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[読書：フランス] カテゴリの記事

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  アルベール・ユデルゾ 『アステリックスとヴァイキング』

  　アステリックスとオベリックス（Asterix et Obelix）」は、フランスの人気コミック・シリーズ。1959年に第一話が出て以来、その人気は高まるばかり。老若男女に愛されている作品で、フランスのコミックの古典とも言える作品です。アニメ化、映画化（カエサル役にアラン・ドロンを起用した作品もあります）はもちろん、フランスにはディズニーランド顔負けのアステリックス・テーマパークもできています。　お話の舞台は古代ローマ時代。フランスはガリアと呼ばれていて、皇帝ユリウス・カエサルの支配下にあります。ところが、現在のブルターニュに当たる地域に、“ローマの支配に抵抗し続ける、小さなガリア人村落”がありました。村長は、“空が落ちてくること”以外には怖いものなしの剛の者（！？）。長老のパノラミックスは魔法使いで、彼が作る“魔法の薬”は一口飲めば百人力の妙薬で、それがこの村の強さの秘密。ヒーローのアステリックスは小柄なはしこい戦士で、親友の気の優しい力持ちオベリックスと共に、ローマ帝国を相手どっての大活躍をするのです。　以上がシリーズを通じてのあらすじです。あとはお話ごとに実在の人物や歴史上の事件などがさりげなくコミカルに盛り込まれていて、時に現代とにもリンクしており、それもまた何とも愉快なのです。さらに、ヨーロッパ各国のお国柄や、名言警句の類を戯画化した言葉遊びもこのコミックシリーズの魅力。　たとえば、シリーズ第９巻の『アステリックスとヴァイキング（Asterix et les Normands）」では、豪傑のヴァイキングたちが、世界最強でほぼ全知全能の自分たちにとって、唯一理解できないもの、すなわち“恐怖”を知るために旅に出るところから、事件が始まります。アステリックスの村の近くに上陸した彼らは人質をとり、「恐怖とは何かを教えてくれたら、無事に帰してやる」と言い出します。いろいろドタバタ騒ぎが起きた後.......最終的にはアステリックスの知恵でヴァイキングたちは“恐怖”を知ることになるのですが、それに喜んだ彼らは、アステリックスに何か望みはないか、と尋ねます。立ち去ってさえくれればいい、と言うアステリックスに、ヴァイキングの王は「せめて晩餐でも」と言いますが、アステリックスの答えはこうです。「消えてさえくれりゃ、ご馳走してもらったようなもんさ」Partir, c'est nourir un peu.（直訳：立ち去ることは、少し食べさせること）このフレーズ、「去る者は日々に疎し」めいた諺、Partir, c'est mourir un peu.（直訳：立ち去ることは、少し死ぬこと）のもじりなのでして、この手のエスプリのきいたフレーズがこのコミックにはちりばめられているのです。以前出た日本語訳にあまり人気が出なかったのはそのせいでもあるのでしょうか。漫画・アニメ大国の日本で、このフランスの名作があまり知られていないのは、残念な気もするのですが。↓楽天では品切れ中ですが、英訳版は出ているようです↓

  2009.02.11

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• シャルル・プリニエ『醜女の日記』　

  （関義訳、新潮文庫、1982年）　漢字変換で“シコメ”が出ないところからして、かなりショッキングなタイトルなのか。原題はBeaute des Laides「醜さの美」。見事な語義矛盾をなしている。　醜い―と思われているだろう―ことを生涯心の負担とした女性サビーヌの日記。それを彼女から託された「私」が後日談を加えて出版したのが、この小説。　“こんなに醜い自分を愛してくれる人などいるはずがない”それはサビーヌの心に暗く響く悪魔の声。しかし彼女のすぐ傍に、彼女を愛している男がいた。「日記」を読んでいる我々には明白だが、“愛されるはずがない”という考えに取り憑かれている彼女は、彼ハンスに心惹かれながらも彼の愛には夢にも気付かない。ついには互いの気持ちを打ち明けあって婚約の運びになるも、幸福も目前と思われたその時、破局が訪れる。　その頃巷で流行していた美容整形。それはサビーヌにとって、もう一つの“悪魔の声”となってしまう。「彼にふさわしい女になるために」彼女が下した決断が破滅を招くのだ。醜女でなくなった彼女の顔―「なんという貧弱な顔！」と後に「私」は言っているが、その顔を見たハンスは叫ぶ。　「君には、こんなことをする権利はない！」彼：整形した君はもはや自分の愛した女ではない彼女：愛していたからこそ！彼：君は知らない女だ彼女：変わったのは顔だけ！彼：「からだと魂は一体」だ　「君の魂はもう、僕の愛していた魂と同じものではない」...そして、訪れる別れと死。鉄道事故で死んだ彼女の顔は、めちゃめちゃに潰れて...「プチ整形」流行りの昨今、特に女性にとってはいつの世も、“美醜”は重大問題。大抵の女性は一つや二つ、自分の身体容貌への不満を抱えているものだろう。それを個性ととるか欠陥ととるか。実際、美ほど相対的な観念も珍しく、ある人には美であるものがある人には醜であることも多いはず。何を基準に美を判断しようというのか？　醜女サビーヌ。しかし彼女を醜いと思ったのは誰よりもまず彼女だったのではないか？自分の顔の“表情”―ハンスが強く惹かれた表情―を彼女は見ず、ひたすら“顔形”を憎んだ。そこにこそ、彼女の悲劇があったのである。

