今日の運動 お休み。
まだ薄闇が厚く視界を閉ざしている早朝6時前のジュネーブ。 わたしたちはバスに乗ってホテルを出発し、コルナバン駅へとやって来ました。 売店でサンドイッチなどを買ってスイスフランを消費し、7:17発の特急列車TGVに乗り込みました。 午前中のうちにパリ入りし、観光する予定になっています。 ![]() ジュネーブのコルナバン駅にて 車窓にはひまわり畑やいくつかの湖が流れ過ぎ、その背景には雲一つない青空が広がっています。 ホテルでこしらえてもらった弁当を備え付けのテーブルに広げ、駅の売店で買ってきたダルマイヤーのブレンドコーヒーをすすります。 列車は快調な速度で疾走し、わたしたちはこれから降り立つパリのガイドブックを広げて夢を膨らませていました。 到着まで一時期足らずと迫った頃、思いも寄らないアクシデントに見舞われました。 高速で駆け続けてきたTGVが、みるみる減速してとうとう停車してしまったのです。 窓の向こうは黄金色の草が生い茂るだけの小高い丘で、自分たちがいったいどこにいるのかさえ分かりません。 車内にはフランス語らしきアナウンスが断続的に流れ、冷房は切られてしまって蒸し暑くなっていきます。 まどろんでいたわたしはしばらくその事態に気づかず、状況を飲み込んだときにはパリへの到着予定時刻が迫っていました。 突然のエンストに日本人はみな怪訝な表情を浮かべ、「パリでの周遊時間を返せ」と言わんばかりなのですが、車内の欧州人たちはあっけらかんとして談笑を続けています。 まるで「これも、欠かすことのできない旅の一環なのだよ」といったふうに。 添乗員さんが状況を確認してきてくれて、30分かけてパリからの迎えの列車と連結して牽引するとのこと。 けっきょく予定より2時間遅れでパリのリヨン駅に降り立ちました。 パリに到着してまず向かった先は、両岸に観光名所がひしめき立つセーヌ川のクルーズ。 日本にいれば「日本晴れ」という表現がふさわしい鮮やかな青空の下、じりじりと肌を焦がす陽光を全身に浴びながら川の上を滑っていきます。 エッフェル塔、ブルボン宮国会議事堂、ルーブル美術館、オルセー美術館、パリ第6大学、シテ島のノートルダム大聖堂・・・。 ![]() エッフェル塔 ![]() 行き交う遊覧船 ![]() シテ島のノートルダム大聖堂 セーヌ川沿いを一巡したことで、なんとなくこの界隈の地理が頭に入りました。 セーヌ川クルーズを終えたわたしたちは、再びバスに乗って三越へと向かい、お待ちかねの自由行動となりました。 TGVのトラブルのおかげで予定よりだいぶ時間が少ないのですが、妻が立てた計画に従っていくつかのショップやデパートをはしごします。 レペット、ギャラリーラファイエット、モノプリ・・・ 。 ショッピングが一段落したところで少しは観光らしいことをしようと、チュイルリー公園へやって来ました。 そこには夏場だけ設けられる移動遊園地があり、サマーバカンス中の家族連れで大賑わいでした。 わたしたちは観覧車に乗ってみることにしました。 ゆっくりとした一定の速度で一周するおなじみの観覧車とは違って、人の乗り降りなどで急停車したり逆に突然高速で回転したり、それを三周繰り返します。 ![]() チュイルリー公園の観覧車 ![]() 車内からは街を一望できる たしかに挙動はちょっとおかしかったですが、モンマルトルの丘まで見渡せる高所からの眺望はお買い得でした(一人8ユーロ)。 ヴァンドーム広場を通って三越へと戻り、自由行動は終了となりました。 一行はバスに乗ってホテル・コンコルド・ラファイエットに移動し、解散となりました。 ![]() ホテル・コンコルド・ラファイエットの外観 ![]() 18階の部屋からはモンマルトルがよく見える この時点で時刻はまだ20時前、空にはまだ日本の午後4時くらいの太陽が輝いています。 ということで、自由行動第二弾を敢行することにしました。 メトロに乗ってコンコルド広場に向かい、そこから凱旋門まで1.9kmのシャンゼリゼ通りを散歩します。 7/14に建国記念日を記念した恒例のパリ祭が開催されたばかりということで、沿道にはまだ片付けられていないお祭り道具のようなものが見受けられます。 凱旋門の向こうに刻々と日が沈んでゆき、その光景があまりにも美しいので、人々は横断歩道の真ん中に留まって写真を撮影しています。 もちろん、わたしたちもそうせずにはいられませんでした。 ![]() シャンゼリゼ通りの横断歩道にて 途中、妻が大好きなマカロンの老舗ラデュレに立ち寄ってお土産を購入し、次第に人通りが多くなってゆく大通りを凱旋門へと向かって進んでいきました。 正直「パリは女性のための街」と思ってそれほど期待をしていなかったのですが、実際にこの足で踏みしめてみると、思っていたよりずっと魅力的な街でした。 見所があり過ぎて、今回の旅だけではとても味わい切れそうにもありません。 こうしてまた一つ素晴らしい街と出会えたことに感謝します。 ありがとうございました!! ●今日の天気 パリは快晴。 ●今日の運動 お休み。
