カテゴリ:美術
手許にある「Casa BRUTUS 特別編集 The Big3」の表紙には、力強いゴシックで、
ル・コルビュジエ フランク・ロイド・ライト ミース・ファン・デル・ローエ の3人の名があります。 「20世紀建築の3代巨匠」の一人ル・コルビュジエ、 本名 シャルル=エドゥアール・ジャンヌレは、 1887年に、スイスの時計絵付師の子として生まれ、 スイス、フランスを中心に(結婚時フランス国籍取得)、 ブラジル、インド、チュニジア、イラク、ドイツ、ベルギー、日本と 70以上の建築作品を手がけ、1965年、77歳で亡くなりました。 この展覧会は、建築の巨匠の、絵画・彫刻作品を含む業績を追いながら、 その思想に迫る、奥行きのある展覧会でした。 ===== 最初に目を惹くのは、再現されたアトリエ。 最上階にあるとは言え、アパートの一室なのに、十分すぎるほど高い天井をもった空間。 大きな壁面に、石積み・煉瓦が露出しているのも、なんだかモダン。 午前中このアトリエで絵を描き、午後から仕事、というライフスタイルだったそうで、 絵を描くことが、生活の、創作の重要な一部であったようです。 ----- その絵画作品ですが、「理」が勝っていて、私はそんなに…。 「ピュリスム(純粋主義)」という慨念を提唱し、初期の作品では、 「キュビズム」以上に論理的な画面構築がされているのですが、 段々と、作品に有機的要素が交じり、「シュール」な雰囲気が加味されていきます。 ----- コルビュジエの絵画作品は、日本に結構あり、 新宿にあるギャルリー・タイセイ(大成建設)や、 アークヒルズクラブ(というか森ビル社長)が所有されている、とのこと。 前述の「Casa」は、ヒルズ完成前の発刊なので、森美術館の開館を見据え、 「(森アートセンターで)いつか大規模なコルビュジエ展が開かれる可能性に期待したい」 とあります。この「予言」が実現したわけですね。 ===== さて、コルビュジエデザインの家具は知っていましたが、 驚いたのは、コルビュジエが、自動車のデザインもしていたこと。 その実物大模型が展示されています。 この「最小限自動車≪マキシム≫」は、最小限の車体で、最大限の使用価値が得られる 「最大効率車」がコンセプトにあったそうで、フォルムも近未来的でかっこ良い。 ----- コルビュジエの提唱したコンセプトの一つが「モデュロール」。 人体基準と黄金比に基づいた、「美しい」建築単位基準で、 独創的で魅力的ですし、人間工学のはしりのような気もしますが、 いかんせん、男性183cmが基準と言われると、なんだかちょっと違和感が。 ----- この「モデュロール」に基づいた、マルセイユの「ユニテ・ダビシオン」 の一室が再現展示されていたのですが、うろうろしてみると、 思ったより小振りで使いやすい、というか、居心地良い。 ----- 今でも、この「ユニテ・ダビシオン」は使われていて、 屋上階には、庭園、プール、幼稚園、スポーツジムなんて公共施設があり、 中層階に、スーパーやホテルがあります。 もし、マルセイユに行くなら、ここのホテルでの宿泊を検討してみるのも手かも。 ----- なお、ベルリンにも同じく「ユニテ・ダビシオン」があるそうなのですが、 (あれかなぁ、と思う建物はあるのですが、写真がないのが残念) このモデュロール基準では、天井高が低すぎる、ということで、 設計は変更され、プロポーションが崩れてしまった、とのこと。 なんだか、フランス的感性と、ドイツ人気質とのせめぎあい、 という感じがします。 ===== コルビュジエが提唱した「近代建築の5原則」は ・ピロティ(建物を柱で宙に浮かせる) ・屋上庭園 ・水平横長の窓 ・自由な平面構成 ・自由なファサード ----- この原則を体現した「サヴォア邸」の図面と模型。 なんだか、すごいし、かっこ良いんですけど、ちゃんと想像がつきません。 写真を見ても、動線がどうつながって、どうなっているのやら? 行って見ないとダメかしら…。 ----- 東京の美術好きにとって、最も馴染深いコルビュジエ作品と言えば、 上野「国立西洋美術館」です。 1955年、コルビュジエは敷地視察のため来日。 弟子に当たる、前川國男・坂倉準三・吉阪隆正らが案内。 コルビュジエは、美術館に劇場なども加えた 一大文化センターの計画を送ってきますが、 予算の関係で、美術館のみに。 本来、この美術館は、「成長する美術館」としての機能を持っているのですが、 敷地の都合から、当初意図された形での増設は出来ません。 しかし、実質的に設計を担当した前川國男先生により、新館が建てられたりと、 オリジナルが尊重されながら、改修されていることは、喜ばしいことだと思います。 ===== 「輝ける都市」というセクションでは、数々の都市計画案が、並べられていました。 