  2008.09.12

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  Alexandre Dumas, Les trois mousquetaires

  （Photo:l'ouverture de l'edition de Livre de poche）Une des histoires que j'aime passionnement. Chaque fois que je me plonge dans la lecture, des nouveaux attraits m'enchantent...　読むたびに夢中にさせられる、我が永遠の愛読書の一つ。　それ以外、コメントのしようもないほどに...C'est la soiree heureuse et rayonnante de ma vie. Vous rappelez-vous la belle nuit qu'il faisait? Comme l'air etait doux et parfume, comme le ciel etait bleu et tout emaille d'etoiles! Ah ! cette fois, monsieur, j'avais pu etre un instant seule avec vous... Oh! Vous ne savez pas tout ce qu'il y a de felicites du ciel, de joies du paradis enfermees dans un moment pareil. Tenez, mes biens, ma fortune, ma gloire, tout ce qu'il me reste de jours a vivre, pour un pareil instant et pour une semblable nuit!　邦訳版なら、鈴木力衛訳の『ダルタニャン物語』（全11巻）が聖典のようなものでしょうか。ダルタニャン物語（第1巻（第1部三銃士））　『三銃士』の物語だけでなく、続編の『二十年後』、続続編の『ブラジュロンヌ子爵―十年後』までを通して日本語で読めるのは、今のところこの版だけです。復刊版なので、少しだけ訳文に旧弊さがあるのは否めませんが、かっちりとした見事な日本語ではあるので読み応えはあります。　『三銃士』だけでいい、というなら、福音館古典童話シリーズの、『三銃士』（上下二巻）、朝倉剛訳も良いですね。19世紀当時の版画挿絵が入っているのも魅力だし、訳文がスマートで魅力的です。 三銃士（上）三銃士（下）

  2008.09.03

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• Yves Saint Laurent 『LOVE』

  　今は亡きイヴ・サン・ローラン氏がわたしたちに遺してくれた、愛らしい小冊子。彼が毎年始、親しい人たちに描き送ったグリーティングカードを一冊の本に編んだものだ。イラストはマラケシュ出身のサン・ローランらしく色彩に富んでおり、鳩や太陽、花などのモチーフが中心になっている。テーマは“LOVE”。ページをめくっていると、この世からわずかに浮遊するような心地にさせられ、必ずしも美しくはないこの世を美しいものとして見る方法を、教えてもらっているように思われてくる。　イラストには、文学作品（主にフランス文学）から抜粋した“愛”にまつわる魅力的なフレーズが添えられている。原書はフランス語だが、英訳版も出ている（写真はフランス語版の表紙）。　自分のために一冊。大切な人のために一冊。そうしたい、と思わせる美しい小本なのだ。―C'est plus facile de mourir que d'aimer. C'est pourquoi je me donne le mal de vivre mon amour.

  2008.08.31

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  ロジェ・グルニエ 『ユリシーズの涙』

  ユリシーズの涙（宮下志郎訳、みすず書房、2000年）　グルニエの愛犬たち（その一匹の名前がユリシーズ）だけでなく、ボードレール、スタンダール、シャトーブリアン、サルトル、ヴァレリーetc.、様々な文人たちと犬にまつわる物語が、断章のエッセイ形式で綴られている。　犬について、犬と人との関わりについて、温もりに満ちた思索に引き込まれるような、文学愛好者にも愛犬家にも、たまらない一冊。

  2008.08.25

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• クロード・アヴリーヌ 『人間最後の言葉』　

  　（河盛好蔵訳、ちくま文庫、1993年）＊現在絶版中＊　日本には「辞世の句」というものが伝統的に存在するが、この本にはフランスを中心としたヨーロッパの著名人たちが自らの死にあたって残した（とされる）言葉が集められている。古代ギリシアから20世紀まで、600を数える「辞世の言葉」が収集されており、なかなかに読み応えがある。胸を打つメッセージ、気の利いたジョーク、達観した哲人の言、そしてひたすらな恐怖の叫び......各人各様の最後の言葉は、その人物のエッセンスとも言えそうだ。　特に面白かったのは、死を感じたある夫人の一言。食事中だった彼女が最後に言った言葉は、「早くデザートを持ってきて！」

  2008.07.31

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  ジェラール・ド・ネルヴァル 『火の娘たち』

  ↑あいにく品切中のようですが、イメージだけでも拝借します↑（中村真一郎・入沢康夫訳、ちくま文庫、2003年）　幻想に満ちた物語、地方色溢れる考察etc.、ネルヴァルの真髄に触れられる一冊。「アンジェリック」の中で触れられる＜愛書家　ビブリオマニア＞の逸話の面白さを再確認。アレクサンドル・デュマのcontes pour les enfantsとの関連で興味深い点多々あり（「ヴァロワの民謡と伝説」etc）　なお、本書に所収の作品は以下の通り。アレクサンドル・デュマへ（献辞）アンジェリックシルヴィ（含「ヴァロワの民謡と伝説」）ジェミーオクタヴィイシスコリッラ（戯曲）エミリー幻想詩編（日仏対訳形式）

