第18回 早坂茂三さんの遺言 その11

早坂茂三さんの遺言 11? 調査なくして発言権なし


 少し気まずい雰囲気が流れました。

 ご学友の新関さんは緊張のあまり、お父上の経歴や学歴の年号を正確に思い出すことができなくなってしまったのでした。

 質問をしてイライラする早坂さんと答えようとして答えられなくイライラする新関さんですが、間もなくお互いが話題を変えようとしているのがよくわかりました。

 口火を切ったのが早坂さんでした。

「政治もそうだが見てきたような嘘を言ったり、自分で確証をつかめないままに公にするマスコミにはウンザリだね」

「早坂先生!政治評論家にもその傾向が見られると思います。私の大学時代の恩師であるF先生はそのような中でも優秀ではないかと思うのですが、いかがですか?」と今度はゆったりとして話す新関さんでした。

 早坂さんは「知りません!!私はその方は知りませんからお答えしようがありません」ときっぱりと言い放ちました。
 ギョッとする私でした。(また、余計なことを言って。困ったご学友だあ……)

 ところが早坂さんは優しい目で新関さんの方に目をやりながら続けてこう言いました。
「ニイゼキさん、その先生はテレビでも活躍されているのでしょうね。でもね、テレビに出て言っていることがどのくらいの事実なのかが問題です。毛沢東の言葉に『調査なくして発言権なし、調査なくして発言権なし』というのがあってね、中国共産党や八路軍の同士にこれを言ってきた。私もこの言葉が好きでね、いまだに色あせない名言だと思いますよ。
 だからニイゼキさん、私はその先生の評論もテレビも観ていないし、聞いていないので感想を述べることはできません……って言うことですよ!!ハッハッハッハッハ……」

 すると新関さんは深々と頭を下げて、
「調査なくして発言権なし……なるほど、先生ありがとうございます。」と感謝を述べるのでした。

 座敷の雰囲気が和んできました。

 つづく

2004年9月30日記


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