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休憩場

休憩場

第44話

第44話【人を助ける鬼】











ロイが目覚めてから数分後のアルヘルリオ。

ブロリア・バトル・フェスティバルがあったときのそれとはうって変わって、街の人々の気配が無い。ノワール、カンミンの軍が集まりアルヘルリオにやってきたため、街の人々は遠くに避難していたのだ。

鎧や着ている服が違うノワールとカンミンの兵士達。しかし兵士達は互いにここに来た目的を知っているため、同様は無い。その軍の中には、馬に乗ったアクトがいた。赤いマントを靡かせ、腰にぶら下げた愛刀・ミジュームを手に、前方に見えるアルヘルリオ城を見ていた。

空は昼を過ぎていてもまだ明るい。しかし城の周りだけ薄っすらと暗く、空も、空間も、そして地も薄暗い。城で何かが起きている、そうアクトは感じた。

「これはまた不気味な気配がするでアルな」

アクトの後ろから、馬に乗ったウーロンがやってきた。金の馬鞍の上に跨り、手にはロイ達から渡された透き通った宝玉・哀霊玉(あわれみのれいぎょく)があった。そしてウーロンの肩には、額から角を1本生やし、薄緑色の体毛を生やした、尻尾の無い猿が乗っている。

哀霊玉のことも、肩に乗っている猿のこともアクトは事前にウーロン自身から聞いていたため、疑問視していなかった。

「ウーロンか。先の連絡は本当だったようだな」

「うむ。ロイ達が私の場所に来て、いろいろ教えてもらったことと、数日前にマティミックとかいう魔法使いの助言のおかげでアルな」

「その連絡が入ってからの後、ああしてアルヘルリオ城からおかしな気配が漂い始めた。そして城の周辺でノアザーグの兵が目撃されている。クローディアスはノアザーグと何か関係があるとしか思えない」

「・・・アクトの父親の親友が、ノアザーグの関係者でアルとは、余り考えたくないでアルな」

「だが実際はそうも言ってられん。ロイ達もあいつらと戦っていたのだ。俺達も戦うぞ」

アクトがそう言うと、ウーロンも軽く顎を引いて頷いた。肩に乗った薄緑色の猿も、キキッと鳴き声をあげた。

アクトとウーロンの軍が城の前にやってきた。城壁を覆うように、黒い鎧を着たノアザーグ軍がそこにはいた。マシンガンを構え、標準を兵士達に合わせている。そのマシンガンを持ったノアザーグ兵達の後ろに、大きな斧を持った兵士達、そして円形闘技場を襲撃した鈎爪を装着した忍者のような兵士が並んでいた。

「あれがノアザーグでアルな・・・。確か司令官ごとに兵士の武器が違うと聞いたが・・・」

「そう。これは僕の構成した軍隊なんだ」

ノアザーグ軍の中から幼い子供の声が聞こえ、アクト達は少しばかり動揺する。兵士達を飛び越え、声の主がアクト達の前に現れた。

現れたのは、大刀を肩に担ぎ、虎柄のような黒い線が頬にペイントされたノアザーグ司令官・イリス。イリスは立ち上がり、大刀で肩を軽くポンポンと叩きながらアクト達を睨んでいる。

「貴様が司令官・・・だな。子供だがかなりの殺り手だろう?」

「へぇ~、勘がいいねぇ。そう、僕はノアザーグ司令官『大刀の魔戦士』イリス。総督が言ってた通り、お前は見る目がいいねぇ」

「どうやらクローディアスが、その総督とかというもので間違いないのでアルな?」

「・・・ここまで来ちゃったんだから、今更隠しても仕方ないね。ウーロンの言った通り、僕達の総督はここの王、クローディアス様だよ」

そうでアルか・・・、そうウーロンがため息交じりに呟いた。しかしアクトは暗い表情を見せることも無く馬から降り、ミジュームを構える。

「そうか・・・。例え亡き父の親友にしても・・・・この大陸の平和を乱す敵ならば、俺は迷うことなくこの剣を向ける!」

アクトは鞘からミジュームを抜き、その美しい刃をイリスに向けた。その輝かしい光と共に、刃にイリスの顔が映る。イリスはそれに反応するかのようにニヤけた。そして大刀を地面に叩きつけ、気合を入れる。

「全軍!アクトは僕が殺るから、それ以外の奴を全員殺せー!」

イリスが大声で兵士達に指示を出す。イリスの後ろにいたマシンガンを武装した兵士達が一斉に銃を構え、トリガーを引いていく。銃口から唸りをあげて放たれる鉛の弾達がアクトとウーロンの軍に襲い掛かった。

