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休憩場

休憩場

第29話

第29話【首都高レース】











明るい店内の中で旋回する天井のファン。ビーストや人間で賑わいを見せる座席。ティーカップをオボンに乗せ、ビーストのウェイトレスが客席までそれを運ぶ。

喫茶店・トーキョーカフェランド。

ビルの2階にあるその店は繁華街では名の知れた喫茶店で、連日客足が絶えることはない。大きな店内を歩き回るウェイトレスの足音や客の笑い話等が周りに響く。そんな店内の一角、窓際の席にロイ達はいた。

バイクを引っ張られ、強制的にここまで来らされたロイ達、そしてその目の前に座っているユリ。

ユリはさっそくメニューを取り、少し眺めた。辺りを見回し、近くを歩いていた兎の耳を生やしたウェイトレスを呼んだ。

「ご注文お伺いしますー」

「えっと~、アイスココアとホットケーキ、あとイチゴパフェお願い~」

「アイスココアがお一つ、ホットケーキがお一つ、イチゴパフェがお一つで宜しいでしょうかー?」

「バッチシだよ、ウサちゃん」

「では少々お待ちくださいー。ユリちゃん、ゆっくりしてってね」

「はいは~い」

兎のウェイトレスはその場を後にし、店の奥へと消えていった。

そのころ、トーカは熱心にメニューを読んでいた。ショートケーキ、ホットココア、玉子サンドイッチ等のランチメニューを順番に読んでいく。今まで見たことも聞いたことも無い食べ物。トーカは興味津々だった。

その姿を見て、ユリはにっこりと笑った。

「ニャハハハハ。やっぱり人間にはここのメニューは初めてなのかな?」

「・・・・あ、は、はい。コーヒーなら、ロイと一緒に飲んだことがあるんですけど・・・」

「あらやだぁ!2人ともそんな関係だったの!?」

「そ、そんなわけ無いだろ!」

「何いってんのよロイ。ホントのこと言いなさいよ」

「だから違うんだって!!」

興奮の余り、ロイはテーブルを思いっきり叩いた。バンッ!と大きな音が響き渡り、店内は一瞬で静まった。ロイは恥ずかしくなり、窓に顔を向けた。

「照れなくてもいいのよ~、ロイ君。あたいにも人間の彼氏いるんだから」

「え?人間?」

「そ。健一っていうジパング出身のやつなんだけどさ、あいつと初めてここに来た時も、健ちゃんもトーカちゃんのようにメニューに釘付けだったよぉ」

「珍しいわね。人間とビーストが魔界で付き合ってるなんて」

「東京じゃ別に珍しくないわよ、ヨウコちゃん。最近の東京じゃ人間がビーストと同じぐらい住み始めてるからねぇ。人間見すぎて獣人型と人間の区別がつかなくなっちゃうときもあるよ」

「それで、その健一って人は何をしているんですか?」

「前まではバイクで走り回ってレースに出たりしてたよ。けど今はあたいが止めさせた」

「あぁ?なんで?」

「健ちゃんはレースでお金を集めて、生活資金にしたり、あたいにいろいろ買ってくれたりしたよ。このハンドバックも、健ちゃんに買ってもらったんだ。だけどさ、あたいは嫌だったのよ・・・。自分が死んじゃうかもしれないレースに出て、あたいなんかのためにお金を集めて・・・・。だから、つい最近健ちゃんと約束したのよ。もうレースに出ないって」

ユリは窓を覗き込んだ。すぐ下を走る車、そしてバイク。ユリはそれらを眺め、大人しくしていた。さっきまでの明るいユリが嘘のようだった。

そんなユリのところに、アイスココア、ホットケーキ、イチゴパフェを乗せたオボンを持っている兎のウェイトレスがやって来た。

「お待たせ致しましたー」

兎のウェイトレスが手際よくテーブルにアイスココアを置き、続けてホットケーキ、最後にイチゴパフェを置いた。底の深いグラスに入ったアイスクリームと、その上に乗っているピンク色のイチゴソースが掛けられたソフトクリーム。始めてみる「イチゴパフェ」という食べ物に、トーカは釘付けになっていた。

