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2008.02.12
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秋のサンティアゴ巡礼街道(24)
イラゴ峠越え(2)
ヒース(Heath)とは何か 

ヒースの群生
薄紫色カルーナ(Calluna)と黄色のハリエニシダ(Ulex gallii)のコントラストが素晴らしい。

 前回(23)で、秋の枯れ野の巡礼街道を淡いピンクに染めたヒース植物群落を紹介した。これらのヒースは、あのビーターラビットの活躍するスコットランドの湖水地方の風景やドイツをはじめとして、中央ヨーロッパの田園風景を薄紫に染める美しい景色として皆が賛嘆し、憧れる植物群であり、この田園風景は、イギリス庭園の原型ともなっている。

 では、一体、そのヒースって、なにもの?
 そんな疑問に駆られた私は、この疑問を何とか解いて、すっきりしたいという願望から、あれこれ、調べるうちに、興味ある事実に多々出くわした。(調べるうちに迷路に入り込み出られないで、いつまでもこだわる私の悪癖がまたぞろ顔をだしただけだが)
そして、この美しい景観に隠された植物の歴史は、現代の地球が直面している深刻な地球環境の破壊、温暖化と重大な関係があることが分かってきた。

それをまとめたものが、以下の記事である。

 英語でヒース(Heath)は、古スコットランド語・Haeddreに語源を持っている。フランス語では、Bruyereで、ゴール語・buruco。ドイツ語はハイデ(Heide)である。日本語では、この語を「荒れ野」と訳している。
 この語の意味は、痩せた酸性度の土壌に生育する亜低木、亜潅木のこと。又その土地。と辞書にはある。
  これらの低潅木が、上の写真にみるような、薄紫色の美しい花を丘陵地一面に咲かせ、人々の暮らしにある時は、安らぎ与え、又、ある時には、家畜の大切な餌となり、その地域に棲む、昆虫の蜜源となり、爬虫類や鳥類などの食物連鎖と棲家の生きる基盤の核となっている。
ヒース群落は、そこに棲む多種多様な生物社会の食物連鎖や棲家として、生きる基盤を数百年の歳月の中で、厳しい自然と闘いながら、そこに根付き作り上げてきた。もちろん、人間もその生物社会のひとつとして、暮らしを成立させてきた。

  そのヒース群落を作り上げている低木植物は、ツツジ科(Ericaceae)のカルーナ(Calluna vulgaris)とエリカ(Erica)属の植物群である。これらを私たちは、ひっくるめてヒースと呼んでいる。

 カルーナ(Calluna vulgaris)

calluna
ツツジ科(Ericaceae)、カルーナ属(Calluna)に属しているのはCalluna vulgarisのみ。
カルーナ(Calluna)は、ギリシャ語:Kalluneに由来。
この語は(to clean or brush)を意味し、小枝で箒が作られたことに因るという。
(いかにも、よく掃くこと出来る箒が作れそうな枝ぶり、姿をしている)

英語では、Heather(ヘザー)、あるいはLing(リング):Ling
リングは古スカンディナヴィア語「lig」に由来し、fire(火)を意味する。
燃料(fuel)として使われていたことから来ているという。

英語のヘザー(heather)を使用した語は、次のようなものがあり、イギリスでは産業革命期の毛織物産業の隆盛は、大規模なヒツジの放牧場の牧草として、ヒース植物の広大な丘が存在したからこそ、あったと言えるのではないかと思った。世界の海を制覇して、隆盛を誇った、産業革命期のイギリスは、このヒースの丘があったからこそともいえる、

現代に残る英語からもそれを知ることが出来る。

heather ale (ヒースの花で香りをつけたスコットランドの醸造ビール)
heather honey (ヒースの花から採ったハチミツ)
heather mixture (混ぜ色織り又はその服)
heather tweed (混色のツイード・スコッチ織り)
bell heather (ヒースの仲間・エリカ・シネレア)

語源や単語から見ただけでも、このカルーナという植物が、
人々とともに共存してきた長い歴史があるのがよくわかる。

巡礼街道を紫色に染めていた「カルーナ」をアップするとこんな感じ。

ヒースの群生アップ

また、
カルーナ(Calluna vulgaris)の
日本語名は「ギョリュウモドキ」(御楊もどき)。
「御楊」とは、こんな植物。
gyoryu1.jpg
photo:(季節の花300)より借用。江東区 仙台堀川公園で撮影

「ギョリュウ」又の名「タマリクス」は、
学名:Tamarix Chinensis この学名は、ピレネー地方にある川、Tamarixの流域に
多くは自生する植物と同属の中国で自生している樹木ということを意味している。かなりの高木。
花期は5月上旬ピンクの花をつける。
漢の武帝の宮殿にも栽培されていたという。日本には18世紀半ばに渡来。)

「ギョリュウモドキ」とは、
よく考え抜かれた日本語訳ですね。
巡礼街道の花々を調べる時に、その名前を
日本語にどう訳すか困難に感じている私としては、
この和名には感心する。
と言っても、現代の日本人に「ギョリュウモドキ」と言っても
「・・??」ですよね。
現代の私たちには、この和名から、「ヒース」を連想することは難しい。

