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さて前回に続いて印象的であったもうひとつの例。むしろ久しぶりに目が点になった1日。 「あのう、あなたはどのように唾を回収するんですか?」 「は???」 同じく11月4日の金曜日の朝、展示会場のブースでトランペットの修理を行っているとき初老のご婦人から質問を受けました。私の方から丁寧に質問をし、この方の質問の趣旨が楽器の掃除の仕方についての質問であることが解りました。普段一般の方たちに認識されていない職業を紹介する立場ですから何百回も似たような質問を受けることは慣れていますが、この瞬間私の目は点になった。私の後ろでガラス工芸のメートル・ダールの息子ステファンと共同で工房を経営するファビアンはその一部始終を聞いていた。 同じくその日の午後。 「あのう、私の娘の進路について相談に乗っていただきたいのですが。」 そのステファンとファビアンと共に展示会の話をしていると、また中年のあるご婦人が。 「私の娘はもうすぐ15歳になります。できれば私は娘に手に職を持ってもらいたいと考えているのです。」 子供をお持ちのご父兄のご心境を一応私は察しているつもりです。この方はどうやら娘さんのために職人分野の仕事の情報を探しに来られたご様子。そして話を続けるにあたりこの方のテンションはどんどん上昇。 「絵画、彫刻、靴職人、家具職人、とにかく何だっていいんです。私の娘はきっととんでもないことをしでかすはずです!!」 このご婦人が発した言葉は「どんなことでもする」という意味のフランス語。ただその言葉は多くの場合「とんでもないことをしでかす」と解釈されます。 「マダム、とんでもないことをされてもそれでは娘さんのためにはなりません。まず娘さんがどのような職業に興味を持たれているかをじっくりとお聞きください。幸いにも私たちの隣では職人の道への登竜門であるエコール・ブールのブースがありますので、そちらで質問されてはいかがでしょうか。」 矛先を逸らすようにその後婦人を隣のブースに誘導し振り返ると、羽飾り職人であるエミリーが自分のブースで必死に笑いを噛み殺していました。 何でもいいからという理由で伝統工芸分野に職を希望されても本人のためになりません。それではとにかく有名な大学に進学するという動機となんら違いはありませんから。 最後にその日の正午。自分のブースの周囲を監視していると、作業台の傍にいた一人の中年男性と一瞬目が合うとその口が開かれました。 ![]() 「あなた方は拷問道具でも作ってるんですか。」 私はそれに答えることなく、ステファン、ファビアンと共に昼食を獲る順番の相談を始めました。ブラックユーモアの発祥地であるフランスで生活していても、この手の質問ににこやかに応対するユーモアセンスは私にはありません。これが師フィリップであったら「イライラするから消え失せろ!!」と怒鳴って力ずくで追い出しているでしょう。昨年のある展示会ではあまりにも態度の悪い見物客を警備員ではなくメートル・ダールの方の一人が文字通り力ずくで追い出しました。 ちなみにパーカッションのヘッドを製造する機械がアトリエにありますが、その前身は何人もの人の首を吹っ飛ばしたギロチンの骨組み。師が15年の修業を経て独立した後に買い取ったヘッド製造会社にその機械があったとか。その会社があった場所はパリの郊外の町の「ダントン通り」。拷問ところか人の命を奪える工具がたくさんあります。 「30回以上展示会を経験したけど、今回ほど変な質問を受けたことはない。お前あの発言どう思う、ファビアン?」 「そんな時はお前、その男の手を取って、ご自慢の95Kgの万力で挟んでやればよかったのさ。理解させるのに効果てきめんだろ?」 けして実行しませんが人間の手は簡単に砕けるでしょう。その日の夜、同じブースを分かち合うみんなと羽飾り職人エミリーとその夫である若き建築家殿が住むアパートで夕食(主にお酒)。お酒が進むと話題は展示会で出会う変な人という点に移りました。 「お前のブースは必ず何かが起こるから下手なコメディー映画より面白い。」 ハリウッド映画が優勢のフランス映画業界ですが、人間の機微を描いたコメディーに関してはフランス映画の方が面白いことは確か。そしてこの社会では日常がコメディーのようなもの。 「着飾ったオバちゃんたちが私のブースを遠巻きに取り囲んで、『まあ、羽飾り職人なんてまだいたのねえ。』なんて言ってるの。だから何だっていうの!!何も買わないくせに。」 酒がまわってきたのか、エミリーは弾けだした。そして夫である若き建築家殿も日ごろのストレスを発散するために腹の立つクライアントの話を始めた。 翌日5日土曜日、部屋の片隅には空になった2本のワインと12本の750mlのビールの空き缶が並んでいました。展示を続けるステファンとファビアン、そしてこの日私は自分のブースをギター製造家のメートル・ダールであるジョエル・ラプランヌ師にブースを譲り監視役。3人とも開場時刻である10時には間に合いました。 「イザベル、変な質問を受けませんでしたか?」 「変な質問??」 漆工芸家マリーに代わってその日展示会に参加しておられた彼女の師であるイザベルさんに私が受けた質問を説明。 「そんなのは相手にしないで無視した方がいい。」 後日師にこの話をすると同じ意見が返ってきました。 フランスと日本の社会での大きな違いのひとつ、それはこの国では必ずしも「お客様は神様」ではないことです。後から気付いたのですが、4日間の展示会開催期間中アナウンスでは必ず「親愛なる見学者の皆様…」という前置きで始まっていましたが、最終日の閉会時のアナウンスからは「親愛なる」という言葉が消えていました。 Naoya「日出ずる国から来た弟子 トロンボーン製造を志す者」 皆様の清き1クリックをお願いします。 全国から注目されているサイトが大集合!音楽 │<< 前日へ │翌日へ >> │一覧 │ 一番上に戻る │ |
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