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未知之国・夢紀行3

未知之国・夢紀行3

否嘉門傑作童話集・一葉の手紙

否嘉門傑作童話集より抜粋

「一葉の手紙」

それは突然舞い込んだ。拝啓、一筆啓上ご無礼申し上げ候~と書かれた文面は、頭を抱えてしまうほど不思議な手紙だった。心がひしゃげ、落ち込んでいた私の内面を覗き込んだかのように、文面は綴られていた。差出人も住所も書かれていない。私にとって心当たりのない手紙だったのだ。

拝啓 一筆啓上申し上げ候、先日アリソンの森においで戴いた際は、貴殿から頂戴した貴重なお時間、誠に感謝している次第でございます。イースト・ジェニアルファは非常に喜び、共に過ごした時間が悠久のようにも感じた~と話しておりました。

私共、メルパソ村の皆も同じ気持ちであります。しかし、未だに会話に出るのが人間なのにどうして私達の言葉が分かったのだろう~と言う事です。あの森閑としたアリソンの森に来た人間で、私達の言葉を聴いて話してくれたのは貴方様だけなのでございます。アリソンの森には、貴方様と過ごした頃から村中にベラダーンの花が咲き乱れております。あの頃には咲いておりませなんだ。

お世話させて戴いたクーナやマキシコンも、もうすっかり大人になってベートプライの森で暮らしております。アリソンの森からジョイエンの河を挟んだ西側の森にございます。ご存じないかとは存じます。

貴方様にはつまらないお話ですね。さてと本題に入りたいと存じますが、こういった話を貴方様にしても良いのやら悪いのやら、皆で相談したのです。こうした書簡をどのように書いて、どのようにお送りせば宜しいのかさえも分からず、認めております。ですので人間界の手紙なるものを見よう見真似で書いているのでございます。

もう季節は、すっかり夏になりました。人間界も、さぞかし忙しいかとは存じますが実は、折り入ってご相談したい事がございまして書簡を認め(したため)たのでございます。貴方様がおいでになられた後、そう~人間界で言う所の一ヶ月ほどの事でございますが、大きな機械を先頭に大勢の人間達が大挙してアリソンの森にやってきたのでございます。私共、メルパソの村のものは何が何やら理解できませなんだ。何をしているのかさえ分かりません。ただ、地面に光が多く降り注ぐようになったのは分かるのですが!

暫くすると、人間が住処なのでしょうか立ち始め、瞬く間に私共の隠れ家さえ無くなり始めたのでございます。フェロールイ爺さんは、これが切っ掛けで可愛い孫娘のセシオセラを残したまま他界いたしました。時間も残り少なくなった爺さんでしたが、孫娘は気懸かりであったろう~と推測しております。

この手紙をお送りいたしたのは、これからアリソンの森はどのようになるのか知りたくて、お教えて頂ければ幸いに存じます。人間界に住んでいる人間ですからご存知のはずです。また、アリソンの森にお越し戴けないものでしょうか?敬具

追伸 申し送れました私くし、ゲナミタスン・レタ村長と申します。

と言った内容が、とても小さな文字で書かれていた。間違えて来た手紙に相違ない。しかし、宛名も差出人もない書簡である。間違えて届いたとも言い難い。文面を読むと人間と何物かの交信である事に相違はない。何物なのだろう?そして差出人は何物なのだろう?動物?昆虫?植物?妖精?

私は自然に触れる事は大好きである。そして山登りや自然トレッキングも大好きである。森に行っては自然の醸すフィトンチッドを堪能している。




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