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カテゴリ:中央区
水天宮前駅は、馴染みのない駅です。何かのついでに行くことがある程度で、この駅を目当てにして行った覚えなどありません。この界隈の酒場もせいぜい「赤垣」に行ったとのメモがありますが、それすら記憶は皆無だから初めてといっても可笑しくないのです。そんな水天宮前を不得手とするぼくがあえて赴くことにしたのには分かり易いことこの上ない理由がありまして、分かり易い位だから面白いエピソードになるはずもないのですが、事実として留めておくことにします。それは先般、八丁堀に行った時のことです。知人の運転する車に同乗させてもらって新大橋通りを八丁堀に向かっていたのです。そろそろ八丁堀駅が迫ったと、なるたけ楽できる降車場所を目を皿のようにして物色していたのです。すると視線の先を特段変わったところはないけれど、しかし木枠の引き戸や紺地の暖簾、薄肌色のテントなどいかにも古くからやっていそうなもつ焼店が過ぎ去ったのでした。そう、気になったのならその場で行っておけばいいのであります。未練というものは、いつだって引き摺ることになることをいい加減弁えておくべきなのだ。しかし、八丁堀ではT氏と待合せていましたし、その約束を破れぬという律義さ=優柔不断が顔を覗かせるのです。その弱さがいずれ取り返しのつかぬ後悔を引き起こす予感に晒されながらも、今回はとりあえずそうした無念さは回避できたのが何よりも幸いでありました。
「とん政」の中に入ってまず目に入るのが、デコラ張りの内装です。全面木材感で統一された端正なお店も好きですが、高度成長期の頃を思い起こさせる―実際にはその時代を経験したわけではない、そこまでの年齢ではないのです―機能性を優先したデコラ張りこそがノスタルジーを喚起させられるのでした。シャービックのメロン風味のような淡い黄緑色に少し水色がかった色調が普通なら寒々しく思われる気がするのですが、なぜか温かみに感じられるのはどうしてだろう。デコザ材は継ぎ目がペロンと剥がれていたり、光沢がなくなって褪色が進むといかにも寂れて見えるものですが、こちらは手入れがいいのか大いに客が入ることもなかったのか、清潔感を留めています。この築材の色合いが赤ならそのまま中華料理店なのですが、その印象は間違ってはいなかったようで、隠しメニューとしてラーメンがあるみたい―店の品書きにはなさそうでしたが、ネットではラーメンも提供しているようです―。もうそうは若くはなさそうな物静かな女将さんが独りでやっており、近頃こうした女性一人で長年やっているもつ焼店によく行き当たる気がしますが、そうした店同様にこちらも焼物がとても美味しい。たれも甘いけれどさっぱりした甘さでくどくないから、一度はたれを試されるのがよいかもしれません。それにしても他にお客さんがいないせいか、店は静寂に包まれておりここは独りでしんみりと呑むのが正しかっただろうかと少しばかり残念に思うのです。これでお値段がもう少し控えめならなおいいのになあ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018/01/02 08:30:05 AM
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