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2011/09/17
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カテゴリ:ワイン会
昔のワイン仲間に誘われ、久しぶりに六本木のMr.スタンプス・ワインガーデンに行って来た。裏小路に至る階段を上りドアを開け、ワイン棚の間を抜けて客室へ向かうその様子は、10年前と少しも変わっていなかった。オーナーの碩本氏も健在で、昔より少し若返ったように見えた。やや薄暗い照明の下、部屋中至る所に林立するボトルの中で丸テーブルを囲み、碩本氏が懐中電灯の明かりで澱の様子を見ながらデカンタージュする、その様子も昔のままだった。唯一の変化は窓の外にあった。以前見た時は広大な空き地だったのが、いつの間にか東京ミッドタウンと称する高層ビルが聳え立ち、その地下を都営大江戸線が行き来するようになっていたのだ。しかし隠れ家の様な趣の店内と顔見知りに視線を移すと、私は過ぎ去った時間をしばし忘れる事が出来た。

「それじゃ、そろそろ始めましょうか」という碩本氏の声で、その日のワイン会は幕を開けた。最初はアンリオのノン・ヴィンテージ。上品な酸が涼やかで心地よいシャンパーニュで、夏の宵に相応しかった。コンディションも上々。続いて1976 Domaine Ditti?re (A.C. Coteaux de l’Aubance)。ロワールのシュナン・ブランによる貴腐ワインの特産地だ。べっこう色、アンズのヒントに貴腐香があり、甘みはすでに後退しているが、余韻はとても長い。料理は軽く炙った生ハムのパッションフルーツ添え。

ワイン会のテーマは「6」のつくワイン。だから1976の貴腐から始まったのだが、続いてデカンタージュされたのが1926(!)のCh. Desmirail (A.C. Margaux)。ラベルは古色蒼然として、文字はほとんど読めないが、ヴィンテージは辛うじて見て取ることが出来た。「香りが飛んでしまうから」と碩本氏はカラフの口に小皿を載せて、もう一本の白ワインを抜栓し試飲すると、「これはデカンターなしでいきましょう」とボトルを廻した。2006 Bourgogne Aligote Sous Chatelet (Domaine d’Auveney)。品の良いアーモンドの樽香に澄んだ白い果肉の果実、ほのかなライムのアクセント、余韻にかけて現われるタンニンがしっかりとした土台になっている。生産量は1500本弱とか。とても良い。軽くスモークしたサーモンのブリオッシュ包みにあわせて。

さて、1926年産のシャトー・デミライユの登場。85年前に収穫された葡萄のワインだ。その夏はとても暑く、非常に恵まれた生産年になったという。香りには確かに熟成したボルドーを思わせるものがあったが、酸はしっかりとして背筋が伸び、凝縮感のある果実味には若さすら漂っていた。余韻も長い。料理はブルターニュ産エイヒレのブールブランソース。白ワインビネガーとエシャロットの香に塩気と魚の旨みが力強く、赤にもあわせることが出来た。

次に1953 Pommard (Brisseaux Estivant)。ワイン会のテーマから外れるが、この年も非常に恵まれた生産年だという。かっちりとした果実味でやや閉じ気味とすら感じる。58歳の頑固親父だ。もしかしたら、あと数年すると開いて美味しくなりそうなポテンシャルを感じる。還暦を目前にして、まだまだこれからのポマール氏。やがて時間とともに少しずつ開いていった。
そして1961 Chateaux Neuf du Pape (Ch. Drapier et Fils)。口に含むと丸く、ほのかな暖かさを感じる。タンニンはこなれて柔らかくボディに奥行きを与え、余韻に凝縮した赤いベリーのヒントが長く尾を引いた。赤の最後は1986 Vosne Roman?e Les Marconsorts (Andr? Cathiard)。非常にエレガント。澄んだ果実味はあっさりとしているようでいて味わい深く、ピノ・ノワール独特の海草のヒント、バランスよく無駄がなく高品質。フォアグラと山鳩の縮緬キャベツ包み、マディラソースの香り高く濃厚な味に舌鼓。

