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休憩場

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第30話

第30話【究極黒竜】











プロペラの轟音と共に吹き荒れる、強い風。屋上に着地しようとする「警視庁」の白い文字と警察の勲章マークが描かれた紺色のヘリコプターが、屋上の風を激しく乱させていた。乱れて吹き荒れる風によって屋上の手すりは振動し、その振動は屋上の地面にまで広がっていく。

そんな空間にいた隼人と明日香は、突如姿を見せたヘリコプターに困惑を極めていた。吹き荒れる風に髪や制服が激しく靡き、明日香は思わず隼人に体を寄せる。

「は、隼人・・・あのヘリって」

「うん、警察のヘリだ・・・。でも、どうしていきなり・・・」

思い思いの言葉で隼人はそう答え、ゆっくりと降下してくるヘリコプターをただただ眺めていた。誰かが警察を呼んだのだろうか?隼人は空を飛んでヘリコプターの中にいる人達を確かめたいぐらいだったが、興志郎との戦いで怪我をした左太腿や全身にのしかかるような疲労感が、その意欲を抑制していた。

そんな時だった。隼人のすぐ真横にあった手すりにミミズのような触手が絡みつき、隼人と明日香がそれに気づき顔を手すりに向けた瞬間、手すりの下から突如人影が飛び出してきた。その人影は軽やかに屋上に足をつけ、手すりに絡みついた触手を穴の開いた掌に戻していく。

そう、その人影はこっ汚い作業服に身を包んだ英二だった。

「わ、渡辺さん!」

「む?お前達、ここにいたのか」

「はい・・・興志郎さんと戦ってて、その後にあのヘリコプターが・・・」

隼人がそう答えると、英二はふむ、と呟きながら地面に倒れた興志郎とヘリコプターに目を向け、隼人が話した状況が事実であることを理解する。明日香が隼人の傍にいるのは恐らくなんらかの原因でこの事態に巻き込まれてしまったものと解釈し、英二は隼人の方へ顔を向けその口を開く。

「なるほど・・・いや、実は学校にいた神校を殲滅した後、俺がルシフェル犯罪対策課に連絡を取ったんだ」

「じゃ、じゃあ、あのヘリコプターは主事さんが呼んだってこと?」

「いや、俺は『応援を頼む』と言っただけだ。だから普通はパトカーや武装車で来るはずだが、ヘリコプターで来たという事は・・・」

「何か、別の事態が起きた・・・って事ですね」

隼人の呟いた言葉に、英二は軽く頷いて答える。英二が応援を呼んだため時期に応援が来るはずだろうが、それよりも先にヘリコプターが来たということは、いち早く隼人達の所へ向かわなければならない事態が起きたという事。隼人達はそう思い、屋上に着地しようとするヘリコプターを眺め続けた。

やがて、屋上に近づいたヘリコプターはその地面に着地し、轟音を立てるプロペラは僅かではあるがその勢いを緩め始める。そしてヘリコプターの扉が開かれ、扉から1人の男が姿を現す。胸にいくつもの勲章をつけた警察服を着るその男に、隼人と英二は思わず声を上げた。

「か、課長!?」

2人は同時にそう叫び、目の前に姿を見せたルシフェル犯罪対策課の課長の元へと駆け寄る。明日香も状況が掴めないでいるものの隼人の後を追うように走り、3人はヘリコプターから降りて来た課長の前に並ぶ。

そして、課長は3人の顔を見ながら、その口を開いた。

「連絡は渡辺から受けた。皆無事のようでなによりだ。もっとも、1人関係のない者がいるが」

「は、隼人・・・この人は・・・?」

「僕達ルシフェル犯罪対策課の課長だよ。でも、どうして課長がここに・・・?」

「それは俺も聞きたかった。俺は『応援を頼む』としか言ってなかったが?」

「うむ、応援ならあと数分で着く。だが、君達にはこれから私と共に来てもらいたい」

「来てもらいたいって、何処にですか?」

「・・・・・神校の本拠地に、だ」

課長の発した言葉に、3人は驚愕した。神校の本拠地、それはつまり、神校が潜んでいたアジト。謎に包まれていた神校の本拠地に行くと言いだした課長に、3人は困惑しきっていた。それを表情で感じ取った課長はゆっくりとその口を開く。