7:40、チューリッヒのホテルからバスに乗り、イタリアとの国境を目指すように南へと進んでいきました。 昨日の雷雨はどこかへ消え去り、ところどころから青空が顔を出し始めていました。 途中、カンデルシュテークからバスごと積み込んで山塊を突き抜けてくれるカートレインに乗りました。 巨大な蒸気のような雲が手の届きそうなところに沸き立ち、どうやら少しずつ標高の高いほうへと進んでいるような気がします。 ![]() カンデルシュテークにて 「電車のなか」の「バスのなか」にいるというのは、なんとも不思議な感じがします。 バスはゴッペンシュタインで下車し、そこから15分ほど走ったところで今度はわたしたち乗客がバスを降り、テーシュからシャトル列車に乗ります。 ![]() テーシュにて 時が流れるとともに雲は溶けて消えてしまい、何ものにも遮られることのない裸の太陽がぎらつき始めました。 長いトンネルを抜けてたどり着いたのは、山岳リゾートとして名高いツェルマットという小さな街です。 改札を出るやいなやゴルナー鉄道の乗り場へと走り、再び電車に乗り込みました。 わたしたちを載せた列車はゆっくりと山を登り、ほどなく右手の車窓に空へ向かってそそり立つ、鋭利な刃物のような山陰が現れました。 ![]() ゴルナー鉄道の車内にて 車内はにわかにざわめき、もちろんわたしも興奮を抑えられずに子供のようにはしゃいでしまいます。 あれが、難攻不落と言われ幾人もの登山家を拒み続けたマッターホルンです。 昨夕見舞われた豪雨に「明日もダメかも知れない・・・」と半ば諦めていたのですが、なんという天佑。 途中でいくつかの駅に停車し、ハイキングを楽しもうという人々が朗らかな表情で下車していきます。 ![]() ゴルナー鉄道の車内にて およそ40分をかけて列車は山を登り続け、終点のゴルナーグラート展望台に到着しました。 ![]() ゴルナーグラート展望台に到着 駅からさらに歩くこと10分足らずで、周囲を360度見渡すことのできる展望台へと至りました。 多くの観光客が集い、みなそこに佇む雪山の威容に魅了され、目を細めて微笑んでいます。 ![]() ![]() ゴルナーグラート展望台にて 「あぁ、眼が見えるというのは、なんて素晴らしい体験なんだろう」 心底そう思いました。 天候が悪いとまったく見えないこともあるという、マッターホルンやモンテローザの眺望を味わえる幸せ。 しばらく夢見心地でアルプスの山々を眺め、再び麓町へ戻るべく列車に乗りました。 いつまで見ていても見飽きるということがなくて、純白の雪を冠した山々を子どものように追いかけ続けます。 ![]() 山を下る列車からの眺め ![]() うねる線路を列車は走る ツェルマットに到着し、自由時間がまだ残されていたので街を散歩することにしました。 この街は、自然を守るために交通機関を電気自動車か馬車に制限しています。 ![]() 駅前で見かけた馬車 ![]() 繁華なバーンホフ通りにて 通りがかりの店頭で、ぶっといウィンナーを焼いているいい匂いが漂っていました。 ちょうどお腹がへっていたので、わたしたちはウィンナーとビールを買い求めました。 ウィンナーは表面がカリカリで肉厚、ガブリと頬張るとジューシーな旨味が口の中いっぱいに広がって、ビールが進みます。 駅前のCOOPで土産物などを買ってから再びシャトル列車に乗り込み、ツェルマットに別れを告げました。 いつかこの街に泊まってもう一度美味しい空気を吸いたいなぁ・・・。 再びバスに乗り換えて、一路ジュネーブを目指します。 まるで眼前に迫り来る大男のような山々の合間を縫ってバスは走り、いつしか左手に西日を映した海が現れました。 しかしそれは海なんかではなく、スイス随一の広大さを誇るレマン湖でした。 ![]() レマン湖沿いを走る バスはこの湖沿いにひたすら走り続け、途中ローザンヌを経由して西へ西へと進んでゆくと、湖の向こうに再び雪山が現れました。 それは、アルプス最高峰のモンブランです。 カバンから双眼鏡を取り出し、黒色の山陰の向こうに真っ青な空を背景にして現実感なく佇んでいる純白の頂を覗き見ます。 「どうか明日もいい旅になりますように」 モンブランに向かって、そう祈りました。 19時前にジュネーブのホテルに到着し、安堵の溜め息を漏らしました。 今日も素晴らしい旅となったことに心から感謝します。 ありがとうございました!! ●今日の天気 スイスは快晴。 ●今日の運動 お休み。