「ご注文は以上ですー」

「あ、ありがとウサちゃん」

「えへへ。店長に黙って、イチゴパフェ、ちょっとだけ大盛りにしちゃったー」

「気が利くねぇウサちゃん。ホントありがとね」

「ここの常連様だものー。これぐらいしてあげ・・・・・・・・あら?」

兎ビーストが窓を眺めた。瞬間、バイクの轟音が店の下から鳴り響いた。轟音は次第に小さくなり、店があるビルの前に止まった。

――――ジョーか?

とロイが呟き、窓から下の道路を見た。いたのはジョーではなく、ザン。そしてあとからやって来た阿修羅会のメンバー達。なんだあいつら?とロイが首を傾げる。

そのロイの目の前にいたユリはザンの姿を見るや、体が震えだしていた。

「どうしたのユリさん?寒いの?」

「違いますよーお客さん。ユリちゃん、あのマスクつけてるザンっていう阿修羅会のリーダーに好かれちゃってて、なんて言うんでしょうねー、いろいろとちょっかいだされてるんですよー」

「ウサちゃん。そんなこと人前で言わないでよ・・・」

「あ、ごめん・・・つい」

「『阿修羅会』?あの黒い特攻服着てる奴らのことか?」

「そう。この辺りを占めてる暴走族で、レースに勝つためならどんなことでもする異常者たちよ」

「誰が異常者だとぉ!?」

店の入り口を蹴飛ばし、阿修羅会のメンバーがゾロゾロと入ってきた。ユリの姿を見るや、メンバー達は厳つい顔をしながらロイ達の席にやって来た。皆異形の姿をした生物型ビーストのメンバー達に、店内は静まり返る。メンバー達の何人かがテーブルを強く叩いた。

「おんどりゃ誰が異常者じゃけんばっきゃろうがぁ!!」

「ワイらは東京暴走族・阿修羅会のメンズじゃぞぼきゃぁ!!」

「女一匹が異常者なんざ言ってんじゃねぇぞクソぎゃぁ!!」

――――最後の言葉が翻訳できねぇってーの・・・。

その場にいたロイは思わずそう思った。その横でトーカは肩を跳ね上げ、ヨウコは大きくため息をしている。そしてユリは窓の方を向き、知らん顔をしている。

「こんのアホガキャァ!ぶん殴るあぁこらぁ!」

「止めろやテメェら!!!」

メンバー達の背後から唸る怒号。全員が後ろを向き、その顔に思わず道を開ける。開いた道を歩くのはザン。ゆっくりとユリに近づき、ユリの座っている椅子の背凭れに手を置いた。

「悪いねぇ、ユリちゃん。こいつらにはユリちゃんの顔見せてなかったから、ついつい怒鳴っちまってよぉ。だがいくらおめぇでも異常者はねぇだろ異常者は」

「ホントのこと言っただけじゃないよ。それに今はオトモダチとお話中なんだけど」

ふぅん、と呟き、ザンがロイ達を見た。獣人、人間、獣人、と数えるようにロイ達を指差し、マスクの中でニヤついた。3人共ガキじゃねぇか、大した事ねぇな、とザンは心で呟いた。

「今日は何しに来たのよ?用が無いなら帰ってもらえる?」

「冷たいねぇユリちゃん。これでもおめぇの行きそうな所回って来たんだぜぇ?俺が出るレースに招待しようと思ってなぁ」

「レース?」

「今回はビッグなレースなんでよぉ、ユリちゃんにも俺のカッコイィ姿見てもらおうと思ってよぉ」

「ニャハハハハハ!あんたの卑怯な姿を見ろって言うの?冗談じゃないわ」

「ユリちゃん、口の聞き方に気をつけた方がいいぜ・・・・・!」

ザンはポケットからナイフを取り出し、ユリの喉仏に突きつけた。

「ユリさん!」

「何してんだマスク野郎!」

ロイ達が立ち上がろうとしたとき、ザンが指をパチンッ!と鳴らした。すぐ横にいたメンバー達がハンドガンをロイに突きつける。黒光りするメンバー達のハンドガン。ロイ達はやむを得ず立つのを止めた。その様子を見て、ザンはマスクの内側で笑った。

