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2017.01.08
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カテゴリ:古代ギリシア
ポリュアイノス『戦術書』を読み終えました。この書物は、ローマ五賢帝の一人マルクス・アウレリウス・アントニヌスが、イラン高原のパルティア王国に軍隊を送り込んだ際に、その助けとなるように著されたものです。主に古代ギリシア(神話・アルカイック・古典・ヘレニズム)の王や将軍の「戦術」が、人物ごとに簡単に要約されています。収録されている戦術の数は885個、人物だけでも349人を数えるという長大な書籍(全8巻)でした。


「戦術」と聞いて、私たちがすぐに思い浮かぶのは、戦場での立ち回り方や、指揮官による兵士の配置・運用方法でしょう。そういった戦術らしい戦術も収録されてはいるんですが、どちらかといえば少数派で、大半は戦術というよりも「策謀」と定義した方が現代人からすればしっくりするものが占めていました。すなわち、裏切り、虚偽、欺瞞などです。中には「いかにして不当に権力を得て、僭主(独裁者)になったか」「どのような手段で金を搾取したか」など、全く戦争と関係の無い策謀までもが「戦術」として、しかも好意的に紹介されていました。

『戦術書』を読む前は、兵士たちの陣形や、その運用方法、武器の操り方など、「戦場におけるリアルな兵士たちの戦い方」が学べるものだと思っていました。無論、「戦場においては兵士たちのモチベーションが重要」「自軍を少なく見えるようにし、敵に油断させる」など、そういったことも記述されてはいるんですが、大半は上述のような「策謀」であり、「こんなに汚い策謀も戦術とカウントしちゃうんだ・・・」と衝撃を受けた記憶があります。
ただ、それでガッカリしたわけではなく、むしろ古代ギリシア・ローマ人たちの価値観が垣間見えて、非常に興味深く、面白く感じました!

古代ギリシア人は、武力よりも知恵を重んじる民族です。神話を見ても、武力だけのゴリ押しで強敵を制した例は殆どありません。パワーでは右に出る者のいないゼウスやヘラクレスも、御多分に漏れず策略を用いて幾多の戦闘に勝利してきました。更に、ギリシア神話随一の策略家であるオデュッセウスシシュポスが誉め言葉として定着していたことからも、それが伺えます。例えば、策謀の得意なアテナイのテミストクレスはオデュッセウス、スパルタのデルキュリダスはシシュポスのようだとして賞賛されていました。(まぁ、シシュポスは神々を欺いた罪でタルタロスに幽閉されちゃいましたが、それは策謀がどうというよりも、傲慢さや涜神行為への戒めでしょう)

戦時中においては、「最小限の労力で最大限の損失を敵に与えること」が、何にも増して重要なことです。そこに倫理観・道徳観など挟む余地などありません。相手の裏をかくことは、労せずして巨大な損害を相手に発生させることに繋がるので、それがどんなに卑劣な行いだったとしても、賞賛に値することだったのです。
非人道的行為でも、それを見習うべき「戦術」として取り上げている『戦術書』からは、そのような価値観を存分に感じることができました。


残念ながら、『戦術書』の史料価値は乏しく(なにせ、神話の神々や英雄たちの戦術も収録されているぐらいですから)、皇帝のパルティア遠征に間に合うように編集されたためか、誤記も見られ構成も雑です。しかし、悠久の時を経ても、全巻欠けることなく現存しているので、この本が「後世に残す価値のある書物」という評価を受けたことは確かです。事実、近代においても複数回翻訳されており、これは「軍事的価値あり」と判断されたからに他ならないでしょう。無価値な本に資本と労力をかける道楽者など存在しませんから。
戦術の先例集としてなら、史料価値を吟味する必要性はありません。同書は、兵器や戦術が発達した近代であっても、多くの軍人たちが読んだ(と思われる)紛れもない「戦術書」なのです。





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Last updated  2017.01.09 00:25:23
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