「つい先程、我々警察の調査で神校の本拠地が上がった。その場所は前から不審な人物の目撃証言が多発していたことからこちらは有力且つ確実な情報と断定し、現在先に仲間達も現場に向かっている」

「もう皆が向かってる・・・。そ、それで、神校の本拠地は何処なんですか?」

「うむ、場所は東京湾の傍にある廃工場。その地下に、恐らく神校の本拠地がある」

「東京湾・・・・・土手の川の先にある所か。そんな場所に奴らが・・・」

「うむ。これから君達をこのヘリで現場まで送る。そしてそこにいるだろう神校を――――」

「ちょっと待ったぁ!!」

課長の声を制する程の大声に、隼人達は声が発した背後へと振り向く。そこにいたのは、薫の手を取った変身した姿の十兵衛だった。意外な人物の姿に驚く隼人達だったが、それを他所に十兵衛は薫の手を引きながら隼人達の所へと駆け、十兵衛は隼人の目の前まで距離を縮める。

そして、十兵衛は薫の手を離し、その左手で隼人の顔を殴った。

「ぐっ!?」

突然過ぎる殴打に隼人は疑問と痛みを混沌させた声を上げ、殴られた頬の痛みに表情を少しだけ歪ませた。痛みが広がる頬を手で抑えたかったが、変身して巨大化した手ではそんなことは出来るはずもない。隼人を殴った十兵衛の行動にそこにいた全員が驚き、明日香は思わず声を上げる。

「ちょ、十兵衛!あんたいきなり何して!」

「うっせぇんだよ怪力女!ったく・・・上御霊を置いてった分、やっとぶん殴れたぜ」

「じゅ、十兵衛君・・・?」

隼人はそう呟くと、十兵衛の傍にいた薫と目が合う。その瞬間、隼人の内から気まずい気持ちが滲み始め、自然と視線を逸らしてしまった。しかし薫自身に気まずさは無く、隼人が気まずそうにしていることに気づきあえて声は掛けないようにしていた。

そんな中で、薫の存在や十兵衛が口にした言葉から、何故十兵衛が自分を殴ったのかを隼人はようやく理解した。そして、隼人はゆっくりとその口を開く。

「・・・ごめん」

「ヘッ・・・もういいっつの。1発ぶん殴れただけで十分だし、隼人は俺の大事なダチだ。これ以上はもうやんねぇよ」

「うん・・・そうじゃなかったらちょっと困ってたよ・・・」

「・・・それはいいとして、今の話はちゃんと聞いてたぜ?お前ら、これから神校のアジトに行くんだろ?」

「まぁ、聞いていたのなら否定はしないが」

「なら俺も連れてけ!」

十兵衛の大きな声に、そこにいた全員が再び驚愕した。今、なんて言った?再度聞き直したくなる程の内容に隼人達の顔は驚きに満ち、十兵衛の言葉に隼人が慌てて答える。

「ちょ、十兵衛君、いきなりそれは・・・!」

「無理だってか?ヘッ、冗談じゃねぇぜ!あいつらに散々ひでぇ目に遭わされてきたんだ、あいつらをぶっ潰さねぇとこっちの気が沈まんねぇんだよ!だから俺も一緒に連れてってくれ!」