「盾兵、前へ出るでアル!!」

ウーロンの叫び声と共に、軍隊の最前列にいた巨大な盾を持った兵士達が一斉に盾を構え、マシンガンの弾を防いだ。弾が貫通できないほど厚く、身の丈以上もある巨大な盾。イリスはその装備に動揺していた。

「我が兵達の装備、ブロリア大陸一の装備でアル。カンミンの軍事力を思い知らせるでアル!」

ウーロンが指示を出すと、盾兵と盾兵の間にある小さな隙間から槍を持った兵士達が近づき、その隙間に槍を差し込む。そして盾兵と槍兵は掛け声を上げ、ノアザーグ軍に突進した。

突然の猛攻に、イリスは一瞬戸惑った。周りにいたマシンガンを持った兵士達は槍兵の刃に突き刺されていく。ふとイリスが正面を見ると、自分に向かって突進してくる盾兵と槍兵が見えた。

ちっ、とイリスが舌打ちをしてその兵士達を睨むと、イリスは足元に強風を起こし、その力を利用して高く跳躍した。そして空中で大刀を振り回し、風の刃・カマイタチを雨の如く放つ。イリスの真下にいた盾兵と槍兵達はカマイタチの雨に体を切り刻まれ、断末魔の叫びと共に地面に倒れていった。

死体の上に着地したイリスは軽く首を回し、大刀を肩に担いだ。

「そっちがそれだったら、こっちも同じようにしてあげるよ!おいお前達、前進してあいつらを殺してきてよ!」

イリスがウーロンを指して指示をすると、大斧を手にした兵士達が走り出し、盾兵に襲い掛かった。盾をなぎ倒すように斧を振り回し、鈎爪を装備した別のノアザーグ兵が大斧の持ったノアザーグ兵を飛び越え、盾から開放された兵士の体を鎧ごと切り刻む。

その後ろにいたアクトの兵士達が一斉に襲い掛かり、鈎爪を装備したノアザーグ兵達を剣で斬り払った。鈎爪の兵士は叫び声1つ上げずに倒れ、全身を自分の血で染めていった。

地獄絵図の如し戦場。その中で、アクトとイリスは互いの瞳の奥を探るかのように睨みあっていた。ウーロンは兵達に細かな指示を下しているため、アクトの近くにはいない。互いの近くに敵兵はおらず、その場は1対1の状況。アクトとイリスは互いの武器を構える。

「グロラルに刺し殺されてもまだ生きてる王様、ってところかなぁ?そういうのを『死に損ない』って言うんだよ」

「俺は殺されてないぞ、イリス。あいつが・・・・・トーカのただ1人の友達が、俺を助けてくれたんだ・・・!」

「友達ねぇ。それはロイのことだよね?ロイならブレストヤードで死んだよ?」

「な、なんだと!?」

アクトの睨みはイリスの言葉によって驚き、慌てふためく瞳へと変わった。アクトの驚きぶりにイリスは微笑する。

「ロイも死んだんだから、邪魔者はいなくなったんだよ。総督の話だと仲間がこっちに来てるみたいだけど、ロイがいないんじゃどうしようもないよぉ」

イリスは大刀を構えながらニヤリと口元に笑みを浮かべる。歪んだ頬の虎柄のペイントが不気味な模様へと変貌していく。しかしその笑みも、アクトが地面をミジュームで斬り払ったことによって消え去った。

ミジュームを強く握り締めるアクト。下を向いたままの頭をアクトは持ち上げ、イリスを睨む。

「貴様らを許さない・・・!あいつの・・・ロイの尽きた命に誓ってもいい・・・!俺は、貴様らを倒す!」

アクトはミジュームを構え直し、イリスに突進した。相手はアクトの身の丈の半分もない幼い子供。しかしノアザーグという魔窟に身を潜めている限り、アクトはそれを子供だとは思っていなかった。容赦のないミジュームの刃が、イリスの頭部を狙って振り下ろされていく。

イリスはその剣閃を凝視し、そして大刀を自分の眼前に構えた。自分の体を覆い隠すほど巨大な刃が、ミジュームの刃を防ぐ。刃と刃がぶつかり合い、火花が飛び散る。力が互角なのか、互いの刃は相手の刃を押し倒せないでいた。

