『フライ，ダディ，フライ』　金城一紀

2006.02.17

カテゴリ：本

『フライ，ダディ，フライ』　著：金城一紀

毎日、家と会社を往復するだけの、
平凡な中年サラリーマンの、
平凡でなかった、ひと夏の物語。

何よりも大切なものは、家族。
今まで、大きな事件も事故もなく、
これからもきっと、起きないだろう。

そんな、幸せだけど退屈な日々が、突然壊された。

やや設定に対しての説明不足というか、
それはいくらなんでもないだろ？という、
ご都合主義に頼りすぎでは、と思わなくもないけれど。

彼を助けようとした高校生軍団の正体は、
一体何なのか。

貴重な夏休み、毎日特訓に付き合ってくれた、
在日朝鮮人の高校生は、一体何なのか？

チケットを入手するのも困難な、
お嬢様学校の学園祭に潜り込みたいがためだけに、
彼らはあそこまでしてくれたのか？

『レヴォリューションNo.3』という作品と、
同じシリーズらしいので、それを読んだら、
その辺の不満は、解消されるのかも。

そもそも、事件の始まりが、ありえない、というか。
ありそうだけど、いくらなんでもそりゃないよ、と、
なんとなくツメの甘さを感じる。

でもそれがなかったら、中年おじさんと高校生たちの、
奇妙な出会いもないのだから、仕方ないけれど。

そういう、消化不良な部分を考慮しても、
面白い本でした。

ファンタジーだね、これは。
おやじファンタジー（笑）。

あらすじだけをたどると、結構重いものがあるんだけど。

ある日、高校生の娘が殴られ、入院してしまう。
病院のベッドに横たわる、痛々しげな娘を目にした時、
声をかけてやることすらできなかった自分に、
娘は心を閉ざす。

犯人は、ボクシング界期待の高校生。
事件を表沙汰にしたくない学校側の態度に怒り、
刃物を持って、高校へと乗り込む。

一歩間違うと、かなりヤバめなお話になりそうなところ、
そうならない、そこがファンタジー（笑）。

娘を殴った相手に、復讐してやるいう動機が次第に、
娘の信頼と家族の平和を取り戻すためとなり、
そして父は、頑張った。

飛ぶことを夢見たことすらなかったオヤジが、
天高く舞った。

神社での木登り特訓。
ウーロン茶やおにぎりの差し入れだけでなく、
5円玉までお供えして、応援してくれた老人たち。

バスとの競争に、やっと勝った晩。
バスが止まり、顔見知りだったバスの乗客がみな、
拍手してくれていた。
運転手にいたっては、涙ぐんでまでいた。

なんかそういう、クサい場面なんだけど、
あーいいなぁって、気持ちのいい涙が、
流れちゃうような。

思いっきりアドレナリンを放出して、
その向こう側にあるものを見てみたい、
と思った、一冊でした。