「・・・と言ってるが、どうするんだ、課長?」

「ふむ・・・君の気持ちもわからなくもないが、これは非常に危険なことだ。例え君であろうと、部外者である君を連れて行くわけにはいかん」

「そうかよ・・・・・だったら、隼人を連れて行かせねぇ!」

そう言うと、十兵衛は隼人の二の腕を掴み、強引に自分の方へと引っ張った。隼人の体は前のめりになりながら十兵衛の方へと移動し、課長のいた所から離されてしまう。

「じゅ、十兵衛君!?」

「さっきも言ったこったけど、隼人は俺の大事なダチだ。俺が行けねぇなら、そのダチである隼人も行けねぇ!」

「おい、石動・・・」

「渡辺さん、俺はマジだぜ。隼人を連れて行きたかったら、俺も連れてってもらうぜ」

それは脅しも同然の言動だった。神校の本拠地に向かいたいがために起きた事態に英二と課長は悩んだが、やがて課長が呆れたようにため息を零し、そしてその口を開いた。

「・・・・・わかった、君も連れて行こう」

「ヘッ、そうこなくっちゃなぁ。あんがとよ」

「ホントにいいのか、課長?」

「あぁ、あの性格の子に何を言っても無駄になりそうだからな。それに、部外者でも戦力は多い方が良い」

「・・・そうだな」

「うむ、では時間もない。早くこのヘリに乗り込んでくれ」

そう言うと、課長はヘリコプターの扉へと歩み、ヘリコプターの中へ入った。その後を追うように英二もヘリコプターの中へ入り、十兵衛も薫の顔を1度だけ見返し、薫はいってらっしゃいと言わんばかりに頷く。そしてヘリコプターへと乗り込もうとする十兵衛に続くように、隼人もヘリコプターへと歩もうとする。

だが、その隼人の背中のYシャツを、誰かの手が引っ張った。行かないで、そう言ってくるような感触に隼人が顔を振り向かせると、Yシャツを引っ張っていたのは明日香だった。

「明日香・・・?」

「隼人・・・私・・・」

切なそうな瞳を見せながら、明日香が隼人の目をじっと見てそう呟く。もしあのヘリコプターに乗ったら、隼人が戻ってこないかもしれない。それが嫌だから、行かないでほしい。そんな感情が、明日香の表情に現れていた。

そんな明日香の顔を見た隼人は背中のYシャツを掴む明日香の手を取り、体を明日香の方へと向ける。黒く荒々しい手で明日香の手をしっかりと握り、明日香の切なそうな瞳をじっと見ながら、隼人は口を開いた。

「・・・大丈夫、心配しなくていいよ」

「でも・・・でも・・・もし・・・・・隼人が帰って来なかったら・・・」

「じゃあ・・・約束するよ。僕は・・・神校を倒して、絶対明日香の所に帰ってくるって」

「ホント・・・?」

「うん・・・約束する」

「絶対・・・絶対約束守ってよね。守らなかったら、針千本・・・飲ませるんだから」

明日香のそんな言葉に、隼人はクスリと微笑んだ。その優しい笑みは明日香に宿っていた不安を取り除かせ、明日香から不安が無くなったことを察した隼人はそっと明日香の手を放し、ヘリコプターの方へと歩んでいく。

ヘリコプターの中に入り、扉を閉めた隼人は、扉の窓から明日香と薫の姿を見る。大丈夫、約束したんだから。ほんの少しの間の別れを惜しむように見えた2人に隼人は心の中でそう呟き、じっと2人に目を向けた。

そして、隼人達を乗せたヘリコプターはけたたましいプロペラの音と共に、青い空へと舞い上がって行った。










河川敷の傍を流れる川を下った先にある海、東京湾。

東京、千葉、神奈川の3県に面するその海は幾多の埋め立てによって工業地帯と化しており、海に面した場所の所々に工場や倉庫が並んでいる。そんな場所の上空を隼人達を乗せたヘリコプターは飛行し、隼人達はヘリコプターの狭い座席から眼下に広がる東京湾を眺めていた。

「こんな場所にあいつらのアジトがあるのか・・・。話は聞いてたけどいざここまで来ると変な感じがするぜ」

「うん・・・。でも、人気を避けるためにはいい場所なのかもしれないね」

「・・・2人とも、怪我は平気か?特に石動はかなりでかい傷のようだが」

「あ?あぁ、傷ならもう塞がってるぜ?ルシフェルって傷治んの早いの渡辺さんだって知ってるでしょ?」

「僕ももう傷は塞がってます。だから戦う時が来ても全力で挑めます」

「うむ・・・それならいい」

怪我を抱えた状態で戦って無理をされては困る。そう思っての英二の発言だったが、隼人と十兵衛はその心配を見事に消し去る返事を返し、英二は少しばかり安堵の表情を浮かべる。それを他所に課長は無言のままヘリコプターから外を眺め、緊迫の糸を解くことはなかった。

だが、その時。窓から外を眺めていた課長がその口を開く。

「見えた、あそこだ」

課長の言葉に、隼人達は課長が視線を向ける方向へ顔を向け、窓から外を眺める。窓から見えた光景は、港の傍に建った錆びついた倉庫のような工場と、その工場の入口に集まる人々だった。その人々は隼人達の所属するルシフェル犯罪対策課のルシフェルであり、既に工場の外で戦闘が始まっていたのかルシフェル達の周りには同じくらいの数の般若軍が倒れており、負傷したルシフェルが地面に座り込んでいた。その光景に、隼人達は少々驚いていた。

