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休憩場

休憩場

第25話

第25話【大蛇と彼岸花】











木々が生い茂る湿った大地。小鳥の鳴き声が響き渡り、太陽の光が地面を射す。石で出来た人口の道も、その自然と調和している。

城から離れた場所に聳え立つ山・彼岸山。

春分と秋分の7日間になると、この山は彼岸花で埋め尽くされ、赤く染まる。故に、彼岸山。しかしロイ達のあるく人道には彼岸花は見られない。涼しい気候にある今のジパングでも、彼岸花が咲く季節ではないからだ。

ロイ達は果てしなく続く人道を歩いている。所々苔の生えた道は、ロイ達の足跡をくっきりと残す。

そんな道で先頭を歩いていたヨウコは、どこか苛立った表情をしながら歩いていた。

「義信めぇ・・・!!今度あったらぶん殴ってやるんだから・・・!!」

「さっきから何ブツブツいってんだゴラ」

「・・・うるさいわねぇ。ジョーも聞いてたでしょ?義信のあの言い様。ムカついちゃうよ、ホント」

「まぁあのおっさん、見た目もなんか悪どいしなぁ」

「当然でしょ。義信なんだから」

「神楽さん、なんか悪い事でもしたの?」

「そうじゃないんだけどさぁ、あいつには悪い噂しか流れて無いんだよねぇ。関税を勝手に上げちゃったりとか、村の年貢を横領しようとしたとか。ま、人間誰でも欲張っちゃうもんだけど、あいつは欲張りすぎなのよ」

「欲張り・・・・・ねぇ。俺も仲間達とよくエロ本欲張ってたっけなぁ」

「エロ本?どんな本なんですか、それ?」

「ん?まぁ・・・あれだ、あんなこととか、こんなことこか」

ジョーは胸を揉むように手を動かしたり、股間に手を当てて上下に動かしたりと、身振り手振りを使って説明した。しかし、トーカは全く理解できていない。

「要するにあれだ、男と女が布団の中で――――」

「そういうことは教えないでいいの!!」

ジョーの頭に振り落ちるヨウコのお仕置き技・鬼拳骨。ジョーの頭部は石で造られているはずの道にめり込み、倒れる。ヨウコの拳から湯気が出るほどの強烈なゲンコツ。初めて見るヨウコのお仕置きに、ロイとトーカは唖然としていた。

「全く、これだからジョーは・・・・。危うく健全な少女を汚すところだったよ。さ、行きましょ」

ヨウコは颯爽と道を歩く。頭が道にめり込んだジョーはしばらくして立ち上がり、頭を押えながら歩き出した。

「ねぇロイ。エロ本ってなんなの?」

「いや・・・・・知らないほうがいい・・・・絶対・・・」



道を歩いて数十分。

歩いても歩いても寺らしきものは見えない。周りにあるのは木、苔、雑草。総じて自然。緑色のものしか目に入らない空間に、ジョーはほとほと疲れ果てていた。

懐からタバコを取り出し、一服。火をつけたタバコから出る煙を楽しみ、肺へとそれを送る。心地良い煙の感触、そして煙を吐き出した時に味わえる喉への癒し。タバコを吸う事で、ジョーはエネルギーを補充した。

「しっかし、寺っていう寺がまるで見つからねぇな・・・」

「ホントだぜ。宗次郎もとんだ山奥に俺達を行かせたな・・・。まぁ行くって言ったのは俺達だけどさ」

「でもここ、空気がとっても美味しいよ。私はここに来て良かったと思う」

「でも、今回は宗次・・・・・と、殿の命でここまできたんだからね!皆シャキっとしてよね、シャキっと!」

ヨウコは頬を赤くしながら言い、早歩きになった。トーカが側により、様子を伺った。

「どうしたの、ヨウコ?宗次郎さんのことになると、ちょっと慌てるね」

「それは・・・・・。ま、まさか殿が、あんだけ戦った宗次郎だったなんてさ・・・・・・・ちょっと、驚いちゃってるんだ・・・」

「それだけ?」

トーカはヨウコの顔を見て言った。ヨウコが目を合わせると、トーカは微笑みを見せた。

「私はそれだけで、ヨウコが早歩きになるとは思えないな。・・・宗次郎さんのこと、どう思ってるの?」

「・・・・・・・・初めて宗次郎と会ったのは、実はこの道なんだ。任務でこの辺を移動してたあたしは、その時刀をぶら下げた宗次郎を、てっきり敵だと勘違いしちゃってね・・・。それで手合わせ程度に戦ったのよ。こっちは二刀小太刀で何度も攻撃してるのに、宗次郎は全て防いで、一発も攻撃が当てられなくて・・・。この侍はできる、あたしは初めてそう思ったよ。それから、宗次郎のことをいろいろ調べた。何でだか分からない。でも、気になったんだよ。宗次郎のこと・・・」

