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コレステロールの真実

コレステロールの真実    img003.gif


*2007年4月日本動脈硬化学会は遅まきながら、総コレステロールは動脈硬化に関係がないことを認める新ガイドラインを発表した。

高脂血症は脂質異常症と改められ、総コレステロールは基準から完全に外された。
「脂質異常の診断基準」(空腹時採血)は、下記である。
LDLコレステロール値が140mg/dL以上
HDLコレステロール値が40mg/dL未満
トリグリセライド(中性脂肪)値が150mg/dL以上
「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007年版」より]

今まで総コレステロール値が高いという理由で、長年抗コレステロール剤を飲まされてきた患者の立場はどうなるのか。


以下、従来から私が主張していることを掲載する。


総コレステロール値は下げるべきであろうか!?

コレステロールは一般にも目の敵にされ、動脈硬化を起こす原因ということで、毛嫌いされている。

コレステロールが高いと医者も安易にメバロチンなど抗コレステロール剤の服用をすぐに薦める。

そのお陰で現在日本の成人で高脂血症と診断される人は何と2700万人にも上っている。

どうしてこんなことになっているのであろうか?

抗コレステロール剤は医家向け医薬品市場の中でもドル箱市場である。

その中のトップ売上を示しているメバロチンは何と全医家向け医薬品の中でもトップであり、年間に2000億円近くの売上を示している製品なのである。

当初、日本のコレステロールの正常値は220であったが、基準が低すぎるとのことで、海外と同じく240に一時上げられた。

ところが、今まで高脂血症と診断され、長い間高脂血症剤を服薬していた何百万人の患者が急に正常者になってしまった。

医療機関、医薬品業界からのクレーム、突き上げの結果、学会は再度訂正し元の220に戻した。

そのことによって患者はまた激増したのである。

それではそもそもコレステロールを下げるべき根拠はどこにあるのであろうか!?

コレステロールが高いと動脈硬化が進展し、冠動脈疾患になるという海外のデータを元にしている。

脂っこい食事を日本人の何倍も食べ、冠動脈疾患が日本人の何十倍も発生する欧米人のデータを基にしているのである。

それでは日本人のデータはないのか?

福井市における調査では、総死亡率を検討したデータがある。

コレステロールが低い方が死亡率が高く、コレステロールが高いほうが死亡率が低いというデータである。

日本人の場合、通常心配する必要が少ない冠動脈疾患よりも、総死亡率を重要視すべきで、コレステロールは高いほど長生きするという結果が出ているのである。

つまり海外のデータをもとに、そこまで心配しなくてもよい冠動脈疾患を心配してコレステロールを下げ、寿命を縮めているのである。

また最近のデータではコレステロールが高いほど癌に罹りにくいことが分ってきた。

余り極端に高すぎるのは問題だが、コレステロールは高い方が、癌にも罹りにくく長生きするのである。

もうひとつショッキングなことがある。

この莫大に出ているメバロチンには恐ろしい副作用があることである。

将来性を嘱望されていた、いちサラリーマンが高コレステロール(その数値は一番長生きをすると思われる数値であったのだが)を指摘され、メバロチンを処方された。生真面目な人なので指示どおりにずーと服用していたところ、全身の筋肉が溶けるという恐ろしい横紋筋融解症になった。

