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ももも。のおスイス暮らし

オカリト~全てがある村~

旅・オカリト ~何もないけど、全てを持っている村~



オカリトは日本のガイドブックには載っていない、小さな小さな村、
ウエストコーストの海辺にある。

人口は約20人。家はぽつんぽつんとあるけれど、ホリデーハウスが多い。
ここにはバックパッカーとモーテル、管理人のいないYHがある。
バスもないので、車など自力で来るか、バックパッカーのオーナーに
13キロ先の国道でピックアップをしてもらうしか、たどり着く方法がない。
ここには、スーパーどころか小さな店もない、銀行もない、本当に何もない。
ここに来る前に、滞在する分だけ食料を買ってこなくてはいけない。


そんな小さな小さな村に
友人カップルから、ぜひ行くべきだと強く薦められたので、行くことにした。



着いた晩は大雨、秋の始めであったが、寒く感じた。
この日オーナー夫妻は留守で、近所の人がピックアップをしてくれた。
連泊しているお客さんが独特の雰囲気を醸し出し、なんとなく不安な夜だった。


翌朝、初めてオーナーのローズアンとトニーに会った。
ローズアンは江戸っ子みたいにシャキシャキしたおばさんで、
「ももも。~、ごめんな~、きのうは留守にしてて。」と言った。
それだけで、何か安心した。
そして何と言ってもうれしかったのが、パンケーキの朝ごはん。
ここの名物かもしれない。
ローズアンがお客さんみんなに焼いてくれるのだ。

ローズアンは世話好きで、「今日は何をするつもりだい?」と聞いて、
歩きたいと言った私に、いろいろなおすすめポイントを教えてくれた。


ニュージーランドの南島にはアルプスがあり、晴れると、このオカリトからも
見ることができる。そして宿から40分ほどの展望台に登ると、
ニュージーランド一高い山、マウントクックも見ることができる。

ウエストコーストは雨が多いことで、有名な所だが、
私は運がよく、着いた日に大雨が降っただけで、滞在した4日間ほぼ天気がよく、
ほぼ毎日、この展望台に行っていた。
森の中もいっぱい歩いた。
木々の間から見えるタズマン海も惚れ惚れする美しさだった。
海岸の流木の上で寝転んだりした。
3時間近くそこにいたけど、会ったのは地元の漁師だけか。
ほんとーに静かな静かな贅沢な時間である。


この小さな村に一件のカヤック会社があり、若夫婦が経営していた。
ここの村のラグーンで、カヤックができるのだ。
私も挑戦することにした。
一人では不安だったけど、若夫婦に一度やったことがあるなら大丈夫と励まされ、
出発した。

漕ぎ出してすぐ、ローズアン達が同じ敷地で経営するモーテルの方に泊まっていた
スイス人カップルに会ったが、それっきり誰にも会わなかった。
この大きなラグーンにたった一人であった。
ちょっと不安も横切ったけど、独り占めしていると思ったら、贅沢に思えた。
少し行くと、水面に周りの森とアルプスのリフレクションを見ることができた。


しばらく漕ぐのをやめて、見とれていた。




ツーっと涙がこぼれた。



くやしくて、悲しくて、うれしくて泣いたことは今まであったけど、
自然の美しさに感動して泣いたのは、生まれて初めてだった。






オカリトを去る時、
私が「この村が大好き、また戻って来たい。」と言うと、
ローズアンは、
「もしここに長く滞在したかったら、電話してきな。助けられるかもしれないから。」
と言ってくれた。





ニュージーランドでどこが一番よかったと言われると、
たくさんあって迷うけど、このオカリトかもしれない。


オカリトは店も郵便局もほんとに何もないけれど、
美しい物が、全てここにあるから。




*2002年、ローズアンとトニーはこのバックパッカーとモーテルを売却したそうで、
残念ながら彼らのホスピタリティに出会うことはもうできません。




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