高層建築群を主体とした都市計画は、住居を集約することで、 地上を緑地化して、住民に眺望と緑と太陽を提供し、 生活、労働、休息、交通などの機能をバランスよく持つことで 快適かつ幸福な生活を可能にする、という、 「高層建築」から与えられるイメージとは違う、「生活の質」の論理。 「アルジェの都市計画」「ヴォワザン計画」「パリ都市計画」「300万人の現代都市」 どれも実現しませんでしたが、どれも、今に通じる問題意識がある、という気がします。 ----- これらに連なる、巨大公共建築案も並べられていましたが、 中でも、「ソヴィエト・パレス」のCGは圧巻。 とんでもなくダイナミックなこの建物のボリュームを「体感」させてくれます。 いや、こういうの、カタログと一緒に売ってくれないかなぁ(笑)? ダイナミックな造形、考え抜かれた導線、多機能な文化性、 実現されていれば、面白かったでしょうに。 とは言え、他の「プロジェクト」にしても、 要求された以上の回答を出してしまうのが、 巨匠の巨匠たる由縁なのでしょう。 ===== インドのチャンディガールは、 これら都市計画、公共建築の集大成と言って良い都市。 ガラス壁や、高層建築こそ、現地の実情から実現しませんでしたが、 壮大なスケールの「キャピトル」の建物群、緑化された街並、 そして、街の中心に位置する「開かれた手」のモニュメントは、 コルビュジエのサインのようなもの。 スケールの大きさもさることながら、インドという風土が、この街をさらに深く彩ります。 うーん。いや、すごい。 ===== 安藤忠雄先生が、初めてヨーロッパに訪れた時、 まず向かったのが「ロンシャンの礼拝堂」だったそうです。 その特異な形状は、他の追随を許しません。 ランダムでありながら、リズミカルに穿たれた窓。 分厚いのに、重量感を感じさせない、軽やかなコンクリート屋根の造形。 建物そのものの息遣いを感じさせてくれる、不思議なフォルム。 ----- 「サン・ピエール教会」が竣工したのは2006年。 煙突のような、巨大な船のデッキから持ってきたような、独特の形状。 ----- 教会は、中に入って、初めてその価値が感じられると、私は思っています。 それは、単に「面白い建築」というものではない。 信者が敬虔に祈りを捧げる場であり、信者と共に成長する空間なのです。 「神の器」としての宗教建築は、だから難しい。 しかし、コルビュジエの教会には、神が宿っているんだろう、と。 「美」には、そんな力があるのです。 ===== 再現展示されている建物が、もう一つありました。 見た目は小さな丸太小屋風で、他の作品とは雰囲気が違います。 この「カバノン(休暇小屋)」、最愛の妻への誕生日プレゼントとして建てられたそうで、 何と言うか、お洒落。 ----- 再現された「おうち」にお邪魔してみると、さして広くない空間に、機能的に配置された家具、収納。 なんだかこじんまりして、居心地が良い。 内装は結構カラフルだったようで、この色彩感覚の豊かさもコルビュジエ作品の特徴の一つです。 ----- 1957年に最愛の妻が亡くなった後も、コルビュジエはこの小屋を訪れ、 海が見える丘に葬られた彼女に、生前と同じように語りかけていたそうです。 そして、1965年。 海水浴へ向かったコルビュジエは、心臓発作を起こし、帰らぬ人となりました。 ルーブル宮で国葬された巨匠は、今は最愛の妻の傍らで、静かに眠っています。 ===== 『ル・コルビュジエ 建築とアート、その創造の軌跡』展 LE CORBUSIER; Art and Architecture - A Life of Creativity @森美術館 (六本木) [会期]2007.05/26(土)~09/24(月) [開館] 10:00-22:00(火は 17:00まで) [休館] 会期中無休 [料金] 一般 1,500円 / 学生 1,000円 / 4歳-中学生 500円 (東京シティビュー含む) ★★★★☆ ----- 参考URL ル・コルビュジエ(Le Corbusier;1887-1965) wiki フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright;1867-1959) wiki ミース・ファン・デル・ローエ(Mies Van Der Rohe;1886-1969) wiki 前川國男(Maekawa Kunio;1905-1986) wiki / 公式HP 坂倉準三(Sakakura Junzo;1904-1969) wiki / 公式HP 吉阪隆正(Yoshizaka Takamasa;1917-1980) wiki 安藤忠雄(Andoh Tadao;1941-) wiki お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
October 8, 2007 06:54:20 PM
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