現在、死に瀕しているが、一人で戦っている。

「私は薬に殺される」(福田実)という書籍に詳しく掲載されているので、一読いただきたい。

下げる必要のないコレステロールをメバロチンによって下げ、不具者になり、命が尽きようとしているというこの矛盾は許されるべきものではない。

私は薬に殺される


参考論文:
おくすり千一夜 第百二十九話 
コレステロールは高めがいい!
 第69話で、「コレステロールなんか恐くない!」というお話をしました。それは、アメリカのフラミンガムという町で行なわれた疫学調査を、日本で検討し直したところ、コレステロール悪玉説が崩れて糖尿病、高血圧、喫煙、心電図異常のような危険因子の多い程、虚血性心疾患の発症率が高くなり、単にコレステロール値が高いだけなら発症率は、極めて低いことがわかりました。
 また、Multiple Risk Factor Intervention Trial という疫学調査では、コレステロール値の違いや食事療法の有無で心疾患の発症率に差はなく、コレステロールも食事療法では低下しないことが明らかになっています。
 上述の内容は海外での話です。今回は日本で初めて5万人もの高脂血症患者!を対象に、シンバスタチン(リポバス)という薬剤を服用してもらい、6年間追跡した結果が公表されました。そこで朗報とも言える意外な事実が明らかになって来ましたので、その概要を紹介しましょう。
 試験の名称は「Japan Lipid Intervention 」、通称J-LITといいます。その内容は日経メディカル2001年2月号に、更にそれを分析・評価したものが、The Informed Prescriber 第16巻3号と、NPOJIP季刊誌No.2に掲載されております。URLは(http://medwave.nikkeibp.co.jp/nm/index.shtml)と(http://npojip.org)です。
 J-LITでは、コレステロールが220ミリグラム/dl以上の35歳から70歳までの男性と、閉経後の女性を対象とし、心筋梗塞、脳血管障害発作の新鮮例(発症一ヶ月以内)、コントロール不良の糖尿病患者、重篤な肝疾患と腎疾患、二次性の高脂血症、癌その他の悪性疾患患者を除外し、約5万2千人を対象にシンバスタチンを6年間服用する疫学調査を行いました。
 その結果、全コレステロール値(TC)の累積分布曲線は最頻値が250ミリグラム/dl前後から、200ミリグラム/dlまで約50ミリグラム程低下し、シンバスタチンに顕著なコレステロール低下作用のあることが証明されました。
 この調査期間中に亡くなられた方は840人です。この方々について死因とTC値の関係が解析されました。
 最も明解なものがTC値といろいろな死因の累積度数を示す棒グラフです。これから意外な事実が明らかになりました。先ず「ガン」はTC値が低いほど死亡率が高く、完全に逆相関の関係にあり、TC値が高いほどガンにならず、280ミリグラム/dl以上の超・高脂血症患者が一番低い値でした。コレステロールを下げると癌死も総死亡も増えることが明らかになりました。
 死亡原因はガン以外に、心筋梗塞、その他の心疾患、突然死、脳血管系疾患、その他の血管系疾患、その他、原因不明、事故・自殺の九項目が調査対象で、これらを全て合わせた総死亡率は、コレステロール最低値のグループ(180ミリグラム/dl未満)で最大となり、次が最高値の280ミリグラム/dl以上のグループでした。心筋梗塞の死亡率は200~219ミリグラム/dl群に比し、最低値グループは、なんと8倍、ガンは2.6倍に増えているのです。
 一方、280ミリグラム/dl以上の最高値領域ではガン以外の死亡率が増えています。特に心筋梗塞や突然死が増えており、余りTC値が高いのも良くないことが明らかになりました。
 グラフから読みとれることは、TC値が200から280ミリグラム/dlと広い範囲で総死亡率に殆ど差がないことです。
 これまで、TC値が220ミリグラム/dlを越すと警告マークが付き、治療の必要性を指摘してきた基準は間違いであったと言わざるをえません。
 更に不可解な事実が見付かりました。TC値の範囲が左から180未満、180~199、200~219、220~239、240~279、それに280以上と6に区分されており、240以上では240から279と範囲が倍で、240~259と260~279の人達のデータが示されておりません。この事について、NPOJIPの浜六郎氏がJ-LIT事務局に問い合わせたところ、集計データは提示出来ないとのことでした。
 これは筆者の推理ですが、240~259の領域では総死亡率が最小値だったかも知れません。次の260~279まで範囲を拡げることによって、辛うじて総累積死亡率の最小値を220~239の領域にすることが出来たように思われます。こんな小細工をしても真実を隠しおおせるものではありません。
 治験データは、企画した企業にとって例え不利な内容であっても、本来公開されるべきものです。でなければ治験に協力した患者を、企業は私物化したことになり、重大な人権問題です。
 日本人は魚を良く食べるせいか、欧米に比して、心筋梗塞が極めて少ないので、欧米の基準をそのまま日本人に当て嵌めることは、本来病気でない健常人を病人に仕立て上げ、薬の服用を強要していることになるのではないでしょうか?
 いずれにしても、220ミリグラム/dlを高脂血症の限界値としてきた日本動脈硬化学会の基準は早急に改めるべきでしょう。
 筆者はTC値が240ミリグラム/dlを越した時から忠実にスタチン類を服用してきました。現在は服用は止めEPA製剤のみにしており、TC値は230ミリグラム/dlから270ミリグラム/dlの間を上下しております。
 浜 六郎氏はこの6年間の調査期間中に840人が死亡したが、そのうち120人はコレステロール低下剤の使用による「超過死亡」と推定しています。このデータと、日本でのコレステロール低下剤の推定市場規模3300億円を考慮すれば、年間2000人が超過死亡している可能性があるそうです。さらにコレステロール低下剤で癌に羅患した方の死亡は、この3倍に達すると推測されるので、癌の「超過羅患者」は6000人に達すると考えられると述べております。上述のような疫学データやJ-LITの結果から、「コレステロール高めと言うだけでは高脂血症とは言えない」、むしろコレステロールは「240~280ミリグラム/dlを正常値とするように基準を変更すべき」で、280ミリグラム/dl以上でも単に「高コレステロール」と呼ぶことを提唱しています。
 追補: 2001.5.11.
 文芸春秋の六月号に「患者よガンと闘うな!」で有名な慶応大学の近藤 誠先生が、「シリーズ成人病の真実」で「コレステロール値は高くていい」「高すぎるのは危ないが、低すぎるのはもっと危険!」という題目で、更に多くの資料をもとに解説しておられます。一読をお奨めします。
 現在高脂血症という病名で、薬を服用しておられる読者の皆さん、主治医にこれ等のことを、お話し服用の是非に付いて相談されることを希望します。