  2008.07.06

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• ガイ・エンドア 『パリの狼男』

  パリの狼男（伊東守男訳、ハヤカワポケットミステリーブック、2003年）　19世紀後半のパリを震撼させた“狼男”の物語―こういう“恐怖小説”の類は、私は本来好きではないのだが、今回は“作者”に惹かれて手に取った。作者ガイ・エンドアは、アメリカの作家・脚本家・伝記作家で、フランスの作家に焦点を当てた作品を多く書いている。ことにフランスの文豪アレクサンドル・デュマの生涯をたっぷりの逸話を交えて生き生きと描いた『パリの王様』は有名で、私の愛読書の一つでもある（そうした観点から、ここではこの作者をあえて「フランス文学」に分類した）。　『パリの狼男』でも、パリ・コミューンの模様がかなり生々しく描写されており、“伝記作家”エンドアの面目躍如という感がある。ストーリーの運びも見事で、「早くページをめくりたい」という気持ちにさせられる。それは“怖いもの見たさ”にも似た感覚だ。とある書評では、「心臓の弱い人には向かない作品」とされたそうだが、実際、時々眼を背けたくなるような思いにもかられた。「たぐいまれな恐怖と怪奇味をもった現代怪奇小説の傑作」であることには違いなかろう。　だが、この小説の醍醐味は、次のような問いかけにあるような気がする。・・・　戦時下で、大義のもとに日々大量殺戮を繰り返させる政治家・軍人・活動家といった輩と、時折抑えがたい“本能”にかられ、体内の獣に操られるかのように人間を襲ってしまう―苦悩せる―“狼男”と、一体どちらが本当の“怪物”だろうか？

  2008.06.16

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  Alexandre Dumas, La Reine Margot

  La Reine Margot（Robert Laffont, 2000）註：上記リンクは同書の別版です 愛読書再読。 デュマの歴史小説の中には数多くの魅力的かつ情熱的なファム・ファタル―男たちの運命を狂わせる美女―型のヒロインが登場するが、この小説の主人公マルゴ王妃ほどに、ファム・ファタルの名にふさわしい女性はいないだろう。その美貌と才知、そして高貴な血は、男たちの運命ばかりか、彼女自身の運命をも波乱に満ちたものとしていく,,, 　16世紀、宗教戦争真っ只中の血生臭いパリを舞台に、政治的利害や愛憎逆巻くドラマが繰り広げられる。歴史的大事件が題材となっているわけだが、読者を最も魅了するのは、マルゴ王妃とその侍女で友人のヌヴェール公爵夫人、そして彼女たちの2人の騎士、この4人の結びつきではないだろうか。友情、愛情、献身を、単なる美化を超えた表現で描くところに、デュマの筆の魅力がある。史実を知っていても知らなくても、ページを開けばその筆に誘われるまま、物語世界に浸りこめること請け合いの作品だ。 　↓イザベル・アジャーニが王妃マルゴを演じた映画化作品もおすすめ。”妖艶体当たり！”イザベル・アジャーニ凄すぎます！”文豪”アレクサンドル・デュマの小説を制作費40億円を投じて完成した歴史大作！クライマックスの大虐殺シーンは凄絶！DVD廃盤。■王妃マルゴ■

  2008.06.12

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  フィリップ・ソレルス 『ルーヴルの騎手』

  ルーヴルの騎手（菅野昭正訳、集英社,1998年）　ヴィヴィアン・ドゥノン―この名を知る人はどれほどいるだろう？　ルーヴル美術館―この名を知らない人はいるだろうか？　これは、ルーヴルという世界で最も名高い美術館の一つを創り上げた男、ヴィヴィアン・ドゥノンの評伝である。　ルイ王朝末期から革命時代、ナポレオン時代を経て王政復古時代まで、大変動期にあったフランスを生き抜いた男ドゥノンとは、一体何者なのか？作家、美術愛好家、外交官、諜報員、ドン・ファン...さまざまな“顔”を持つ彼の生涯をソレルスが硬質な文体で克明に描き出している。　ドゥノンの最も重要な“顔”の一つは、諸美術に関する「総裁」、としてのそれだと言う。彼は時の皇帝ナポレオンによってその地位に任じられ、「ナポレオン美術館」の創立を指揮することになる。「ナポレオン美術館」とは、現ルーヴル美術館。つまり、今や世界でも最大規模の美術館は、ドゥノンという謎めいた男によって創り上げられていったことになる。　描かれているのは、ドゥノンの人生にとどまらない。"美術館"ルーヴルの産声、時の権力者や著名人など綺羅星のごとき"脇役"、それらがみごとに絡みあい、またおそらくは真実と虚構とが限りなく接近して、全体としてずっしりと読み応えのある「ドラマ」を形成している。～～～補足～～～　現在ルーヴル美術館には「ドゥノン翼」と呼ばれるエリアがある。創立者の名を戴いたこのエリアには「モナリザ」をはじめとする人気の高い作品が集められており、人の波の途切れることないルーヴル美術館の中でも最も混雑する場となっている。