ロマンチック街道。 ドイツのほぼ中心に位置するヴュルツブルクから南のフュッセンを結ぶ、全長約350kmの道。 わたしたちは朝の7時45分にローテンブルクを発し、ディンゲルスビュールまでこの街道をドライブし、ディンゲルスビュールから終点のフュッセンまではアウトバーンで移動しました。 土曜日ということもあって家族連れで外出する人々がグッと増えるようで、一部渋滞しているところもありました。 四台ものマウンテンバイクを搭載している乗用車や、大きな黒い犬を同乗させているキャンピングカーなど、いかにも行楽へ出かける様相の車が隣のレーンを次々と走り過ぎていきます。 これもドイツらしい週末の風景なのでしょう。 そんな混雑をなんとか乗り切り、フュッセンの街を通り過ぎて森の緑がとろりと溶け込んだような色合いの川を渡ると、シュヴァンガウというのどかな村にたどり着きました。 ここは今日の目的地・ノイシュヴァンシュタイン城の麓に位置しています。 とあるホテルのレストランで昼食をとり(大きなグラスに注がれたバイツェンビールが美味しかった)、お城を往復する専用バスに乗ってうねる上り坂を駆け上がっていきました。 停車場でバスを降り、黒い樹木に囲まれた薄暗い山道を歩いていくと、ほどなく渓谷に架かる吊り橋・マリエン橋が現れます。 そこはノイシュヴァンシュタイン城の全貌が眺められる絶好の展望スポットになっていて、多くの人々がミシミシときしむ橋の上を往来しています。 眼下の谷はかなり深くて、よくこういう場所から落下してしまう夢を見るんだよなぁ・・・などとのんきに考えながら進んでいきました。 わたしたちが橋の上に降り立ったちょうどその時、大きな雨粒が一つ、またひとつと落ちてきました。 たしかにさっきから雲行きがおかしかったのですが、ものの数十秒の間に音を立てて本降りになるではありませんか! 怪しく垂れ込めた暗雲を背景にして、悲劇の王が夢を託した城塞は、いわくありげに陰影を浮かべて佇んでいます。 「そんなところでボヤボヤしていないで、早くこちらへおいで」 目の前のお城が、そう言って雨を降らせているのかも知れません。 みな慌てて記念写真を撮影して、駆け足でマリエン橋を後にしました。 ![]() マリエン橋からお城を眺める 雨脚は次第に勢いを増し、折りたたみ傘を開いて歩を進めます。 10分ほど歩いたでしょうか、さきほどマリエン橋から見下ろしたノイシュヴァンシュタイン城が、眼前にその威容を現しました。 ![]() ノイシュヴァンシュタイン城を見上げる ![]() 城門をくぐるたくさんの観光客 見学の予約時刻を待ってゲートをくぐり、日本語でガイダンスしてくれるラジオのような端末を受け取って城内へと進んでいきました。 ![]() 城内から見上げるマリエン橋 ![]() 城内からの風景 このお城は、19世紀後半にバイエルン王・ルートヴィヒ二世が自らの夢を具現化したお城で、実は未完成。 完成を見る前に、彼は変死を遂げたのです。 その時代の政治家としては失脚してしまったものの、中世の王侯に憧れ、浮世を離れて一人夢想に浸りながら世を送ることを望んだルートヴィヒ二世の情熱が、ここには染み込んでいるのです。 目が悪いわたしは光の乏しいらせん階段でつまづき、あわや転倒しそうになりましたが(笑)、なんとか手すりにしがみついて上へ上へと上っていきました。 控えの間、王座の広間、執務室、食堂、寝室・・・。 予約している後続のお客さんがいるからなのでしょう、ムダのない速やかなテンポでガイダンスが進行し、次へ次へと移ろっていかなければなりません。 本当は、もう少し王座の広間でジッとしていたかったなぁ・・・。 前を見ても後ろを見ても、あるいは上を見上げても、薄暗い空間のなかに金色の光が不気味に照り返していて、平面的な写真では決して伝わってこない圧倒的な雰囲気がそこにはありました。 これが総工費248億円をかけたという、ルートヴィヒ二世の夢の形なのでしょうね・・・。 城内の見学を終えて再び外へ出たときには雨は止み、雲間から薄日がこぼれ出していました。 帰りは、バスで登ってきた山道を自分の足で踏みしめて下っていきます。 