「もう神校と戦っていたのか・・・この分だと俺達はかなり出遅れたな」

「怪我してる奴がいるな・・・。でも、神校の奴らは全員ぶっ倒れてるぜ」

「僕達も早く行かないと。課長」

「わかっている。おい、急いでヘリを現場に着陸させるんだ」

課長の声を聞いたパイロットは頷いて答え、隼人達を乗せたヘリコプターはルシフェル達がいる工場の前へと降下していく。そしてプロペラの轟音と凄まじい風が舞い起こる音と共にヘリコプターは工場前に着地し、隼人達はヘリコプターから降りてルシフェル達の所へと駆け寄る。

突然のヘリコプターに動揺していたルシフェル達だったが、降りてきた隼人や英二、そして課長といったルシフェル犯罪対策課の人間を見て、ルシフェル達の動揺は解けた。

「か、課長・・・!それに副課長も・・・」

「皆、無事か?私達が来る前に既に戦闘が始まっていたようだが」

「はい・・・怪我人は出てますが、皆無事です・・・」

「そうですか・・・。それで、状況はどんな感じなんですか?」

「ここの状況は見てもらえばわかるが・・・神校の部隊を殲滅して、怪我を負った者はここで待機しているんだ・・・。まだ動ける者は・・・工場内にある地下へと続くエレベーターで先に向かった・・・」

「ちょ、この工場地下あるのかよ。ってことは奴らのアジトはこの工場の地下っつうことか?」

「うむ、そう考えていいな」

十兵衛の驚きに満ちた声に英二はそう答えると、改めて辺りを見回す。般若面を被った神校の般若軍があちこちに倒れ、怪我を負ったルシフェル犯罪対策課のルシフェルは工場の前で体を休め、怪我の浅い者が怪我を負ったものに応急処置を済ませている。

怪我が少なく、動ける者が先に地下に向かったのなら、自分達もぐずぐずしている暇はない。そう感じた英二は課長の方へ顔を向け、声を掛ける。

「課長、俺達も地下に向かう。神校の部隊を倒したと言っても、まだ地下に潜んでいるかもしれない」

「うむ、私も同意見だ。私はここで応援を要請する、その間に一文字、渡辺、石動の3人で地下にいった仲間達と共に神校を叩くのだ」

「はい!」

課長の指令に隼人は力強い声で答え、隼人、十兵衛、英二の3人は錆びついた工場へと走り出した。口を開けた大きな鉄の入口を抜け、3人は工場の内部に入る。

外から見た錆びついた外見の通り工場の中も所々錆びついており、使われることがなくなった大型の機械達が壁にずらりと並んでいる。それらが錆びついた工場内に凍てついた空気を漂わせ、夏の始まりが近づいているにも関わらず工場内は異様に涼しかった。その工場に足を踏み入れた隼人達の前方に、それは見えた。

鉄柵の扉と錆びて茶色く変色した鉄の壁をした、貨物運搬用の大型エレベーター。人ならば軽く7、8人は乗れそうな程大きな入口のそれに隼人達は駆け寄り、英二は鉄柵の扉のすぐ真横にあるエレベーターの呼び出しボタンを押す。すると、鉄柵の扉の奥から鈍い機械音が響き、数秒としないうちにエレベーターの入口は隼人達の前に口を開いた。

「これに乗れば地下だ。一文字、石動、覚悟はいいな?」

「はい」

「バッチコイだぜ」

「良し、なら行くぞ」

覚悟を決めた隼人と十兵衛の声を聞き英二は頷きながらそう呟き、3人は錆びついたエレベーターに乗り込む。そして英二が開閉ボタンを押すと鉄柵の扉はゆっくりと閉まり、隼人達を乗せたエレベーターは地下へと下りた。

鈍い機械音と共に下りていくエレベーターの中で、3人に緊迫の糸が張られていく。この先にあるだろう神校の本拠地、待ちうけているだろう神校のルシフェル、そしてその先にいるだろう、神校の頂点に立つ者。どういう場所で、どういう者がいるかわからない不安が隼人達の緊迫の糸を更に強め、先に向かった仲間達と共に神校を倒すという気持ちをも強めさせていた。