おくすり 千一夜 第百九十八話
 コレステロールは高いほうが長生きする!

 筆者は中年からコレステロールが高かったためこの疾患に関心を持ち、これまでコレステロールなんか怖くない!(69話)、コレステロールは高めがいい!(129話)、まだ低い高脂血症境界値!(134話)、高脂血症のリスクとクスリのリスク!(140話)と四つ話題を提供してきました。今回の「コレステロールは高いほうが長生きする」は、筆者がつけた題名ではありません。ある脂質代謝の臨床研究医が自戒をこめた告白の書の題名なのです。
 この本を入手した数日後(2003.11.22)、たまたま、筆者に集団検診結果を伝えるつたえるメールがとどきました。内容は「総コレステロール284 中性脂肪128 HDLコレステロール81。以上の結果、治療が必要です。専門医の診察をお勧めします。」というものでした。
 実は筆者の長年の主治医は告白・告発の書を書かれた先生で、コレステロール値の推移は充分承知しておられます。改めて結果を申し上げたところ、「血圧も血糖値も正常、HDLも充分高く、これから計算されるLDL値(178)は適当な範囲内にあり、これまで通り「治療の必要なし」というご返事でした。このようなことを堂々と主張される臨床医が今、日本に何人おられるでしょうか!そこで頂いた著書の概要を紹介させて頂きます。

 「コレステロールは高いほうが長生きする」富山医薬大教授・浜崎智仁著、エール出版社2003年11月15日発行

 はじめに コレステロールというと、生活習慣病の真っ先に出てくる低く抑えたい数字として有名です。低くしたいなら、できるだけその摂取を控えた方がいいということになり、血清中のコレステロール値の高い人は、コレステロールを多く含んでいる食品を制限するよう指導されています。
 ところが、日本にはコレステロール摂取を減らした方がよいなどというデータは、今まで存在していないのです。たとえば卵の摂取制限で動脈硬化が予防できるなどというデータは存在しないと考えてよいのです(世界的にも同様です)。
 さらに、血清コレステロール値と総死亡との関係について、日本での大規模疫学調査がいくつか発表されるようになり、総死亡率から考えると、血清コレステロール値が低いことは危険因子であることが判明してきました。コレステロールが低いと死にやすいということです。
 この本は今までのコレステロール一本槍の考え方、さらにそこから発展するコレステロールの摂取制限に対して、また高コレステロール血症治療薬のエースであるスタチン類につき再考を促すものです。動脈硬化学会が高脂血症(特に高コレステロール血症)について今までに出した二つのガイドラインについても、いくつかの問題点を指摘しました。
 この本は結論として、血清コレステロールが260ミリグラム/dlまでは決して総死亡率が高くなく、コレステロールが240~260の人を治療するのは、一番死ににくい人達を治療するという社会医学的に矛盾に満ちたことをしていることを示しています。これを是正するだけで年間二千億円以上の医療費を削減することができるでしょう。

