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殺してやりたい。
我の生き方を否定する奴らを、殺してやりたい。 「肉弾戦なんて馬鹿のすることだって」 「遠距離の方が効率いいし、早いしリスクも低い」 「ほら、この量なら2時間で殲滅できた。お前はどうなんだ?」 「手柄を捕っちゃってわりぃな~!」 いや、違う。無視すべきなのだ本来は。それか完全に奴らのやり方を取り込んで生かすべきなのだ。 けれどそれもできない愚直な己。それ自体にプライドを持っているだけにどうしようもない。 「うぇえええんママぁぁぁあ同僚がいじめるんだよおお」 「あらあら、どうしたの」 だからこうして愚痴るしかないのだ。 「詳しくは言えないんだけどぉ、我のやり方効率悪いとか言うし上官殿にはあいつらのほうがよく褒められるし手抜き野郎どもなのにさぁ、しかも手柄取ったなら取ったで黙ってるか仲間内でよろこんでりゃいいのになぁにが『手柄取っちまってわるいなぁ』だよ、聞こえがしに言うなよ皮肉やめろよきめぇんだよぉぉぉお」 「大変なのねぇ」 「そうなんだよ!」 ダン!と机を叩く。手慣れたものでママはちっとも動じない。 「手柄より我は我の戦い方に誇りを持ちたいし敵の事を知りたいんだよ、それをあいつら、あいつらぁぁあああ殺してやりたい、殺さないけどおおおおお」 「アンタのそういうとこ偉いと思うわ」 ママはいつもシンプルに要点だけを話す。 「仕事だからしゃーねーんだけどさぁ、でもやってらんねーよ畜生」 ぐびりと酒を煽ると、半ばでママに留められる。 「それくらいにしときなさい、後はちびちび飲むくらいに」 「うぅっ…」 こんなめんどくさい我の事を気にかけてくれるのは、喩え義務感からとしても、ママくらいのものだろう。 何でも聞いてくれるママは、そうして何でも『掌を返さない』。 そうして、全てを神仏の手の如く、その掌の上に載せるのだ。 その懐の深さ。あと谷間の深さ。神か仏がかっている。 「ママぁぁああ結婚してぇええ」 「ごめんね、気持ちは嬉しいんだけど」 「うわぁあああん」 分かっている。ママが結婚できない理由。 左手の薬指。もう何年も前から、嵌めた人がきっと忘れただろう今でもつけているそれ。 「……製品番号32609。分かっている、でしょう?」 「うー…」 彼女は、アンドロイドだ。 * 「送っていきましょうか?もう閉店だし」 ああもう、そういうことをするから勘違いされるんだろう。 治安の悪い所でも、乳首の無い、服に隠れた部分は全てまがい物の彼女は性的な目的で遊ばれることも殺されることもない。壊れたら、また準備室に居る彼女が目覚める。逃げても、同じこと。 「いやいいよ、近くだし。お休み」 「…お休みなさい」 酔いの残る足、地面に散らばる吐瀉物が近付いたり離れたり。 「……今日も、癒されたなぁ」 あの笑顔だけで幸せになれるのだから我は安い男だ。 でもその安さは決して悪いものじゃあない。 「また行こう」 次はまたひと月後とかになってしまうかもしれないが、その為に明日も戦えるのだ。 * 彼女が、似たような境遇の軍人たちに『戦わせる』恰好の手段として用いられていることを彼はまだ知らない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.10.20 02:29:21
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