やがて、隼人達を乗せたエレベーターは工場の地下へと到着し、鉄柵の扉がゆっくりと開かれる。扉が開かれ晒された光景を目にした瞬間、隼人達は驚愕した。

扉の先に広がっていたのは、とてつもなく広く薄暗い部屋。天井は3階建てのビル程に高く、部屋は四木中学校の校庭と同じぐらいに広い。天井が高すぎるために天井に設置された照明の明かりが部屋の隅まで当たらず、街灯の少ない夜道のように暗い空間になっていた。

しかし、隼人達が驚愕したのは、その空間のことではなかった。

だたっ広く薄暗い部屋の中央に倒れる人々。7、8人はいるだろうその人々のほとんどが異形を成しており、その人々が先に向かったルシフェル犯罪対策課のルシフェルであると気づくのに隼人達は数秒と掛からなかった。隼人達は慌てて床に倒れるルシフェル達に駆け寄り、大きな声で話しかける。

「み、皆、大丈夫ですか!?」

「う・・・ぐっ・・・」

「意識はある見てぇだな。だけど酷ぇ・・・皆ボロボロじゃねぇか」

「くっ・・・ダ・・・ダメだ・・・・・早く・・・ここから・・・」

「おい、今何と言った?言う事があればはっきり言ってくれ」

「ゲフッ・・・・・ま・・・まだ・・・・・・『あいつ』が・・・・・」

「あいつ?」

負傷したルシフェルの声を耳にして隼人がふとそう呟いた瞬間、突如部屋からけたたましい咆哮が轟いた。そしてその直後、何か巨大なものが勢いよく通過したかの如し凄まじい風が隼人達に襲いかかった。

「ぐぉっ!」

同時に響いた、英二の短い悲鳴。隼人と十兵衛が英二の立っていた場所を見るとそこに英二の姿はなく、隼人と十兵衛は慌てて辺りを見回す。そして、2人はすぐに英二の姿と、英二を捕えた怪物の姿を見つけた。

鷲のように鋭く大きな口、漆黒の禍々しい体に生えた大きく長い尻尾と巨大な蝙蝠の翼、そして血に飢えた獣のような右目と円錐状の先端をした筒状の機械で出来た左目。隼人と十兵衛が見つけたその怪物は四木中学校を襲い、浅草に姿を現した黒竜・Gそのものだった。

しかし、浅草で隼人に切り落とされた両腕は巨大な機械のそれが取り付けられており、鋭く巨大な鈎爪が3つ付いたような形をした機械の手によって、英二の体は鷲掴みにされていた。

「わ、渡辺さん!」

「あ、あんの化け物・・・よりによってこんな場所にまで居やがったのかよ!」

だたっ広く暗い部屋に姿を現したGに2人は驚きと動揺を隠しきれず、しかしそれを振り払い十兵衛は変身してGに電撃を喰らわそうとする。だが、Gの機械の手には英二が捕われており、無鉄砲に電撃を放てば英二も感電してしまう。そう察した十兵衛はGに対する有効な手段がなくなったことによる悔しさに舌打ちを放ち、隼人もまたどうすることも出来ない状況に表情を歪ませていた。

だがその時、Gに鷲掴みにされていた英二が苦しくも大きな声で2人に声を発した。

「一文字、石動!俺はいい、早く先に行くんだ!」

「さ、先に行くって、そんなの無理です!」

「いいから行くんだ!急がないと・・・神校のボスが逃げてしまう!」

「渡辺さん・・・」

「早く・・・・・行くんだぁ!!」

怒鳴りつけるような英二の大きな声に、戸惑いを見せていた隼人と十兵衛は決意を固めた。何も出来ない悔しさに表情を歪ませながら2人は頷き、そして部屋の先に見える扉へと駆け出した。神校を倒す、その気持ちのままに。

部屋の扉から隼人と十兵衛が部屋を出て行く姿を目にすると、英二はGに体を鷲掴みにされた状態で変身を開始する。英二の両掌に肉を抉ったような大きな穴が開き、その掌の穴から夥しい数のミミズの如し触手を出す。掌から出た触手はGの機械の手をすり抜け、そして触手はGの肩や足に突き刺さった。

