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2005.11.18
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カテゴリ:学力について
(写真:京都・清水寺の紅葉)

今日も中学校の教科書の話。

中2の国語教科書(光村図書)には、向田邦子さんの
『死んだ父は筆まめな人であった。』で始まるエッセイ「字のないはがき」を載せている。

中学生にはこのエッセイは、とても評判が悪い。
「何を言っているのかさっぱりわからん。こんなのテストに出たら、また悪い点しか取れない。」とか「筆まめって何のこと?こんな言葉、聞いたことない。何で筆と豆が関係あるの。バァ~カみたい。」など等、さんざんなのである。
しかし、私たちの年代の者にはこのエッセイはとても共感出来、感動する文である。

家庭では、ふんどし一つで家じゅうを歩き回り、大酒飲みで、かんしゃくを起して母や子供にたちに手をあげる父が、女学校に進学し、親元を離れた作者に、一点一画もおろそかにしない大振りの筆で、「向田邦子殿」と宛名書きした手紙を3日にあげず出すのである。
文面も、折り目正しい時候の挨拶に始まり、新しい東京の社宅の間取りから、庭の植木の種類まで書いてあるという。
日常の罵声やげんこつとは、全く異質の威厳と愛情にあふれた父の姿に出会い、女学生の作者は感動し、父の像を修正するのである。そして、大人への階段を一歩登り始める。

今時の若い家族は、一見、仲良しそうである。お出かけや家族行事が好きである。
しかし、それはただそれだけのこと。
この家族の繋がりは、ディズニーランドの人工的な華やかさに似ている。
ディズニーランドの冒険は冒険でなく、すべてが初めからプラン済みのきらびやかさであり、ショーなのである。見せる為の冒険なのだ。
なんの危険も伴わない冒険だ。

現代の若い夫婦の家族関係は、予測済みの計算された範囲内では、かっこうよく夫婦や親子を演じている。泥まみれを恐れている。一度ほころびると修復が困難になる関係なのである。

子供は生きた生身のものだ。しかも今、発達しようとしてる、正にその途上にいる。
予測不可能な部分をいっぱい持っている。その子供に、予測可能な表面だけきらびやかに装ったディズニーランド的冒険を与え続けても、子供は育たない。
実際、今、子供たちは育ちそびれ、大人に成りそこなっている。

この現代の対極にある家庭像が、向田邦子さんの家族像である。

思春期の子供のこころに深く突き刺さるような衝撃や、驚きを父の手紙は与えている。
そしてそこに、父親の深い愛情を読み取っている。
父は、娘を一人の人間として、きっちり人格を認め、対等に対峙して手紙を書いている。
こんな父親は今の時代あまりいない。

このエッセイのテーマは、まだ字の書けない末の妹が学童疎開するとき、父が、おびただしいはがきに几帳面な筆で自分の宛名を書き、「元気な日は○を書いて、ポストに入れなさい」と末の妹に持たせる話である。
ここにも父の並々ならぬ愛情があふれ出ている。

今時の中学生は、この父親の愛情を理解できないらしい。

自分のために、1年分もの、あるいはそれ以上のおびただしいはがきに、丁寧に宛名を書いてもらった体験もないし、それに匹敵する親の自己犠牲的な愛情を注がれたことがないからではないだろうか。

今の親は実に子供に冷淡である。情が薄いのである。
子供が失敗や困難に陥った時、子供を冷たく突き放す。子供の「自己責任」を強要する親が多い。
子供を大人のように扱っている。
そして、一方では、成人した子供を何時までも親の従属物として子ども扱いしている。
これらの現象は、真の意味で子供の人格を認めない親の表と裏である。

子供が困難に陥っている時、地獄の果てまで付き添って子供を見守り、励まし、解決の方向を示唆する親は、とても少ない。

「字のないはがきの」の父親象は、確かに現代の中学生には理解不能な父親像かもしれない。
しかし、その時代に制約された横暴で素直でない男性像を除けば、そこには現代が見失っている父親としての深い子への情愛や人間としての尊厳を具えている。

この国語の授業を、子供たちは、分けのわからぬ面白くない授業だと言っている。
これは本当につまらぬ教材だろうか?
それを教える教師の方にむしろ問題ありではないか。

親たちも子供の国語教科書を一緒に読み、子供と議論するのもいいですよ。






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最終更新日  2005.11.19 09:35:36
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