にわか雨を浴びた木々は汚れを落としたみたいに色彩を増し、目に映しているだけで心安らぎます。 ![]() 雨上がりの森を歩く ただし、アスファルトの上は馬車を曳いてゆく馬たちのフンがそこここに散らかっていて、いっときも気が抜けません(笑)。 やがて昼食をいただいたシュヴァンガウのホテルが見えてきて、まだ少し時間があったのですぐそばにある湖へ散歩してみました。 人が集まっているほうへと進んでゆくと、なんとそこには白鳥の群れが。 そうそう、ノイシュヴァンシュタイン城は日本語にすると「新白鳥城」だし、ここシュヴァンガウも「白鳥の高原」という意味。 演出なのかも知れないけれど、この湖にはやっぱりどうしたって白鳥がいなくちゃいけないんです。 ![]() 湖の白鳥 人なつっこい白鳥たちとしばし戯れてから、バスに乗り込みました。 フュッセンを離れ、わたしたちを乗せたバスはオーストリアを通過して、スイスに入りました。 空は真っ黒な雲が張り出し、昨日まであんなに眩しく照りつけた陽光を奪い去ってしまいました。 まだ18時にもなっていないのに、まるで日没が差し迫っているかのような薄暗さです。 この国々では、21時でさえ鮮やかな太陽が輝いているはずなのに。 まもなく19時になろうかという頃、わたしたちはチューリッヒのラディソン ブル エアポートというホテルに到着しました。 明日はアルプスの山々を見に行く予定なのですが、果たしてこの天気じゃどうなることか・・・。 不安な気持ちを抱えながら、また新たな街で夜を迎えました。 何はともあれ、無事に旅を楽しむことができて感謝します。 ありがとうございました!! ●今日の天気 フュッセンはにわか雨。スイスへの道中は豪雨。 ●今日の運動 お休み。
9:15、リューデスハイムという宿場町からフェリーに乗り込みました。 ここはフランクフルトから車で40分ほどのところにあります。 これから1時間40分ほどかけて、ヨーロッパの父なる川・ライン川をクルージングします。 右岸にはなだらかな傾斜の山にぶどう畑が広がり、一方左岸は城塞を中心とした家々が立ち並んでいます。 ![]() ぶどう畑と列車 わたしたちは青天井のデッキに椅子を並べて腰掛け、涼風に吹かれながらゆっくりゆっくりと流れ過ぎる景観を微笑みながら眺めていました。 フェリーは15分くらい滑るごとに両岸の乗船場に停まり、新たな旅人を拾ってゆくのでデッキはいつの間にか多国籍の人々で溢れ返っていました。 わたしたち日本人もアラブ系の衣装に身を包んだ人々も、バカンスで訪れたヨーロッパ各地の人々も米国人も、この勇壮な景色を前にすればみんないっしょ。 小高い丘に佇む古城が現れれば、みな立ち上がって歓声を上げながらデジタルカメラを構えます。 ![]() 城塞を見上げて 陽光をいっぱいに浴びて網膜に染み込んでくるような樹木の色合い、あんなところで暮らしてみたいと想像力を掻き立てるかわいらしい家並み、そして肌をなでてやさしく熱を癒してくれる川風。 美しいもの、愉快なもの、心地よいもの・・・生まれ育ったところは遠く離れていても、人間の感性というものは同じなんだと感じます。 目を細めながら寛いでいると日本人のスタッフがやってきて、この地域で採れるぶどうを使った名産のワインを試飲させてくれました。 何種類かを味わってみたのですが、やはりアイスワインの舌がとろけてしまいそうな甘みがなんとも言えず美味しくて、購入しようか迷ってしまいました。 親戚や友人にはお酒が好きな人が多いから、とりあえず一本買ってみようか? と妻を誘ってみたのですが、それなりに高価だしまだ旅も序盤で荷物が増えるのも悩ましいということで、今回は諦めることにしました。 ![]() ローレライの岩を見上げて いくつもの個性的な山城を通り過ぎ、ローレライの岩を見送ったところでザンクト・ゴアールという船着場に到着しました。 わたしたちはここで下船してバスに乗り、次なる目的地ハイデルベルクへと向かいました。 ![]() ハイデルベルク城の展望台にて 「こんな街で暮らすことができたら、どんなに楽しいだろう」 眼下に広がる中世の面影を遺した街を眺めながら、しみじみと思いました。 再びバスに乗って坂を下り、さっきまで見下ろしていたマルクト広場や旧市庁舎などを散歩しました。 ![]() ハイデルベルクの街角にて 風情ある家々に挟まれた小粋な路地を進んで街を離れ、ネッカー川に架かるカール・テオドール橋にやって来ました。 ![]() カール・テオドール橋から眺めるネッカー川 ここからはハイデルベルク城の外観がもっともよく眺められるということで、みな思いおもいの場所でデジタルカメラを構えます。 ![]() ハイデルベルク城を見上げる 森、草花、川、そして時の流れを刻々と刻み続けてきた城と街。 ハイデルベルクという街は、人間が豊かに生を営むために必要な要素が余すところなく詰め込まれた素晴らしい街です。 しつこいけれど、一度この街に暮らしてみたいなぁ・・・。 ハイデルベルクを後にしたわたしたちは、再び対向車が飛ぶように流れすぎてゆくアウトバーンに乗って次なる目的地へと向かいました。 こちらは夕方で、時差が残っている身体にはちょうど一番辛い時刻。 ずっしりとした眠気にさらわれそうになりながらバスに揺られること2時間ほど。 城壁の門をくぐり、バスはローテンブルクの街に到着しました。 はじめにゴルドナーヒルシュ(「金色の鹿」という意味)というホテルのチェックインを済ませ、それから「中世の宝石」と称される街を散策しました。 一年中クリスマス用品をずらりととり揃えたケーテ・ウォルファルト本店クリスマスビレッジや、わたしよりも長身のぬいぐるみが出迎えてくれるシュタイフのショップを巡り、歩き疲れて来るとアイスクリームを買ってマルクト広場のベンチで休憩しました。 ![]() マルクト広場にて 一昨年訪れたイタリアのサンジミニャーノやシエナを思い出させる石造りのかわいらしい家々が建ち並び、中世の雰囲気がそこここに充満しています。 ![]() ローテンブルクの街角にて 街の西端にあるブルク公園からは眼下のタウバー渓谷と遠くの街並みが眺められ、じつに心安らぐ空気が横たわっていました。 ![]() ブルク公園からタウバー渓谷を見渡して 街を取り囲む城壁に登って違う角度からの眺望を楽しみ、それから夕食の待ち合わせをしているレストランへと向かいました。 夜はフランケン地方の名産である白ワインを注文し、ロールキャベツ、それからこの辺りの名物というホワイトアスパラも追加注文しました。 同行している人たちの顔ぶれをなんとなく覚えてきて、少しずつ会話が滑らかになっていきます。 楽しい食卓を後にして、今日の締めくくりにとマルクト広場に集まりました。 時刻が21時をさすと、旧市庁舎で「マイスター・トルンク(市長の一気飲み)」の仕掛け時計が動き出すのです。 三十年戦争の頃、敵軍に攻め落とされたローテンブルクでしたが、敵将ティリー将軍を名産のフランケンワインでもてなしたところ、彼はほろ酔い気分で「この特大ジョッキのワインを飲み干した者がいればローテンブルクを焼き討ちにはしない」と言いました。 それを受けてたったヌッシュ市長は、本当に特大ジョッキに満たされたワインを一気飲みして、ローテンブルクを救ったという話がこの街に伝わっています。 この「マイスター・トルンク」の仕掛け時計は、今ではローテンブルク観光の欠かしてはならない名物となっているのだそう。 ![]() マイスター・トルンクの仕掛け時計を見上げて ほろ酔い気分でホテルに戻り、風呂に入ってすぐに眠ってしまいました。 今日も心楽しい時間を過ごすことができて感謝します。 ありがとうございました!! ●今日の天気 南ドイツは晴れ。 ●今日の運動 お休み。
路面電車、路線バス、それから近郊列車のSバーンに地手鉄のUバーン・・・。 この街には、同一区間内で料金が一律の交通手段が複数用意されています。 が、それぞれどうやって乗り降りすればいいんだろう? ホテルの最寄り駅であるフランクフルト西駅で、わたしたちは戸惑っていました。 厳格な表情を浮かべた中年の駅員さんに片言の英語で事情を伝えると、「仕方ないな」と言いたげな顔でわたしたちを手招きし、「まずはここを押して、次にここを押す。さぁ、後はお金を入れるんだ」とやって見せてくれました。 なんとか切符は買えたものの、こちらの駅には改札というものがなく、その代わりに乗車駅で切符に刻印するのだと観光ガイドブックには書いてあります。 しかし、どこでどうやってそんな刻印を押せばいいんだろう・・・。 切符を手にした勢いで、ええいままよと刻印を無視して、ホームから電車に乗り込みました(笑)。 幸い駅員さんに呼び止められるようなこともなく、無事にフランクフルト中央駅で下車して仕事帰りの人々が行き交う繁華な駅前に出ることができました。 ![]() フランクフルト中央駅前にて 熱波がやって来ているというだけあって陽射しは強烈なのですが、湿気が少ないだけに日陰は実に涼しく、歩いても汗が噴き出すようなことはありません。 駅から東へ向かって進んでいくと右手に橋のようなものが見えてきて、そちらの方へ歩み寄っていきました。 