塩野七生 『サロメの乳母の話』
(新潮社、2003年) オデュッセウス、サロメ、イエス・キリスト、アレクサンドロス大王、ブルータス...誰もが一度は耳にしたことがあるだろう歴史上のヒーロー、ヒロインたちの、一風も二風も変わった外伝集。超人的で華やかな英雄たちも、身近な人々にとっては、良くも悪くも、まず何よりも「一人の人間」だったのだろう、と、そんなふうに想像させる逸話群だ。 20年間も夫の不在を守り続けた「貞女」ペネロペの本当の心とは?永遠のファム・ファタル(femme fatale)として無数の芸術家たちを魅了したユダヤの姫君サロメの乳母は、どんなことを語るのか?「裏切者」の代名詞ともなってしまった12使徒の一人イスカリオテのユダは、思い込みの激しい教育ママの犠牲者!?etc.,etc.... 収録作品はいずれも切り口斬新で、読んでいてニヤリとさせられるような楽しいお話。作者の歴史的造詣に疑問の余地はないが、これはそうした歴史的知識を超える、想像力の勝利の証明だ。