「クックック!ガキ達は大人しくしてもらうぜ。ユリちゃんとのお話を邪魔されちゃ困るからなぁ」

「相変わらずね、ザン。あんたなんか事故死しちゃえばいいんだよ」

「そうかいそうかい。じゃあ今日のレース、健一が事故死するかもなぁ」

「え!?」

ユリは思わず眼孔を大きく開いた。健一はもうレースをしないはず。ユリの脳裏には健一と約束をした時の記憶が鮮明に映っている。しかしザンの口からは健一がレースに出場すると言わんばかり。ユリは問い詰めた。

「どういうことよ!?まさかあんた達・・・!」

「おっとぉ、誤解されちゃ困るなぁ。あいつは自分から出場したんだぜぇ?ま、おめぇのためかどうかは知らんがな」

「そんな・・・・・」

「クックック!場所は首都高。レースまであとちょっとだからよぉ。おいテメェら、行くぞ」

「アイアイサー!」

ザンが背凭れから手を離し、メンバーたちと共に店を後にした。

阿修羅会が消えても静まる店内。ユリ達の席に兎のウェイトレスがそっと近づいた。

「大丈夫?ユリちゃん」

大丈夫、と小さな声で呟き、頷いた。今にも泣きそうになるユリ。それはザンの恐怖からではなく、健一がレースにでることからだった。ザンが出場しているレースでは、必ず1人は事故を起こす。時にそれはレースで走っているほかの人をも巻き込み、死に至ったこともあった。

その事故は全て偶然ではない。阿修羅会が卑怯な手口を使って事故を引き起こしている。ユリはそれを知っていた。

ユリは立ち上がり、ハンドバックを握った。

「あたい、首都高行って来る」

「え!?ユリちゃん本気!?」

「当たり前でしょ!?健ちゃんが死んじゃうかもしれないんだよ!御代は後で払うわ!」

「ちょ、ちょっとまった!俺達まだ聞きたい事聞いてないんだけど」

「それは後で!先に行くわ!」

ユリは颯爽と走り出し、店を後にした。取り残されたロイ達。3人はお互いの顔を見合った。

「どうするよ?」

「どうするもこうするも無いわ。ユリさん追うわよ」

「そうだね。独りだと危ないと思う」

「なら急いだほうがいいな。首都高に行こう!」

ロイの言葉に2人は頷き、店から出て行った。

喫茶店のビルから出て行くロイ達。その姿を、ジパングに続く門がある東京タワーへと向かうスミスが捕えた。

「ロイ、発見」










AM 09:47。首都高。

黒く濁った雲が覆う空の下にある巨大な高速道路。街灯が明るく照らしているが、車は1台も走っていない。レースを運営するヤクザ組合が道路を工事中と偽り封鎖し、車を入れさせていなかったのだ。

スタート地点である料金所の前には多くのバイク乗りが集まっていた。レースに出るのは背中からイカの触手を生やしたヤクザのビースト、肩から蟹のハサミが生えているチンピラのビースト、全身毛むくじゃらの不良ビースト等、その数は8人。その中にザン、健一、そしてジョーがいた。