それは真っ青な空を映したマイン川に架かる歩行者専用のホルバイン橋で、眼下には遊覧船が白い波しぶきを上げながら往来しています。 ![]() ホルバイン橋からマイン川を眺めて 深緑色に濁った水はそれほど清潔ではないのかも知れないけれど、石畳の遊歩道や緑豊かな並木道に挟まれたその川は、じつに風情のある景観を呈していました。 こんな美しい川を眺めながらジョギングすることができたら、さぞ心楽しいことでしょう。 わたしたちは橋を引き返して遊歩道へと降り、左手にいかにも時の流れが染み込んだビルディングを眺めながらしばらく川沿いを散歩しました。 ![]() マイン川沿いの遊歩道にて 自動車が往来する石造りの橋を越えたところでマイン川とお別れし、旧市庁舎などが林立する一帯のほうへと進んでいきます。 ほどなく視界が開け、多くの人々が憩うレーマー広場にやって来ました。 積み木で組んだみたいな階段状の屋根が愛嬌のある旧市庁舎レーマーや、空に向かってそそり立つニコライ教会の尖塔など、広々とした空間を取り囲むように並んでいます。 ![]() 旧市庁舎レーマー ![]() レーマー広場にて ひと際目を奪う突出した建物に導かれるように、広場を後にしました。 ほどなく目の前に大聖堂が現れ、空の青と雲の白を背負って建つその全貌を目にして口をポカンと開けたまましばらく見入っていました。 ![]() 大聖堂を見上げて 「大聖堂」と言うと、レイモンド・カーヴァーの短編小説「大聖堂」を思い出します。 あの物語のなかでテレビに映っていたのも、こんな一枚の絵画のような美しい殿堂だったんだろうか? そんなことを考えながら、思いおもいのアングルからデジタルカメラのシャッターを切りました。 大聖堂を離れ、いかにも手の込んだおもちゃを並べた玩具店やウェディングドレスをショーケースに展示した衣装店などが軒を連ねる商店街の路地を進み、かの文豪・ゲーテが生まれ育ったというゲーテ・ハウスを訪れました。 閉館していて辺りは閑散としていたけれど、自らも数々の恋に悩んだという繊細な男の面影に想像を膨らませ、一人感慨深くなってしまいました。 時刻は19時にさしかかり、ようやく日が傾く気配を見せ始めました。 日が沈んでしまう前に、この辺りで切り上げましょう。 再びフランクフルト中央駅に引き返し、構内のショップでサラミを挟んだサンドウィッチを買ってホテルへと戻りました。 無事に旅のスタートを切ることができて感謝します。 ありがとうございました!! ●今日の天気 フランクフルトは晴れ。 ●今日の運動 お休み。
ルフトハンザ航空711便は、午前9時35分に無事離陸しました。 うっすらとした膜のような雲の向こうで、梅雨明けを予感させる快活な太陽が輝いています。 二つの平行した通路を挟んで3・4・3と並んだシートのなかで、わたしと妻は中央四列の左翼側に並んで腰かけました。 濃紺のユニフォームに身を包んだ包容力のあるドイツ人のCAさんがドリンクサービスにやってくるたび、「ビア、プリーズ」と一つ覚えの呪文のように唱えるわたし。 日本のビールより麦の香りがグッとこちらに迫ってきて、またジ~ンと後に残る苦味がプレッツェルによく合います。 押し込められた座席に身体がなじみ始めた頃、昼食のサービスが始まりました。 しばらく遠ざかってしまうであろうお米に別れを告げようと牛肉の柳川丼を選び、一方はなからお米に興味のない妻は、鶏肉のピカタミラノ風&トマトソース・スパゲティを選びました。 食後にドイツ・ビールをお替りすると重い眠気がやってきて、上半身にパーカーを羽織り、膝下には毛布を掛けて目を閉じました。 それほど長い眠りではなかったと思いますが、目を覚ますと心地よい回復感と喉の渇きを覚えて、席を立ってトイレに寄りつつ水をもらいました。 それからは目的地・フランクフルトが生んだ文豪・ゲーテの代表作「若きウェルテルの悩み」を読むか、それに疲れてきたらしおりを挟んで眠りに落ちるかの繰り返し。 たしかにずっと着席していると全身がこわばってくるけれど、読書とまどろみを気ままに繰り返すことができるなんて、わたしにとっては至福のひとときです。 心楽しい時間というものはあっという間に流れ過ぎるもので、わたしたちを乗せた飛行機はもうバルト海上空にさしかかっていました。 夕食のクリームチーズソース&ペストソースのトロフィパスタが運ばれてきて、ドリンクは赤ワインを注文しました。 ただじっと座っているだけなのに、消化器官は静かに働き続けているのでしょう、無性にお腹が減っていました。 