その巨体故に英二の触手はGの体を貫くことは出来なかったが、槍の如し鋭い突き刺しにGは悲鳴の如し咆哮を上げ、英二を鷲掴みにする機械の手から力が抜け始める。その隙に英二はGの機械の手から抜け出し、ルシフェル達が倒れる地面に勢いよく着地する。

「くっ・・・G、浅草の事件で死体が無くなっていたが・・・やはり神校が回収していたか。だが、例えどんな改造を施されようが、お前が悪の存在である限り・・・・・俺は、必ずお前を倒す!」

部屋の上空にいるGを見上げながら、英二は気合の言葉を放つ。その声に対するかの如くGは咆哮を上げ、獣の如し鋭い右目と筒状の機械の左目で英二を睨む。やがてGは短い咆哮を上げ、英二を踏み潰さんと勢いよく降下し始めた。

足から落下してくるGに英二は冷静さを保たせながら天井の方へ目を向け、果てしなく高い天井に向けて勢いよく触手を突き出す。弾丸の如し勢いで突き進んだ触手は天井にぶら下がる照明に絡みつき、それと同時に英二は触手を掌の穴へと勢いよく戻しその体を一気に宙へと上昇させる。その直後、英二の立っていた場所にGがとてつもない勢いで床を踏みつけた。

巨体が生み出す凄まじい衝撃が床に広がっている間に、宙へと上昇した英二はGから離れた所に着地し、照明に絡みついていた触手を放したと同時に右手から出た夥しい数の触手をG目掛けて発射する。弾丸の如し勢いで突き進んだ触手はGの脇腹や翼に突き刺さり、その痛みにGは悲鳴の如し咆哮を上げる。英二がGの体から触手を引き抜くと、Gは苦しそうな唸り声を上げ、獣のように鋭い右目で英二を睨む。

だが、それと同時に筒状の機械の左目の円錐状の先端から朱色の光が発し始め、2秒としないうちにその光はGの漆黒の頭部を朱色に染め照らす程に眩いものになった。その光に英二が嫌な予感を募らせた瞬間、Gは英二の方に顔を振り向け、それと同時に機械の左目から細い光線が発射させた。

顔を振り向かせながら放たれた光線は刃を薙ぎ払うような勢いで英二に迫り、朱色の光線は英二の胴体を切断しようとする。その光線を前に英二は慌ててその場にしゃがみ込み、頭上ギリギリの所で光線を回避する。Gが放った光線は英二の後方に広がる壁や床を切り裂き、壁や床は凄まじい勢いで破壊されていく。

「レーザー光線・・・だと・・・!?あの目はただの飾りではなかったのか・・・!」

英二が驚きに満ちた声を発すると、Gは続け様に右腕を英二の方へと向け、機械で出来たそれの指と思わしき鋭く巨大な3つの鈎爪が開く。その瞬間、小さな爆発音と共にGの右腕がミサイルのように発射した。

発射された右腕と本体の右腕は鉄のワイヤーで繋がっており、発射されたそれは鉄のワイヤーが放つ甲高い金属音を響かせながら凄まじい勢いで英二に迫っていく。突然の攻撃に反応が遅れた英二はそれを避けることが出来ず、発射された機械の右手に体を鷲掴みにされた。発射した右腕と繋がる鉄のワイヤーが本体の右腕に引き寄せられ、英二を鷲掴みにした右手は本体の右腕と接合する。

そして、Gは鷲掴みにする機械の右手ごと、英二の体を床に叩きつけた。

床が砕ける程の怪力によって体を叩きつけられた英二はその口から真紅の血を吐き出し、苦い声を放つ。口元を血で汚した英二をGは知ってか知らずか更に床目掛けて投げ飛ばし、英二の体は床を何度もバウンドしながら吹き飛んでいく。ようやく勢いが止まり床に倒れた時には、英二の体は至る所に激痛が駆け巡っていた。

床に倒れ、苦しむ英二を見て、Gは嘲笑うかの如く咆哮を上げる。金属のように鋭く、獣のように太い咆哮に英二は全身の痛みを堪えてゆっくりと立ち上がるが、その足は痛みで震え、体の所々に痙攣が走る。満身創痍な英二を前にGは再び咆哮を上げ、獣のように鋭い右目で英二を睨む。