「そうだったんだぁ」

「だから、皆で城に行って、宗次郎があたし達陽炎を抱える殿だったとわかった時、正直嬉しかったよ。戦いあった仲だったからかな?わからないけど、とにかく嬉しかった」

頬を赤く染めながら、ヨウコは話した。気づいた時には2人の歩幅が短くなり、ロイとジョーが前を歩いている。2人はヨウコの話を聞いていない、否、聞こえていなかった。体に溜まった疲労が、ロイとジョーをぼぉっとさせていた。

その時、トーカがヨウコの耳元に顔を近づけ、一言、呟いた。

「勇気を振り絞って、1歩踏み出してごらんよ」

トーカに言った言葉を、トーカに言われたヨウコは顔を真っ赤にした。それは宗次郎に「好き」と言ってごらん、と言っているようなもの。自分で言ったこと、ヨウコは反発できなかった。

「あ、あたしは、と、ととと殿には、言わないからね・・・・」

「アハハ。・・・・・がんばってね、ヨウコ。私もがんばるから」

「・・・・・うん!」

2人は笑顔を見せ、手を繋いだ。仲良く歩き、ロイとジョーを抜かして前を歩く。スキップに近い歩幅で歩いている2人に、ロイとジョーは離されていった。

「おい、トーカにヨウコ!はえぇよ!」

「アハハ。ロイも早く行こうよ!」

「そうそう!早く先行きましょ!」

「シャキっとしろって言ったのは誰だったっけな・・・・・、全く」

ロイとジョーは小走りをして、2人に追いついた。










道を歩いて更に数十分。

道を歩き続けていたロイ達の周りに、今は咲く筈の無い彼岸花が咲いている。1つ2つの数ではない、数えるのも難しいほどの数の彼岸花。ロイ達は思わず足を止めた。

「何これ・・・・・?どうして今の時期に彼岸花が」

「彼岸花?それって、この赤い綺麗な花のこと?」

「そう。この花は春分と秋分っていう日がくる頃しか咲かない花、なんだけど・・・・・・秋分が来るまで、まだ3ヶ月はあるわ」

「そんな花がまたどうしてこんなに咲いてるんでぇ?」

「う~ん・・・。考えられるのは、この先に何かがあって、その力が原因なのかも・・・」

「ちょっと待てよ、この先にあるのって・・・」

「寺。もっと言ってしまえば、妖刀・地獄丸」

「刀に花を咲かせる力があるってのかよ?」

「そうじゃないと思う。恐らくこの彼岸花は妖刀の力に呼応しているだけ。真の力ではないわ」

「とにかく、この先に地獄丸があるなら、とっとと取りに行こうぜ」

ロイの言葉に3人は頷き、道を歩く。彼岸花畑と化した大地。石で出来ている人道だけが赤く染まっていない、異様な世界。その道を、ロイ達は歩き続けた。

すると、階段が見えた。石で出来た階段の周りには、そこに来るまで見てきた以上の彼岸花が咲いている。階段にも溢れてしまいそうな彼岸花を他所に、ロイ達は階段を上っていく。

長い階段の先にあったのは、小さな寺。そしてその寺を覆うように渦を巻く、巨大すぎる白い蛇。階段を上がってきたロイ達に気づき、蛇は細い舌を動かしている。目の前の蛇に、ロイ達は足を止めた。

