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セイラがキッチンに滑り込むようにはいるなりに母が聞いた。
「どうだった。」 「洋子よろこんでた。」 「だろう・・・。」 モリィは娘の返事に得意げに頷いた そんな母のごきげんな様子を確認するとセイラは言った。 「・・・そうそう孝史にあったよ。」 「へえ?そうかい。で、洋子はどのパンがいいって?」モリィは興味なさそうに頷いた。 「セミドライトマトとバジルの・・でね、孝史、車を洗ってた。」 「ああ・・・そういや車は好きみたいだからね、おかげで早乙女先生の車はこのところなかなか綺麗に手入れされているよ・・・ま、居候だからな、そのくらいやってもらわなきゃいけないよ。」 「・・・そう。」 「どうせ相変わらずぶつぶついってただろう。」 「え?」 「なんかいつも1人でぶつぶついっていてさ、なんていうか・・・変な男だよ。あの見てくれで、生物オタクじゃ彼女のだってできやしないだろうねえ。」 「生物オタク・・・。」 「ああ、ランチの最中にパスタを見てミミズの話をするような男だ。」 「・・・・ははは・・・そ、そう確かにぶつぶつ言ってたけど、それでも彼女ができないことは・・・。」 「なんだって?。」 「なんでもない。」 「お前の前でもぶつぶついってたんだねえ、で、どうせろくでもないこといってただろう。」 “かわいいよ。”孝史の声が頭の中で響いた。 (2009年06月12日 15時24分59秒)
「そんなことない。」
「え?」モリィは驚いたように娘を見つめた。 「そ・・そう、おかあさん・・・あたしアルバイトする。」 真っ赤いなった顔を隠すようにセイラは階段に向った。 「どうしたんだい、小遣いがたりないって、なに無駄使いしたんだよ。」 急に話題を変えた娘のようすをいぶかりながらモリィはエプロンで手をふいた。 「あのね、洋子のところの備品を破壊したの。」 セイラの頭にパーティでへしゃげた黒縁眼鏡がうかんだ。 「洋子のところの・・・高いもんじゃないだろうね。」 モリィはあわてた。 娘の様子が今朝からおかしかったのはこのせいだったのだと察し、あわてた。 洋子のところの備品といったら半端な金額ではないはずだ。 「う・・ん。洋子は高いものではないし、買い替え時を待っていたというか、捨てたくてたまらなかったものだからいいって言ってくださったんだンけど、私、弁償しようとおもって・・・ちょっとかかる。わたしのお小遣いではやや不足・・なんだ。せっかくならちゃんと弁証したいから。」 セイラの頭の中には帰り際に孝史の手元に届いた銀縁目がねが浮かんだ。 繊細でとても知的な雰囲気の眼鏡だった。 でも価格は・・・かなりのものだった。 セイラは階段の手すりで顔を隠すように答えると足元を見ておもった。 『かなり・・・ステキだったな・・。』 そんな、娘の様子には気が付かずモリィの頭の中には顕微鏡とかフラスコがぐるぐるぐるしていた。 壊しと物がなににせよ、自分で弁証するのはよいことだ、だが親としてこんど洋子には謝罪しなくてはいけない。『半分ぐらいは私たちが弁証してやらない。今月はあの人のお小遣いをちょっと削ろうかね・・・。』などと考えた。 (2009年06月12日 15時25分28秒)
「そうかい。でも、それは正しいことだよセイラ、お母さんが全額立て替えても良いけどね、それじゃ駄目だ。壊したものを自分で弁証しなさい・・・でどこでバイトをするのかい?」 「洋子の研究室での下働きをすることにしたの・・・その資料の整理とか、フィールドワークでの荷物持ちとか。」 「・・・・ふむ。」 モリィはだまりこむとセイラの顔をじっと見つめた。 『洋子のとこなら安心だね。』 「よし、いってらっしゃい、学校は。」 「だいじょうぶ、休みの日や放課後を使う。それとね、校長先生には洋子から連絡するって。」 「はん!あの校長なら問題ないよ。洋子の親衛隊の1人だからねえ。もしかして、これを機会に洋子のところに学生を送り込みたいって言いだすかもしれないねえ。じゃあお父さんには母さんからいっておくから、がんばっといで。」 「はい。」 セイラはうなずくと逃げるように階段をあがっていった。 明日から早速、洋子のところでバイト開始である。 **** 「こんな子つれていって・・・足手まといです。ド素人・・・。」 覚悟はしていたものの孝史の言葉にちょっとだけセイラは胸がいたんだ。 「なにいってんの、資料の分類整理は私が一週間かけてしこんだのよ・・・文句ある。」 洋子は腰に手をおくと孝史を睨みつけた。 「洋子が・・・一週間?」 「そう、貴方にも助手がいるでしょう。PCでの入力もできる。なにせ若くて吸収が早いのよこの子、そこらの蘊蓄しか垂れない事務官より随分役に立つこと請け合うわ。それに身が軽いの・・・細いけど力もある。フィールドワークの助手には最適よ。それとはっきり言って、彼らに比べ時給がとても安いの。コストパフォーマンス考えると100倍くらい有用よ。」 (2009年06月12日 15時26分18秒)
「・・・・わかりました。連れていきます。でも邪魔になったら追い返しますよ。」