Gの鋭い睨みを受ける英二は、血で汚れた口元を袖口で拭いながら考えていた。激痛が体中を駆け巡る満身創痍の体で、どうやってGを倒すかを。槍の如し鋭さを誇る触手を持ってしても貫くことが出来ない相手を倒す方法、それを考えていた英二は、すぐにその結論を出した。

――――この身に影響する程の、強い一撃を放つ。

それを行えば、まずGは倒すことが出来るだろう。だが、それを行えば自分にもそれに等しいダメージを負う事になる。一言で言うならば「諸刃の剣」だが、仲間が倒されている以上、自分の身を気にしている場合ではない。

「ふぅん・・・お前ごときに使うべきではないんだが・・・・・使わせてもらうぞ・・・!」

そう呟くと、英二は右手の袖を肘まで捲り上げ、右腕を晒し始めた。突然の行為にGは疑問に思う事もなく、ただただ英二を睨み続けている。

そして、英二は瞳を閉じて息を整え、こう呟いた。

「・・・リミッター・・・・・解除」

痛みによる歪みがなくなった、静かな声でそう呟いた瞬間、英二の晒された右腕から夥しい数の触手が皮膚を突き破って飛び出し、英二の血肉で濡れた触手がその姿を現した。その数は掌から出す触手とは比べ物にならない程にあり、英二の肘から下の腕の皮膚が見えなくなる程に触手が右腕から飛び出していた。体内が変形して作り出された触手の全てが、英二の右手から全て姿を現しているのだ。

皮膚を突き破ってまでも触手を出したために苦痛の表情を浮かべる英二は、そのミミズのようにうねうねと動く触手達を纏った右腕を振り上げ、閉じていた目を力強く開く。その瞬間、右腕の触手達が螺旋を描くように右腕に巻きつき、1つに纏まった触手達は英二の右腕を太く、長く、鋭いランスの如し形状に変化させていた。そのシルエットはまるで生きたランスと右腕が融合したかのような、奇怪で勇ましい姿だった。

「行くぞ・・・・・G!!」

痛みを払い除け、力強い声を上げた英二は、触手のランスと化した右腕を構えながらG目掛けて突進した。右腕の強い激痛が体中の激痛を消し去り、震えていた足に力を与えてくれる。その足で迫りかかる英二にGは咆哮を上げ、機械の右腕を英二に向けてその腕を英二目掛けて発射する。

だが、英二は迫りくるGの機械の右腕を横に大きくスキップすることで回避し、Gに更に接近する。それを見たGは追撃せんと機械の左腕を英二目掛けて突き出し、英二の体を捕えようとする。しかしその攻撃すらも英二は高く跳躍して回避し、更にGの機械の左腕に着地してその腕の上を駆け進んだ。

自分の腕の上を走る英二に苛立ちを覚えたGは怒りの咆哮を上げ、機械の左目の先端から朱色の光を発生させる。そして光が溜まった機械の左目から、英二めがけて朱色の光線を発射した。光線は弾丸のそれよりも速く突き進み、英二の体を貫こうとする。

しかし、英二はその光線を前にGの頭部目掛けて高く跳躍し、朱色に輝く光線を足元ギリギリの所で避けた。高く跳躍した英二は光線を放つGの頭部に着地し、そして触手のランスと化した右腕を構え、叫んだ。

「ガトチュゼロスタイル!!」

意味不明な単語を叫んだと同時に、英二は足元のGの頭部目掛けて触手のランスと化した右腕を力強く突き出した。太く、長く、鋭い触手のランスはGの頭部の肉に容易に突き刺さり、その内側にある脳、そしてその下にある上顎をも貫いていく。頭部を貫かれたGは断末魔の如し咆哮を上げ、獣の如し鋭い眼から光を失わせていく。

そして、Gの体は重たく床に倒れた。

ズドンッ!と重く鈍い音が響き、巨体が倒れたことによって床に激しい振動が走る。Gが倒れると同時に触手のランスを引き抜き空中へと跳躍していた英二は、そんな振動の走る床に勢いよく着地し、床の振動を足から受け止める。立ち上がった英二はGの血がべっとりと付いた右腕を振り払い血を払い落しながら、倒れたGの方を見た。

倒れたGの頭部からは鮮やかな血が噴き出し、漆黒の皮膚に包まれた頭部を赤く塗り潰している。脳を貫かれたGの体はピクリとも動く気配を見せず、正真正銘命を無くした巨大生物の屍と化していた。

