第一章
1
リン、と名付けたすうぐが祥慧や鈴の前に現れたのは、巧州国の王瀧怜の使いが海客の友人の一人、天宮葵の行方を探しているというニュースが流れている時だった。左目を損傷したリンは、口の中を火傷して、ふらついた足で金波宮に現れたのだ。
毛を逆立て、全身から殺意にいた激しい感情を渦巻かせている。
「どうした、・・・あれは」
太師の遠甫が、秋官と共に反対方向から現れた。そのすぐ後には、景麒の姿もあった。
―お前のせいだ、と髪を掴んで美しい顔立ちを乱して、警察から帰ってきた母親がそういった。祐岐が死んだ事で頭が混乱している彼方に向かって、そういったのだ。パーティーにいったことさえ知らなかったのに、彼女は何を言っているのだろう。
兄や妹、父は自分が悪くないといい、姉は自分を嫌っていた。姉と弟は母親の特にお気に入りの子供だった。
「止めなさい、彼方が痛がってるだろ!!」
「母さん、やめてよ、彼方がかわいそうだろ!!」
美しい2つ上の兄がかなたはいつも何かを叫んでいる母親より苦手だ。母親から引き剥がすと、小さい自分の体を抱きしめた。
「いつも、いい子なのに、何故、貴方はその悪魔を守るの、その子さえいなければ!!そいつはバケモノなのよ!!」
「離して、あんたには関係ない」
「可哀想に、お母さんのせいだよ、彼方が素直じゃなくなったのは」
違う部屋から、祐岐の双子の妹が片方の彼方の手を掴む。
「彼方は私の、お兄ちゃんはなれてよ!!」
「僕の弟だ!!」
美しい兄弟、美しい優等生の両親。自分だけが普通で、本当に異物だ。イヤだ、イヤだ、もうほうっておいて。
貴方達に思われる資格がないのに。
中学に上がると、母親は別居を選び、姉と妹を連れて行き、家の中は父と兄と、自分だけになった。
「きゃあああ!彼方のお兄さんよ!」
廊下を歩いていると、天使のような美形の少年が名門高校の制服に身を包んでいた。
「げ・・・」
―祥慧は、すうぐが持ってきた通達の内容に戸惑いを感じた。だしたあいては、かつての父の部下であり、現在芳を事実、王がくるまで納めている月渓からだった。
「鈴、これは・・・」
「芳の民が、月渓に反乱を?」
「何の話だ?」
「主上、現在、芳の経済事情が事実上破綻しているのは知っていますか、他国との交流で失敗があると」
「ああ、だが、新しいキリンが生まれて、もうすぐ新しい王が選ばれるんだろ?」
「そうです、しかし、問題が起こったようです」
2
白い花びらがひらひらと窓から落ちてくるのを、彼方は旅一座のテントの中から見つめていた。殴られた頬がいたく、にくたいろうどうになれていないので、手が痛み、かさかさで薬草のようなものを一座の子供に塗りつけられた。
・・・・日本に帰りたい。
彼方は、日本にいたときは思わなかった、望郷の思いに戸惑っていた。一座の会計の仕事が出来るとなると、一座の酒飲みの座長は会計を彼方に任せてきた。
「おい、アオ、次は積荷を移動させる、早くしろよ」
海客である自分が、胎果である事を知らされて、見慣れた薄い茶色の髪が銀かかった薄い青の髪に、茶色の瞳が燃え上がるような炎や血をも思わせる赤紫の瞳、整った顔立ちが苦手な兄を思わせた。
胎果は、他人の子供が他人の母親に似た姿で生まれてくる事を言う。
「はい」
言葉も通じず、ただ殴られる、それだけなら他の海客と同じだ。
別のテントから、濃い香水をにおわせる、胸元をはだけさせた漆黒の髪の切れ長の座長の妻が、彼方に色目を使ってきた。
雑魚寝でした働きの人間だけが集まる小さなテントの中に戻ってくると、静焔が彼方の汚れた服の袖を掴んだ。よく見ると、少女達が頬を染めて、男とも女ともつかない中性的な美貌の美少年をとり囲んでいる。
「アオ、話があるんだが、いいか?」
「何?」
