絵の類似点絵の類似点前ページでも述べたように話の類似は、全く同じというわけでもなく、偶然少し似たのだろうと思うことが出来る程度のものである。正直をいって私自身、はじめは「少し似てるけど、他の漫画でも同じような話があったし」としか思っていなかった。しかし、絵を見比べてみて、その考えが変わった。絵に関しては、言葉をどれほど尽くしても説明しきれるものではないと思われるので、両作品から各3ページ選んで資料として引用するので、ここから先は画像を見ながら読み進んでいただきたい。スキャナーを持っていない為、能力の低いデジタルカメラでもって撮影した画像を使用しており、鮮明さには欠ける。 いずれも向かって左側にある画像が先行作品『霊感商法株式会社』「七週間」、右にある画像が後発作品『闇は集う』「闇にその名を呼べば……」である。
どちらの作品でも兄はサッカー部に所属していたのは話の類似で述べた通りである。 左は兄・翔太の霊がサッカーの試合に乱入してしまったシーン、右は兄・浩生が生前部活の練習をしているシーンの1ページだ。資料1・資料2ページの向かって右下に全身の絵があるのが兄、ページの中程で顎のあたりに握った手を添えているのが妹。ページ全体をざっと見ると線の質や絵柄がだいぶ違うので、一見した印象は違う物の様に見えるが、少し細かく見てみて欲しい。
まず、資料1の左上二コマと資料2の左下二コマとを見比べてみる。 中心よりやや右上からやや左下にかけての線でコマを区切っている。 右のコマにはパスを出すよう指示するセリフがある。 左のコマには見当違いの方向へパスを出したことに対する叱責のセリフがある。 左のコマ内でボールは上部に描かれている。 左のコマ内にはボールを見上げる人物の横顔が描かれている。 このコマでは以上のような要素が重なっているが違っている点も勿論ある。 コマを区切っている線の傾きが「七週間」では小さく、「闇にその名を呼べば……」では大きい。 左のコマに描かれている人物が「七週間」では1人であり、「闇にその名を呼べば……」では2人である。 左のコマに描かれている人物のポーズは両作品を見比べてみても似ていない。 右のコマに描かれている人物が「七週間」では2人であり、「闇にその名を呼べば……」では1人である。 この画像では以上のような点は重なっていない。
コマも大きく、このページの中で一番類似がわかりやすいのは右下の兄全身絵だろう。 「七週間」の方は向かって右を、「闇にその名を呼べば……」の方は向かって左を向いているが、ポーズがよく似ている。 読み手から見て手前の片足は膝を曲げており、奥の片足は伸ばしている。 伸ばしている方の足のかかとは、画面の都合で切れてしまっている。 読み手から見て手前の片腕は伸ばしており、奥の片腕は曲げている。 伸ばしている方の手は画面の都合で切れてしまっており、曲げている方の手は握られている。 このコマでは以上のような点が共通している。 同画像に一緒に写っているボールを押さえている靴の絵についても、一応見ておくとするなら、足の一部、靴、靴に接しているボールの一部が描かれているという点では共通しており、足の左右が逆である、ボールの模様の位置や靴のデザインと言った点では違っている。 個々のカットは、個性あふれる構図という訳ではないし、完璧に一致しているわけでもない。例えばボールを踏んでいる靴の絵の一点だけであったなら、偶然あるいは、両者がたまたま同一の資料(カット集の類)を使用しており、その中からたまたま同じカットを選んで使用したという可能性もあるが、ボールを蹴っている人物のポーズやボールを蹴り上げてしまった時のコマ割りまでが同じ資料に載っていて、たまたま1ページ内にそれらの絵を入れて漫画を描いた漫画家が2人いて、たまたまその2作品の話の設定までが似ていたという状況は(可能性は皆無ではないものの、)考え難い。まだ、この二人が既存の同一漫画から引き写したという方が納得がいく。(もし、このポーズやコマ割が載っており、且つ、発行日が1991年より前という本を知っている方がいたら、ポーズ集・漫画のどちらであってもご一報願いたい。) ここで、いただき物の重ねた画像を見てみたい。 この画像は、当サイト・鳥居を作り始めたばかりの頃に、とある方にいただいた画像で、サッカーをしている兄の絵がどれくらい似ているか、一目で分かるように加工してある。 左は、加工過程の物で、秋乃版を黒色にし、松本版を左右反転して赤色にした物を重ねて表示している。原画からの倍率は不明、私がデジタルカメラで撮影して使用している物が使われている。 右が完成版。兄のあげている方の足の大腿部の長さを基準にして、人物の大きさが同一になる様に倍率を変え、重ねてある。 ユニフォームのデザインも、顔立ちも、髪形も違うが、腕の角度や胴体とのバランスはほぼぴったりと重なっている。秋乃版よりも松本版のほうが膝から下が長いようで、足の部分は重なっていないが、上半身から膝まではほとんど重なっており、とても似通ったポーズであることが分かる。たとえ上半身だけとは言え、偶然でこれほど似通うものだろうか。それとも、「サッカーをしている男性の絵」と言ったら、普遍的にこのポーズを使用する物なのだろうか。 今度は、松本洋子の『闇は集う』シリーズ以前の作品中で「サッカーをしている男性の絵」があるページを一枚引用してみる。
