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(今日もまた日没終了かなぁ……)
指輪をもらってから初めてのデート。沈む夕日を見つめながら、望美は思っていた。 高校の卒業式も終えて、夜遅くなる理由がなくなった。自然、暗くなってから一緒に歩くこともなくなって、たまに約束してデートしても、日が沈むまでに春日家の玄関に送り届けられる。 「せっかくもらった信用を反古にしたくはないからさ。」 景時の言うことはもっともだが、何か寂しい。日のあるうちのデートが不満だとか、イケナイことをしたいとか、そういうわけではないのだが、せめて夕暮れの浜で一緒に沈む夕日を見送るとか、しっとりした春の香りの風を感じながら極楽寺の切り通しを歩いてみるとか……。 「どうしたの。」 優しい瞳が見下ろしている。望美は赤面した。せっかく時間を作って一緒にいてくれているのに、仏頂面になってはいなかっただろうか。望美は特上の笑顔を景時に向けた。景時が安心したようににっこり笑った。 極楽寺の駅を下りて、当然家の方へ向かうと思ったら、景時は反対側へ足を向けた。 「景時さん?」 「たまには、いいでしょ?」 いたずらな笑顔。本当に大丈夫なのだろうか。 「少しだけ。」 極楽寺の切り通しを長谷の方へ歩いていく。心にふと浮かんだ小さな望みを見透かされたようで、望美は少し面はゆかった。しっかりと握られた手が温かい。どこへ行くというのか、望美は連れて行かれるままについていった。たまにはいいというなら、いいのだろう。景時はそれだけ、春日の両親に信頼されたのだろうから。 星月夜の井の前で、景時は立ち止まった。こちらの世界に合わせて小さく作り替えた式銃を取り出した。 バシュン…… 何かが飛び出して、とぷんと井戸の中に落ち込んだ。 「今のは?」 「うん、ちょっと気になったからね。」 しばらくすると、景時のサンショウウオが何かを銜えて上がってきた。小さな紙片は、いつかの人型を思い出させた。望美の体に震えが走ったのを、景時がやんわりと抱きしめて止めた。 「大丈夫だって。」 サンショウウオから紙片を受け取った。何か書き付けてあるのを、景時は目を凝らして読んだ。が、その顔は終始穏やかで、望美が心配するようなことは何もないようだった。 「もう少し、つきあってくれるかな。」 望美の手を引いて、更に歩を進めた。あたりはとっぷりと暮れて、薄明かりの残る空には一つ二つと星が輝き始めている。 「ねえ、本当にいいの?」 「大丈夫だよ、オレを信じて。」 しばらく歩いて、小さな踏切を渡り、御霊神社の鳥居をくぐった。望美は景時の想いがようやくわかった。 「ごめんね、君と詣でておきたかったんだ。でも、こんなに遅くなってからでなくてもいいのにね。」 神前で手を合わせた後、景時が言った。望美は首を横に振った。何か思うところがあったのだろう。わざわざ約束を曲げて来たのだから。 いいよという言葉に力を得て、景時は話した。 「大丈夫だとは思ったんだけどね、君とこれからずっとこっちの世界で暮らすんだから、確かめておきたかったんだ。荼吉尼天の脅威が本当に消えているのか。式が持ってきた物には、何も問題ないとあった。でもやっぱりオレ、怖いからさ……」 望美はくすりと笑った。景時も照れくさそうに笑って肩をすくめた。 「ご先祖様のお力を、借りておこうと思ってね。梶原の血筋は、オレがちゃんと守りますって。君と一緒に……いいかな。」 望美は、景時の目をじっと見つめた。見下ろす景時と視線があった。手を取り合い、もう一度神前に進んだ。二人一緒に拝礼し、二人一緒に柏手を打った。 景時の腕が、望美の方に伸びてきた。抱き寄せ、固く抱きしめる。 「結婚式……二人だけの。」 誓いの……キス。 だから、こんなに暗くなってから、誰もいない時間に、やってきたのだ……。 極楽寺坂をもう一度登って、家に帰った。 家に入る前に、もう一度抱き合った。 「もうすぐ……。」 囁く景時の言葉に、望美はうんとうなずいた。 桜が咲いたら、八幡様で本当の式を挙げる。それから先は、有川家の離れでずっと一緒に暮らせる。二人の気持ちが変わらないのを確かめたから、有川家のご両親が景時の親役をかって出てくれたのだ。スミレおばあちゃんが繋いだ縁だろうと言って。「うちの息子たちのどちらかじゃなかったのが残念だわ」と付け加わったが。 春日家の裏庭へ続く砂利を踏んでいく景時。足音が少しずつ遠ざかる。 「おやすみなさい。」 抱きしめられた温もりが冷めないように、望美は急いで家に入った。幸せに火照る体を自ら抱きしめた。 [遙かなる時空の中で3]カテゴリの最新記事
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