なぜか、虚海の言葉がわかる静焔が始めて、自分を見たとき、噛み付き、ナイフのようなもので自分を殺そうとした。
「お前達、下がれ、俺はこいつと話がある」
「はぁい」
少女たちは残念そうに、静焔を見た後、彼方をにらんで、出て行った。
「それで話って?怪我なら、もう治るんだろう」
「ああ、アオ、お前は俺をどうする気だ、俺が何者か、この数日の間も聞かなかった、何故だ?」
「勿論、君から情報を得るためだ、俺はこの世界のことを知らないし、君は美形だから、こういうところ連れて行けば、俺の友達が俺を見つけやすいだろ?それに俺は静焔、君自身の事は興味ないんだ、イヤなら出て行けばいい、君には、帰る国がすぐそばにあるんだろ」
「・・・お前、友達いないだろ」
そういわれて、彼方は考え込んだ。
「いらないだろ、友達なんて」
彼方はあっさりと答えた。
「俺もだ、お前みたいな性悪が大嫌いだ」
「どうも、じゃあ、寝るから、おやすみ」
彼方が隅の方で毛布を広げて、寝ようとすると、また服の袖を子供のように掴んできた。
3
戦争は嫌い。傷つけあうのは嫌い。夏姫が物心つく頃で覚えているのは、まるで物乞いのように人から食べ物を貰う両親の姿だった。芳の王、仲達が倒され、王の娘は処刑された。恐怖になれ、考える事すら忘れてしまった人間は、月渓にすがった。
何故、誰も疑問を抱かないのだ。
何故、芳の民が苦しんでいるのに、外にばかり頼るのだ。ぼろきれの様な格好で、ゴミをあさるひびから、夏姫は最低の金で病弱な弟と共に一座に売り渡された。
「座長も芳の人間でしょう、・・・麒麟にあわないのですか?」
傲慢な男で金にも女にもだらしなく弱いが商人としては才能がある座長に夏姫は尋ねた事がある。
「残念だがな、俺みたいな最低な人間にもわきまえというのがあるんだよ、理性という奴だ、ああいう地位には月渓様のような高貴な品格と慈愛がなければならないんだぁな、俺なんかが王になったら本当にしんじまうぞ」
「そんな・・・・」
「・・・・ああ、思い出した、州侯の一人だった若い男が、前にいた春姫を連れて、金剛山に行くぞ、すばらしく優秀らしい」
本当に、ただのかいきゃくなのか?アオは何者?
夏姫が出し物が終わり、観客から芳の麒麟の噂を黄海の民から聞いたのは、その翌日の午前中だった。蓬山の門が開く時が着た、と。
「・・・昇山・・・・」
「芳は今、妖魔がたくさん出るというぞ」
「前の王が愚劣なままだから、新しいほうを作ろうにも難しいとか、土地を捨て、慶や共に逃げる人間も出てきてるとか」
「農作物も、若いもので作る人間がいないらしい」
行こう、蓬山に、麒麟に会いに。今、夏姫はそう決心した。
―誰も動かないなら、私が動いて変えてあげるんだ。
「夏姫さん、湿布あります?」
作った笑顔で、彼方がそう聞いてきた。座長の奥さんの演技の相手役をしていたらしく、劇の衣装を着ている。
「あるけど、アオ、怪我したの?」
「まあ・・・」
アオは本当に笑わない男の子だ。私や皆に見せてるのも世間向けに作った笑顔で、本物ではない。心から笑った笑顔を見たい。
妖魔の子供を彼方は何の感情もなく、血だらけにして、優しく抱きしめた。正気の沙汰ではない。
人間の敵であるものを排除する。始めて、あった時、かなたは一座の男に弓で肩を打ち抜かれそうになった。
「離せ、そいつはお前を殺すぞ」
私はカレにそういった。
「まだ、子供だ、殺す以外にも手段はある。殺すなら、俺に任せてくれ、迷惑はかけないから」
アオの目は真剣でけなげだった。
暴れていた魔物の子は大人しくなり、恐る恐る、アオを見た。
「勝手にしろ」
一座一番のトップアイドル的歌手のテントを夏姫がめくると、怒鳴り声が飛び込んできた。
「粗忽もの!!」
「私に、こんなよれやほこりがついた衣装で、観客の前に出ろというの!!」