  2008.05.26

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  アゴタ・クリストフ 『どちらでもいい』

  （堀茂樹訳、早川書房、2006年）　25の短篇で編まれた一冊。ひとつひとつの作品はごく短く、数ページにも満たないものさえある。　「人間の内に潜む闇」、それがこの短篇集に流れる通奏低音だ。狂気めいた闇から、日常生活にかいま見える闇まで、さまざまな「闇」が、淡々とした筆致で描き出される。　懸命に生きたとしても、C'est egal! （どちらでもいい・どうでもいい）とばかりに生きたとしても、結局は自らの闇から逃れられない人間の宿命を思わずにはいられない。↓アゴタ・クリストフの他作品↓

  2008.05.23

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  エミール・ゾラ　『ボヌール・デ・ダーム百貨店』　　

  （伊藤桂子訳、論創社、2002年）『婦人達の幸福（bonheur des dames）百貨店』という名前がなんとも粋なこの物語は、百貨店誕生期のパリが舞台。ヒロインのドゥニーズは、百貨店のせいで経営不振に陥った小売店店主の姪。彼女は新たな時代の象徴たる百貨店の華やかさに憧れ、ボヌール・デ・ダームに売り子として就職する。最初は「田舎娘」と、皆から蔑まれるが、パリの荒波に揉まれるうち、そこに適応してゆく。やがて、支配人のムーレとの恋が始まり...19世紀末のパリの雰囲気を感じながら、ストーリーを楽しめる。　だが、この『百貨店』から伝わってくるのは、人間の欲望の深い闇だ。胎動し成長してゆく資本主義社会、大量消費社会が、あたかも怪物monstreのようにそのおどろおどろしい姿をあらわしてくるように思われてならない。そうした時代の流れにうまく乗った商売人ムーレとドゥニーズとは成功し、「巨人化」してゆく。一方、二人の恋は「愛は金では買えない」という理屈のもとで結実してゆくのだが、そのムーレとドゥニーズの恋愛沙汰も、何故だか少しもこの金儲け主義世界を純化してはくれない。すなわち、この小説には、資本主義・大量消費社会―すなわち、現代社会―の闇が、通奏低音的に流れているのである。　その「闇」を、資本主義・大量消費社会の胎動期に既に見抜いていたゾラの鑑識眼に、そしてそれを描き出した筆力に、畏怖の念を覚えずにはいられない。

  2008.05.10

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  シュペルウ゛ィエル 『海に住む少女』　

  海に住む少女（永田千奈訳、光文社古典新訳文庫、2006年）　表題作の他９作を収めた短編集。　大人のための童話、と言えばいいのだろうか。どの作品も幻想的で透き通るような美しさを持ちながら、その裏に何か背筋の凍るようなものを秘めている。登場する者たちは、人も動物もみな、亡霊ででもあるかのようだ。とらえどころがなく、儚げで、人の心に根源的で崇高な恐怖を呼び覚ます。

  2008.05.05

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  フランソア・モーリアック 『愛の砂漠』

  （杉捷夫訳、新潮文庫、昭和54年）　人望ある厳格な父。爪弾きの放蕩息子。　一見対照的な二人は、結局いずれも、愛という名の砂漠を彷徨う者だった。　マリア・クロースという女性を、彼ら二人は愛し、それぞれに煩悶する。　人々が囲われ者の悪女と噂するマリアを、父は悔悛した聖女と信じ、息子は蠱惑的な娼婦と思う。　聖女か娼婦か。その名が既に、マグダラのマリアを連想させるその女性は、しかしごく普通の女性に過ぎなかったのではないか。　真摯に愛を希求して止まない人間ほど、愛に飢えざるを得ないという皮肉。　　愛と呼ばれるものは、砂漠の中の水一滴にすぎないのか。　愛―男女の、夫婦の、親子の...―について物思わせる、古典的名著の再読。↓モーリアックの他作品↓

  2008.04.29

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  Frederic Vitoux 『L'Ami de mon pere』

