序章
二.常識とは十八歳までに身につけた偏見のコレクションのことをいう。(アインシュタイン)
序章―月の海に踊る
1
ヒュウウウウ―・・・。
満月が闇夜の世界を一面に照らし出した時、六本木の超高級オフィスビル内の非常階段に、道の武器を持った11歳の少年が闘争しているという情報が警察庁に飛び込んできた。
西暦は1999年、12月23日。
その日は、凍えるような雪が降る、寒い日だった。どこにでもいる普通の少年は東京の大学から盗み出したというワクチンを持って、最上階に向かおうと死、警備隊も出動するという異常な状況だった。
「おい、見つけたぞ、捕らえろ」
「追え・・・っ」
恐怖と絶望、混乱が科学者の父を持つ少年を走らせていた。
人類初のトイフェルヘルト、人類の盾であり剣である正義の味方に目覚めた少年はその日、選ばれた。
闇の中で、炎のように少年のヒトミが黄金色に輝く。
少年は、人類を守るために野球選手という夢を捨てる事となった。誰からも愛され、必要とされ、正義の為に戦う戦士として。
黄金の光の柱が少年の足を包み込む。
―助けて。
少年は、頂上の屋上にはだしでたどり着いた。
ヘリコプターの音が鳴り響き、イヌが泣き、警官たちが屋上に飛び込んできた。
ツゥアシュテールングヴァッフェは、戦艦ゲッツェの巨大なテレビ映像の前で黄金のイスに座って、酒を飲んでいた。漆黒の闇には、数点の輝かしい星が宝石のように散らばっていた。勇者と呼ばれる巨大人型兵器は、意志を持ち、全ては正義の為に行動していた。彼が生まれたのは惑星シリウス。
600年も続く軍事国家、シリウスを支配するアヴィルロスメディアロウス帝国。正義の機兵軍団ジャスティスと、力を愛するブランドラーは生まれた時から争いの中にあった。
そんな環境で、皇帝と帝国の為に、ツゥアシュテールングヴァッフェは造り出された。
ツゥアシュテールングヴァッフェは不敵な微笑を浮かべる。
「閣下、出撃の合図を」
「カーディナル、お前も着ていたのか、副官のあやつはどうした」
勇者がいる仲で唯一の人間が立っていた。漆黒のフードには紫色の巨大な目を模倣したデザインが見え、枢機卿である仮面の男は低く美しい声で答える。
「閣下の指示通り、すでに指定の場所で待機しております」
「奏か、デハ飛び切りの舞踏を始めよう」
にやりとツゥアシュテールングヴァッフェは、扇を広げる。
2
速見明主馬と深海は、月耶麻市に両親と共に一軒家で住み、クリスマスを迎えようとしていた。明主馬は、病気の多い弟を憎んで、いつもどおり、不機嫌そうにサッカーボールを持って玄関に向かった。
北区に住む御堂茉莉耶は、誕生日を迎え、いつもどおり、剣道の稽古に明け暮れていた。
「お父様が今日帰ってくるんですか」
「ああ、可愛い娘のせっかくの誕生日だしな」
「わぁ・・・!」
天堂結衣はバレエの発表会がクリスマスに重なった事に不満を抱いていた。明主馬の幼馴染のような関係となる人間は、明主馬も入れて7人。
ガキ大将の速見明主馬。おてんば娘の御堂茉莉耶、気が弱く優等生の天堂結衣、背が低く気難しい神巧寺リュウト、太目の陸屋紳、意地悪な金持ちのお嬢様青山馨、親友で一番の仲良しのリーダー格の立花ライ。
いつも、この七人で、丘の上野公園、桜公園で遊んでいた。
・・・・さぁぁぁぁぁぁぁ。
5年後、焔馬市の古い廃寺で、薄い茶色の髪の痩せ型の可愛い顔立ちの少年は、低学年の頃に事故で出来た稲妻のような火傷のあとを痛みを抑えながら、本堂に雨宿りに入った。完全に何かに支配された世界。静寂と圧倒的な圧力を感じる空間は、荒れ放題で、仏像もかなり苔がついていた。
少年の名前は、十城聖夜だった。
今年で13歳を迎えたばかりだ。聖夜は何となく、お化けでも出そうな雰囲気に怯えた。
「・・・雨、やまないかな」
そんな時、背後でドタン、と鳴り響いた。聖夜は慌てて濡れた身体をそっちの方向に反射的に振り返った。
「何・・・ッ」
聖夜は目を見開いた。紺・・・、いや、漆黒の美しい長い髪が床に散らばり、全身を包帯で巻かれた女の人、いや少女というべきが、聖夜には年上という事もあって、華奢な体型の女の人が倒れていた。
コォォォ・・・・
「?」
光の輪が少女の体からこぼれだし、空へと向かっていく。日現実ナ現実に、聖夜はぎょっ、となった。
「ああ・・・う・・・・・あああ」
少女は苦しそうな表情を浮かべていた。
ズゥ・・・・ン!!バキバキ・・・・・!!