見物するためにやって来た多くのバイク乗りを他所に、ジョー達は横一列に並んだ。健一の隣にジョーが、その更に隣にザンが並んだ。

「ほぉ。『アホヅラのジョー』と野良の健一が一緒とはなぁ」

「へっ、『ボロマケのザン』に言われたくねぇぜ」

「クックック!てめぇの復讐はレースでちゃんと決めてやるぜ。健一、てめぇに1つ言っておきてぇことがあってなぁ。ついさっきユリちゃんに会ってきたんだ」

「な、なんだって!?」

健一は思わず叫んだ。健一の慌てふためく様子を見て、ザンはマスクの内側でニヤけた。

「ユリちゃんにおめぇがレースに出ること、言っちまったぜぇ?」

「・・・・・・・そうか、言ったんだな。僕がレースに出るって。これでユリにもはっきり見せられる」

健一はザンを睨んだ。ニヤついていたザンの顔が引き締まり、ザンも健一を睨んだ。2人の間にいるジョーは銜えたタバコに火をつけている。

「僕はユリの前で、お前を抜かす!」

「俺を抜かすだと?ギャハハハハァ!いい度胸だぜ!やれるもんならやってみろ。ユリちゃんにてめぇの事故る所を見させてやりてぇぜ」

「こいつ・・・!いつまでユリに手出すつもりなんだ!」

「さぁねぇ。ユリちゃんは俺のもんだ。人間如きが触れる相手じゃねぇんだよ」

「んだとぉ!?」

「待てやゴラァ」

2人の間でタバコを燻らしていたジョーが割って入るように呟いた。タバコの煙を吐き、灰を地面に落とす。再びタバコを銜え、ジョーは話し出した。

「なんならこうしようや。正々堂々と勝負して、俺がザンに勝ったらサマラに続く門の場所、俺が負けたら、この蜥蜴号をくれてやる」

「テメェのバイクを?面白れぇ」

「そんで健一がテメェに勝ったら、テメェがユリとかいうヤツに二度と近づかないと誓う。健一が負けたらその逆だ」

健一とザンは思わず大声をだして驚いた。

健一が勝てば、ザンはユリから手を引く。逆にザンが勝てば、健一はユリから手を引かなければならない。2人は同じ条件を出され、悩んだ。しかし、健一はすぐに口を開いた。

「それでいいじゃないか!僕はザン、お前を抜いて、ユリから離れさせる!」

健一の言葉に、感情をコントロールするザンの脳がプツンッ!と切れた。頭に血が上り、鼬の頭から湯気が噴き出してきそうな憤怒の表情を見せ、2人を睨んだ。

「・・・・・・上等じゃねぇか・・・・。てめぇら2人共々、この首都高で俺が倒してやるぜ・・・・!!」

ザンはハンドルを強く握った。ハンドルを握りつぶしてしまいそうなほど、強く握る。今までに無いザンの殺気を混めた怒り。2人は更に真剣な顔になり、ハンドルに力を入れる。

ジョー達の背後に建つ料金所のスピーカーから、低い男の声が発した。

「現在の時刻は9時58分。2分以内に手早くルールを説明する。コースはここからスタートし、首都高を一周する形で進み、ここに戻ってくる。実に簡単なコースだ。禁止事項は走行上の暴行のみ。二トロ使用可能。以上だ」

スピーカーからの声がプツリと切れた。

レースに出るビースト達は「ニトロ」という単語に動揺していた。しかしザンや健一、そしてジョーにとっては特別扱いされる物ではなかった。

ニトロ、それはカスタマイズすることで超加速を発揮する「ニトロエンジン」の略。ニトログリセリンを搭載したそのエンジンは、発動ボタン1つで爆発的な速度を出すカスタムパーツ。それ故に、事故を起こした時の被害も大きい、諸刃の刃。しかし上級のバイク乗りはニトロを搭載している。ジョーの蜥蜴号も例外ではない。二トロの発動させる赤いボタンが、蜥蜴号のハンドルに設置されている。

こめかみから牛の角を生やし、全身がこげ茶色に染まった大柄のヤクザのビーストが料金所の屋根の上に上がった。ヤクザのビーストは手にした拡声器を口の側に寄せた。ヤクザのビーストの低い声が、カウントを始めた。

「スタート5秒前・・・・・4・・・3・・・2・・・1・・・ゴォ!!!!」

ヤクザのビーストの雄叫びのような声と共に、ジョー達が一斉に走り始めた。轟音と共に首都高を進むバイク達。その先頭を走ったのは、ザンだった。ザンの乗る紺色のバイクから噴き出す排気ガスが、後ろを走るビースト達の顔にかかる。