ご覧のようにサッカーをしているシーンであり、ちょうどページの右下、資料画像の1や2が配置されているのと同じあたりに、「サッカーをしている男性の絵」があるので、そのコマを見てみる。
この絵ではボールを蹴っている側の足をほぼまっすぐに伸ばしており、腕や上体も資料画像の1や2とは違う。また、足先をクリアーな線では描かないことで動きを表現している点も、足を靴のデザインまでわかるほどきちんとした形に描いている2者とは違った印象を与える。筆跡などと同じように、漫画家の絵にも線の癖やキャラクターにとらせるポーズの癖があるはずだと私は思っているのだが、3枚の画像を並べてみた場合、資料画像1と2の方が、資料画像2と2’よりも似通っているように見えて仕方がない。
『すくらんぶる同盟』と『闇は集う』とは両作品とも同じ漫画家が描いた物とは言え、その間には6年程が経過しているので時間の経過と共に表現方法や絵の好みが変わったのだという解釈もあるかもしれない。 では次はこのサッカーをしている人間の遠景絵を見て欲しい。『霊感商法株式会社』『闇は集う』『すくらんぶる同盟』のどのページにも、遠景の絵がある。
「サッカーをしている男性の絵」が似通っていた『霊感商法』と『闇は集う』の遠景を見比べてみても、似てはいない。敢えて言うなら、”資料画像の1及び2の画面を四分割した場合、右上部に、複数人がサッカーをしている遠景の絵がある”ということが共通しているが、これを類似点として数え上げることは無理がある。 では、「サッカーをしている男性の絵」では似ていなかった『闇は集う』と『すくらんぶる同盟』の2作品を見比べてみるとどうか。鏡対象であるが、中心のボールを追っている人物2人の位置関係やポーズがよく似ている。その他にも、画面奥で2人を追って走っている人物の足の開き方が似ていたり、画面手前の胸から上後ろ姿の人物のポーズなども似ていることから、資料画像2-3は、資料画像2-3’を加工して再利用したか、或いはその元になったカット集等の絵をもう一度参考にしたかのどちらかであろうと推察できる。昔と同じ絵を元にしている遠景の絵を見る限りでは、それほど表現の好みが変わったようには見受けられない。 話題は少しこの件から離れるが、松本洋子という漫画家は前に自身で描いた漫画にあるものと同じ構図やポーズ、もしくはそのままコピーした絵などを使うことがある。 例えば、先ほどから話題に上っている「闇にその名を呼べば……」では、作中9ページの走り去るちひろの後ろ姿は、作中に他にも1コマコピーしたと思われる物が使われている。また、上記画像は1巻収録「空と海の間で……」作中34ページで主人公が走り去る後ろ姿とよく似たポーズであることから、使い回しているポーズであろうと思われる。 他にも『闇は集う』4巻所収「ライバル」の最終ページの女の子2人のポーズは、単行本未収録作「夜に消える翼 エピソード1死者からの手紙」中に使い回されているし、足を組んで椅子に座っている番人の絵と椅子に座っている女の子の絵は膝に置いている手の形から見て同じ物をベースに、使い回している様に見える。 同じ絵の使い回しを嫌う漫画家もいるだろうが、松本洋子に限定して言えば、サッカーをしているモブから「夜に消える翼」までの数例から、使い回すことにそれほど抵抗がないことが推測できる。 たとえば、だが。 この資料2のページでも、モブシーンは昔使用したのと同じ構図を使い回しているのだから(アシスタントが担当していた可能性もあるが。)、使い回すことに抵抗がない以上同様に「サッカーをしている男性の絵」もモブと同じシーンから使い回しても良かったのではないだろうか。左を向いてサッカーをしている男性の全身絵で、なおかつページ中の右下に配置されているという条件でも使いたい絵と合致する。だが、松本洋子はモブシーンは『すくらんぶる同盟』と同じ構図を使い、「サッカーをしている男性の絵」については雰囲気の違う絵を描いた。 これは、悪い方向に考えすぎかも知れないが、資料画像1をベースに切り張りをする様な形で資料画像2の画面構成をしたものの、秋乃茉莉ではなくアシスタント(R子という名義でたまにあとがき漫画を描いている)が描いたであろうモブ部分の絵がお世辞にも上手いとは言い難く模写できないので、仕方なく以前使った絵から使えそうなひとコマをさがしてきて、2-3部分をうめたのではないかとも考えられる。 全くの余談だが、このページで更新以前は別の画像を松本洋子の使い回し実例としてあげていた。しかし、松本洋子の盗作問題を扱っている『松本洋子徹底検証』というサイトを拝見していた際に、その画像達が「松本洋子が描いた絵→松本洋子が描いた絵」ではなく、「篠原千絵が描いた絵→松本洋子が描いた絵×2」だということに気付き、現在の画像に変更した。(もし、現在松本洋子の使い回し実例としてあげている画像の中に、以前同様に他漫画家の絵から写した物があったら教えて下さい。) 作品中にしめる使い回しの割合や使い方にもよるが、自分が描いた絵のポーズや構図を自分で使い回すこと自体に問題があるとは、私は思わない。意識して使い回さなくとも、癖で同じ様なポーズを多用することもあるだろう。コピーの使用も限度はあるが構わないと思う。だが、それと他者が描いた漫画のポーズや構図を借用することとは全く別の話であり、後者に問題がないとは、私には思えない。
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