その時、城の前の空間に「異常」が起きた。

城壁の前方の空間が激しく歪む。歪んだ空間から切り裂いたように赤と黒の空間が現れる。異世界に続いているかのようなその空間が、ウーロン達の視線を奪っている。

しかしそれを見たアクトは驚きを通り過ぎて危険を感じた。ブロリア・バトル・フェスティバルの時に現れたのと同じ、禍々しい空間。それはクローディアスが召還する「暗黒巨人」が現れる証でもあった。

「あ~あぁ。総督も人が悪いなぁ。僕の楽しみを奪っちゃうなんて」

「あれは、まさか・・・!」

「総督は気が短いから、すぐに片付けたいんだろうねぇ」

イリスがニヤつきながら、そう呟いた。

禍々しい空間から、更に禍々しい巨大な腕が飛び出した。生ゴミが混ざり合ったような、濃緑色の腕。人の腕と似て非なるその巨大な腕が、さらにもう1つ飛び出す。2つの巨大で細長い両腕を前に、アクトとウーロンの兵士達は一斉に後退した。

瞬間、兵士達がいた場所にその巨大な手が重くのしかかった。皮と骨しかないその巨大な腕が地面を掴み、赤と黒の巨大な空間から、本体である上半身をゆっくりと引き出した。

現れたのは濃緑色で染まった巨人の上半身。頭は頭蓋骨の様に丸く、大きく見開いた目に光がまったくない。肩から巨大なトゲが生えた不気味な巨体が、兵士達の頭上に日陰をもたらした。暗黒巨人・ネファスの目が真下にいる兵士達を凝視する。

その巨体を目の当たりにしたウーロンは盾兵に指示を出し、全軍を覆い隠すように盾兵が兵士達を囲み、盾を構えた。

しかしネファスは酷く乾いた雄叫びをあげ、その巨大な口から無数の白い光線を放った。敵だけを正確に狙い、射抜く白い光線。盾兵の分厚い盾をも弾き飛ばす光線に、兵士達は更に後退していく。ネファスの前では兵士達は蟻も同然だった。

放たれ続ける白い光線を、ウーロンは馬を巧みに操って避けていた。足元すれすれまで襲い掛かる光線に、ウーロンは苦戦を強いられていた。肩に乗っている猿も不安そうな表情を見せる。

その不安が実現したのか、馬の足元に光線が着弾し、馬は大きく転んでしまった。投げ飛ばされてしまったウーロンと猿は地面に落ちるが、近くにいた盾兵がすぐさまその周りを囲んだ。

「ウーロン様!大丈夫でありますか!?」

「大丈夫で、アル・・・!しかしあの巨人の前には我が軍も駄目でアルか・・・」

ウーロンの表情は歪み、盾と盾の隙間から口を全開に開いて光線を放つネファスを見上げていた。

そのすぐ側で、地面に突き刺さった角を引き抜いて、猿がゆっくりと立ち上がった。薄緑色の体毛についた埃を払い、手をパンパンと叩いて更に埃を払う。人間の半分もない知性を持つ猿にとっては、その場所は大きな化け物に人間達が襲われているようにしか見えなかった。

猿が本能でそう思っていたとき、猿は目の前に透き通った哀霊玉が落ちているのに気づいた。ウーロンが馬から投げ飛ばされたとき、手から離れて地面に落ちたのだ。以前誤って飲み込んでしまったその宝玉を目にして、猿は無表情で哀霊玉を手にした。

最初に見たときと違い、紫色には染まっていない。それに違和感を覚えたのか、猿はその宝玉に話しかけるようにキーキー、と鳴いた。

すると、哀霊玉が微かに紫色に光り、猿の顔を照らした。そして「罪を犯し、朽ちていった者」達の声が発した。

「汝は・・・・・・あの時の獣・・・・・・」

「またこの玉を・・・・・・飲み込むつもりか・・・・・・」


周りの兵士達には聞こえない、死者達の声。しかし猿はその言葉が聞こえているのか、問いかけられたことに反応し、首を横に振った。

「我らの言葉が聞こえているのか・・・・・・獣よ・・・・・・」

「獣は我らに何を望む・・・・・・。またあの時のように殺戮を求める『鬼』と化すか・・・・・・」


猿は首を横に振り、その問いかけを否定した。

「では何を望む・・・・・・」

「目の前の邪悪なる者達を・・・・・・倒したいのか・・・・・・」


その問いかけに、猿は頭を縦に振った。

「邪悪なる者達を倒すために・・・・・・獣は『鬼』と化すか・・・・・・」

再び出された問いかけにも、猿は頭を縦に振った。

「・・・・・・獣の、人を助けたいという気持ち・・・・・・確かに認めた・・・・・・」

「集おう・・・・・・同じ邪念を秘めた者達よ・・・・・。そしてこの獣に捧げよう・・・・・」


猿が手にしていた哀霊玉から、眩い紫色の光りが放たれた。ロイが猿の胸から取り出したときの哀霊玉の時を上回る輝き。その光りを前に猿は無表情。ただただその光を眺めていた。