 以上が序文の前半です。この本は四部からなり、一部「コレステロールは高いほうが死ににくい」、二部「危ない!高コレステロール血症の食事療法」、三部「コレステロール低下薬スタチン類研究の日本でのお寒い現状」、四部「やっぱり危ない。日本人のコレステロール常識と健康常識」で、通しで十七章から成っています。各章の表題で、特に注目したものに3章「コレステロールの危険性を強調した非科学的データがなぜ一人歩きしたのか」があり、非科学的なデータを検証できなかったのは著者を含む研究者の怠慢と決め付けておられます。
 また4章では「コレステロールを減らす食事療法は心筋梗塞を増やすことがある」と、これまでの常識を覆す内容があり、五章では「良いと言われてきたリノール酸の危険性について」説かれています。15章では「高齢者と女性は高コレステロールの治療が不要な理由」が挙げられており、筆者の高コレステロール血症も治療の必要の無いことがよくわかりました。何よりも眼を引いたのは16章{「コレステロールは危険」常識の弊害}日本では長期のコレステロールの二重盲験試験がなぜできないかでした。日本で行なわれた大規模な臨床試験(通称J-LIT)でも薬物を投与しない、あるいはプラセボーを長年飲まされていた対象者が居なかったのです。ですから薬を飲まなかったら、どれほどの死者が出たのか知る由もありません。おそらく薬を飲んだ人達より少なかったでしょう。
 本書はこれまで国内外で行なわれてきた臨床試験のデータが全てグラフ化されて豊富に掲載されており、薬理作用や、結果の評価についても解説されているので、一般の方々には啓蒙書であると同時に、医療者にとっても大変参考になる内容です。

 さて治療の現状はどうでしょう。2003年12月10日の読売新聞に<高脂血症の予防と治療>「新世紀を生きるー医療ルネッサンス仙台フォーラム」の詳細が掲載されておりました。講演で脂質代謝の第一人者、元・防衛医大教授中村治夫先生は「動脈硬化学会は高脂血症の診断基準を総コレステロール220以上、悪玉(LDL)コレステロール140以上、善玉(HDL)コレステロール40未満、中性脂肪150以上としており、さらに糖尿病や高血圧、喫煙など動脈硬化を進行させる危険因子を持っている場合には、治療の目標値はもっと低く設定される」と述べておられます。この基準を適応すると、40歳以上の日本人の三・四割は高脂血症と診断される!そうです。
 筆者のように総コレステロールが280を越す場合ならともかく、220~260の値の人たちが死亡率が最も低いと言う大規模臨床試験(J-LIT)結果が、最近我が国で出ているにも拘わらず、相変わらずこのような診断基準がまかり通っているのは摩訶不思議と言わざるをえません。
 人間の体は本来大変複雑な酵素反応の塊です。例えば油症と乾燥肌の人の定量的生理機能を違いを述べた報告を筆者は知りません。このような多次元の現象を、単純な物差し(数値)で線を引き、健常人と病人に区別することは誤りであると、常識人なら誰もが考えるのに、なぜこのような診断基準が相変わらずまかり通るのでしょう。これには科学の仮面を被った営利と言う魔物が学会に乗り移っており、その仕業と考えざるをえません。年間に何千億円という医薬品費が、治療の必要のない人達を患者に仕立て上げることで、浪費されているのです。 これでは近頃はやりの「おれおれ詐欺」や「振り込め詐欺」を笑えません。

追補1 : 2005年2月20日の読売新聞に「コレステロール やや高めが長生き? 脳卒中など少なく低死亡率」と言う記事が掲載されておりました。大阪府守口市で1997年度に健康診断を受けた住民約16,000人を五年間にわたって調べたところ、男性の場合、コレステロールの高い人の方が死亡率が低く、男女合わせると、糖尿病の患者や喫煙者は、そうでない人に比べ死亡率が高いが、高コレステロール血症の人はかえって死亡率が小さかったそうです。福井市や大阪八尾市でも同様な調査があるそうです。現在の基準は米国の結果そのもですが、東海大の大櫛先生は全国の健康診断受診者約70万人のデータから健康的な集団の95%の人が収まる範囲の上限値を算出し、「中高年の場合、男性は260台、女性では280台とすることが妥当」で逆に若い年代では「低めが望ましい」と述べておられます。
 コレステロールの基準値に疑問が投げかけられて5年。この間に抗高脂血症薬を呑み続けた健常者は、国内の疫学調査に無関心な学会と企業に、医療費の返還を求めるべきかも知れません。


成人病の真実 近藤誠著/文藝春秋
コレステロール値は高くていい
高すぎると危ないが、低すぎるのはもっと危険!