「こいつが殿の言っていた『大蛇』・・・」

「でっけぇな、こいつ」

「へ、爬虫類のお仲間だが、気は合いそうにねぇな」

ジョーがウインチェスターを構える。同時に獣化を始めるロイとヨウコ。トーカも杖を構えた。

その時、大蛇が低い鳴き声を発した。それはロイ達に話しかけるような鳴き声だった。その鳴き声を聞き、トーカは読み取った。

「・・・・わしは妖刀・地獄丸が造りし、妖(あやかし)の物・・・・。汝らは何故、ここに参った・・・・。って言ってるよ」

「単刀直入に言うわ。あたし達は殿の命で地獄丸を回収しに来たのよ」

ヨウコの言葉を聞いた大蛇が、再び鳴き声を上げる。最初の鳴き声よりも長く、そして鮮明な鳴き声。その声をトーカは聞き、読み取った。

「・・・・・汝らのような虫ケラが地獄丸を取りに現れたのは何年振りだろうか・・・。地獄丸の力を承知でここまで参ったのだろうが・・・・、返答は今まであった虫ケラと同じ事・・・。わしを倒し、自らの力で手にせよ、虫ケラども・・・・・」

その時だった。ロイ達の背後に咲いていた彼岸花畑から巨大な尻尾が飛び出した。その場から離れ、鞭のように襲いくる尻尾を避けるロイ達。地面にひびが入るほどの怪力を誇るその尻尾は再び彼岸花畑へと沈んでいく。

鳴き声を上げる大蛇が、トーカとロイを睨みつける。

「トーカ。気をつけろよ」

「うん」

ロイはトーカから離れ、大蛇の方へと走る。大蛇は牙を剥き出しにして、ロイに襲い掛かった。巨大な体が素早くロイの目の前まで動き、牙がロイの体に噛み付こうとする。ロイは高く跳躍し、それを避けた。

しかし、彼岸花畑から飛び出した尻尾がロイを吹き飛ばした。空中で反転し、足から着地するロイ。尻尾は再び彼岸花畑へと沈んでいく。

「うぜぇ尻尾だなゴラァ・・・」

そうジョーが呟き、ウインチェスターの銃口に炎を溜めた。引き金を引き、銃口からフレイムブレットが放たれる。大蛇の体に命中し、爆発するフレイムブレッド。大蛇はおもわず鳴き声を上げ、ジョーを睨みつける。

大蛇は炎に包まれた体を持ち上げ、上空からジョーに齧りつこうとする。ジョーはウインチェスターを腰のフックに引っ掛け、両腕に力を入れた。腰にぶら下がったウインチェスターの銃口から炎が噴出し、両腕、両脚を覆う。

「フレイムエンチャント!!」

迫り来る大蛇の牙を、ジョーが素手で受け止めた。フレイムエンチャントによって筋力を増幅したジョーからすれば、大蛇の牙を受け止めるのに動作も無い。ジョーは牙をへし折ろうとした。

瞬間、ジョーの後ろに広がっている彼岸花畑から巨大な尻尾が飛び出した。その時、ジョーを叩き潰そうとする尻尾を、ヨウコが小太刀で斬りつけた。空を飛ぶヨウコは縦横無尽に動き回り、尻尾を切り続ける。

傷から赤い血を流す尻尾。ヨウコは勢いよく小太刀を振り上げ、尻尾を切り落とした。噴水のように引き出す血と共に、尻尾は彼岸花畑へと沈んでいく。

「あんたの尻尾は切り落としたわ。次は、首!」

ヨウコは烏の翼を羽ばたかせ、大蛇の頭に突っ込んだ。牙を剥き出しにする大蛇は、ジョーを振り払って首を伸ばし、ヨウコに噛み付こうとした。

しかしその牙はヨウコを捕えられなかった。大蛇の頭上を飛び、小太刀を構える。ヨウコは急降下し、2本の小太刀を大蛇の首に突き刺した。

大蛇は断末魔の叫びを上げながら地面に倒れた。ズシンと重たく音を立てながら落ちた首から血が流れ、大蛇は白目を剥いている。その目の前に、ヨウコが着地した。血塗られた2本の小太刀を振り払い、腰に仕込んだ鞘に収める。

ヨウコの側にロイ達がやって来た。それと同時に、大蛇の体が徐々に透け始めた。

「なんじゃこりゃ!体が透明になってるぞ!」

ロイが目を大きく見開きながら言うと、大蛇の体は完全に透け、消えた。首や尻尾から流れた血の跡も、いつの間にか消えていた。

「あの大蛇は、妖の物・・・。だから、消えたんだと思う」

「それじゃ『妖怪』みたいだなおい」

「でもこれで、地獄丸が手に入るわ」

ヨウコが寺に向かって歩いた。苔がびっしりと生えた戸を開き、中に入る。

天井や掛け軸の隙間に蜘蛛の巣が張られ、埃が充満している。その部屋の中央に、朱漆の鞘に収められた刀が置かれていた。その刀の周りだけ埃が無く、蜘蛛の巣も張っていなかった。

「これが、地獄丸・・・」

ヨウコは地獄丸を手に取った。刀身が長い分、小太刀よりも重く感じる。

「あとはそれを宗次郎さんに渡せば終わるね、ヨウコ」

「うん。それで、任務完了だね」

ヨウコは地獄丸を握り締めた。

そしてロイ達は気づいた。寺の周辺に咲き誇っていた彼岸花が全て、跡形も無く消えていたことに。










To be continued...

