出入国管理法(入管法)改正に関する視点
出入国管理法改正案についての論議が盛んになってきた。 出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法 の一部を改正する法律案の骨子について (首相官邸) 出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案(法務省)この問題に関しては既に多くの記事が書かれている。以下のリンクの記事では、現在や将来の日本が人手不足であるとし、適正な受け入れ人数を検討している。1%弱の潜在成長率を維持することを前提としたベーシックな試算の一つとして参考になる。 外国人労働力の受け入れは2025年からでも間に合う(島澤諭:WEDGE Infinity)この記事でも述べられているように、前提条件によって人手不足数からして大幅に変わってくる。女性や高齢者の労働環境改善による労働力率の向上や、賃上げによる人手不足の解消効果の指摘は賛同できる。この他の記事にも、実質賃金が上がらない中での外国人労働者の受け入れ増加に否定的な意見は多い。外国人労働力の受け入れに於て検討すべき事項は非常に多いが、現時点でおぢさんが主張しておきたいのは、景気後退期(不景気)のことを考えておくべきである、ということと、経済成長を維持することを前提とすべきではないという2点である。「移民」定義のコンセンサスはないようだが、実際問題として日本は既に多くの移民を受け入れている。 日本がいつのまにか「世界第4位の移民大国」になっていた件(芹澤健介:現代ビジネス)現状でどれだけ外国人労働者が増えているのか。近年の外国人労働者数の増加は、概数で3.5万人、7.0万人、12.0万人、17.6万人、19.5万人(2013~2017)と推移しており増加幅そのものが急速に増えてきている。この従来の在留資格での外国人労働者に加えて、新たな在留資格での労働者を受け入れるというのが今回の改正となる。新たな在留資格での労働者数の見積は初年度は同約4万8千人、5年間で最大35万人となっている。近年急速に外国人が増えたという印象があるが、法案成立によっておそらく現在の1.5倍程度ペースで外国人労働者が増加することになるだろう。総務省|平成28年版 情報通信白書|人口減少社会の到来一方で、日本人の労働者数は今後どうなるのか。生産年齢人口(上図緑部分)は今後、毎年60万人以上のペースで減少していく。高齢者(水色部分)の労働参加が進んだとしても労働力不足が深刻化するのは間違いない。リーマンショックからの回復局面以来の世界経済の好調によって意識されることが少なくなったが、景気後退期(不景気)には雇用情勢は一変する。この局面に外国人労働者が邪魔者扱いされることがあってはならない。そのために、人手不足の現在だけを意識するのではなく、予め景気後退期を意識した政策が求められる。近年の「景気後退過程における完全失業者数の推移をみると、1997年から1999年にかけての2年間で完全失業者は87万人増、2000年から2002年にかけて39万人増となったのに対し、2007年から2009年にかけては79万人増となっている。」(「労働経済の推移と特徴」)。80万人程度の雇用喪失は十分想定しておく必要がある。 労働経済の推移と特徴(厚労省)政府は5年間で約146万人の人手不足、約26万~約35万人の受け入れを見込んでいる。その人手不足のほとんどを国内人材の確保で補い(2/3程度)それでも不足する分を外国人労働者をということになっている。 国の失踪実習生の調査に誤り 理由が賃金87%→67%(Yahooニュース/朝日新聞DIGITAL) 外国人労働者受け入れ、5年で最大35万人 政府試算(朝日新聞DIGITAL) 介護人材確保、国内20万人(ロイター/共同通信)人手不足の試算が妥当なものかというのが問題で、どういう根拠による数字なのかを示す必要がある。仮に146万人の人手不足という数字が正しく、その内100万人が国内人材で対応可能であるとすれば、残り46万人の不足をどうするのかということになる。好景気と不景気の両方に完全に対応することは不可能である。46万人の労働力不足の状態であれば、80万人の雇用喪失が起こったとしても、失業者数は34万人に収まる。しかし、35万人を受け入れていた場合には、人手不足は10万人ですむが、不景気には倍の70万人程度の失業者を産むことになる。受け入れ数に正解はなく結局はどうしたいのかということにはなるが、最大35万人という数字は好景気にチューニングしすぎているように感じる。外国人労働者によって目指すべきは人手不足の緩和であり解消ではない。人手不足による成長鈍化、税収伸び悩み、サービスの低下などは甘んじて受け入れるべきではないだろうか。彼らを我々の仲間の一人として受け入れるのでなければならない。そのために帰化を前提とした移民政策を正面から検討すべきである。彼らは成長のための道具ではないし、不景気になったからと言ってさよならというわけにはいかない。予想通り、この問題に関して右派の方々はあまり声を上げない。経団連、財界、経済重視という系統か、排外主義(ヘイト系)、復古国粋主義の系統かを見分ける試金石となっている。Further Reading: 白豪主義から多文化主義国家になるまで、オーストラリアに学ぶ『移民政策』(上) (高野凌:WEDGE Infinity) 自称“難民”が急増!? 超人手不足でいま何が…?(NHK) 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(平成29年10月末現在)(厚労省)にほんブログ村