ヒースの群生する荒れ野で、同伴して、生育している
Ericaceae(ツツジ科)に属するもう一つのヒースは「エリカ」

エリカ(Erica)属

エリカ(サンティアゴ航空近くで)
サンテイアゴ空港近く、海抜300mの低地に、カルーナの群生に入り混じって咲いていたエリカ。
カルーナとは花の付きかた、葉の形が異なるのがわかる)

ツツジ科エリカ属には、700余の種類があり、
その90%は、南アフリカに原生する。
その他の70種が地中海沿岸地方のヨーロッパやアフリカに自生している。
ヨーロッパ大陸には40種あまりある。

Erica tetralix(左)とErica cinerea(右)、


250px-Erica_spp_Sturm47.jpg

(花のつき方など、同じエリカ属でも種類によって異なるのが分かる)
イギリス、フランス、などでは、この2種類のエリカが、生育環境に応じて、カルーナと
共存して、繁茂するこが多い。

さらに、前回の秋の巡礼街道(23)では、イラゴ峠を越えた辺りから、
低木のエニシダが、これらのヒース群落と共演して、
黄色と淡い紫色が美しいコントラストとなって、
巡礼街道の秋景色に彩りを添えているのを紹介した。

そのエニシダの仲間の

矮生エニシダ(Ulex gallii)

PICT0496.JPG

学名:Ulex galii マメ科のハリエニシダ属(Ulex)。常緑低木。
背丈は90cmぐらいまでで、さらに背丈の低いものもしばしば見かける。
夏の終わりから秋にかけて、黄色の花を咲かせる。
南スコットランド、イングランド、ウエールズ、アイルランド、
フランス、スペインの北西域に自生。
ヒースと同じ土壌・環境に生育する。
英語名:Irish Gorse(アイルランドエニシダ)

ヒースの群生(クルス・デ・フェロ峠)
(巡礼街道の黄色の矮生エニシダとヒースの共生)

ハリエニシダ科のこの植物は、カルーナやエリカと同様に、
火入れ(野焼き)後、簡単に根から再生し、芽を出す。
羊やヤギを放牧し、良質の牧草としての役目を、エニシダもヒースとともに担ってきた。

又、エニシダは、マメ科植物特有の窒素固定菌の「根瘤バクテリア」を
その根に有しており、植物の生育に欠かせない窒素を土壌に与える役目をし、
他の植物の成長の養分となり、痩せた土壌の肥やしの役割もある。

 痩せた土壌で、酸性度の高いものから低いものまで、湿ったものから乾いたものまで、多様な土壌に適応し、羊やヤギや牛などに何度食べられても、ダメージを受けることなく芽を繰り返して出し、生育する強靭な「ヒース植物群」。管理も「火入れ」、即ち、焼くことで、次の芽を出すという簡単さ。

  このようなヒース生い茂る草原は、ではどうやって出来たのか。

 かっては、ヨーロッパ大陸は、ほとんどが広葉樹林で覆われていた。
しかし、人類文化の発展は、山野の大森林を焼き払って、農耕地として、ヤギ、ヒツジなどの家畜を大量に林内に放牧して、森林を破壊し、原始の大森林を荒涼たる草原にすることで発展してきた。(草や低木が壊滅すると、その上の高木の森も壊滅)
  ミズナラやシラカバに覆われた豊かな森は、4000年に及ぶ過放牧や岩塩採掘、森林の伐採などで土地がやせ、「エリカ」などの矮生低木やイネ科の植物が繁茂するようになったのだという。
 ヨーロッパの国々は、文明の発展が森林を破壊し、人間に深刻な影響を与えていることに気付き、もう100年もまえから、自然保護を国家規模でおこなっている。
ヒース茂るイギリスのスコットランドの丘やドイツのリューネブルハイデなど、100年前から自然保護区として、これ以上自然を破壊しないで森を再生させようとしてきた。
 とりわけ地中海沿岸地方のフランス、イタリア、スペイン、北アフリカ地域は、植物の活動期に少雨のため、一度失われた森を再生することが困難で、裸にされた土地は、今もそのままである。(この地域に長く君臨したローマ帝国は、この帝国が滅亡した時には、地中海沿岸地域の豊かな森はすべて破壊しつくされていたという。)
 このように見るとヒースの草原は、人類文明が森を破壊した跡地に必死に適応し、繁茂して、生き延びている植物群落であるといえる。
人類が4000千年かかって、破壊してきた森を、現代は、この100年ぐらいの間に、さらに世界的規模で、一気に破壊して壊滅しようとしている。
 森を破壊しつくした時、古代文明は滅んだ。

 ヒースの群落は、現代の私たちに、生物社会の連鎖のなかで、命を繋いでいくことは、どうあらねばならないかを警告している。






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最終更新日  2009.04.21 13:46:49
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