ジョーはアクセルをおもいっきり回し、加速した。大きなタイヤが高速回転し、ザンのすぐ後ろまで近づいていく。そのすぐ隣に、健一がやって来た。健一の乗っているオレンジ色のバイクも、ザンを追い抜こうと加速する。

――――もう来やがったか・・・。ザンはそう呟き、ハンドルを更に回す。スピードを上げるザンのバイク。しかしジョーと健一はザンの後ろを逃さない。

その時、ジョー達の前に首都高の壁に貼り付けられた赤く発光する矢印が見えた。右折を促すその矢印は、カーブがあることをジョー達に知らせる。

その矢印を見て、ザンはニヤけた。ザンは鮮やかなドリフトを決め、カーブを曲がった。そのすぐ後ろで、ジョーと健一もドリフトを決める。

「ひゃははははは!これでも喰らいな!!」

ザンはカーブを曲がり終える瞬間に、特攻服の内側から無数のまきびしをばら撒いた。微かに輝く銀色の針に、ジョーと健一は素早くそれを避ける。

しかしその後ろを走っていた全身毛むくじゃらのビーストがまきびしの上を走り、タイヤに穴が開いた。そしてバランスを崩して転倒した。頭から血を流して倒れる毛むくじゃらのビーストの横を他のビースト達が走り過ぎていく。

それを見たジョーは憤慨した。

「てめぇ・・・!!汚ねぇことしかできねぇのかゴラァ!!」

「汚ねぇことだぁ!?ルールでは走行上の暴行だけが禁止事項!妨害してはいけねぇなんてルールはねぇ!!」

ザンはスピードを上げ、ジョーから離れた。ジョーもアクセルを回し、ザンに近づく。

「待てやゴラァ!!」

「誰が待つかアホズラがぁ!!」

先頭を走るザンの後を追うジョー。そのすぐ後ろを走る健一は、ジョーの腰にぶら下がっているウインチェスターを見て、あることに気づいた。

――――なんで銃を抜かないんだ?あのゴツイ銃でタイヤでもぶち抜けば、それだけでザンを追い抜けるはず。妨害にはなるけど、ザンだってやってたんだ、ジョーにも出来るはず。なのになんで撃たないんだ・・・?

健一は走りながら自問自答していた。健一の髪が風で靡き、視界に2人の背中に書かれた「蜥蜴」と「阿修羅会」の文字が目に入ったとき、健一はジョーの言葉を思い出した。

「正々堂々勝負して、俺がザンに勝ったらサマラに続く門の場所、俺が負けたら、この蜥蜴号をくれてやる」

正々堂々、ジョーが自ら言った言葉。その言葉が健一の脳裏に浮かんだ時、健一は答えを導き出した。

(・・・そうか!ジョーは正々堂々と勝負すると言った。だからそれを守るために、ウインチェスターを抜かないのか!一度言った事を破らないビースト・・・『灼熱のジョー』。僕も、ジョーみたいに勝つんだ。ザンなんかに負けない、絶対負けない!!)

健一はハンドルを勢いよく回し、加速した。前を走るジョーに追いつき、2人は顔を見合わせる。

「ジョー!僕も正々堂々戦う!それで、ザンを抜く!!」

「言うじゃねぇか健一!ザンを抜いたらどうするつもりだ!?」

「ザンを抜いたら、次はジョー、あんたを抜く!!」

「へっ!上等じゃねぇか!俺を抜きたきゃ、しっかりケツに食いつく事だな!!」

ジョーはアクセルを回し、スピードを上げた。健一も速度を上げ、ジョーに並ぶ。

そして2人はザンの横を走り、そのまま追い抜いた。

「なっ!?馬鹿な!!」

2人の背中と、両者のバイクから噴き出す排気ガスを目の当たりにしたザンは慌ててアクセルを回した。加速するザンだが、2人に追いつけない。ザンは焦りを見せた。

その時、ザンの目がハンドルに行った。ハンドルの横に設置された赤いボタン。ニトロを起動するしかない・・・。ザンは迷うこと無くそのボタンを押した。

瞬間、ザンのバイクのマフラーから炎が噴き、一気に加速した。ザンの視界に映っていた全てのものが後ろに流れていくように見えた。歪む視界に見えるのは、ジョーと健一の背中、そして目の前の道路のみ。超加速したザンのバイクは一瞬でジョーと健一を抜いた。