管理コメント:この様な事実を目の当たりにすると、専門家とは何か、如何なる存在か?との疑問を持たざるを得ない。
書きたくはないが、日本動脈硬化学会に居る専門家とは”それで飯を食っているだけの人”なのだろう。
コレステロール低減剤が無意味有害であり、薬でコレステロールをコントロールすべきでないと認めると、製薬会社は売り上げを減らし、循環器系の医院も患者が減って打撃を受ける。それだけはどうしても避けたい。ついては医療現場とは離れた学会で基準をでっち上げておけばいいということなのだろう。
本当の専門家は、患者にとってどうするのが良いのかを一番知っていなければならない。さすれば、日本動脈硬化学会で”ガイドライン”なるものをでっち上げた人々は、患者を思う医療の専門家ではない。厳しく表現すれば詐欺の専門家であり、別の見方をすれば製薬会社の宣伝マンか?
永らく”お医者様に”お薬をいただいて200以下にして貰っていた患者が、もし書かれているような病気で死に瀕したなら、詐欺罪あるいは傷害罪で、日本動脈硬化学会幹部や医師、製薬会社を訴えることも可能だろう。それほどずさんで根拠のない医療行為だと思う
日本の医薬品で、いま一番処方されているのはメバロチンです。コレステロール値を下げる「スタチン剤」の一種で、一九九九年の販売額は一八五〇億円! 二位がガスター(抗潰瘍剤)の七五〇億円ですから、そのすごさがわかります。薬価からすると、メバロチンの服用者は年間二六〇万人前後にもなる計算です。

他のスタチン剤も好調で、リポバスが年間六〇〇億円、ローコール一六二億円、セルタ九五億円、バィコール八○億円などと、どれもたくさん処方されています。したがってスタチン剤全体では、毎年四〇〇万人前後が服用しているでしょう。
〔補注セルタとバイコールは、一般名をセリバスタチンといい、別々の会社が販売していました。ところが米国の食品医薬品局が「セリバスタチンの副作用で、米国内で三一人が死亡した」と公表したことを契機として、日本では二〇〇一年八月に両者とも販売中止になりました。〕・・・

しかし結論を先にいえば、スタチン剤はほとんどの場合無意味です。そればかりか高コ血症者の大部分は、スタチン剤を服用すると死亡率が逆に高くなる可能性があり、最近、それを裏づける試験結果が報告されました。・・・

読者がコレステロールにいだいているイメージを想像してみると、コレステロールは万病のもと、・・・なんとかコレステロールを減らさなきゃ、てなところであるはずです。でもコレステロールは、かならずしも悪役ではありません。それどころか身体にとって、必要不可欠な物質なのです。
・・・
ただしコ値が高くなるにつれ、「冠動脈疾患」が増えることも確かです(以下、冠疾患)。冠動脈というのは、心臓の筋肉に酸素や栄養分を送りとどけるための血管で、動脈硬化によって冠動脈の内径が狭くなり、血液が流れにくくなって胸痛が生じるのが「狭心症」、血流が途絶して心筋が壌死におちいったのが「心筋梗塞」です(冠疾患の別名は「虚血性心疾患」)。血中コ値が高いと冠疾患が増えることは、これまでの研究でほぽ証明されています。

この問題の専門学会である「日本動脈硬化学会」は、高コ血症にともなう冠疾患の増加を重くみて、高脂血症診療ガイドラインを発表し、血中コ値が220ミリグラム/dl以上を高コ血症と定めました(「動脈硬化」二五巻一頁.一九九七年)。そう聞けば、血中コ値のレベルは220未満が好ましい、と誰しもが思います。しかしじつは、低いのも問題なのです。

なぜならば血中コ値が低いと、脳卒中が増えるという種々の調査結果があるからです(例として「Stroke」22巻62頁.1982年)。脳卒中の主なものには、血管がつまって血流が途絶し脳組織が壌死におちいる「脳梗塞」と、脳の血管が破れる「脳出血」があります。血中コ値が低い場合、脳出血が増えるようなので、血管がもろくなることが発症メカニズムでしょう。
第二の問題として血中コ値が低いと、がんによる死亡も増える傾向があります(「日本公衆衛生雑誌」四一巻三九三頁.一九九四年)。そして第三には、脳卒中とがん以外の疾患も増えるようです。ある調査では、呼吸器疾患や消化管疾患による死亡が、血中コ値が低い人たちに多く、240以上では少なかった(「Circulation」86巻1046頁.1992年)。



