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旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

≪薔薇の名前≫

   ≪薔薇の名前≫
哲学書、歴史書、神学書、暗号書...とも読める
翻訳本では上下2巻にわたる長い長い歴史ミステリ-小説が
手元にある。

一応読んだ..。というより目を通しただけで
殆ど覚えていない.

そのこ難しい小説を極めて芸術性の高い娯楽ミステリー映画に
仕立て上げ、全編にみなぎる暗い輝きと、壮大な僧院の
オープンセットにただただ感嘆した作品...

    ≪薔薇の名前≫
もう、とってもとっても好きな作品です。
ストーリーや殺人の動機など種を明かせば他愛ないものである。
しかしミステリー映画として観客をこれだけうっとり、
喜ばせてくれた作品は久しぶりだったのを思い出す。

ミステリー厳選100本を選ぶとなると100本のうち
1970年以降のものは幾本も入れることは出来ない。
99%が1969年までのものだからである。
しかしスピルバーグの≪激突≫と、
ジャン.ジャック.アノー監督のこの作品≪薔薇の名前≫は
文句なしに入れなければなるまい・

S.コネリー扮するパスカヴイルの修道士ウイリアム修道士と
クリスチャン.スレイター扮する見習修道士.アドソの絶妙な
コンビ。

コナン.ドイルが生んだ名探偵ホームズと友人ワトソン博士を
模していることは明かである。

この二人が北イタリアの荒漠とした景色のなかにそびえたつ
ベネデイクト修道院を訪ねるところから物語は始まる.

まず、重苦しくて、秘密めいていて、粘っこくて、
でも覗いてみたくなるような雰囲気を丸ごと投げ込んだような
僧院内の建築物や美術の見事さに圧倒された.
これだけの雰囲気描写は他の作品では思い当たらない。

女っけなど全くないのになにか官能的な、つやめいた映像の
満足感。
まるで禁じられた、或いは覗いてはいけない世界を覗いたような
不思議な幻惑。
光りと影は≪第三の男≫に充分満足したが、
この作品も負けてはいない.

次々と起こる修道士殺人事件。
誰が何の為に..
上手い伏線を織りばめ、犬神家の一族を 思わせるような殺人手口.ワクワクする.

難解で七面倒臭い神学論を省いて、連続殺人事件に的を
絞ったことが成功した作品・

秘密の図書館の迷路のようなビジュアルな仕掛けが効果を増し、
各宗派の確執が彼らの着ている服ではっきりと識別出来るのも
映像ならではである。

物語の核心は、信仰と狂信は紙一重だという人間の暗い、
そして口外できない欲望の解明にあるのだが
その手口がページの隅に塗った毒を舐めて死すという
単純なトリックも
あれだけの貴重な古本つまり蔵書が建物諸共炎に包まれるシーンで
増幅して感じられるのである。

ともあれ、カソリックの宗派もどれだけあるか、
その辺も観てから学ぶか、学んでから観るか?
わたしは一度観て、
そしてちょっと調べてから再度観なおしました。

キリスト教と言っても一言では語れない事は誰しも知ってはいるが
具体的にどうだ?と大まかなところで分かってみれば
なお面白い。
ヨーロッパ中世のカソリックがいかに異教徒を畏れていたか.。
その実力に如何に恐怖を持っていたか
異端尋問はその裏返しでしょう。

ジェームス.ボンドだけでないショーン.コネリーの誕生でした.
そしてその魅力はその後の作品に引き継がれているようです。

原作は究極のミステリー小説でしたが、
よくぞこの原作をそれ以上の映画に仕立てあげたものだと
ただ、脱帽のみです.

鑑賞された方は恐らく同じ思いだと 思います。
観られてない方には敢えてこの作品はストーリーは避けます。

オドロオドロ...決してホラー的ではない
中世絵画が動き出したと思ってくだされば良いかと思います。
原作に比べれば実にシンプルで明快。
しかも原作とは違った意味で情報量が豊富です。

こう言っているまにも、濡れて鈍く光る石の壁、
凍てつくような石畳、
吐く息も白く、妖しげで....
また観てみたくなりました・

中学生、、母に薦められて読んだ横溝正史の八つ墓村を
読んだ時の衝撃を思い出しました。
重量感こそ違え、子供の私が受けた衝撃を
大人になってとりこにさせた映画≪薔薇の名前≫.
これから何度も何度も観ることでしょう。

たまらんちゃー!

制作  仏.西独.伊合作  1986年度
監督  ジャン.ジャック.アノー




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