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NHK杯が終わった。この結果、ファイナル出場は、男子はロシア勢2人、日本勢3人。女子は、ロシア勢4人、アメリカ勢2人、つまり日本勢はゼロ。 女子シングルは、ひところの日本勢とロシア勢の勢力図が入れ替わったようだ。恐ロシア女子がなぜ強く、今の日本女子がなぜ弱いか。そのもっとも大きな原因を1つ挙げるとするなら、やはりジャンプを「回り切る」力の差だと思う。 回転不足のルール策定(アンダーローテーション、ダウングレードにおける基礎点設定とGOEの減点幅)と実際の技術審判による判定手法・精度の問題点は、すでに何年も前から書いているし、少なくともバンクーバー前よりはルールもマトモになり、技術審判の判定の一貫性も取れてきていると思っている。なので、今回はそれについてではなく、選手個々の問題としての「回転不足」問題のみ取り上げたいと思う。 実際の演技を見ても、スコア表を見ても思うのは、ロシア選手とフランク・キャロルの指導するアメリカ選手(グレーシー・ゴールドもその1人)には「回転があやしいジャンプ」がほとんどなく、日本人女子選手には非常にそれが多いということだ。 今回優勝したゴールド選手は回転不足判定が1つもない。レオノワ選手(ロシア)には、フリーの3連続での最後の2ループに1つアンダーローテーション判定があるだけ。ダブルジャンプに対する「<」なので、得点の高い3回転ジャンプに対するそれよりは、影響は小さくおさまっている。 宮原選手は、ショートに1つ、フリーに1つ。しかも、それが両方、基礎点が高いルッツで取られているのが痛い。村上選手はショートに1つ、フリーに1つ。これもまた、得点源の3T+3T(ショート)の、今回はセカンドジャンプと、3連続の最初の3回転(今回はサルコウ)。 宮原選手はルッツ単独では、高さもそれなりにでるし、きれいに跳ぶことができると思うのだ。ところが連続ジャンプにすると、最初のルッツジャンプが「低空飛行の幅跳び」になってしまう。NHKのレポートでは、この連続ジャンプにコーチと一生懸命取り組むさまが放送された。その様子を見ると、特にセカンドの3回転をきちんと回り切るように意識しながら練習していたようで、その成果はある程度出ているのかもしれないが、セカンドを回り切ると、今後はファーストのほうが「省エネ」になり回転不足。このパターンから抜けきれないように見える。 このパターンは浅田選手の3F+3Loにも見られた。セカンドの3Loは、まず認定が難しいし、ソチでは放送席で見ていた某国の元名選手が「回っている」と疑わなかったくらいの完成度だったが、やはりアンダーローテーション判定。続くワールドでは、セカンドは完璧だったがファーストがアンダーローテーション。 http://www.isuresults.com/results/wc2014/wc2014_Ladies_FS_Scores.pdf 浅田選手はしばらくこの3回転3回転を跳ばなかったのだが、跳んでいたトリノ~バンクーバー中間期も、回転不足が厳密化されてからは同じようなパターンの判定だった。ちなみに、判定はそれほど変わらなかったが、3F+3Loのジャンプそのものの完成度としては、以前より段違いに上がっていたと思う。何度も言うが、五輪女王になったソトニコワ選手でさえ、なかなか入れることさえできない難しい連続ジャンプだ。キム・ヨナ選手に至っては、単独ループさえ試合に入れることができなかった。連続ジャンプそのものの完成度は上がってはいたが、結局判定はどちらかが回転不足判定されるという意味で、「変わらなかった」という話だ。 もっと前だと中野選手にもこのパターンが見られた。ちょうど(当時の)ダウングレード判定が猛威をふるい始めたころで、本人はどこで取られたか直後にわかっていない様子だったが、プロトコルを見ると3回転からの連続ジャンプのファーストが(当時の)ダウングレード判定。アップ&スローにしないとわからないような軽微なものだった(が、アップ&スローにすれば、テレビからでもだいたいわかる)。それが何分の1回転足りないのかといった「判定の精度」に関する問題は、横に置いておいて。 宮原選手はルッツにエッジ違反がなく、単独ならばきれいに跳ぶことができる。ところが、ショート、フリーともルッツを全部連続ジャンプにしている。ここが問題かな、と思う。 フリップの違反は、ついても「!」で、つかないこともあるから、本当に軽度だと見ていい。つまりエッジの踏み分けはかなり正確にできる選手で、また、フリー後半にもってくる2A+3Tの認定率もいい。カナダ大会でも日本大会(NHK杯)でも後半に跳んで、どちらも認定、素晴らしいじゃないですか。こうした、現行ルールでは強みになるはずの武器をもちながら、ルッツを全部連続にすることで、強みとなるはずのものが逆に「不安定要素」になってしまっている。 もちろんこのまま、ルッツからの連続ジャンプの精度を上げていくという戦略もあると思う。だが、過去の名選手のパターンから見ても、それは危険な賭けに見える。まずはルッツを1つ単独にする。連続ジャンプは別のものにする。そうして出来と点の出方を見てはどうだろうか。 「3連続」にこだわる必要はないと思う。 今季はダブルジャンプに対しても、ジャッジはキッチリ回転不足を取ってくる。「ソチ基準」が続いているということだ。3連続で後ろに2つダブルジャンプをつけても、積み上げられる基礎点はわずか。そこで1つでもアンダーローテーション判定されれば、たちまち減点で、意味がなくなってしまう。その点、フランク・キャロルはさすがに戦略家だ。グレーシー・ゴールド選手は、NHK杯では3連続ジャンプを跳んでいない。 今回村上選手がダブルループの跳びすぎ(3回転ループの予定が2回転ループになってしまったため)で、3連続ジャンプをキックアウトされるというミスをしたが、ゴールド選手もアメリカ大会でダブルトゥループの跳びすぎで同じく3連続ジャンプの点をまるまる失った。 両方とも3連続にせず、2連続にしておけば問題はなかった。ジャンプの跳びすぎはダブルだけではなく、トリプルでも気を付けなければいけないから、選手のほうは対応するのが大変だ。ダブルジャンプの回数制限も、3連続ジャンプの「リスク」を間接的に上げている。加えて、回転不足判定。こうなると、3連続をやって、ダブルジャンプのわずかな基礎点を積み上げる意味は、さほどないように思われる。 次は村上選手の回転不足問題について。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.12.01 15:42:05
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