手足をばたつかせ、喉元を抑えながら、少女は光の輪を放出させ、苦しそうにもだえながら、暴れまわる。異常な事態に、聖夜は恐怖で顔を歪ませ、身動きが出来なくなっていた。
・・・・何、これ、何、これ。
少女の瞳から血の涙がこぼれる。カッ、とめが見開き、少女は修羅の表情をしていた。
「ひっ」
「家族の敵・・殺す、殺す!!」
ボォォォ・・・・ッ。今度は青白い炎が少女の身体を包み込み、少女は聖夜に目をつけると、首をつかんで、床に引き倒した。
殴られ、殴られ続ける。
・・・・殺される。
何度も続く痛みの中、聖夜はそう思った。少女の美しい顔は歪み、正気を少女は失っていた。
「止めて、止めて!!」
・・・誰か、助けて!!父さん、先生、皆!!
「止めろ!!」
聖夜は思わずどなり、少女の身体を突き飛ばし、身体を後退させた。少女は相変わらず怒りに燃えていた。
「・・・・うううう・・・・・」
何故、そんなにも泣いているのだろうか?何か、悲しい事があったのだろうか?怖い事に巻き込まれて、だから、あんな格好にさせられているのだろうか?
聖夜は単純にそう感じ取った、深くは考えなかった。
何が怖かったの?
「お姉さん・・・」
息を整えながら、少女を見た後、聖夜は自分の着ていたコートを少女の細い肩にかけて、肩に触れた。
「!」
少女はその時、初めて正気から現実に意識を取り戻した。
「大丈夫?お姉さん、怖い事あったの?どこか痛いの?」
視線に合わせる為に膝を折って、安心させるように微笑んだ。
「大丈夫、大丈夫だよ」
聖夜は少女の頭を優しくなで、ぎゅうっ、と母親がするように頭を抱き寄せた。
「ううう・・・」
少女はゆっくり聖夜を見ると、やがて炎を消して、表情も緩やかになっていった。
「もう、痛いのないよ」
「あ・・・ああ・・・・」
少女はまるで子供のように泣いて、力いっぱい聖夜にぶつかってきた。縋り付いたというべきか。
「あああああああああああああああ・・・・・」
子供のように、茉莉耶は泣いた。
3
目がくらむほどの黄金の光があふれ、雲や青空に囲まれた空間で、烈は自分が夢の中にいるのに気付いた。天使が飛び交い、古代ローマのような衣装を着た人間が楽しそうにおしゃべりをしている。
そうだ、自分は、ダヴィデタワーに社会科見学できているはずだ。
何故、こんな夢を見ている?
「烈、しっかりしなさい!!」
乱暴に襟元を捕まれ、黄色のカチューシャをつけた亜麻色のロングヘアの美少女が烈を現実に引き戻した。
「えりす」
げっ、と烈は思った。周りはまた夫婦喧嘩か、と無責任に囃し立てる。
「そんなんじゃないわよ!!」
「違うわ!!」
仲いいな、とけらけら笑いながら、烈の周りを通り過ぎていく。ちなみに他のクラスメイトより、烈は背が低い。本人にとってもかなりのコンプレックスだ。
「まったく、私が自分より背が低い男を相手にするわけないじゃない」
烈の黒髪を軽くぽんぽんと叩きながら、どこかから買うような笑顔でそういった。
「えりす・・・、お前、バカにしてるだろ」
その時、親友の月詠涯が冷たいアイスブルーの髪を風で揺らして、淡く弱い赤い瞳で頼るような視線を、烈に向ける。
その時、艦内に人気アイドルグループ、烈もファンであるヴァイス・デァシュテルンの定番曲「星の彼方へ」のサウンドが流れる。音楽の種類としては明るいダンス曲ではなく、時空に切り離された恋人達の事を歌った神曲である。
「僕、この人たち、苦手・・・」
涯が弱々しい声でそういった。
「女神の曲だぞ、特に、ユナネエサマなんて、熱いソウルじゃないか!!」
えりすが力強く烈の頬をはたいた。
「あんた、ばかぁ?」
輝くような笑顔と射抜くような視線、男性が思う女性の可愛らしい仕種をリーダーの赤神結那、明るくスイートな印象の宝生恵那、しとやかであり、クールな御堂茉莉耶が細い腰をむき出しにした、伝統のアイドル衣装で澄み切った歌声でうたっている。特にカリスマ性が高いのは、一度渡された曲を全て覚えてしまうという宝生恵那だ。
天性の美貌、才能に満ちている。
名乗る前に、鷹宮結弦アドルフ・バルツぁーは、ハレルヤの音楽を大音量で流しながら、神の翼を広げ、神々しくも威厳に満ちた、ゴットタプファーの最強の防御兵器、ゴットタプファーの鎧、オルデンオールマイティを優美な指先でパッチパネルを操作した。
敵側の機体、イルシオンのパイロットは、それが悪夢の魔神、ナイトメアクリエイターの得意技であることに気付いていた。