[現地時間:2011年10月21日(金)]続き
「あかん、財布すられてる!!」
二人の女の子のうち、小柄な方の子が顔面蒼白になって叫んだ!
見ると、背負っていたデイバッグのチャックが開いたままだ。動転して列車から飛び出しかけたので「降りたところで、どうにもならない」と言って止めた。どこですられたかは知らないが、目の届くところに犯人がいてしかも手に財布を持っているわけがない。荷物ごと列車に置いて行かれるだけだ。
たぶん二人は姉妹なのだろう。もう一方の子が「もう一回確認してみて」と諭すが、当人は持ち物の配置にはっきりと記憶があるようで、たぶんホームに上がるエレベーターの中だと言う。どうやら本当にすられたようだ。
呆然とする気持ちは(ほんの3日前に僕も体験したので)よく解るが、とにかく打つべき手を打たせなければならない。幸いパスポートは無事だった。盗られた財布の中身は、持ち込んだ全てのユーロとクレジットカード1枚、銀行のキャッシュカード、免許証、それに保険証。クレジットカードはVISAだということしか分からず、カードナンバーも控えていない。
自力で調べるのは(手元のスマホと電池切れ寸前の携帯では)無理があるので、会社に電話してスタッフUに三井住友VISAカードの連絡先を調べてもらった。当人が1カ所にかけている間に次の電話番号をスマホに入力しておき、電話が終わり次第手渡す。これでクレジットカードも銀行のキャッシュカードも迅速に停止できた。免許証と保険証は日本に戻ってから再発行すればいい。
現金は諦めるしかない。買ったばかりという財布は...海外旅行保険で何とかなるだろうか? ちょっと分からないけれど、盗難手続だけしたら、あとは保険会社の判断に任せるしかないだろう。あとは目的地に着いたら、できるだけ警察を探して届けを出すように奨めた。(僕自身はやらなかったくせに(苦笑)
まさか3日前の自分の経験(?)が早々に役立つとは思わなかった。.....
「気落ちしているだろうけど、これで全部手を打ったのだから、開き直って車窓の風景を楽しみましょう。」
そんなことを言っている頃、列車はちょうどコブレンツに到着した。ライン川の古城を眺められるのは、まさにここから先だ。
さっそくいくつかの古城が山の上に見えてきた。
(ほんとにがっかり、ローレライ...)
しかし、ここでまたしても霧がかかり始めた。
「今日は霧に祟られますねえ!」
「さっきローレライの岩を馬鹿にしたのも悪かったかも?」
それでも青空が見えたり隠れたりを繰り返すところを、3人で左右の車窓をチェックし合い、「こっちに見えてますよ~」と伝えあいながら、それはそれで楽しい車窓観光になった。僕にとっては今回つかの間の旅の道連れだ。
やがて列車はフランクフルト空港駅で到着。彼女たちはここから飛行機だ。
「そろそろですね。」
「良い旅を。」
何となく野暮な気がして、そのまま別れてしまった。3度もばったり出会ったのも何かの縁だし、盗難のこともあるし、連絡先くらい渡しても良かったのかな..と思う一方で、これはこれでいいのかなとも思う。僕も若い頃、たまたま旅先で一緒になった熟年夫婦のお世話になったことがあった。旅はそんなことの繰り返しかもしれない。
彼女たちと別れてほんの10分ほどで、終点フランクフルト中央駅に到着。
いかにもヨーロッパ鉄道の表玄関といった偉容で、とにかく巨大だ。大きなドーム型の構内の片側に喫茶店や専門店、果てはスーパーマーケットまで並んでいる。異国情緒たっぷりのアナウンスが延々と響き渡る。
子供の頃に見たアニメや何かの映画に出てきたヨーロッパの雰囲気そのままで、何とも心地良い。...そういえば、昔からこういう場所に来たかったのだ。
(帰国後、フランクフルト中央駅は「アルプスの少女ハイジ」に出てきたことが判明)
#8に続く