幼幻記 19 祖母の生誕100年 佛光寺


~『幼幻記』 19 ~
●祖母の生誕100年 佛光寺



第950回 2007年7月17日


~『幼幻記』 19 ~●祖母の生誕100年 佛光寺


 今日は亡き祖母の生誕100年だ。
 
 祖母の名前は「荒木フミ」といった。
 祖母は明治41年7月17日生まれだった。
 樺太西海岸イシトロ町から六里の山の中で生まれたという。
 両親は山形県天童市生まれだった。イシトロ町で木材商を営み、多くの従業員を雇っていたという。
 樺太ではアイヌとも仲良く遊んだという。
 
 尋常小学校に入学の時に、両親の実家だった山口家に預けられ天童の小学校に入った。長い船旅はとても辛かったという。その時は大きな箱に入ったお雛様も持参したという。
 
 フミは祖母に可愛がられ、菩提寺の佛光寺によく泊まったという。
 本堂に寝ているとたまに夜中に釣鐘を鳴らす音が聞こえてくる。
それから誰かが本堂の入り口か、または勝手口から入ってくる。
廊下を歩く足音が聞こえてくる。
 フミは怖くて、布団の中で震えながら祖母に
「ばんちゃん、誰か来た!」
 と言う。
 祖母は
「大丈夫だ。お客様が来たんだからな。
おフミさあ、寝ろ」
 と答えたという。
 足音は本堂の中央に行き、大きな鐘を鳴らすのだった。
 ゴーンという音が本堂に響き、フミは怖くて怖くて祖母にくっついていったという。
 そんな夜を過ごした朝は必ず知らせがやって来たという。
 檀家の者が死んだ知らせだった。
 男が死ぬと本堂から客が来る。
 女が死ぬと勝手口からお客が来る。
 不思議なこともあるもんだと祖母はフミに語ったという。
 
 この佛光寺の本堂に向かって右側には、細くて背丈も大きくない白い木があった。
 その木をフミは「こちょぐったい木」と呼んでいたという。
その木を撫でると、木は動くのだ。しかも左右に。
その格好がくすぐったく動いているように見えるから「こちょぐったい木」と名付けたようだ。

 佛光寺は屋根が大きく、遠くから見た人々は屋根が燃えているように勘違いする人もいたという。
 屋根は銅で出来ていたからと夕焼けが反射して、町からはそう見えたのだと、フミは想い出を私に語って聞かせてくれた。
 
 フミの両親はフミが天童に住んで引き取られてしばらくして、雪崩にあって亡くなった。
 フミの好きな天童の祖母が亡くなると、フミの人生は一転して苦労の連続だったという。
 
 私は小学校4年生の秋に天童温泉に招待されて行った時だった。
 早朝に靄の中を、祖母フミの天童の実家に連れて行かれた。
 家の中には羊を飼っていた。
その臭いがとてもきつかった。
 家の中には上がることもなく、立ち話程度の来訪となった。
 会話もとても白々しく感じた。
 
 その後に佛光寺に連れて行かれた。
そして私は祖母と一緒に「こちょぐったい木」を恐々に擦った。
すると木はしばらく左右にゆれていた。
 びっくりする私を見て、祖母はやさしい目で笑った。
そして言った。
「なあっ?ホントだべ!?」
 靄はすっかり消えて、空は明るくなっていた。
 
 2007年 7月17日 火曜 記


© Rakuten Group, Inc.