最近、ギリシアの財政危機が大きな問題になっている。ユーロは、通貨と金融政策が共通になるが、財政は国が別々である以上、基本的に個々の国に任せられる枠組みだ。財政赤字に一定の約束事があるものの、個々の国の政府が経済運営に失敗する可能性もあるし、今回のギリシアのように、失敗に粉飾が加わることもある。
ギリシアが財政赤字を意図的に小さく見せていた問題については、米国の大手投資銀行の関与が問題にもなっているが、本来であれば、ギリシアを援助してもおかしくない欧州の有力国であるドイツやフランスの世論がギリシアに批判的になっていて、スムーズな援助が難しくなる悪影響を及ぼしている。悪いことはできないものだ。
ヨーロッパでは、ギリシアの他にも、ポルトガル、スペイン、イタリア、アイルランド、などの国々が財政状態に信認上の懸念を抱えているとして、悪材料視されている。
ギリシアを含めてこれらの国々の財政問題が深刻化することは、国際的な金融機関の経営問題になりかねない。第一義的には、日本も含めた他国の株式市場にとっても、悪材料だ。日本株に関しては、欧州からの資金逃避が日本円に向かう円高の悪影響も加わる。
ただし、これらの国の問題によって金融システムが脆弱化すると、先進国の中央銀行は金融緩和を続けざるを得なくなる事が予想される。その場合、中国をはじめとする高成長新興国に先進国から資金が流れ続けることになるし、結局、先進国の経済と株価もサポートを受ける可能性が大きい。
波乱はあっても、先進国の金融緩和が続いている限り、株価が上がりやすい状況が続くのではないだろうか。ただし、財政危機が複数の国に連鎖して止められないような状況になると、世界の経済や株価が大きなダメージを受ける可能性がないではない。
筆者は、先進国の金融緩和を背景とした世界的に流動性が豊富な状況は、株式投資をする上ではプラスなので、多少の悪材料は気にせずに、いわゆる「鈍感力」を発揮して、株式のエクスポージャーを持ち続ける方が得だろうと現在の状況を判断している。ギリシアをはじめとする欧州の財政問題は、現在この判断を覆すに足るだけのインパクトを持っているとは思っていないのだが、波及効果の大きさの点で要注意の材料ではある。
ところで、ギリシアの問題は日本にも波及するのではないかという意見が一部にある。日本の財政は二つの点で特殊だ。一つには、日本政府は大きな債務を持っている一方で、世界的に突出した資産も持っている。実質的な政府債務が900兆円に迫るという数字だけに危機感を煽られるのは、いささか賢くない。また、もう一点の特殊性は、債務が90%以上国内で消化されていることだ。郵貯、簡保、生保、公的・私的両方の年金など、長期的な将来の債務に対して確実な給付が必要な運用需要がかなりあり、加えて、有望な融資先が少ない銀行が資金の多くを国債に振り向けている事情がある。
たとえば、ヘッジファンドの立場に立って、日本国債の売りを仕掛けようとした場合、10兆円や20兆円の空売りでは、簡単に吸収されてしまうのではないだろうか。
ただし、堅固な官僚制を背景として、支出と歳入両面における財政の硬直性は相当なものなので、バランスの修正を行うのに、ひどく時間がかかりそうな点は心配だ。
だが、あらためて考えてみるに、投資をするにあたって、心配がない状況というのはほとんどあり得ない。現実を直視することは大事だが、ある種の「鈍感力」も必要だ。
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楽天証券経済研究所
客員研究員 山崎元
(楽天マネーニュース[株・投資]第70号 2010年3月13日発行より) ==========================================================