「うら若き美しき乙女の肌にこういう機会がない限り、触れないんだから、心して、紫の紐をしっかり結びなさい!!」
彼方は、ナイスバディーで天下一の美貌を持つ、天女と疑ってもいいほどの美少女の華奢な身体に巻きつけるコルセットのようなものをつけさせられている。かなり不満げだが、どこか照れくさそうだ。
夏姫も憧れているものの、珍しく素の表情を出している華藍に戸惑いを感じた。華藍と彼方がであった時、彼方に他の従業員に対する不遜な態度や歌の文句をつかれ、喧嘩して、彼方の後を追いかけたあと、華藍は森の中で熊に襲われ、崖から落ちるところでステージ衣装のまま、追いかけてきた下にいる彼方にスカート上の服を抑えながら、落ちてきたのだ。
あの時の彼方はかなりビックリしていた。
「ちゃんと、助けなさいよ、男でしょ!!」
「・・・・・・苦しい」
見事に彼女を受け止めたが、押しつぶされた。
4
「お前がうちに来なければ、お前がいなければ、うちの家内は!!」
「やめてください!!」
彼方は、混乱の中、必死に林の中を逃げた。
弟の祐岐と剣をを交えたのは、それから、暴動が置き、野党と戦った深夜の3日後のことだ。家からは火事が起きて、老人や子供が殺され、血の匂いが妖魔たちを誘い、最悪の現場で、座長に殺されそうになった直後、八代祐岐とであった。祐岐は怪我のせいで意識を混濁させていた。
であった直後に、獣のような黒髪の少年が、自分の弟だと彼方は理解する。
「・・・・祐岐?」
「・・・・兄貴、だな、前と違うけど」
激しい感情が祐岐を動かす。
「何故、あんたがここにいるんだ!!」
「それはこっちの台詞だ!!お前、泥棒の味方になったのか!!」
「違う、おれは、友達を助けようと、フリをしてただけだ!!」
「・・・友達?」
「さっき、殺されそうになったけどな・・・・」
苦々しい口調で、祐岐がそういった。
「祐岐」
無意識に彼方が祐岐にてを伸ばしたら、拒絶された。
「汚い」
はじかれた手がじんじんとなっている。ショックを受けている事が彼方には受け入れられなかった。
「・・・今更、見捨てておいて、迎えに着たのか、あいつの人形のクセに」
「・・・・誰のだ」
声が震えている。
「日本にいる時から思ってた、あんたが強いあの卑怯な兄に媚を売ってたのを、俺の手を拒んだくせに」
激しい、なんて激しいんだ。彼方はその感情に押されそうになった。
「拒んでない・・・・、俺は拒んだ事ない・・・・」
「兄のくせに!!」
祐岐はかなたを拒絶した。
「祐岐・・・」
「近づくな、悪魔!!」
5
誰も私達を救ってなど、これない。事の真相を満っていたはずの村人も教師も、うわべだけの現実を見た役人の言う事を聞くしかなかった。家族や生活を守るために。
「おい、村の中で埋めるなよ、土が穢れる」
「面倒な事を起こして・・・・」
「その年でこんな仕事してるんだ、どうせ親に売られたんだろう」
容赦なく、引き裂くような言葉をさして、何度も下げたくない頭を夏姫に死を蔑ろにした男達に頭を下げさせた。
一座はたった一夜でなくなった。
大好きで、守りたかったのに。子供で守られる自分がたまらなく嫌悪だった。
「夏姫・・・」
彼方が夏姫に近づいて、硬くなった肩に触れた。その手は冷たかった。
「アオ・・・・」
わぁぁぁ、と彼方の胸に飛び込んだ。なだめるように彼方は夏姫の頭を何度も母親のように撫でた。大丈夫、というように。
赤くなった瞼をこすりながら、彼方の後に続いて、暗くなった頃、滝の所で待っている
華藍の所へ向かった。
「アオ、私、麒麟に会いに行こうと思う」
いきなり、林の中で、夏姫がそういった。
「麒麟?」
「蓬山にいくの、芳がまえから心配だったの、私が行かなくちゃ」
強い決意の眼差しが、炎のように煮えたぎっていた。
「杖身として、私を守ってくれる?」
夏姫が熱っぽい目で彼方を見上げてくる。
?