「さぁ・・・・・・哀霊玉を胸に近づけよ・・・・・・」

「さすれば汝は・・・・・・人を助ける『鬼』と化す・・・・・・」


猿はその言葉に従い、眩い紫色の光を上げる哀霊玉を胸にくっつけた。すると哀霊玉は胸に沈むかのように吸収され、猿の肉体に入り込んだ。

その瞬間、猿が胸を押さえて苦しみだした。その苦しみに耐え切れず膝をつき、苦い涎を口元から垂れ流す。猿の表情が徐々に歪み始め、そして猿の目は鬼の如き鋭い目へと変化していた。

・・・・・キイィィィイイイイイイッガアアアアァァァ!!!!!」

猿の叫び声が猛獣の雄叫びに変わると、猿の体に異変が起きた。

全身を覆う薄緑色の体毛がものすごい速さで変形をはじめ、爬虫類のような鱗へと変化する。そして3本しかない指の中指が肥大化し、爪が異常なまでに長く伸びる。それに乗じて一本の角も鋭く伸び、その怪物と化した体が徐々に大きくなった。

異変に気づいたウーロンや兵士達はその場から離れ、降り注ぐネファスの光線を防ぎながら巨大化していく猿を眺めていた。

否、それはもうウーロンの肩に乗っていた猿ではない。死者達から邪念を授けられ、殺戮を求めるのではなく、人を助けるための鬼・イッカクになっていた。その体はカンミンを襲っていたときのそれを遥かに超え、更に巨大化が続く。

「ゥゥ・・・・ガアアアアアァァァァァァァ!!!!」

もはや猿の鳴き声で無くなったイッカク。鬼の如き雄叫びを上げれるようになったときには、その体はネファスの顔を正面から睨めるほど巨大になっていた。イッカクはネファスと同じぐらいの巨体になったのだ。

城の前に現れたもう1体の巨大な怪物を前に、両軍はその場から立ち去っていた。しかしそれを他所に、ネファスはその光がまったく無い眼光でイッカクを凝視している。そしてネファスは両腕を持ち上げ、イッカクに殴りかかった。

濃緑色に染まった拳を腕で防ぐイッカク。不気味な空間から飛び出したネファスの体は中を浮いているかのように支えられ、ボクシングをしているかのように拳を振り出していた。

しかしイッカクはその殴りかかった腕を異常に長く伸びた爪で突き刺し、隙だらけになった脇の下にもう片方の爪を突き刺した。酷く乾いた叫び声を上げ、ネファスは苦しんだ。血が巡っているわけではなく、空洞の体。それでもネファスは痛みを感じていた。

ネファスは突き刺された腕とは逆の腕を振り上げ、両手の封じられたイッカクの頭を殴った。不意の攻撃を受けたイッカクはよろけ、足がふらつく。ネファスはすぐさまイッカクの首を掴み、突き刺された腕と脇の下から爪を引き抜き、そして自由になったもう片方の拳でイッカクを腹を殴り、吹き飛ばした。

兵士達の頭上を飛び過ぎ、石造りの建物の群れにイッカクは落ちた。その重さに建物が崩れ、粉塵が蔓延する。イッカクはすぐさま立ち上がり、貫かれた腕が再生していくネファスに突進した。

ネファスの腕から傷が消えたときには、イッカクはすぐ目の前まで接近していた。ネファスの腹を爪で突き刺し、更に引きちぎる。酷く乾いた叫び声が再び上がり、ネファスは片手で腹を押さえた。それと同時に巨大な口を開き、その口をイッカクに向ける。