そしてデザートワインとして1963 Gau-K?nigsheimer Vogelsang Beerenauslese (Pfalzgrafen Kellerei)。残念ながら枯れていた。洋服ダンス、枯れたオレンジ、ほのかにアンズ、蜂蜜。少し喉にひっかかる。恐らくリースリングではない。1971年のドイツワイン法の前だから、果汁糖度に関係なく、貴腐化もしくは夏の暑さで乾燥して干し葡萄状になった房で仕立てたものだろう。若かりし頃は甘く華やかで魅力的なワインであったのかもしれないが、今となっては色あせた写真を眺めるようだ。

「ドイツワインのいいものは甘口しかないの」と、このワインをオークションで落札したA氏が聞いた。「いや、辛口もありますよ。格付け畑のリースリング辛口とか、良いワインは沢山あります」「いくらくらいなの」「現地小売価格で30~50Euroくらいします」「それはまだ安いよ。スクリーミング・イーグルみたいに一本何百ドルとかすると、大金持ちがわっとよって来るから注目されるんじゃない」「そういうワインはドイツにはないですねぇ…高くても70Euro前後かな」と私。

スクリーミング・イーグルは最も入手困難なカリフォルニアワインと言われている。1992年産が1996年にリリースされた当時は一本50ドルだったのが、パーカーが99点をつけてから一躍注目を集め、2003年には蔵出し価格が一本300~500ドルに達した。それも顧客への割り当て制で、約20haの畑から年9000~15000本と生産量が限られていることから、メーリングリストに登録しても順番待ちが永遠に続くという。

果たしてドイツにそのようなワインが登場する可能性はあるのだろうか。小規模家族経営で3ha以下の葡萄畑からワインを造っている醸造所も多いドイツでは、年間生産量数千本以下の少量生産はざらである。希少であってもそれが必ずしもよいワインとは限らない。高品質なワインは優れたテロワールから生まれることはよく知られている。高品質なブドウ栽培に向かない立地条件に育った早熟量産品種から偉大なワインは出来ない。残念なことに1971年のワイン法ではそれが一切無視され、曖昧にされてしまった。これが未だにドイツには甘口しかないという誤解の根源にある。

現実には、優れたポテンシャルを持つ葡萄畑から収穫量を落とし、完熟した葡萄を選りすぐって才能ある醸造家が熱意を込めて仕立てたワインは数多い。例えばVDPドイツ高品質ワイン醸造所連盟では、優れた葡萄畑をエアステ・ラーゲに認定し、葡萄品種を限定して収穫量を1ヘクタールあたり50hl/ha以下に抑えるという自主規制を行っている。グローセス・ゲヴェクス(ラインガウではエアステス・ゲヴェクス)と称される辛口だ。そして幸運なことに、リリース当初から数百ユーロもするワインは、私の知る限りでは存在しない。2010年産のドイツ国内平均小売価格は27.50Euroである。

考えて見ると、ドイツはコストパフォーマンスに優れた高品質な辛口が多い、ワイン好きにとって伝統的ワイン生産国最後の楽園かもしれない。もっとも、まだ日本では知られていないようだが。

ワイン会の〆は1967年Ch. Doisy Daene (Sauternes)。1963のBAよりずっと楽しめる。濃厚で余韻も長い。軽くタンニンのような苦味が混ざり、トップノーズにやや薬品を思わせる香りが漂うが、熟成によるものだろう。甘みはやや落ち着いて、奥行きがある。

これほどのワインと料理が次々と並んだ割には会はテンポよく進行し、10時すぎにはお開きとなった。再開発が終わった界隈は私の記憶よりも賑わいを増し、熱帯夜の暑さの中でまるで新宿の繁華街のような、一種猥雑な趣が街路に滲み出していた。それはそれで活気があって、経済効果にも繋がっているのだろう。呼び込みの男達と蛍のように輝く女性達を横目に、私は地下鉄の駅を目指し家路を急いだ。






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Last updated  2011/09/18 01:05:07 AM
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李斯。@ お久しぶりです。 御無沙汰しております。 何時も拝見してい…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その64(04/05) 「ムスカテラー辛口」は私も買おうかと思…
mosel2002@ Re[1]:ひさびさのドイツ・その54(03/14) pfaelzerweinさん >私の印象では2013年…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その54(03/14) 私の印象では2013年からは上の設備を上手…

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