「護衛をしろと?」
背中がざわざわする。何だ、この目の輝き。何と言うか、果てしない道のエネルギーが瞳にこめられて、それで攻撃されているような。
「私が貴方を守ってあげる」
さぁぁぁ、と風が2人の間を行き交う。
・・・・・ええと、これは何?
「アオ!!」
華藍がいきなり彼方に抱きついてきた。
「うぉ!?」
「か弱い乙女を待たせるなんて、貴方は何様なの!?早く、私をカワイソウだと慰めなさい!!」
「・・・と華藍が言ってる」
「そうか、それじゃあ、痛い、と伝えてくれ、俺が嫌いなのはわかるがいきなり締め上げてくるのは苦しいと」
6
安闔日
年に四度、春分・夏至・秋分・冬至の日に黄海の入口である四令門が一度ずつ開く日。それぞれ令乾門、令坤門、令巽門、令艮門。
界身といわれる銀行のようなものから、豪商の洪淑は太った身体ででてくると、芳国の先代の王に仕え、今は仙籍から抜かれている悪名高き漆黒の狼、天官長であった清肖が子供に字を教えていた。外見は穏やかな初老の紳士、本でも読んでそうな知的な男で、髪も白い。年は、60代を超えたくらいか。
いつもニコニコして、細面の皺が刻まれた顔には刀傷もあるが、凄みを感じない。
この中には、恐らく月渓も先頭の一団の中にいるのだろう。
王になる最有力候補は月渓、清肖、それとあのいけ好かない若い女を連れた紅黎だろう。
逆に絶対になりそうもないのは、静焔と巨体の武人九來、アオという海客を連れた夏姫という13歳の少女である。
貧困と不安、疑惑と疲労に包まれたあの国をあんな子供が救えるはずもない。
「どうした、洪淑」
女のような顔立ちの従者の一人、(実は祥慧)嶺景はターバン巻きの地味な服装で声をかけてきた。
「別に、ホラ、もうすぐ扉が開くぞ」
「ああ」
蓬山に行く途中、共州国で華藍の知り合いだという首都・連檣に立ち寄り、人通りの多い市場の中を彼方は歩いて、華藍と夏姫を守るようにして前へと進もうとした。
「さすがは、供王が納めておられる国ね、凄い賑わい」
「95年くらいでしたっけ、在位・・・」
彼方は言葉が通じない事を、通りすがりの男達にバカにされ、内心揺れていた。成績もよく、少なくともバカではないと信じてきた彼方にとって、その評価は心外だった。自分がまるで何もわからない、馬鹿なもののように扱われるとは。
「く・・・っ」
そんな時、夏姫が不思議そうに彼方を見る。
「アオ?」
「何でもない、大丈夫だ・・・」
そんな時、彼方は道の片隅で、どこかの徒弟だろう、なじられ、バカにされ、無知のようなもので叩かれている10歳ほどの少年とそれを見世物のように見る着飾った妖しい美貌の女性達を見つけた。
彼方は踏み出そうとしなかった。
「あいつら・・・っ」
華藍は情がある人であり、困った人はほうっておけないやさしさを持っている。このとき、彼方は始めて、彼女のプラスな場面を知る事になった。心が読めることは、彼方にとって奪われることであり、コントロールしなければいけないものだった。
好意的に思いながら、彼方は華藍の腕を引きとめた。