瞬間、ネファスの口から雨のように白い光線が放たれた。イッカクはとっさに両腕で顔を隠したが、光線は体のいたるところを射抜き、傷を負わせた。

しかし、その傷も瞬く間に再生していく。顔を守るために傷を負った腕も、5秒もしないうちに塞がっていく。あっという間にイッカクの体から傷が消えた。

「ガウウウゥゥアアアァ!!!」

イッカクは怒ったような雄叫びを上げると、巨大な爪でネファスの肩に生えた巨大なトゲを砕き、そのまま胸の端まで爪で切り裂いた。更にイッカクはネファスの顎に向かって膝蹴りを喰らわし、一瞬よろけた隙に大きな首に爪を突き刺す。

しかしネファスの不気味な目が動き、イッカクの両腕を睨む。傷が再生していくと同時に、ネファスはイッカクの両腕を掴んだ。首に刺さった爪を引き抜き、ネファスは酷く乾いた雄叫びを上げながら、その上半身を赤と黒の空間に戻していく。

不気味な空間に引き込まれる、そう本能で察したイッカクは足に力を入れて踏ん張り、逆にネファスを引っ張った。しかし傷が完璧に消え去ったネファス怪力に徐々に引っ張られ、ネファスの体は胸まで空間に沈んでいく。ここまできてしまったネファスに、イッカクはいくら力を入れても引っ張ることができなかった。ビクともしないネファスの体は徐々に空間に飲み込まれていく。

「この邪悪なる者・・・・・・獣を空間に引きずり込むか・・・・・・」

「力が足りぬ・・・・・・力が足りぬ・・・・・・」

「これを見ている邪念を秘めし者達よ・・・・・・この獣に・・・・・・力を貸そう・・・・・・」

「我らが罪を・・・・・・この先にある平和のための礎となることで・・・・・・償えるならば・・・・・・」

「人々を助けよう・・・・・・そして我らも更に改まれよう・・・・・・」


死者達の声に呼応するかのように、イッカクの胸の中の哀霊玉が更に眩い光を上げた。肉体を貫通する紫色の光はイッカクの体を包み、薄緑色の鱗が紫色に照らされる。

「獣よ・・・・・・力を・・・・・・解き放て・・・・・・」

「ゥゥグ・・・・ガウウゥアアアアアアァァァァ!!!!」

イッカクが力強く吠える。紫色の光に包まれたイッカクは足を強く地面に押し付け、力を入れる。そして腕を掴むネファスの腕に爪を突き刺し、イッカクはそのまま吠えながら自分のほうへ引っ張った。

すると、ネファスの体はいとも簡単に空間から引きずり出され、上半身まで空間から飛び出した。両腕の自由が利かなくなり、ネファスは口を大きく開き、光線を放とうとする。

その瞬間、イッカクは勢いよく腕を広げ、ネファスの巨大な腕を引きちぎった。酷く乾いた断末魔の叫びを上げ、ネファスが苦しむ。両の爪に突き刺さったネファスの腕を振り払い、イッカクはネファスの首に両爪を突き刺した。

「ガアアアアァァァァウウウウ!!!!」

イッカクは力強い雄叫びを上げ、紫色の光に包まれた鋭く伸びた長い一本角を、ネファスの顔面に突き刺した。強烈過ぎる頭突きを喰らったネファスは悲鳴を上げ、光の無い目を暴走させる。

悲鳴と共に、ネファスの体はビルが崩れ落ちるように砕け散り、崩れた体は地面に落ちる前に煙のように消え、ネファスを召還していた赤と黒の空間は何事も無かったかのように静かに消えていった。

そしてイッカクを覆っていた紫色の光が消えると、イッカクの体に異変が起きた。

薄緑色の鱗が、徐々に柔らかな体毛へと戻っていく。それに乗じて角も爪も短くなり、体も小さくなっていく。小さくなっていくイッカクの胸から、紫色の眩い光りを放つ哀霊玉が飛び出し、イッカクの手のひらに入った。

「よくぞ倒した・・・・・・よくぞ・・・・・・救った」

「これで我らも安心だ・・・・・・」

「人を助ける『鬼』となるならば・・・・・・我らはいつでも力を貸そう・・・・・・」

「その時にまた会おう・・・・・・獣よ・・・・・・」


死者達がそう告げると、哀霊玉から紫色の光が消えた。その頃には既にイッカクはイッカクではなく、薄緑色の体毛に包まれた、尻尾の無い、一本角の猿へと戻っていた。










To be continued...