  （Editions du Seuil, 2000）　本書、フレデリック・ヴィトゥー著『父の友人』は、著者自らの少年時代をピエール・ミュール主人公うつしだした自伝的小説だ。著者の父親はジャーナリストで、第二次大戦中に対独協力の疑いをかけられ、投獄された過去を持つ。その経歴はその後の父親の性格と人生に影を落とすこととなる。閉じこもりがちな父と、常に父の傍にある控えめな母との間で暮らすピエール少年。その灰色の日々にある日華々しい彗星が一筋の光線を投げかけた。その彗星とは、父の友人―牢獄仲間―のベルナール・デュ・ペレーである。　物語は、1998年冬、成人したピエールが、パリのとある雑貨店で、亡き父の古い友人ベルナールを偶然見かけたところから始まる。自分でジャムの蓋を開けることもままならないほど弱り、落ちぶれた様子のその老人は、少年時代のピエールのヒーローだったのだ。それは1961年夏、ミュール一家が南仏でヴァカンスを過ごしていた時の出来事だった…物語の舞台は過去へと遡る。　陰気で保守的なミュール家にベルナール一行が訪れたこと。それは一つの衝撃だった。ベルナールは現代的アメリカ美人―歌手でベルナールの愛人―と彼女の娘ヴィルジニアを連れ、トライアンフを転がしてやって来た。ヴィルジニアはピエールと同年代の奔放な娘で、ピエールを魅惑し翻弄してゆく。映画やジャズなどのアメリカ文化に憧れ、キム・ノヴァクの写真を財布にしのばせていたピエール少年の目に、ハリウッドスターたちとの日常をこともなげに語るベルナール、映画やジャズに精通しているベルナールは、憧れの対象、理想像、本物の“男”とうつったのである。　ところが、その偶像はあまりにも早く崩壊してゆく…ピエールはベルナールの虚飾に眩んだままでいるには利発過ぎたのだろう、幸か不幸か。ともあれ、ベルナールという偶像は、まさに彗星のように、ほんの一瞬、ピエールの眼前で輝いたのだ、後にごく仄かな光の尾を残して。　小説中に散りばめられている、タブ・ハンター、ジーン・ケリー、ヒッチコック、ジャンヌ・モローetc.、1960年代を彩るヒーロー、ヒロインたちの名前はそれだけでも雄弁、60年代の空気がページをめくるたびに立ち上ってくるかのよう。さらに、トライアンフで駆け巡る南仏サントロペの情景や、パリの学生運動の様子はとりわけ生き生きと描写されており、ピエール少年と青春の一幕を共にしたかのような感覚さえ抱きそうだ。　また、その裏で言葉少なに、しかし丁寧に語られる“父親”の生き様も、重みをもって伝わってくる。息子ピエールが生まれたのと同時に、1944年夏に、逮捕された父。生前の父との会話には「何かが欠けていた」とピエールは語る。その隙間を埋めるためにこれを書いているのだとピエールは言う。また、逮捕の原因となった、父が書いた新聞記事を、ピエールは探し出す。こうした父親への追憶に拍車をかけたのも、物語冒頭での老ベルナールとの偶然の出会いだった。　母親、ヴィルジニア、またベルナールの愛人など、ピエールの周りには女性たちも確かに存在はするが、この小説は、どうしても、“男たち”―ピエールとベルナール、ピエールとその父―の物語と読めるのである。↓この本に登場するヒロイン＆ヒーローたち...↓死刑台のエレベーター/ジャンヌ・モロー［DVD］ジーン・ケリー／ブリガドーン　デジタル・リマスター版ヒッチコック・コレクション::疑惑の影

  2008.04.17

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  ピエール・ルイス 『アフロディテ ― 古代風俗』

  （沓掛良彦訳、平凡社ライブラリー、1998年）　アフロディテ、ウェニュス...なんと蠱惑的な名前だろう。かつて、ギリシア・ローマ世界に、オリエントの国々に、その土地土地の名前で呼ばれた麗しの女神がいた―美と愛と官能の女神。　この小説の舞台は古代エジプト、プトレマイオス朝時代のアレクサンドリア。かの名高いクレオパトラの姉ベレニケ女王治世下、アレクサンドリアは商業と享楽の都としてその最期の輝きを放っていた。女王の膝下のこの都は、近隣遠方のさまざまな国からやってきた商人、哲学者、詩人、奴隷、そして娼婦たちなど、あらゆる人種のるつぼであった。そして、この小説の主人公は享楽の象徴たる娼婦たち―とりわけ、アレクサンドリアで最も美しい娼婦にして、「黄金の女」を意味する名を持つ、クリュシスなのである。　そのクリュシスと、女王の愛人で「アポロンのように美しい」彫刻家デメトリオスとの偶然の邂逅から物語が始まる。　クリュシスやその仲間の娼婦たちの身体や衣装、化粧の様子、装身具などが細やかな筆致で描かれ、読むほどに匂いたつような艶かしさに包まれる心地がし、黄金の靄が目の前に広がるかのようだ。　しかし、この小説が体現しているのは何よりもまず、「理想美」の問題だ。天才彫刻家デメトリオスにとっては、「理想美」はこの世には存在し得ないのであり、美しい女王ベレニケも、美娼婦クリュシスも、彼自身が彼女たちをモデルにして創り出した彫像を凌ぐ美は持ち得ない。理想美とはかくのごときもの、夢想の中にのみ存在し得るものなのだ。　エロチシスムの詩人、エロスの魔、などと称される19世紀末のフランス詩人ピエール・ルイスが、その豊かな古典の知識と迸るような官能性に支えられつつ、己の抱く美学の真髄を美しい文体で著した傑作である。

