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長押 綴

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2011.06.23
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カテゴリ:.1次メモ
「あれ、縁堂さん久しぶりー」
「……?」


どうやら忘れられているようだ。
心底不思議そうな顔が地味に胸に刺さる。
……無理もないか、私は彼女とあまりかかわってこなかったのだから。
縁堂ゆかり。うちの高校の、良くも悪くも有名人な彼女と、私は個人的なかかわりは殆ど無い。

「覚えてる?ほら、高校の時一緒だった」
「う……うーん…………」

努めて明るく言う。
けれど必死に思い出そうとしているのか、それとも未だに戸惑っているのか、彼女の表情は晴れない。
……まあ仕方ないんだけど、ないんだけど、何度か彼女のミスをフォローした私としては、少しもやもやする。
私が勝手にやったことではあるけれど、それを知らなくても、少しくらい覚えてくれていたっていいんじゃないか。

「あ、ああ……えーと」
「野間ルコだよー、2年の時隣になったじゃん。掃除も一緒にやったんだけど、覚えてない?」
「ああ!……野間さん」

多分名前を言わなかったら終始濁されていただろうとは思うものの、思い出した顔で名前を呼ばれ、少しほっとする。
別に彼女が覚えていなくともどうということはないのだが。

彼女と一番関わったのは、掃除中だったと思う。他のメンバーがやる気がなく、大抵いつも私と彼女だけが掃除をしていた。変人な彼女は、掃除をする時もとても楽しそうな顔をしていたので、皆がやらないからやっていた私も、少しだけ気持ちが楽になったのは覚えている。彼女としては掃除がメインで、私とのかかわりなんて対して心に残っていなかったんだろうけど。普通だから、仕方ないか。

彼女の変人具合は有名だった。きっと、彼女を知らない人の方が少なかっただろう。
だけど、当の彼女は、自分の本当に近くの人のことしか覚えようとしなかったから、彼女は愛される変人ではなかった。

よく普通と称される私は、そんな彼女の悪口大会になった時にそれとなく話を逸らしたり、彼女にそれとなく移動教室を教えたりしてきたのだが、まあ、仕方のない事なのだろう。彼女にとっても私は普通の人間だったというだけのことだ。

そんなことを考えながら、今は何をしているのだとか、そっちは何を、という話をする。
彼女も成長したな、と少し思った。いや、普通寄りになったと言うべきか。

20過ぎれば普通の人。

思うにこれは、「20過ぎれば自重する時が多くなるから、自然とそれもあって普通の人間に近付いていく」ということなのかなと思う。
野生の動物が、すっかり動物園に馴染んだよう、と言うと喩えがおかしいかもしれないが。

「じゃあね、元気で」
「あ、うん……!あ、あのさ!」
「ん?」

振り返ると、彼女は顔を赤くして、何かを言おうとしていた。
どうしたのだろう。彼女の行動は、やっぱり、時々変なのだろうか。

「…………掃除、ありがとう。あの、あのさ、……野間さんは、その、真面目だから、やってくれたのかもしれないんだけど、……色々、ありがとう。思い出した」

「……ううん、いえいえ。私も、掃除とか、楽しかったし」



思う。

普通の人に近付くと言うことは、より多くの人の気持ちに近付きやすくなるということではないかと。

そうして、今、特定の誰かと関わったからこそ、私は、私達は、「ただの普通」でいなくてすむのだと。


手を振って別れた時、私の口と彼女の口は、似たような曲線を描いていた。





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最終更新日  2015.07.01 10:25:09
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