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土曜日の書斎 別室

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リトル ・ ビッグ ・ ホーンの戦闘

戦史断章  米国戦史編


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(W ・ H ・ リー筆 『カスター最後の戦い』 )


リトル ・ ビッグ ・ ホーンの戦闘




1


 
  米国モンタナ州南東部リトル ・ ビッグ ・ ホーン峡谷。

  合衆国陸軍 第七騎兵連隊 の指揮権を有する ジョージ ・ アームストロング ・ カスター中佐 は、 同峡谷に大集結した 北米先住民七大部族 の一挙殲滅を目論み、 独断 で攻撃開始を命じる。
  カスター連隊は、 翌26日を決行日とする 三方向からの総攻撃作戦 の一翼を担わされていた。
  リトル ・ ビッグ ・ ホーンへの進出も、 上記作戦計画に基づく既定の行動であったが、 功名心に逸るカスターは、 予定を一日繰上げ、 単独攻撃 に踏み切ったのである。

  然し、 カスター連隊の急襲を察知した七大部族は、 猛然と反撃に転じる。
  先遣大隊は脆くも撃破され、 カスターの直率する大隊 (五個中隊二百十余名) は、 七大部族連合軍の重囲に陥り、 約三十分の戦闘の果て・・・全滅した。
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(ラオール ・ ウォルシュ監督作品 『壮烈第七騎兵隊』 )
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  七大部族の野営地へ進撃中の先遣大隊は、 平原を覆い尽くして疾駆して来る スー ・ シャイアン戦士団 に遭遇する。
  嘗て・・・彼らが眼にした事のない、 夥しい数の騎馬軍団であった。
  指揮官 マーカス ・ リーノー少佐 は、 全員に下馬を命じると、 最寄の林地に拠って、 応戦を試みる。
  敵は、 圧倒的多数・・・。
  然も、 味方の四名中一名は乗馬の制御役に回らねばならず、 射撃が可能なのは百名前後でしかなかった。
  到底支え切れるものではなく、 間もなく退却命令が出される。
  多大な犠牲を強いられながらも、 戦士団の追撃を振り切ったリーノー大隊は、 リトル ・ ビッグ ・ ホーン河沿いの一台上 (後に リーノー ・ ヒル と呼ばれる) に陣取り、 再度の防戦に努めた。

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  スー ・ シャイアン戦士団は、 その実勢から推して、 彼らを全滅させるのは極めて容易であった筈である。
  然し、 リーノー大隊の幸運は、 是の時・・・スー ・ シャイアン戦士団の下に、 カスター大隊 接近の報がもたらされた事であった。
  戦士団の大部分は、 リーノー隊を打ち捨てて、 新手の敵 (カスター隊) との戦闘へ転進してしまったのである。
  リーノー ・ ヒルの戦闘は、 一時中断された。
  やがて、 フレデリック ・ ベンティーン大尉 指揮下の予備大隊が合流。
  更に 輜重隊 も合流し、 陣地は翌日の主力軍到着まで、 辛くも持ち応える事となる。
  然し、 カスター大隊のたどった運命は悲惨で、 生存者は皆無 であった。

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(ラオール ・ ウォルシュ監督作品 『壮烈第七騎兵隊』 )

  カスター戦死の情況 は詳らかでない。
  七大部族の野営地突入を期して、 リトル ・ ビッグ ・ ホーン渡河中、 対岸から銃撃されて致命傷を負った・・・と記述している著書 ( D ・ H ・ ミラー『カスター将軍の最期』 ) もあるが、 是に就いては立証されている訳ではない。








2


 

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(ロバート ・ シオドマク監督作品 『カスター将軍』 )

  カスター連隊を撃破した 七大部族 は、 ハンクパパ ・ オガララ ・ ブルーレ ・ ミネコンジョ等の スー族北方シャイアン族 を主体としていました。
  その戦闘員総数に就いては、 資料によって見解が異なり、 四千名とも、 三千名とも、 二千五百名とも記録されています。
  カスター当人は、 精々千名前後と見積もっていたらしい。
  首尾良く・・・先制攻撃に成功すれば、 騎兵一個連隊の兵力 (六百名前後) でも、 十分凌駕し得ると踏んでいたのでしょう。

  敵の実勢を大きく見誤った事。
  又、 その 戦闘能力を著しく過小評価 した事は確かな様です。   リトル ・ ビッグ ・ ホーン進撃に際して、 さなきだに劣勢な兵力を、 四隊 (三個大隊と輜重隊) に分散 している事からも、 ソレは容易に察せられます。
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  当時の合衆国陸軍の兵制では、 騎兵一個連隊は騎兵十二個中隊から成っていました (騎兵一個中隊の成員は、 五十名前後) 。
  カスターは、 そのウチの五個中隊を直率し、 次級者の マーカス ・ リーノー少佐 と、 尉官としては最先任者の フレデリック ・ ベンティーン大尉 に、 夫々三個中隊の指揮を執らせたのです。
  そして、 残余の一個中隊をして、 輜重隊の護衛に当たらしめています。

  敵野営地に対して、 リーノー大隊が先制攻撃を加え、 混乱に乗じてカスター大隊が別方向から雪崩れ込む。
  両大隊が野営地を存分に蹂躙している間、 ベンティーン大隊は遊撃行動に任じ、 離脱を図る部族が有れば、 是を撃滅する。
  敵の戦闘能力を 零若しくは零同然 としか想定していない様な、 安直な作戦構想でした。

  広域に渡る七大部族の野営地に対して、 完全な挟撃作戦を可能ならしめるには、 師団規模の兵力が必要である事位、 尋常の戦術眼を備える指揮官なら、 容易に理解が及ぶ筈です。
  何れにしても・・・カスターは、 翌日の総攻撃開始まで兵力の使用を差し控えるのが順当であったと思われます。









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