  2008.04.16

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  ポール・アルテ 『赤髯王の呪い』

  赤髯王の呪い　（早川書房、2006年）　個人的読書体験から、フランスの推理小説には期待しないことにしていた。フランス作家による推理小説（と、言われる作品）は、大抵の場合、猟奇性や恋愛色が濃過ぎるか、さもなければコメディーや冒険物、あるいは心理小説としてジャンル分けした方がいいのではないかというもので、肝心の謎解きやトリックはほんの添え物に堕してしまっているのだ。少なくとも、これまでに読む機会のあった作品はそうだった。だから、推理小説が読みたくなったら、ハズレの少ないイギリスか日本のものを求めるようにしてきた。　だが、今回、フランスにも本格推理小説が存在していたことを知り、嬉しい驚きを味わった。　本書には、４編の中短編が収められているが、中編「赤髯王の呪い」は特に面白い。本格的な謎解き物であるのはもちろん、物語性も豊かで、しかもそれが謎をますます興味深いものにしている。探偵役はツイスト博士。かのホームズと同じくロンドンに住う謎解きの名手で、スコットランド・ヤードでも顔になっている人物だ。彼は4作品すべてに登場しているのだが、ホームズやポアロといった名探偵たちのような、強烈な印象を残す個性が備わっていないことが惜しまれる…と、こんなことを言うと贅沢に過ぎるだろうか…===原書情報===Paul Halter, La Malediction de barberousse, Editions du Masque-Hachette Livre, 1995.表題作の執筆は1984-85年。

  2008.04.13

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• J.-Ph.アントワーヌ　『小鳥の肉体』

  （副題「画家ウッチェルロの架空の伝記」、宮下志朗訳、白水社、1995年）　ルネサンス初期の画家パオロ・ウッチェルロ（1397-1475）の“評伝的物語”。PaoloとUccelloという画家としての姓名が共に「鳥」を意味するイタリア語と結びつく事実の指摘から語りが始められ、「小鳥の画家」とも称されるウッチェルロの人生が、逸話や伝説を織り交ぜて、パッチワークのように描き出される。　ウッチェルロは、マンテーニャやレオナルドらに先立って「遠近法」に強い関心を示し、消失点を画面に置いて、「均一でない」画面構成を成し遂げた画家だった。当時としてはその画風は新しすぎ、ウッチェルロは後年に至るほどに不遇をかこつようになるのだが。　本書でも彼の絵の分析はなされるが、美術書的な読み方はおそらく不可能だろう。実際、本書の記述では“虚構”が非常に大きな部分を占めているのだ。　あくまでも“評伝的小説”たる本書の魅力はむしろ、彼の「甘美なる遠近法」への愛が、小説構造そのものに波及している点ではないだろうか。画家ウッチェルロと彼の友人や家族、あるいは彼の芸術にまつわる物語の他、『デカメロン』等からの逸話の引用、アルトーやプッサンといった後代の哲学者や画家にとってのウッチェルロ、そして完全に著者の虚構から生まれたウッチェルロ作品についての批評など、時代も場所も飛び越えた様々な内容の短い章が組み合わせられて、本書は一つの小説世界を形作っている。読者は時に迷路に迷い込んだような感覚に陥りつつ、いずれ著者の張り巡らした罠に巻き込まれ、複数の物語の迷路がすべて、焦点―消失点たる画家ウッチェルロへと至っていることに気付かされるだろう。　「甘美なる遠近法」、その魅力を見事に描き出した作品だ。（↓画像：ウッチェルロ画 ＜サン・ロマーノの戦い＞　フィレンツェ、ウフィッツィ美術館蔵）

  2008.04.09

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• ジュール・ヴェルヌ 『アドリア海の復讐』

  （上下全二巻、金子博訳、集英社文庫、1993年）　ヴェルヌはこの作品をアレクサンドル・デュマ父子に捧げた、とりわけ『モンテ・クリスト伯』の作者たる大デュマに。　SF小説の祖として有名なヴェルヌだが、私はヴェルヌの代表作とされるもの―『月世界旅行』(1865年、1870年)や『海底二万里』(1869年)といった“科学冒険端譚”―は好きではない。本書の訳者金子氏も認めているように、当時は最先端を走っていただろうヴェルヌの科学小説は現代では黴臭く感じられ、氏の言葉を借りれば「19世紀の徒花」と言わざるを得ない面がある。　だが、この作品は決して「徒花」の一つではない。この小説に描かれているのは政治的陰謀とその破綻、そして壮大な復讐劇だ。ヴェルヌはその著作活動の後期には、このような科学色の薄い“純粋な冒険譚”を多く書いているが、本書『アドリア海の復讐』(1885年)は、その中でも傑作とされているものだ。　1867年、オーストリアの支配下にあったハンガリーの独立を目指して、三人のハンガリー人が立ち上がった。彼らの指導下で反乱の準備がととのい、決起の日も近いというとき、卑劣な密告者によってその愛国的陰謀はあばかれる。首謀者たちの逮捕、脱獄、新たな裏切り…死刑………。そして15年後。謎の富豪で名医のアンテキルト博士が現れる。善き人々には償いを、悪しき人々には復讐を…。　アドリア海周辺の国々を舞台に繰り広げられるこの大復讐冒険譚は、大デュマの『モンテ・クリスト伯』の嫡子だと言っていいかもしれない。小デュマが「文学的にいえば、彼（大デュマ）の息子はわたしよりもむしろあなたなのです」（本書冒頭に添えられた小デュマのヴェルヌ宛書簡より）と書いているが、これは的を射ている。　物語は文句なしに面白い。味のある脇役―軽業師の「とんがりペスカード」と「大山マティフー」etc.―にも事欠かない。また、当時流行していた「磁気催眠術」が多用されている点も、可笑しくも興味深い。「磁気催眠」はバルザックなどの小説にも頻出している、一考に価するテーマだ。　ただ、作品の出来としては、『モンテ・クリスト伯』には太刀打ちできないように思われる。たとえば、筋の運びが大雑把すぎて説得力に欠け、しらけさせるような箇所があったり、読者の記憶を呼び覚ますための言わずもがなの繰り返しがあまりに多すぎて興を殺がれたりするといったような点は、私の眼には“欠陥”としてうつった。“推敲前の作品”といった感なきにしもあらず。　とはいえ、胸躍る冒険譚に飢えている身には、とりあえず楽しめた読書ではあった。何より、“冒険小説家”ジュール・ヴェルヌを再発見できたのは喜びである。