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あとがきコーナー




管:毎度のことながらやってきましたあとがきコーナー!ここまで読んでくださる読者の皆さん、ホントにありがとうございますOTZ。

ウ:久々にここに来たでアルよ、管理人。

管:なんだ、今日はウーロンが来たのかぁ。今話ではあんまり登場してない気がするのだが・・・・(☆w☆;)。

ウ:何を言っているでアル!私来なかったらあの猿、イッカクに変身できなかったでアルよ。

管:まぁ確かにそれはそうだが・・・。まぁその話は後にして、それでは始めましょう。



☆アルヘルリオにやってきたアクトとウーロンの軍隊。アルヘルリオにやってくるまでの経緯を物語上では書いていないため、なんで2人がいきなりいるの?的な状況になってしまった・・・OTL。最初はウーロンがロイ達が自分のところにやってきた、とアクトに手紙を渡します。そしてそれから数日経ってマティミックが2人のところに軍を動かすよう促す手紙を渡しています(手紙を送ったのはロイ達がベンセルに到着してから)。そしてアルヘルリオ城に不気味な黒い気配が漂い始め、行動に移ったわけです。

☆城壁の前で立ちはだかるノアザーグ軍。ここで登場する「大斧を持った兵士」は、イリスが所有する軍隊専用武器。鈎爪を装備している兵士達はジェニー軍のものなので、城壁の前にいるノアザーグ軍はイリスとジェニーの軍隊構成というわけです。

☆ついにアクト&ウーロン軍とノアザーグ軍が衝突。ここでウーロン軍で登場する「盾兵」と「槍兵」についてなんですが、実は即興の産物w。中国の兵士といえば矛と盾というイメージが強かったので、その2つのうちの1つを強化し、強い軍にしたのが「盾兵」と「槍兵」といった感じです。

☆両軍が激突している中、クローディアスの召還術によって暗黒巨人・ネファスが召還されます。ブロリア・バトル・フェスティバルの戦いで登場した召還獣ですが、この場面で登場するという設定はかなり前から考えていました(具体的に言うと第11話を書き終えてすぐw)。

☆ウーロンの肩に乗っていた猿(後にイッカクになるやつ)が、地面に落ちた哀霊玉を通じて死者と話します。話すといっても猿に会話能力がないわけですので、頷いたり首を振ったりするわかりやすい身振りで答える感じになっています。この辺の設定も前から考えていました。

☆そして今話のタイトルにもなっている「人を助ける鬼」として、猿は再びイッカクに変身します。しかしその大きさはネファスと同じぐらい巨大(=城と同じぐらい大きいことになる・・・w)で、その状況を簡単に言うと「ウルトラマンとゴジラが戦っているような」感じですw。この辺の設定も↑にあげたネファスや猿が哀霊玉と話すのと同様に、かなり前から考えていました。ただその時は、イッカクの大きさはカンミンを襲っていたときと同じ5mぐらいでの設定でした。が、それではイッカクに勝機が無いのでは?という後ほど浮かんだ疑問によって、しょっぱらから巨大化する設定となりました。

☆紫色の光に包まれたイッカクが、トドメの頭突きでネファスの頭を貫き、ネファスを倒します。角を顔面に突き刺して殺す、という設定は即興なのですが、物語の形としてはなかなかいい出来になっていると思っています。

☆そしてイッカクは元の猿の姿に戻り、城壁の前では両軍の戦いが再び始まります。どうなるかというと、それは次回のお楽しみ。



ウ:この内容からすると、今話は結構力を入れているようでアルな?

管:力を入れている場所と、そうでない場所がはっきりしてるかな。アクト軍とウーロン軍がアルヘルリオに到着~城壁前でノアザーグ軍と戦闘までの設定がまったく無かったから、書くのに苦労したね。

ウ:どうりで私、活躍してないでアルのか・・・。

管:ウーロンは将棋で言うと「王将」に部類される存在だから、自分では余り戦わない設定だったんだよね。

ウ:それでも私、戦いたかったでアルよ・・・。

管:まぁ俺の設定の前にはウーロンの軍事力も役にはたたん(ぁ。おとなしくその設定で生きるがいい(☆w☆ )。

ウ:いいでアルよ。そっちがそれならば、管理人のパクリ行為と怪獣マニアであることを言いふらすまででアル!(走り去る)

管:ちょっ、やめw(☆w☆;)。

ドタドタドタドタ!!(管理人がウーロンを追い掛け回す)

ア:何をやっているのかやら・・・。まぁ今回はこれで終わりのようだ。次回は俺、アクトとノアザーグ司令官・イリスとの戦いが書かれるであろう。

それでは読者の諸君、次回でまた会おう。


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