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美歩鈴語訳古典の名作~「遙か」に寄せて~ [全758件]
通された部屋は友雅のよく知る部屋だった。が、主の姿はない。 「主はお方様の御前です。私が申しつかっておりますので。」 門前に宿る人影の報を仕える貴人の前で聞いたのだろう。助けてくれようというのは心根からか、或いは場の空気からやむを得ず、か。 女童が設えてくれた座に腰を下ろし、友雅は部屋主の記憶を辿っていた。心ざまはどんなだったろうか、なぜ… [続きを読む >>]
雨宿 「おや。」 ぽたりと袖を打った雨粒に、友雅は空を見上げた。さっきまで抜けるようだった青空が暗く曇って、こらえきれないとでもいうように大粒の雨がぼたりぼたりと道をぬらし始めた。 「神子殿。」 あわてて走り出そうとする少女を呼び止め、広袖にかくまうように抱いた。恥じらう神子が身じろぎ逃げだそうとするのを押しとどめ、抱えるように走っ… [続きを読む >>]
初夏 (まったく、私らしくないねえ。) こんなにも君の背中がまぶしいなんて。 その背を抱きしめて、振り向かせて口づけを。 軽くあらがう君に目隠しをあてがってどこか遠くへ連れて行こう。 君のためなら空も飛べる。月の迎えなど来ないよう、光の道をふさいでこよう。君が私だけを見ているように、闇の帳が二人を優しく包むように。 言の葉だ… [続きを読む >>]
篠突く雨の音が友雅を浅い眠りから揺り起こした。 (雨……) 手近にある柔い温みをいつもの習いで抱き寄せた。主の求めに抗わない伽の温みを気のない手つきで弄ぶ。艶めいた小さなうめきがあがっても、友雅がそれに動かされることはない。それは単なる習慣に過ぎないから。 「あ……」 若様、と呼ぶ前に友雅は伽をうち捨てた。立ち上がり、妻戸を押し開け、… [続きを読む >>]
つんつんと袖を引かれてあかねは自分が寝ていたことに気づいた。はっと周りを見回すと、心配げに見上げる藤姫と目があった。 「神子様、お疲れですか?」 「あ、ううん、大丈夫。そういうわけじゃないんだけど……」 藤壷中宮に誘われて出席した、御所の管弦の遊びだった。帝の御前でもあるし、楽人の中には友雅もいるし、眠っていい場面では決してないのだが、ゆっ… [続きを読む >>] |一覧|美歩鈴さんのお買い物
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