  2008.04.08

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  ボアゴベ 『鉄仮面』

  （長島良三訳、講談社文芸文庫、上下二巻、2002年）　フランス国王ルイ14世の時代に実在した謎の囚人「鉄仮面」。鉄仮面の謎をモチーフとした小説は多々あるが、これはその中の一つであり、ブリュッセルで計画された国王誘拐という大陰謀の失敗に端を発する「鉄仮面」の物語。　ルイ14世に反旗を翻したモリス・デザルモアーズ（キッフェンバッハ）。陰謀に失敗し生死不明となった彼のため、愛人ウ゛ァンダ・プレスニッツは生涯をかけて太陽王に立ち向かってゆくこととなる。わずかに生き残った三名の部下がヴァンダに従い、30年間も臥薪嘗胆の日々を送ることとなる。　一途に勇敢にモリスを想って戦い続けるヴァンダの前にしばしば姿を現すソワソン伯爵夫人は、いわば陰のヒロインだ。誠実ではないにせよ、その時々の感情には正直で、ウ゛ァンダの敵とも味方ともなる。　役者は揃い、ストーリーも面白く、久々に没頭できた長編。モリスの失踪と同時に現れた囚人「鉄仮面」の仮面を剥がそうとあの手この手を尽くすヴァンダやソワソン夫人、逆にそうはさせじと守りにつく国王側の面々、彼らの駆け引きと苦闘が物語の主筋であり、その緊迫した面白さに引き込まれてしまった。　それにしても、「鉄仮面」をめぐって、どれほどの魅力的な物語が生まれたことだろう。有名なところでは、ヴォルテール、アレクサンドル・デュマらの作品がある。「鉄仮面」＝「国王の双子の兄弟」説をとる彼らとは、ボアゴベは一線を画している。どちらの説がより説得力があるか、どちらの物語により惹かれるか―それらは別の問題かもしれないが―、較べてみるのも一興だろう。＝＝＝＝＝追記＝＝＝＝＝原書情報：Fortune du Boisgobey, Deux Merles de Monsieur de Saint-Mars,1878.著者略歴：1824年9月11日：マンシュ県グランビールに生まれる。　　　　　1844-1848：陸軍経理部部員、アルジェリア駐屯　　　　　　　～東方諸国を遊歴～代表作：『囚人大佐』(1872)（黒岩涙香『執念』）　　　 『オペラの犯罪』（同上『劇場の犯罪』）　　　 『ルコック氏の晩年』（同上『死美人』）

  2008.04.04

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• R・サバチニ『スカラムーシュ』

  スカラムーシュ（大久保康雄訳、創元推理文庫、1990年）　舞台はフランス革命前の北フランス。主人公のアンドレ・ルイは貴族の家で育てられた弁護士で、さまざまな書物から「人間」について学び、「人類はなべて気ちがいである」と悟るに至る。冷徹な現実主義者たる彼は、産声をあげたばかりの革命論には批判的で、体制側に立っていた。だが、理想主義者で熱烈な革命主義者だった親友フィリップがある侯爵の手にかかって理不尽に殺されるに至って、アンドレ・ルイはフィリップの志を継ぐ決意をする。　ここで、アンドレ・ルイが親友の死をきっかけに「本心から」革命派になったとしたら、この物語もおセンチなメロドラマの域を出なかったろう。だがこの小説の面白さは、アンドレ・ルイが「演技」をしているところにある。心は現実主義者のまま、理想主義者の仮面をかぶってフィリップに代わって大演説し、民心を駆り立てて革命に向かわせるのだ。　物語はさまざまな登場人物とともに複雑に刺激的に進んでいくが、中心にいるのは常に「人間研究家」かつ「天性の役者」たるアンドレ・ルイだ。彼の当意即妙、世渡りをしていく身ごなしの軽やかさはまさしく「スカラムーシュ」（イタリア喜劇の道化役）の名にふさわしい。　ところで、耳に心地いい言葉、感動を誘う言葉を立て板に水と語るアンドレ・ルイは、心の中でそんな台詞やそれにうかうかと乗せられてしまう人々を軽蔑もしているのである。そういう点、1921年に書かれたこの歴史ロマンは、ともすれば空疎な美辞麗句や典型的メロドラマに陥りがちだった全世紀の三流ロマン主義大衆小説へのアンチテーゼともなっているわけである。