コレステロール低値は危険
このようにコレステロール低値の意味は疾患によって異なりますから、冠疾患だけに着目すると誤ります。事故や自殺まで含めた、あらゆる死因による「総死亡」の率をみるのが合理的かつ最善でしょう。

そこで調査報告を探してみると、コレステロールが低値のほうが総死亡率が高くなる傾向がありました(たとえば、前掲「Circulation」)。・・・

福井市における調査(1986~89年、約37000人、5年間追跡)の結果、男女とも、コレステロール最低値のグループで、総死亡率が最高になっています。
男性は、血中コ値が高くなるにつれて総死亡率が低下していき、血中コ値が最も高いグループの総死亡率が最低です(「日本医事新報」3831号41頁1997年)。このグラフからは男女とも、血中コ値が220ミリグラム/dl以上あるからとてスタチン剤を服用する必要性は読みとれません。むしろグラフは、血中コ値を下げると寿命が縮む可能性を示唆します。

ではスタチン剤は何のために処方されるのか。高コ血症の場合、痛い、苦しいなどの症状はないので、目的が症状をとることではありえません。専門家たちは、冠疾患の発症率を下げることが目的だと口をそろえています。が、問題は、スタチン剤で本当に発症率が下がるかどうかです・・・

英国での試験(6000人、男性、5年)で、メバロチンとプラセボ(偽薬)を飲ませてて比較した結果、プラセボ群の発症率が7.9%、メバロチン群で5.5%でした。米国での試験(5000人以上、男女、5年)では、プラセボと、ロバスタチン(日本で未発売)を比較した際の冠疾患発症率は、プラセボ群で約5%、スタチン群で3%でした。これらの試験結果から欧米では、高コ血症にスタチン剤を処方する意味がある、とされています。

しかしこれらは、冠疾患が日本の数倍多い英国や米国における試験結果ですから、日本人ではスタチン剤の効果は僅少になります。ある研究者グループが、これら試験結果を基礎として、曰本人におけるスタチン剤の効率や費用を計算しています。すると血中コ値が240の男性では、心筋梗塞の発症を一人予防するために必要なスタチン剤の代金が、じつに一億三〇〇〇万円になりました。女性では、五億三〇〇〇万円ものスタチン剤が必要です(女性のほうが高額になるのは、冠疾患の頻度が男性の三分の一程度だから。「動脈硬化」26巻157頁・1998年)。
・・・
では総死亡率はどうか。英国試験では、総死亡率が0.9%減りました。グラフは英国試験におけるプラセボ群とメバロチン群の総死亡率を「生存率」になおしてグラフ化したものです。・・・このグラフから、スタチン剤を服用する必要性を感じとる方がどれほどおられるでしょうか。

それどころか米国試験では、総死亡数はスタチン群のほうが多かったのです。プラセボ群で死亡したのは77人。これに対し、スタチン群の死亡者数は80人でした。1000人がスタチン剤を五年間服用したときの死亡数を計算すると、プラセボ群は22人。スタチン群は23人ですから、差は1人。これを学問的に表現すれば、「両群の総死亡数に統計的有意差は認められなかった」となります。・・・

ところで、英国試験で総死亡率がわずかに減り、米国試験ではむしろ増えたのは、試験開始前の血中コ値レベルの違いが関係しています。英国試験では被験者の血中コ値が252ミリグラム/dl以上(平均で272)だったのに対し、米国試験では180~264(平均で221)と、ずっと低かったのです。つまり、もともと(血中コ値が低くて)冠疾患発症率が低いほど、スタチン剤による(冠疾患以外の)死亡増加効果が(相対的に)大きくなり、総死亡率を押し上げる結果になるようです。日本人の冠疾患発症率は、米国試験の被験者よりずっと低いことを考えると、スタチン剤は無用というより危険です。

それなのにスタチン剤は、どうしてあんなに処方されるのか。第一の原因は、他種の(血中コ値を下げるという)薬剤に比べ、コレステロール低下作用が強力だからです。スタチン剤を飲ませれば、血中コ値がみるみる下がりますから、医者の面目がたち重宝がられます。第二の原因は、患者や医者たちが、血中コ値を下げることは善なりと思いこんでいて、総死亡率増加の危険性に気がついていないのでしょう・・・




コレステロールやや高めが長生き?

