古墳時代の金石文はどういう性格の物だったのか。三上喜孝『日本古代の文字と地方社会』では、列島での文字の使用について3つの段階を見出している。そして、この時代の文字を政治的儀礼と結びついたものとしている。3つの段階を本にしたがい以下に整理してみた。
年代 | 文字使用の目的 | 書写材料 | 内容/特徴 |
5世紀 | 政治的儀礼(儀式) | 鏡、刀剣 | 個人の功績や祖先に対する顕彰、吉祥句。 |
7世紀 | 統治手段 | 木簡の増大 | 特定の目的(税の貢納、管理)に応じた定型化した書写材料と記載様式。朝鮮半島で定型化した記載様式を踏襲。 |
7世紀後半~
8世紀前半 | 文書行政 | | 文字を固有語の中に体系化、内部化する。「字書」(音義木簡)の使用、「習書木簡」の増加、「非漢文」の出現。 |
熊倉浩靖『日本語誕生の時代』では、503年と推定される隅田八幡人物画像鏡以後を一世紀半の空白と表現し金石文が希薄な時代であったとする。その後、650年あたりから造像銘を中心にして爆発的に金石文が増えたと指摘し、それには3つの特色があったとする。(1)文字を記す対象が鏡、刀剣から他へ急速に拡大していった。書物、行政文書、写経など表現が多様化した。(2)列島の言葉を漢文脈で表現する工夫から、訓読を利用してそのまま治める工夫が進化し、「日本語」として書き表す到達がなされた。(3)この到達には三つの段階が認められる。
つづく