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カテゴリ:本
岩盤温度摂氏160度超。数メートルに1人の犠牲者を出した隧道工事を描く。
今日も暑い。 暑い日こそ激辛カレーを食べるように、敢えて暑そうな小説を読んでみた。 ところが暑いどころか熱すぎる話だった。 『高熱隧道』 吉村昭 新潮社 吉村昭は記録文学の名手。 その淡々と事実に基づいた記述が好きな作家さんです。 これは、昭和11年にはじまり、以後4年間にわたってすすめられた黒部第三発電所 建設工事の中でも、最も過酷であった隧道(建設材料を運ぶための軌道トンネル)掘削工事に 焦点を当て、登場人物はフィクションであるものの、事実を基にしたすさまじい内容の小説です。 私は知りませんでしたが、山の腹に穴を開けて掘り進んでいくと、猛烈な高温になるらしい。 特にこの地域は温泉湧出地帯に当たってしまったらしく、 掘り進むごとに人知を超えた温度になっていく。 岩盤温度65度にはじまり、最終的には166度(!)。 岩盤破砕に必要なダイナマイトが自然発火してしまう温度を軽く超える。 マイトの安全基準は40度だ。 次々と事故が起こり、起こるたびに吉村昭の筆はそれを克明に描写する。えぐい。 冬には冬で大自然の驚異が襲いかかる。雪崩だ。それも泡雪崩というらしい。 鉄筋5階建ての宿舎を人夫もろとも根こそぎ山の向こうまで吹き飛ばしてしまうとは。 最終的に、この工事により300人を超える命が失われたそうだ。 でも工事は中止されなかった。 戦争へ向かって突き進む当時の国家的要請が人命よりも優先された。 軍需工場群にはこの発電所が生み出す8万8千KWの電力が必要だった。 大自然と人間の闘い。 人夫のプライド。 工事監督官の苦悩と挑戦。 吉村昭の冷静な筆致がいかにもテーマに合っていて興味深い本でした。 黒部ダムにも行きたくなってきた。(ミーハーですかね) 戦後、映画『黒部の太陽』の舞台となった黒部ダムの建設に際し、170人以上の 殉職者が出たことはまた別の話ですが、英仏海峡トンネルを掘削していった日本製の シールドマシンが誇らしくもあったため、その陰ではこういう犠牲が払われてきたのか・・・ と思うとより感慨深いものがありました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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