賢い大家さんとは?
こんばんは、謎の不動産屋、Mr.Xです。ブログ開設当初だというのに、早くもたくさんの方に読んでいただけたみたいで、大変光栄です。期待に違わぬように、さっそく本日から濃い内容の記事を提供していこうと思います。(というか、本当はいきなりの来訪者の多さにビビってます。日本海@大家さん、さすが息つく暇も与えないですね。。。)さて、さっそくですが、我々不動産屋から見て「ああ、この人は賢いなぁ!!」と思うような大家さんがいます。それは、「損得の分かる大家さん」、もしくは「計算のできる大家さん」です。計算といっても、決してCCR(キャッシュオンキャッシュリターン)とかDCF(ディスカウントキャッシュフロー)とかの難しい指標ではありません。算数レベルの簡単な問題です。さあ問題です。ここに空室があります。前の入居者さんが出て行ってから早一年です。前は賃料75,000円で貸していました。ある日、大家さんの元に仲介の不動産屋さんから電話があり、次の様に言ったとします。「大家さん、本日○○アパートの○○号室にお客さんを案内したのですが、65,000円だったら借りたいと言っています。どうしましょうか?」こんな時、あなたが大家さんだったらどう答えますか?(注)実際にはこんな電話はかかってきません。 なぜなら、10,000円ダウンという図々しい要求をする入居希望者は時たまいますが、不動産屋の営業マンが一蹴します。 そんな厚かましい要求をしたら、大家さんから怒られるのではないか?とか、 どうせ通る訳ないとか判断するからです。 ただし、数千円レベルの交渉であれば、割とよくある話ですよね。模範解答は、「ああ、よかった。ぜひその人で話を進めて下さい!」です。なぜこれが正しい答えかというと、計算すれば分かります。条件を呑んで、入居を認めた場合、入る賃料は毎月65,000円です。先々まで考えた場合、例えば今後一年間の収入は 65,000円×12ヶ月=780,000円 となります。ただし、もしも設定通りの家賃で入居が決まった場合、入ってくる家賃は 75,000円×12ヶ月=900,000円 です。ここで、「12万円損した!」と思う人は大家失格です。(もっとも、大家さんはそんな人ばかりですが・・・・・・)すでに一年間空いているというのがこの問題のポイントです。じつは、一年間空いている部屋というのは、この先何年たってもずっと空いたままです。その部屋は入居者に選ばれる価値がないので入居が決まらないのです。この空室を解消するためには、75,000円の家賃に相応しい程度まで価値を上げるか、またはその部屋の価値に応じた家賃まで値下げするかのどちらかです。今仮に、この部屋の実力からみて妥当な家賃が70,000円だとします。すると、もしもさっきの状況で65,000円での契約を断った場合、さらに空室が続きます。2ヶ月後に気付いて、家賃を70,000円に下げた場合、そこから約1ヶ月後に入居が決まったとしましょう。都合3ヶ月の空室の後なので、70,000円×9ヶ月=630,000円 が入ってきます。65,000円で快諾した場合に比べて、15万円のマイナスです。(780,000円-630,000円)一年後を比べてみましょう。70,000円の契約が65,000円の契約に比べて月々追付く金額は、当り前ですが5,000円です。(70,000円-65,000円)一年後に追付く金額は 5,000円×12=60,000円 です。二年後に追付く金額は 5,000円×24=120,000円、そして、やっと二年半後に追付く金額が 5,000円×30=150,000円 です。そう、3ヶ月のロスを追付くのに要する年月は、なんと3年と3ヶ月間でした。(初年度の9ヶ月間も含むと39ヶ月となるため)計算すると明らかですが、月々の家賃の差というのは大した差ではなく、空室ロスというのは重たい損失なのです。ここに出て来る計算は、小学生レベルの掛け算と引き算だけなので、何も難しいことはありません。しかし、これが分からない人があまりにも多い!というのが現状です。そんな中、賢い大家さんというのもいるものです。この人たちは常に入居を優先します。満室こそ最上の価値ということが分かっています。ある時、たまたま退去が重なって、全12室のマンションで同時に3室も空くことになってしまいました。これは実例ですが、ちょうど上の例題に挙げたような物件で、平均75,000円の賃料でした。ここの大家さんは一代で町工場を興し、大きく育てた方ですが、製造業衰退の兆しをいち早く感じとって、まだ経営良好のうちにさっと工場を畳んで貸家業に鞍替えしたそうです。この時、この大家さんはまだ退去前の時点で、さも一大事だとばかり我が社に電話をかけてきて、「今度空く部屋の家賃は3部屋とも65,000円にしてくれ!」と言いました。「えっ?そんなに安くしていいんですか?」「いいんだ!」と有無を言わせぬ口調で半ば命令の様に指示されました。その結果は、退去予定の3室は全て退去前に申込みとなり、早い部屋は退去後一週間で、遅い部屋は一ヶ月後に入居となりました。これを「さすがだ、賢い!」と思うか、「もったいない、バカだ!」と思うかは人それぞれです。理想を言えば、高すぎず安すぎない適正な家賃で、空室期間はそれなりに短く貸せれば一番いいでしょう。しかし、私がいろんな大家さんを見てきた結果、適正な家賃を見抜いて絶妙な設定をし、見事に入居が決まっている例はごく僅かです。たいていの人は慾をかきます。大家さんはみんな言います。「この部屋では○万円欲しい」と。そんな部屋はたいてい決まりません。結局、トクする大家さんというのは、目先の家賃に欲張らずに長期的な計算ができる人ということが言えると思います。これが私の考える賢人大家さんです。Mr.X