「ザン!?こんなに早くニトロ使ったら!!」

「止まれ、ザン!!そのまんまじゃカーブ曲がれねぇで死ぬぞ!!」

「うるせぇ!!俺は、俺は、トップになるんだよぉ!!!」

急速に進むザンは2人から一気に距離を離した。2人を追い抜き、笑いながら走るザン。カーブを知らせる赤い矢印に、ザンは気づかなかった。

ザンが矢印に気づいた時には、既に曲がり角との距離は近かった。慌ててザンはドリフトを決めるが、200キロを超すスピードで曲がりきることが出来ず、ザンは横転した。バイクから吹き飛んだザンは壁に激突した。そしてザンの乗っていたバイクが街灯の柱に激突した時、ニトロエンジンに衝撃が加わり、バイクは爆発した。

カーブをジョーと健一がドリフトで曲がりきった時、ザンはバイクの残骸と共に倒れていた。ザンのすぐ横には爆発で吹き飛んだ街灯が首都高の壁を貫き、倒れている。間一髪のところでザンは街灯の下敷きにならずにいた。

「ザン、死んだのか!?」

「いや、あれだと平気そうだな。ニトロは急激に速度をあげるためにカーブで曲がれねぇ。それを忘れたあいつの自業自得ってところだ」

ジョーがスピードを上げ、ザンから離れていった。その横に、ぴったりと健一が並ぶ。健一はジョーを見ながら走っている。

「嫌な感じだけど、確かにザンを抜いた。次は、あんたの番だ、『灼熱のジョー』!」

「おもしれぇ!後ろから追っかけてくるヤツも見えねぇ。この先は俺とおめぇのタイマンだゴラァ!!」

スピードを更に上げ、健一の前を走りぬくジョー。蜥蜴号から噴き出す排気ガスを浴びながら、健一はアクセルを回す。

すると、ジョーと健一の前に右折を促す赤い矢印が見えた。このカーブを曲がれば、あとはゴールに直進するだけ。2人は最後のカーブをドリフトで曲がり、ゴールに一直線の道路を駆け抜ける。ここで2人はハンドルの横に設置された赤いボタンに指を添えた。

(この先は直線・・・。先にニトロを発動して突き進むしかない!)

(あいつはニトロを使うつもりだが、悪いな健一。俺も使うぜ!)

2人はハンドルを強く握り締め、赤いボタンを押した。2人のバイクのマフラーから炎が噴き、一気に加速した。周りの風景が残像のように見え、ぼやける。2人はアクセルを全開に回し、更に加速させる。ジョーがふとメーターを見ると、速度はすでに220キロを超えていた。

――――まだまだ行ける筈だ、蜥蜴号。おめぇは俺が作った最高のバイク。限界を超えろ、健一を超えろ、目の前の空間を超えろや、蜥蜴号!!

ジョーはハンドルがねじ切れるその寸前までアクセルを回し、加速した。横に並んでいた健一を抜き、距離を離していく。速度は既に、250キロを超えていた。

歪んでいく視界に見える、料金所の上でヤクザのビーストが振る、ゴールを示す白と黒の縞模様の旗。そして体の横に通り過ぎていく空間から聞こえてくる、レースを見に来たバイク乗りの歓声。ジョーはただそれを超えるために突き進む。

そしてメーターの針が限界値の300キロに達した時、ジョーは一瞬でゴールの料金所を駆け抜けた。










To be continued...

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あとがきコーナー




管:はいやって来ましたあとがきコーナー!えぇ以前もそうでしたが、いつも通りのあとがきコーナー・・・w。ですがここまで読んでくださってホントにありがとうございますm(_ _)m。

ザン(以後「ザ」:ここが「アホズラのジョー」が言ってたあとがきコーナーか・・・。

管:うひょっ(☆w☆;)。今話で早速事故っちゃったザンじゃねぇのw。

ザ:黙れ管理人・・・。フクロすんぞ・・・。

管:リ、リンチはやられたくねぇなぁ・・・。さ、このマスクヤローにやられる前に始めちゃいましょう!