◆脳卒中など少なく低死亡率
 コレステロールが高いと心筋梗塞(こうそく)になりやすいとされ、数値を気にしている人は多い。だが、やや高めの方が脳卒中などが少なく、かえって長生きできることを示すデータも相次いでいる。

 大阪府守口市で、1997年度に健康診断を受けた住民約1万6000人を5年間にわたって調べたところ、男性の場合、コレステロール値の高い人の方が死亡率は低かった(グラフ1)。男女あわせると、糖尿病の患者や喫煙者は、そうでない人に比べ死亡率が高かった一方、高コレステロール血症の人は、かえって死亡の危険が小さかったのだ。

 調査をまとめた守口市民保健センター保健総長で循環器専門医の辻久子さんは「コレステロール値の高い人の場合、守口市では脳卒中が少なかったため、死亡率が低いと考えられる」と説明。「心筋梗塞の予防のためコレステロールを下げる治療は、既に心筋梗塞を起こして再発の恐れがあるなど発症の可能性が高い人に限定して行うべきだ」と指摘する。

 福井市や大阪府八尾市でも、コレステロールの高い人にがんが少なく、死亡率が低いとの調査がある。

心筋梗塞経験者は注意
 現在の基準値は、米国での調査で、コレステロール値220以上の場合に心筋梗塞が多かった、との結果が基になっている。だが、これは3、40歳代の男性のデータで、女性や50歳以上の男性では、心筋梗塞が増えるのは数値が280程度以上の場合だった。

 そこで大櫛さんは、全国の健診受診者約70万人のデータから、健康的な集団の95%の人が収まる範囲の上限値を算出した。これを高コレステロールの基準値とし、「中高年の場合、男性は260台、女性では280台とすることが妥当」だという。現行基準に比べ、かなり高めだ。逆に若い年代では、数値は低めが望ましい(グラフ2)。昨年、日本総合健診医学会で発表した。

 大櫛さんによると、治療が必要なのは▽遺伝的な要因でコレステロール値が高い家族性高コレステロール血症の患者▽心筋梗塞や脳梗塞の病歴がある人▽新たに算出した基準値に近い状態が数年続き、高血圧や糖尿病、喫煙などの要因を持つ人――だという。


健康診断での採血。コレステロール値などを調べる(東京都内で)
総合判断伴う治療が大切
 日本動脈硬化学会は診療指針の改訂を進めている。改訂委員長の帝京大内科教授、寺本民生さんに聞いた。

 ――改訂のポイントは?

 現在の指針は英語に訳す時に日本語特有のあいまいさがあり、これをなくすことが目的。基準値の変更はしないと思う。

 ――日本より心筋梗塞の多い米国で、高コレステロールの基準値は240と高く設定されています。

 米国は国民の平均コレステロール値の低下によって心筋梗塞が減っている。日本は逆に数値が上昇傾向にあり、基準値を同一にする必要はない。

 ――中高年女性の半数以上が高コレステロールとされる点はどうですか。

 そこは問題で、基準値を男女で分けるべきだという議論もある。しかし、根拠となるデータが少ない。

 ――単にコレステロール値が高いからと薬を処方する医師もいます。

 残念ながら一部にそういう場合もあるようだ。高コレステロールに特に注意が必要なのは3、40歳代の男性で、心筋梗塞の要因とされる中性脂肪が高い人や、善玉コレステロールとも呼ばれるHDLコレステロールが低い人が多い。糖尿病、高血圧など様々な要素を総合判断して治療してほしい。

◇メモ◇コレステロールと健康についての最新データは「コレステロール常識 ウソ・ホント」(田中秀一著、講談社ブルーバックス)に詳しい。
「コレステロール常識」ウソ・ホント

コレステロール
 脂質の一種で、細胞膜やホルモンの材料として人体に欠かせない。多すぎると血管の壁にたまり、血管がもろくなったり詰まったりする動脈硬化を起こし心筋梗塞につながるとされてきた。逆に少ないと、がんや脳出血になりやすいと言われる。

(2005年2月20日 読売新聞)



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