  2008.04.03

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• ヴォルドマール・レスティエンヌ 『レジスタンス三銃士』　

  （長島良三訳、TBS出版会、1985年）　“かの名高い四人の銃士が20世紀に蘇り、ナチス・ドイツの魔手からヨーロッパを救わんと大活躍！”　これほど魅力的な『三銃士』パスティッシュは他にはちょっと思いつかない。　時代は第二次大戦中。フランスは既にヴィシー政権下にあり、イギリスに亡命したド＝ゴールはチャーチル首相と組んで対独作戦に出ている。敵はナチス・ドイツとはいえ、ド＝ゴールとチャーチルの関係も微妙だ。共通の敵の前では協力する、だが、相手に完全に気を許してはいない。しかし、互いに尊敬の感情もなくはない...　こうした“大物”たちの関係は、原作『三銃士』（A.Dumas）の誰かさんたちを思い起こさせる...。“大物”たちの下で、重要だが表沙汰にできない危険な仕事をこなす男たちが必要になってくるのも、原作同様。それが我らの四銃士だ。彼らが所属しているのはフランス国王の銃士隊ではなく、ド＝ゴール率いる“復讐部隊”。力持ちの大食漢、疑うことを知らぬ巨人ラ＝カスターニュ。最年長で策士、傷のある顔に陰を秘めた謎の男ブレヴァル。流れ着くように彼らの仲間入りを果たした貴族階級のお坊ちゃん、最年少のモーペルチュ。四人目の男とは少し後で出会うことになる。人一倍美男子で女たらし、そして勇気も人一倍のパイロット、ベルトワーズだ。個性溢れる活躍ぶりを見せる彼らの傍に、魅惑的なヒロインや、滑稽味のある憎めないライヴァル、裏切者がひしめいて...　魅力的な登場人物たち、歴史的事件との絡み、ドラマティックなストーリー。そこに『三銃士』愛読者のマニア心をくすぐる要素もこっそりたっぷりと盛り込まれている（もっとも、これは気付かなかったとしても読書の差し支えにはなるまいが）のだから、たまらない。　これは、『三銃士』パスティッシュの傑作だ。★☆★☆★☆★復刊リクエスト中★☆★☆★☆★↓「復刊ドットコム」にて、本書の復刊リクエスト中です。是非一度ご覧ください。http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=1345★☆★☆★☆★復刊リクエスト中★☆★☆★☆★＝＝＝追記＝＝＝原題『Furioso』（憤激的に）1971年続編『Fracasso』（大音響）作者略歴Voldemar Lestienne1932年フランス、リールに生まれる。『フランス・ディマンシュ』誌編集者として活躍した後、作家活動へ。『恋はポケットサイズ』（1975年。邦訳はハヤカワ文庫。映画化名『ポケットの愛』）でアンテラリエ賞を受賞。

  2008.04.02

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• Alexandre Dumas 『Pauline』

  (Editions Gallimard, 2002)　著者アレクサンドル・デュマは、『三銃士』で有名な19世紀フランスの文豪。1838年に書かれた本作『ポーリーヌ』は、アルフレッド・ド・ネルヴァル―彼もまた作家で、デュマの友人でもあるのだが―がデュマに語った物語、という体裁をとっている。主な舞台はノルマンディー。　ネルヴァルが密かに愛していたポーリーヌ（ブーズウ゛ァル夫人）の死を知り、その死の床へ駆け付けると、そこに横たわっていたのは全くの別人だった。ポーリーヌ本人は地下墓地で服毒、駆けつけたネルヴァルはどうにか命をとりとめた彼女とイギリスに逃避行することになる。イタリア、スイスと旅を続ける―途中、デュマと出会う場面もある―が、毒の後遺症で彼女は間もなく他界してしまう。　ポーリーヌが地下墓地に幽閉されていたのは何故か、というのがこの物語の最大の謎と言え、それは物語のラスト近くで明かされる。謎とはいっても、オチは最初から予測されるものであり、「意外な結末」や「大どんでん返し」を期待して読むタイプの小説ではない。　幽閉されたヒロイン、愛の逃避行、ヒロインの死、傷心の恋人、と、メロドラマ的要素満載で、物語をテンポよく語りつつドラマを盛り上げ彩るデュマの筆致を心ゆくまで楽しめる中編小説だ。　なお、この小説には邦訳もある（日本図書刊行会版）。

  2008.04.01

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