ザ:誰がマスクヤローだコラ!!



☆ユリの案内(というより無理矢理w?)で喫茶店・トーキョーカフェランドにやって来たロイ達。実はこの喫茶店、当初の設定ではメイドカフェでした(殴。そもそも繁華街は秋葉原の街中をイメージしていたのですが、いざ書き始めると「ヤバイ・・・・このままではロイ達もアキバ系になってしまう・・・。ましてやメイドカフェなどヲタクの城塞。アキバ系になるのは必至・・・・・」ということで急遽普通の喫茶店へ(ぁ。名前も「トーキョーメイドランド」から「トーキョーカフェランド」に変更しました・・・w。

☆とは言ったものの、ユリと親しく話す兎の耳を生やしたビーストは元からメイドとして考えていたキャラ。こいつだけは特別に取っておきました(ぉぃ。このビーストの名前はエレナ。「ウサちゃん」というのはユリがつけたあだ名。彼女はユリが店に来たのと同時に働き始めたため、2人は出会ってすぐに親しい仲に。その後も常連客としてユリは喫茶店に足を運んできました。その度にエレナは注文された品を運んでいます。

☆イチゴパフェに釘付けになるトーカ。人間界には「アイス」そのものが無く、パフェにもなるとそれは「料理の芸術」。釘付けになるのも無理ありません(ぁ。

☆ユリの元にザンがやってくる。鼬と猫は相性が合わないはほっといて、ザンはユリに話しかけます。最初の設定ではここで婚約指輪を渡すとかの設定してましたが、場違いなので全て没にしました(ぉぃ。

☆ユリが首都高に行くのを追うロイ達。それを目撃したのはジパングに向かう途中のスミス。次の話でロイの元にスミスが近づいてきます。どうなるかは次回のお楽しみ。

☆首都高のレースに出場するザン、健一、そしてジョー。ジョーはサマラに続く門のため、健一はザンからユリを守るため、ザンはジョーに復讐し、健一からユリを奪うために競い合います。レースの序盤でザンがまきびしをばら撒く場面は随分前から決まっていたことで、「卑怯な手口を使ってまでも勝利にこだわる暴走族」というキャラが現れています。しかしその勝利に執着したあまり、カーブを曲がりきれずに横転してしまうのでした・・・。

☆ザンを抜いた後、ジョーと健一のサシの勝負が始まります。この場面も随分前から考えていていたもので、「人間対ビーストのバイク版」みたいな感じにしたいと前々から思い、このジョーと健一の勝負が出来たわけです。ラストの直線で2人でニトロを使う所がその勝負の一番の味だと自分は思っていますw。

☆時速300キロを超え、ゴールである料金所を走り抜けるジョー。このあと何が起こるのか、それは次回のお楽しみ。



ザ:なんで俺が転ぶ設定にしたんだ管理人!

管:↑にも書いてある通りなんだが、ザンは勝利にものすごく執着したビースト。だから勝利のためにはどんなことでもする。でも、その勝利へのこだわりが同時に自分を敗北に陥れる。っていうのが最初から考えていたザンの構想なのね。

ザ:なるほど・・・・・。だが俺が負けるのが気にくわねぇぜ・・・!

管:それは仕方ないでしょう(☆w☆;)。敗北に陥る=事故る、しかないでしょう!

ザ:テ・メ・ェ・・・・!!事故る以外のことも考えろやぁ!!

管:ドグゥア!!(バイクではねられる)

ドシャッ!(地面に落下する)

ジ:ありゃ死んだな管理人・・・。それじゃこれであとがきコーナーは終わりだ。これを読んでくれてるおめぇら、次回また会おう。

管:お、俺はまだ死ぬわけには・・・。(ゆっくり立ち上がる)

ジ:うおっ!?まだ生きてた!!


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