昨日、とうとう前時津風部屋親方と兄弟子3人が傷害致死容疑で逮捕されました。
今朝の朝日新聞朝刊です。それに伴って愛知県における検視検案体制の不備が指摘されています。私は蒲郡の警察医もしており、蒲郡市における異常死体の検案を一手に引き受けています。他の警察署にも警察医は一人ずついますが、検案業務はもともと警察医の本来の仕事ではありません。気分よく引き受けてくれる警察医ばかりではありません。犬山署の場合もあまり慣れていないドクターが検案をしたのではないかと思います。「二重条痕」があったと書かれています。これは表面が比較的平らな鈍器(ビール瓶、バットなど)で殴られたときに出来る皮下出血で自分で転んだりして出来るものではありません。少し慣れたドクターならば見落とすようなことはありません。
昨日も午前中の一番忙しいときに検案で呼ばれました。話をきくと、41歳の男性が昨日頭痛と嘔気で市民病院にかかり、風邪薬をもらって帰ったようですが、朝見に行ったら死んでいたというものです。見落としの臭いがぷんぷんしますね。これは問題になりそうなケースですので、放っておく訳にはいきません。外来患者さん15人くらいに訳を話して1時間くらい待ってもらいました。
独身の男性で近くに母親と弟が住んでおり、一人暮らしですが、食事は母親と一緒に食べています。昨日も夕食を一緒に食べて、まだ調子が悪そうだったが、一人で帰って寝たそうです。母親が9時ころ心配して電話をしましたが出なかったそうです。朝食事におきて来ないので、見に行ったら鍵のかかった家の中で布団から這い出すような格好で死んでいました。
外傷はなく、硬直は全身に強く出て、死斑は体前面に強く発現し、圧迫により褪色します。結膜に溢血点は無く、瞳孔は左右同大でした。内因性急死であることは間違いないですね。昨日頭痛と嘔気を訴えていたことからまずクモ膜下出血を考えて、後頭下穿刺をして、髄液を採ってみます。透明でした。
次に2ヶ所から血を採って、トロポニンTの定性検査をしてみました。トロポニンTは心筋の障害があると血中に出てくる酵素で、上の頚静脈から採った方が陽性に出ました。う~ん、心筋梗塞でしょうか?今までにそのような症状はなかったようですが、かなり太った方でしたから、動脈硬化が進行していた可能性はあります。
家族の方に検案の結果を説明します。「外表検査と簡単な髄液と血液の検査では急性心筋梗塞が死因として最も疑われますが、もっと死因をはっきりさせるのには病理解剖が必要です。もしよければこれから病院に運んで病理解剖をしますが、・・・。」と言いましたが、「そこまではしてもらわない方がいいです。」とのことでしたので、「それでは病院に帰って、さきほどの死因で検案書を書きます。」と言って戻ってきました。
死因に疑問がある場合は解剖をしてもらうべきです。力士の虐待死事件でも解剖をして初めて死因が外傷性ショック死と判りました。解剖にもいろいろな種類があります。犯罪の関与が疑われる場合には警察が裁判所の許可をとって、司法解剖をします。病院で亡くなって死因を調べるときには遺族の承諾をとって、病理解剖をします。異常死体で犯罪死ではないが、死因が判らないときに遺族の希望や監察医の勧めで行う行政解剖というのがあります。しかし行政解剖は東京都以外では殆ど行われていないのが現状です。私は剖検医資格も持っており、保健所の許可がなくても解剖をすることができます。