ひさびさのモーゼル 2023年7月(9)
・FIO Winesとケッテルンのラインナップ FIO Winesはケッテルン家とニーポート家とのコラボレーションで、2012年から始まったプロジェクトだ。ナチュラル寄りのワインで、低アルコール濃度と醸造に極力介入しないミニマル・インターヴェンション、最長5年間におよぶ長期の澱の上での熟成と、瓶詰前まで亜硫酸無添加もしくは微量添加が本筋のワイン。醸造過程で瓶詰前の一回だけ亜硫酸を添加するという生産者は、ドイツでは例外的だ。 FIOのほかにRätselhaft, Socalcos, Ururabo, Teppo (Tempoのポルトガル語で、Tempoはドイツではポケットティッシュの商標登録済のため), CabiSEHRnett, Falkenberg, Godtröpchenがある。この他にもペットナットのPiu piu、赤ワインのように果皮と一緒に発酵するオレンジワイン(JojoとGlou Glou)、ステンレスタンクと木樽で9カ月と比較的短い熟成期間で仕上げたFabelhaftや、そのノンアルコール版もあってヴァリエーションが豊富で、いささかややこしい。個人的には畑名入りのフラッグシップ2種以外は、3種類程度に絞っても良いように思う。 FIO Winesの影になっている感があるが、フィリップが5代目として継いだローター・ケッテルン醸造所も健在だ。生産量は年にもよるけれど、若干FIO Winesが上回っているという。畑面積はピースポート村の6.5ha(Goldtröpchen, Günterslay, Falkenberg)とライヴェン村のJosefsberg (Leiwener Laurentiuslayの区画名)を近年5.5ha購入した。 ピースポートのブドウ畑地図(Deutsches Weininstitut Deutsches Weininstitut: Regionenkarte des Deutschen Weininstituts (deutscheweine.de))ケッテルンのワインの味わいは、FIO Winesとそれほど違わない。昔からのモーゼルファン向けだと言うけれども、FIOもケッテルンもミネラル感が前に出ていて、ボディにやや厚みがあるがアルコール濃度は低く、乳酸発酵と熟成を経て柔らかくなった酸味が果実味を下支えしている。瓶詰まで亜硫酸を添加せずに澱の上で長期間熟成するため酵母のトーンが若干感じられ、様々な要素がまとまっている。 個人的に最も印象的だったのはUruraboという、産膜酵母とともに2年間樽熟成して瓶詰したワインで、軽く繊細でとりわけ精緻で、ほっそりとして美しかった。同名のワインをドウロのニーポートが地場品種ゴーヴェイオで醸造している。(つづく)