F1史上最強と思われるドライバー、ミハエル・シューマッハー。ほとんどあらゆる記録を更新し、最も成功したドライバーの一人であることは間違いない。真面目で、完璧主義。妥協を許さずベストを尽くす様は、最強のプロのドライバーであり、記録にも記憶にも残るドライバーと言えよう。
(以下、文中のシューマッハーは全てミハエル・シューマッハーをさします)
しかし、反面その完璧さ故にファンの望まないレースを行うこともあり、そのあたりが彼の評価の難しいところかも知れない。
彼がその名を広く知られるようになったのは、90年のマカオGPでハッキネンとの対決で勝利を得たあたりからだろうか。この年ドイツF3を制したシューマッハーは、同じくイギリスGPを制したミカ・ハッキネンとマカオGPで対決。第1レースではシューマッハーはトップのハッキネンから約2秒のビハインドで2位となっていた。続く第2レース。1位を走行するシューマッハーにハッキネンはピタリと2秒以内につける。このままなら、ハッキネンの総合優勝、と思ったところ、前を行くシューマッハーのラインがアウトにより、続くコーナーへのインが開いたかに見えた。そこにレーサーとしての本能で飛び込もうとするハッキネンとドアを閉めたシューマッハー。後に因縁の対決となる二人の対決は、ハッキネンの自爆という形で最初の決着をみた。表彰台の中央で喜ぶシューマッハーと、コース脇で泣きじゃくるハッキネン。対照的な勝者と敗者の姿だった。
翌91年、ハッキネンはロータスからF1デビュー。一方シューマッハーはF1へステップアップ出来ず、スポットで全日本F3000に参戦するなどの活動を続けていた。そして、突然シューマッハーにチャンスがやってくる。ジョーダン・グランプリからデビューのチャンスがやってきたのだ。初めてのF1参戦はベルギーGP、難コースと知られるスパ・フランコルシャン。いきなり予選で7位を獲得。これは過去のジョーダンの最高グリッドであり、ベテランのA.デ.チェザリスを上回るものであり、F1関係者に衝撃を与えた。(余談では有るが、シューマッハーはこのジョーダンでのデビューにあたり、事前テストで1500万円、さらに参戦の為に3000万円を支払っている。しかし、シューマッハーがレース出場の為に支払ったのは生涯でこの時だけだ。)
ミハエルが強いのはマシンが速いからだと評するドライバーもいる。それはある面では正しいかも知れないが、やはり違うと判断せざるを得ない。
彼を最も評価するべきと思うのは、チームをも強くする力では無いだろうか。最初にチャンピオンを獲得したベネトン、そして、移籍したフェラーリ。ともに、ミハエルが加入した時点では最強のチームというべき存在では無く、セカンドグループに位置するチームだった。しかし、2チームともミハエルの加入後に大きくチーム力が上がっている。
それは、シューマッハーの天性の速さと強さの他に、全力でチームのために取り組む姿勢などが自然と影響を与えたのかも知れない。またフェラーリ移籍後については、シューマッハーを追うようにR.ブラウンが移籍。F1を引退するつもりだったR.バーンも加入するなどベネトンでチャンピオンを獲得した時の主要メンバーが移籍したことになり、その効果は大きかった。
彼のレースキャリアの上で、A.セナのイモラでの事故死は大きな影響をあたえた。F1が大きな変動を受けた事故。開幕2連勝と波にのり、チャンピオン候補として名乗りを上げたシューマッハーはにとって最大のライバルは3度のチャンピオンに輝くA.セナであったが、イモラでの事故により、乗り越えるべき最大の壁であり、最大のライバルをシューマッハーは失ってしまった。
シューマッハーは最大のライバルを自らの力で倒し、自分の能力を証明するという機会を永遠に失ってしまったのである。
急遽ライバルとなったD.ヒルは当時の力ではいかにも役不足であったと言わざるを得ない。これこそ、シューマッハーにとって最大の不幸であっただろう。
また、目標達成のために完璧を期すというチーム体制は、シューマッハーの為のチームを作り上げ、彼の所属するチームは、チーム・シューマッハーというべき体制となった。デビュー当初のベネトンでは、ピケ、パトレーゼ、ブランドルなどを力でねじ伏せて勝ち取ったNo.1体制であり、それ自体は非難すべき事では無いかも知れない。なにしろミハエルは彼らに対して予選で1回も負けなかったのだから。
しかし、No.2ドライバーが彼をオーバーテイクを許されないというのは、ファンにないがしろにしているのではないだろうか。
チーム内でフェアな競争が認められないチームのチャンピオンは、ファンからの真の尊敬は得られない。なぜなら、チームメイトこそ最高のライバルであるはずだから。
チームが彼をチャンピオンにするため、彼の意志に反してチームオーダーを出すこともあるかもしれないが、2002年のヨーロッパGPを見るまでもなくファンはチームによって操作されたレースを支持することは無い。そして、その結果得られたチャンピオンに対する賞賛は、作られた操作の分だけ尊敬の念が薄れるというと言い過ぎだろうか?
しかし、少なくとも私が見たいのは同チームにあっても、競い合うセナとプロスト、ピケとマンセルの様な存在であって欲しい。
チームメイトをはじめとする全てのドライバーの挑戦を受け止め、そして退けてこそ真のチャンピオンといえるのでは無いだろうか。
しかし、彼のキャリア・実績は過去最高のものであり、その輝きはますます増しているかにも見える。しかも経験を積み、円熟味を増した現在でも、走ることが楽しいというM.シューマッハー。彼はどこまで記録を積み重ねていくのだろうか?
今、歴史が作られている場面を目撃していることは間違いない。
|