東京日和
休日は、街中を歩くことが多く、今日もふらふらと散歩に出かけた。東京はよい天気で、歩いて流れる汗が、時折吹き抜ける風でスーッと引いていく、いわゆる散歩日和だった。散歩は無目的なのが贅沢でいい。午後、たっぷり時間があって、特にどこに行きたいわけでもないときこそ、道に迷うことができていい。近所からD坂を通り、U公園まで、てくてく3時間近く歩いた。本筋から外れない程度に、横道に入り、異界をのぞいて迷いかけては、また本筋に戻る。舗装された道を歩きつつ、上を見れば青空と緑、目の高さにはさりげなくもしたたかに咲く花が見られる。マンション群の間には、ボロボロの家や意匠を凝らしたお屋敷がたっていて、人の生活が垣間見られて楽しいのだ。写真は、そんなお屋敷街を歩いていたとき見つけた塀の海。きれいなブルーのガラス細工が埋め込まれていた。東京のこうした面白みは、散歩でしか味わうことができないのではないか、と思う。大好きな作家のひとりに荒木陽子さんがいる。天才アラーキーの奥様で、もう他界されていることは名作「センチメンタルな旅・冬の旅」で知られている。私は、実は本当の天才は、陽子さんなんじゃないかと思っている。技巧ではなく、天性のうまさ。眼のすばらしさを感じる。「愛情生活」をはじめ、彼女のエッセイは数冊しかない。★★★全部読み終わってしまって、はたと、もう読めないのかと我に返り、締め付けられるような気持ちにさせられた、数少ない人。東京の街を描いたエッセイも多く、荒木夫妻がいかにこの都市を愛していたのかがよくわかる。映画にもなったのが「東京日和」。映画は見ていないのだが、もしも映画しか見たことがない人がいたら、何よりも陽子さんの文章を味わうことをお勧めします。★★★東京日和。この本のタイトルが持つ空気は、歩くことでしか得られないなぁ、と今日またつくづく感じた。