カテゴリ:商法過去問答案
【問題】 平成14年・第1問
株式会社A社は、株式会社B社の総株主の議決権の60パーセントを有する株主であるが、A社及びB社は、A社を存続会社、B社を消滅会社として合併をすることとなった。A社及びB社は、ここ10年間ほど1株当たりの純資産額も1株当たりの配当もほぼ同じであったが、合併契約書におけるB社株主に対するA社新株の割当てに関する事項(合併比率)は、B社株式3株に対してA社株式1株の割合となっている。なお、合併交付金はない。B社の株主総会においては、総株主の議決権の70パーセントを有する株主が合併に賛成、総株主の議決権の30パーセントを有する株主が合併に反対であり、合併契約書は承認された。B社の株主であるXは、合併比率が不当だと考えているが、株主総会における合併契約書の承認の前後を通じて、どのような手段を採ることができるか。 【答案】 1 事前の手段 (1) (まず) 合併比率の不当性を知ったXとしては、株主総会でこれを否決ことを考える。 (そして) 合併契約書の承認には株主総会の特別決議(408条4項・343条)が必要であるところ、A社は60%の株式しか保有しておらず、他の株主と協力すればかかる決議を否決することも不可能ではない。 (そのためには)他の株主の住所を知り、手紙を書く等して合併の不当性を伝え、株主総会において反対の票を投じるよう説得することが必要となろう (そして) その前提として、B社に対して株主名簿閲覧、謄写請求(263条3項、1項2号)を行うことになる。 (2) (次に) そのような合併を決定する経営陣を刷新するため、取締役の解任を株主総会の議題(232条の2第1項)とすることを請求 (3) (しかし) このような株主総会では不公正な決議が行われる可能性が高い。 (よって) 裁判所に株主総会の検査役(237条の2)の選任を請求する。 2 株主総会 これらの準備をして、株主総会にのぞみ、合併の不当性を訴え、取締役に合併比率の説明を求め(237条の3)、自ら反対の票を投じる(241条1項)。 3 事後の手段 (1) 以上のような努力にもかかわらず、合併契約書が承認されてしまった場合はやむを得ず、投下資本回収のため、株式買取請求(408条の3第1項)を行う。 (もっとも)買取請求は会社から離脱することになるので、B社に残りたい株主にとっては、真の救済とはいえない。 (2)ア(そこで) 合併無効の訴え(415条1項)を提起することが考えられる。 (この点) 合併比率が不当であることが合併無効原因となるのか、合併無効原因が明らかでないことから問題となる。 イ(思うに) 会社の合併は株主の利益に大きな影響を与えるから、不当な合併は広く無効原因とすべきようにも思える。 (しかし) 一方で合併は組織法上の契約であることから組織に属する多数の者の利害関係に影響を与える。 (とすると)逆に、無効原因を限定して法的安定を図る必要もある。 (そこで) 無効原因は一律に決することができず、合併当時の会社の株価や合併交付金、合併に至る経緯等を考慮して著しく不当な合併と認められる場合に無効となると解する。 ウ(この点) A社とB社は10年もの長期一株当りの純資産及び配当が同じであったことから両者の株価はほぼ同じであったと考えられる。 (また) 合併交付金もない (にもかかわらず)3:1という合併比率は不平等である (これは) A社がB社の親会社であることを不当に利用したと考えられる (以上から)本件合併は著しく不当な合併と考える。 ウ(よって) 合併無効の訴えは認められると考える。 以上 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Oct 24, 2004 12:06:13 AM
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