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仲の良い相手がある日唐突に消えるのはこれが初めてではない。
他にも消えている人が居るが俺が気付かないだけなのかもしれない。 けれど人がある日唐突に消える現象は明らかに俺の周囲に偏っていた。 はじまりは確か一個の消しゴムからだった。落ちる音がしなくて、いくら探しても見付からなかった。好きな子の名前を書いた消しゴムだったから他の人に見付けられないようにと必死に探したが、見付からなかった。けれどその後、探すのを手伝ってくれた一番の友人がどこかへ姿を消してしまった。それも家族ごとーいや、もっとひどい。皆は夜逃げと言ったが、家ごと持っていく夜逃げなんてありえない。このときはまだ、俺のせいだなんて思っていなかった。 これがベタな映画なら、俺が記憶のないまま友人やら恋人やらを殺して始末したとか、俺の周囲に実は悪霊がとりついていてそれが見える友人達が逃げただとか、俺のストーカーが俺に近付く人を許せず殺したとか、俺が異様に不幸を呼ぶとかそういった展開になるが、ビデオカメラで家の自分を撮っても誰かが失踪した朝の俺のアリバイは完璧だったし、居なくなる前日まで異様な様子や怯える様子は見られないし、死体が発見されたこともなく、別の地方や国に行ってもそれは続いたし、知られていないであろう関係でさえそうだったのだからどうしようもない。 最初は友人だけだったのに、家族も消え、大学の教師も消え、同じ講義を受ける人々も消えていった。俺を引き取った先でもそうだった。もはや疫病神だ。 死体も何もなく、ただそこには空白だけがある。 だから俺は一所に居ない方がいいのかと、世界旅行をしたことがある。 結果は最悪だった。 俺が行った先々で人の大量消失が起こったのだ。 指名手配された人間のような扱いを受け、刑事にもねちっこく質問されたがその刑事もじきに新しい人に変わった。そして今はAIに尋問を受けている。 AIさえ定期的に狂うのだからご丁寧なことだ。 そして世界は真っ白になった。 俺一人を遺して。 *** 「俺」は、真っ白な世界で生まれた。 消しゴムのように真っ白な世界に、寸前に落とした気がする消しゴムの鈍い音がした。 どうやら床だけはあるらしかった。材質は分からなかった。 親友はどうしているだろう、と思った。目の前に現れた。 戸惑って、家族に会いたいと言ったので彼の家族を思い浮かべた。現れた。 家に帰りたいと言うので以前遊びに行った家を思い浮かべた。目を開けると、そこに大きな白い屋根の家が建っていた。 そこに取り敢えずは泊まらせてもらった。大変なことになったと、自分のせいかもしれないと思っていたけど、親友が「んなことねえって」と言うので考えるのをやめ、静かに目を閉じた。 夢で何かを願わないようにと願った。 そんな「俺」の夢は、もともとの世界のー俺視点の、ダイジェストストーリーだった。 何もない、真っ白な世界。 青空が綺麗だった。だけど我慢して、やや曇った空を欲しがった。空はやや曇った空になり、代わりにあちらの世界の天気が少し大雑把になった。 望めば手に入る。けれど、元の世界の俺はそれを悲しむだろう。 -はじめは、そんなことを思っていた。 段々と、別の世界の俺の周囲から、いろいろなものをキャトルミューティレートすることは日課になり、遠慮がなくなった。 向こうの俺自身はいつも呼べなかったから、真っ白になった世界で呼んであげようと思った。こちらに世界を造ればいいと思った。 会ってみたいと思った。世界を見た彼に、こちらの世界を見せてあげたいと、感想を聞きたいと思った。 「おいで」 ーけれど、それは無理だったみたいだ。 「おいで」 何度願っても呼びかけても、彼は白い世界でただ歩き続けている。 そして一度奪ったものは返せなかった。 *** 俺はいつからここに居るんだろう。 最近では時間の感覚すら曖昧だ。 死にたいと思っても死ぬ道具すらないのだから笑える。 元あった世界を思い出す。きっかけはなんだった。時計のはじまりは、なんだった。 ぽこん。 ――――一個の消しゴムが頭の上から降ってきた。 「……?」 *** その日、あるパラレルワールドから消しゴムが消えた。 そのパラレルワールドがじきに一人を遺して真っ白になることを、俺と「俺」は知らない。 「俺」は夢の中色彩溢れる世界を見て、罪悪感に浸りながらよかった、と呟いたし 向こうの世界の俺は、どこかおかしい何かの違う代替品を愛していたから、そんなこと思いつくわけがなかったのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.01.01 01:55:46
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