「ま~~~貴方も偉そうに言うようになったわね。いいわ、この子は簡単にはへこたれないから。」 洋子は嬉しそうに笑った。 「ですが洋子、彼女は未成年で、僕が連れ回していいんですか・・・。」 「大丈夫、高校にはちゃんと話しを付けた。社会研修というあつかいで喜んで許可をくれたわ。両親も良い勉強だと喜んでくれた。問題なし。オールクリアよ。」 「洋子・・・・その学校の校長って・・・貴方の親衛隊の一人じゃないですか。両親って、母親はモリィでしょう。」 「いいじゃない・・別に。」 「いいって・・・。モリィにはどのように。」 「うちの研究所の調査の下請け。」 「・・・・まあ、間違ってはないけど。」 「貴方の助手っていったほうがいい?」 「いえ、いいです。これ以上モリィにいじめられたくはありませんよ。」 「・・・・分かっているじゃない。モリィの娘だからって仕事に関してセイラに遠慮はいらない。あなたの公正さは信じている。それに、このこは変に親に愚痴を行ったりしない子だし、問題があればまず私にそうだんするでしょう。」 孝史は腕をくむと大きくため息をついた。 確かに助手は欲しかったところだ、まさに猫の手もかりたかった。 そして洋子の横に立っているやせっぽちの少女に視線をうつした 猫よりはかなり役に立つだろう・・・そう思った。 **** (2009年06月12日 15時26分56秒)
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「こんな子つれていって・・・足手まといです。ド素人・・・。」 彼の言葉に身体がすくんだ。 洋子と孝史の言い合いの間、セイラは彼をじっと観察していた。 銀縁めがねの彼は黒縁めがねのときと随分印象が違う。 自分の周囲の男の子達より大人で、知的で、素敵だ。 ぼさぼさの髪も くたくたのシャツも ぜんぜん問題ない。 洋子と言い合いをしている彼はとても・・ステキだった。 するとふいに孝史が自分をみつめた。 「いいって・・・。」 孝史は腕をくむと大きくため息をついた。 そして洋子の横に立っている自分に視線をうつした 困ったような怒ったような顔。 セイラは俯きそうな自分をごまかすように日本式に頭をさげた。 「よろしくお願いします。」 頭をさげたまま目を閉じていた彼女の頭上で声がした。 「わかった。でも学生だ、バイトだって手は抜かない。」 「ありがとうございます。」 セイラは顔を上げた。 目の前に孝史の笑顔があった。 「じゃあ、孝史、後はよろしく。明日のスケジュールを話してあげて。私はドクター・マーロウに行ってくる。」 「わかりました。」 洋子はセイラに手を振り実験室を出た。 (2009年06月12日 15時29分17秒)
閉まるドアを確認すると孝史はセイラをみおろした。 「さてと・・・。」 「はい。」 「よろしく、明日からだけど大丈夫?ブラウ。」 「え・・・・ブラウ?」 「セイラだとなんかモリィのお嬢さんだっていうので遠慮が出そうでね。君がよければ、僕と仕事をする時はブラウとよんでいいかい?。それと君の学校の事もある、まず君のスケジュールをホワイトボードの僕の予定表の下に掻込みなさい。遠慮はいらない、来れる時だけでいいから正確に、時間を書き込んで。はっきりしないところは緑にして確実に来れるところは黒で。」 「・・・・はい。」 人の呼び名を勝手に変えるなんて、しかもこっちの了承も得ない強引さ。 ちょっと失礼だとおもいつつセイラは何だかうれしくなった。 彼と私だけの呼び名 ブラウ・・・私は青い空だ。 そう思うとセイラは幸せ一杯に微笑んだ *******つづく***** (2009年06月12日 15時29分32秒)
2人だけの呼び名・・・内緒みたいですてきです。もうセイラは孝史に首ったけですね。
孝史くんの助手なんて助手なんて・・・あっちこっちから「はーい!」「はーいはーい!」「あたしも!」と声が聞こえてきそう(そういうわたしも・・・) 梅雨時にさわやかな青空のようなお話、続きを楽しみにしています。 (2009年06月12日 17時06分56秒)
孝史君の助手なんて・・・時給なんていらない、ボランティアでもなんでもします・・あちこちで手が上がりそう
ブラウなんて二人の時に言われたら、舞い上がってしまいます・・・仕事にならないかもね 続きお待ちしています (2009年06月12日 23時51分48秒)
ririさん
>孝史くんの助手なんて助手なんて・・・あっちこっちから「はーい!」「はーいはーい!」「あたしも!」と声が聞こえてきそう(そういうわたしも・・・) ええ、教授なら・・・でもこのころは単なる小うるさい生物オタクなんですけど(笑)それでもいいですか? >梅雨時にさわやかな青空のようなお話、続きを楽しみにしています。 あまり凹凸のないお話ですが待ったり書かせていただきます (2009年06月13日 14時30分29秒)
北の大地の碧さん
>私も孝史君に特別な呼び名で読んで欲しいです。 最高ですよね 仁子はジーンと呼ばれた時 どう感じたのでしょうか?などと考えて書いてます (2009年06月13日 14時31分31秒)
青空さん
>孝史君の助手なんて・・・時給なんていらない、ボランティアでもなんでもします・・あちこちで手が上がりそう ririさまにも書きましたが・・・生物オタクですが青空様それでもよいでしょうか ただ、銀縁目がね仕様にはかえてありますが (2009年06月13日 14時32分52秒) |