うぬぼれる脳 ー「鏡のなかの顔」と自己認識
「うぬぼれる脳 ー『鏡のなかの顔』と自己認識」ジュリアン・ポール・キーナン(山下篤子訳)(NHKブックス)脳科学の本です。P18 「鏡に映った像を自分と認識する能力は、あたりまえのように思われているが、脳と意識のもっとも複雑な謎の一部を解き明かす手がかりになるかもしれない。」P18 「セルフ・アウェアネスとは、自分が考えているということを認識し、その思考過程を自覚し、内省する能力である。セルフ・アウェアネスは『心の理論』、あるいは『心的状態の帰属』と深く関係している。」P33 ギャラップの鏡のテストについて。その綿密な方法とチンパンジーは自己鏡映像の認知ができるということについて記載。P70 「自己知識には、他者についての知識が前提として必要である。言い換えれば、私たちが自分自身について知っていることのほとんどは、ほかの人たちから得るフィードバックの副産物である。(中略)一頭だけ社会的に孤立して育ったチンパンジーは、(中略)自己認知を示さない」P107 「一八ヶ月までは、明確な『自己記憶のシステム』が完全に確立されていないというこの事実が、乳幼児健忘の原因なのではないかと示唆されている。二歳までの出来事を思い出せる人がめったにいないのは、その頃までは自己認識的アウェアネスが完全に発達していないという事実と関係しているのかもしれない。」P131 子どもを対象にした心の理論の研究。スマーティ・テスト、面白い。お菓子の箱を見せて、何が入っているかを答えさせる。当然子どもは「お菓子」と答えるが、実は鉛筆が入っているということを見せて知らせる。さらにそこで「これからお友だちがこの部屋に入ってくるんだけどこの箱には何が入っていると思うかな?」と尋ねる。「お菓子」と答えられるなら「心的状態帰属のスキル」が発達している。そうでない場合、「鉛筆」と答えてしまうそうだ。P170 いよいよ著者らの研究成果が出てきた。fMRIを使ったテストなのだけれども、「自己の顔認知」を調べるための比較対象を探すのが大変だったらしい。「しかし顔ならなんでもいいというわけではない。あまり情動的ではなく、しかも見る気のする顔が望ましかった。情動を喚起しすぎる顔だと、『自己』の領域ではなく、『情動』に関与する領域を検出してしまうことになってしまうかもしれないし、かといってあまりにも味気のない顔だと、『退屈』の中枢が検出されてしまうかもしれないからだ。」で、選ばれたのは・・・アインシュタインの顔なんだと・・・(笑)P199 「しかし、少ないとは言っても、鏡に映った自分を自分と識別できない症状を指す『鏡徴候』(鏡失認)という用語が考案されているくらいなので、まったくないわけではない。」P241 「人が過去、現在、未来にまたがる時間の流れのなかで安定した自己の表象がもてるのは、事実に基づく自伝的記憶の再生によるのではなく、自己連続性の感覚があるからだという考えだった。この研究者たちは、前頭葉のロボトミーを受けた患者は、正常な自己連続性が途切れてしまい、それが自己の欠損を引き起こすと提言した。」P270 「ユーモアは、『不純物の入った』変数である。ー意味的な(言いかえれば、非自己の)知識の要素を必要とし、それにくわえて、ときには自己や心の理論の要素も必要とする。しかし、完璧なテストではないとはいえ、ユーモアは自己や心の理論を調べる研究に用いられる。で、例示として出されるジョークがこれ。「ペンシルヴェニア州は片側にピッツバーグ、もう片側にフィラデルフィアがあって、まんなかはアラバマ州だ。」というもの。わかる?!P278 「(分離脳患者のお話で)左半球は、ある刺激が右半球にだけ呈示され、したがってそれに気づいていないとき、応答をでっちあげることがある。たとえば右半球に氷が呈示されると、このところ寒いですねなどと言ったりする。しかし、この行為は、心的状態の帰属を必要とする真の欺瞞にはほど遠い。左半球は、それがいつわりであるという意識がないまま作話をしていると考えられる。つまり事実に気づかず、それを補填しているにすぎない。意図的な欺瞞を実行する(他者の心を読んだうえでいつわる)、あるいは欺瞞を検知する(他者の心も同じ行為をするかもしれないということがわかる)には、どうやら右半球が必要らしい。」そういうわけで「左利きの人には嘘をつくな」ということになるらしい。我が家は5人中3人左利きなんで・・・嘘つくのは止めておこう(笑)P295 進化心理学という分野があるらしい。そこで議論されているのがセルフ・アウェアネスのコストに対する真の補償。「共感」と「欺瞞」どちらが進化的に本当に必要なのだろう?P313 田谷文彦氏によるあとがきも面白い。特にゲシュタルト崩壊。ちょっと気になるので今度調べてみようと思います。【中古】 うぬぼれる脳 「鏡のなかの顔」と自己意識 NHKブックス/ジュリアン・ポールキーナン(著者),ギャラップ,ジュニア,ゴードン(著者),ディーンフォーク(著者),山下 【中古】afb