マカロニのようなパスタとデザートのプラリネガナシュケーキをあっという間に平らげ、食後のコーヒーをすすりました。 機内にはしきりにアナウンスが入るようになり、ドイツ語、英語、それから日本語という順番に繰り返されます。 しばらくすると飛行機は着陸態勢に入り、高度が降下する感覚が断続的にやって来て、そのたびごとに耳に何かが詰まったみたいに音が聞こえにくくなります。 意識的なあくびで耳の閉塞感を振り払い、離れた小さな窓の外に地上の建物が現れはしまいかと心待ちにしていました。 幾度も急降下を繰り返した飛行機は大した震動もなくランディングに成功し、14:30頃にフランクフルト・アム・マイン国際空港に到着しました。 バスでロビーへ移動して入国審査を済ませ、流れてくるキャリーケースを受け取ってホテルへ向かいました。 繁華街から西北に位置する閑静な住宅街の一角に、メルキュールホテル アンド レジデンスは建っています。 添乗員さんから鍵をもらい、部屋に入って荷物を下ろすと、ホッと安堵の溜め息が漏れました。 こちらはまだ午後4時、薄闇が降りてくるまでにはまだたっぷりと時間が残されています。 さぁ、これからフランクフルトの街歩きに出かけましょう。 (後編につづく)
日曜日から書いている「小説を通しての世界一周パリ編」。 その締めくくりに、狗飼恭子さんの「東京がパリになる日」を取り上げたいと思います。 このお話の舞台は、決してパリではありません。 回想と夢の中でパリが登場するけれど、史恵と賢太郎が手をつないでいるのは、(きっと)東京。 それなのにここでご紹介するのは、単純に面白かったから(笑)。 旅行代理店で窓口のお姉さんをしている二十七歳の史恵と、大学を卒業してから美容師になるための学校へ通っている賢太郎。 賢太郎は二十五歳にしていまだに大分の実家から仕送りをもらい、アルバイトもせずに史恵の家にいついている、いわゆるヒモ。 史恵が同僚たちに賢太郎を紹介すると、高校生のような容貌の彼を見てみな「囲っている」とか「馬鹿息子」とかからかいます。 だから、毎月賢太郎にお小遣いをあげているという事実は、誰にもナイショにしている史恵(笑)。 頭のネジがやや緩み、天然な発言を連発する賢太郎と、お姉さん目線で彼をこよなく愛し、常軌を逸した理屈もお金を差し出すことも許してしまう史恵とのやりとりが、まるでコントを観ているようで面白い。 ある日、賢太郎は突然パリで美容室を開業したいと言い出し、それを聞いた史恵は、来年予定されている勤続五年でもらえる長期休暇を利用して、二人でパリへ旅行しようとひそかに決意します。 実は、史恵にとってパリは以前失恋の痛手を負った苦々しい場所なのですが、賢太郎との幸せな未来を信じ、パリに思いを馳せるのでした。 結末では、なぜかファミリーマートのレジに設置されている募金箱を手に携え、史恵は一人夜の街に佇むことになるのですが・・・。 けっきょくこの物語のなかで史恵はパリにたどり着くことができないのですが、彼女にとってかの地は愛する男性との夢を(二度も)託し、そして裏切られてしまった見果てぬ夢の街。 人間を何十年もやっていると、なぜかそういう奇妙な縁が芽生えてしまう場所ってありますよね。 変な話かも知れませんが、健気でかわいそうな史恵の分も、パリを訪れたら幸せな気分を取り返してきてやりたい、と思ってしまいました。 あるいは、こうも思います。 もしかしたら、パリという街は史恵にとってそうであったように、遠くから夢見ていることが一番幸せなのではないか、と。 これはパリに限らないかも知れないけれど、どこか華やかな街へ旅する時には、その理想郷を訪れることを夢見ている時間が最も豊かなひとときで、実際にこの足でその街を踏みしめた瞬間から、その豊かさは目減りしていくのではないでしょうか。 理想の美しさと、現実の過酷さ・・・。 そういう意味では、わたしにとって旅へ出る直前の今が、いちばん味わい深い時間なのかも知れません。 ということで、旅立ち直前の「小説を通しての世界一周パリ編」は、この辺りでお開きとさせていただきます。 最後に。 独特の文章のリズム、奇想天外な物語の展開力、そしてその奥に感じられるユーモア溢れる人柄に触れたような気がして、著者の狗飼さんに親しみを覚えてしまいました。 ありがとうございました!! 【三文日記】 明朝4時過ぎ、いよいよ旅立ちます。 11時間のフライトの後にフランクフルトを観光したいと思っているので、長い一日になりそう。 どうか万事うまくいきますように。 ●今日の天気 晴れ時々くもり。 ●今日の運動 ジョギング30分。