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あとがきコーナー




管:いつもながらやって来ましたあとがきコーナー!そしていつもながら、ここまで読んでくださって誠にありがとうございますm(_ _)m。

ヨ:これからもBEAST SOLDIERをよろしくね!

管:でたー・・・。今話大活躍だったヨウコじゃん。

ヨ:へっへーん!烏天狗(烏系獣人型ビースト)にして陽炎頭領・ヨウコ様にかかれば、あんなもんよ。

管:ホント、久々にヨウコ活躍した気がする・・・・(☆w☆;)。

とそれじゃあ早速始めましょう。



☆彼岸山を進むロイ達。この山の名前は単調ですが、実はこの名前に行き着くまでかなり時間かかりましたw。彼岸花を使うというのは決まっていたのですが、山の名前はそれに関係するものにしようとして、いろいろ考えて結局「彼岸山」となりました・・・・・。八墓村ならぬ「八墓山」とかも考えてました(ぁ。ちなみに彼岸山は「ひがんやま」と読みます。まぁ「ひがんざん」でも良さそうですが・・・w。

☆彼岸花、というのは野原やあぜ道等に生えてる植物。別名「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」。先に花が咲いて、その後葉が出るという変わった花なのですが、実は有毒植物w。でも毒は球根の部分にしかなく、水で何回もさらせば取れちゃいます。

☆その彼岸花を使おうとした理由は日本の花としてのイメージが強かったため。ジパング=日本なので、それっぽい物を使わないといけないと思ったからです。

☆エロ本について問いかけるトーカと、それに真面目に答えるジョー。このやり取りは「エロ本」というものを全く知らない、人間のトーカだからこそ成り立つ会話。魔界にしかないエロ本は人間にとって初めて目にするであろう代物なのですw。

☆宗次郎に好意を持つヨウコ。実はここ、当初の設定にはありませんでした。しかし話が進むに連れて、結び合わせたほうが面白いかな、と思い急遽設定変更w。まぁ宗次郎は19歳で、ヨウコは15歳。ギリギリ大丈夫でしょう(ぁ。

☆妖の物である白い大蛇出現。というか最初から寺の周りに蹲っていただけですがw。この大蛇は地獄丸の妖力で作り出されているため、名前はありません(名前が決まっていなかったわけでは無いですよw)。

☆ロイ達、大蛇と戦闘開始。ここでヨウコが活躍します。ヨウコはグループの中で1番利口で、状況を把握して次の行動を考える、といったキャラなので、戦闘の場面になると今ひとつ目立たない存在。でも自分の住処であるジパングではそういった考えをなくして、思いっきり戦わせてます。まぁこれぐらいファンタジー小説なら当然だと思いますが・・・・・w。

☆大蛇を倒し、寺の中へ。そして妖刀・地獄丸を手に入れます。周りに咲いていた彼岸花が無くなった寺から、ロイ達は宗次郎のもとへ。果たしてこの先何が起こるのか、それは次回のお楽しみ。



ヨ:ふんふん。よく書けてるじゃない。

管:なにその編集長的な態度(☆w☆;)。

ヨ:だってぇ、最近ここあとがきっぽくないしぃ、あたしの活躍する場少ないんだもの。

管:あとがきっぽくないのは仕方ないでしょ!どういうの書けばいいか分からないんだからさ!

ヨ:それだからいけないのよ。あとで上空からくないの雨の刑だよ。

管:ええええぇぇぇぇぇ(☆w☆;)。な、なんだよそれ!なんで俺が――――。

ヨ:つべこべ言わない!後であたしのところまで来ること!

管:こ、これじゃまるで忍者達みたいだな・・・。

上空からくないの雨の刑が来る前に、あとがきコーナー終わらせちゃいましょw。それでは皆さん、次の話でまた会いましょう( ☆w☆)ノシ。


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