「小説を通しての世界一周パリ編」、今日は二つ目の物語をご紹介しましょう。 まずは、あらすじをどうぞ。 母と、その再婚相手の事実上のハネムーンに連れて来られた小学六年生の少女・しおり。 母らに付き合うことに嫌気がさし、彼女は一人でどうしても訪れたかった場所へと向かいます。 メトロのレンヌ駅から列車に乗ったのはいいものの、途中怪しい男に抱きつかれて慌てて下車し、駅前の乗り場でタクシーを待っていました。 一方、モロッコからの移民でタクシーの運転手をしているサイードは、サン・ピエール通りで渋滞に巻き込まれながら、一枚の手紙に目を通していました。 その手紙は彼の妻・みゆきが二ヶ月前に置いていったもので、大切な友だちが事故に遭ったので日本に往くと言い残したっきり、彼女から連絡もありませんでした。 渋滞を抜けてみゆきの回想から引き戻された彼はコンコルド駅へと向かい、駅前の乗り場で少女を拾います。 それはもちろん、しおりでした。 サイードが日本語を話すことができると分かるとしおりは安堵し、またサイードも久しぶりの日本語に好感を覚えたようでした。 しおりは映画「アメリ」が大好きで、その舞台となったモンマルトル界隈へ行きたいのだと言うと、サイードももちろん「アメリ」のことをよく知っていて、親切に案内してくれます。 車はオペラ座前を通り過ぎて北へ進路をとり、やがてムーラン・ルージュ、そしてキャフェ・デ・ドゥー・ムーランにさしかかります。 憧れのアメリがウェイトレスをしていたこのカフェで、二人はランチをすることになりました。 アメリがそうしていたように、しおりはクレーム・ブリュレの表面に薄氷のように張ったカラメルを全部バリバリと割って食べ、夢見心地に浸ります。 しおりが不意にサイードの奥さんのことを尋ねると、彼は胸ポケットから運転免許証入れを出し、その中から一枚の写真を取り出してしおりに手渡します。 そして、彼は写真に写っているその女性が、二ヶ月前に自分の元を去って戻らないことをしおりに打ち明けるのでした・・・。 まず、この物語を読んで愉快だったのは、しおりがまさに手本を示してくれていることでした。 つまり、彼女は旅先のパリに「アメリ」という憧れの人の面影を強く求め、感じようとしているのです。 アメリが働いていたカフェに入って映画のなかで見た景色のなかにすっぽりと取り込まれ、アメリがそうしていた流儀に従って食事をする。 父親からの愛情の欠落を抱えながらも心豊かに生きるアメリの姿は、しおりにとって似たような境遇を共有している親愛なる存在。 空想上の人物を追い求めて、一人でモンマルトルへ駆け出すなんて子どもじみた振る舞いに見えるかも知れないけれど、わたしは個人的にそういうのがとても好きです。 歴史上の人物でもいいし、小説の主人公でもいいのですが、自分が胸に抱いている理想像を旅先に感じることができたら最高です。 そう思うからこそ、こうして旅へ出る前に幾編もの物語を読むのですね。 一方、この物語には決して愉快とは言えない、色んな種類の確執も存在しているような気がします。 自分本位な都合でくっついたり別れたりするオトナたちに対して、しおりが抱いている嫌悪、突然自分のもとから姿を消してしまった妻・みゆきに対してサイードが感じている、乗り越えがたい精神的・物理的な隔絶、そしてみゆきが日本に残してきた愛する人とその周囲の人々との葛藤・・・。 それらは、日本とパリという遠く離れた土地の間に横たわっている厳然とした壁を暗示しているように感じるのです。 その街を実際に自分の足で踏みしめたとき、言葉にならない興奮とともに、きっと克服しがたい不和のようなものも感じなければならないのかも知れない・・・。 この物語を読んで、そう覚悟しました。 心楽しいことも、決してそうではないことも待ち受けているのが旅というもの。 浮かれた気分に浸りっぱなしだった自分に警鐘を鳴らしつつ、今日のところはこの辺で筆を置きます。 今日も面白い物語に出会うことができて感謝します。 ありがとうございました!! 【三文日記】 久しぶりに気温が少し下がりました。 ベッドに横たわると肌がひんやりとして、タオルケットをすっぽりとかぶりました。 巨人の連敗もストップしたし、今夜はぐっすりと眠れそうです(笑)。 ●今日の天気 くもり。 ●今日の運動 ジョギング30分。 │<< 前のページへ │一覧 │ 一番上に戻る │ |
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