「G・・・お前も神校の手に落ちていなければ、普通のMLAだっただろうに・・・」

黒い竜の姿をした怪物とはいえ、元は自然界に存在するMLAという生物。そのため1つの命を奪ったことには変わりなく、英二は命を奪ったことに僅かながら罪悪感のようなものを感じていた。そんな意味を込められた言葉を呟きながら英二は右腕から出した触手を全て腕の中へと戻し、英二は穴と血肉で満ちたグロテスクな右腕を晒した。

血が流れ、痛みが響く右手を抑えながら、英二はふと隼人と十兵衛が抜けて行った扉へと目を向ける。鉄製の重たそうな錆びついた扉に、英二は2人のことを考えた。

(あの先にはGに匹敵する奴がいるはず・・・。一文字・・・石動・・・・・無事でいるんだぞ・・・)

考えたことは、2人の身の心配だった。後を追って助太刀するべきなのだろうが、Gを倒すために使ってしまった「諸刃の剣」のため、右腕の痛みが消えるまでしばらく先に進むことが出来ないのだ。今出来ることは、ここにいる怪我人を地上まで運ぶことだけだ。

そんな英二は先に向かった隼人と十兵衛の身を案じながら、倒れた仲間達の傍へとただただ歩み寄るのだった。










To be continued...

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あとがきコーナー




管:ガトチュゼロスタイル!!

と、いうわけで(?)早速やって来ましたあとがきコーナー!ここまでのご拝読、真にありがとうございますm(_ _)m。

英:これからもニヤニヤ動画をよろしく頼む。

管:ま た お 前 か !(☆Д☆;)

英:なんだその出迎え方は。まるで俺が出て来てはいかんようではないか。

管:いや、別に出てきていいんだけどよぉ、なんつうか生理的に受け付けないというかなんつうか・・・。

英:ふぅん・・・意味不明と言わざるを得ない。

管:お前に言われたくねぇYOwwww。っとと、これ以上話すと前置きが長くなってしまいそうだ、それでは早速始めるぞ!


今話は四木中学校での戦闘が終わり、神校の本拠地での戦闘が始まるまでの流れになっています。今話でこのGENOMEという物語は終盤へと突入し、神校との最後の戦いが幕を下ろすことになります。

学校の屋上に着陸したヘリコプター。隼人、明日香、英二の3人の前に現れたそれから降りてきた課長から、神校の本拠地が明らかになったことが告げられる。この設定は以前から考えていたもので、学校にヘリコプターが来るという設定の後に、課長の登場や神校の本拠地が明らかになることなどの設定が出来て行きました。でもぶっちゃけた話それだけならヘリじゃなくてもいいと思ったりします(ぁ。

その最中、屋上に駆け付けた十兵衛と薫が隼人達の前に現れる。この設定は↑と同時期(むしろ同時w)に思いついたもので、十兵衛が隼人の顔面を殴る場面もこの時から出来ていました。まぁ薫の気持ちを考えれば当然といっちゃ当然(蹴。

学校を離れ、隼人達は神校の本拠地である東京湾に到着する。この東京湾に神校の本拠地があるという設定なのですが、実は当初の設定では東京湾ではなく富士山のふもとにありましたw。ですがしばらくして「富士山だと東京からかなり離れてね?」という疑問が浮上し、それでは遠すぎるだろということから東京都内でも比較的葛飾区に近い東京湾に変更となったわけです。

その東京湾の神校の本拠地の地下にて、更なる改造を施された黒竜・Gが出現する。この設定はGの設定が出来た頃には既にあったもので、Gは序盤、中盤、終盤と3回登場する怪物にさせようと思っていました。しかしただ登場させるだけでは面白くないので、登場するたびに機械的に、それでいて強力な存在として登場するようにさせました。そのため、以前の戦闘で無くした両腕は機械の腕になっています。

この機械の腕はGに更なる戦闘能力を向上させており、距離を離した相手を瞬時に捕獲する鉄のワイヤーと繋がった発射可能な腕となっています。この設定のモチーフはいろいろな所から来ているのですが、ゴジラに出て来る「メカキングギドラ」の兵器・マシンハンドが1番影響してたりします(わからない人は「メカキングギドラ」でググってみよう)。

英二、リミッター解除。この設定は英二というキャラが生まれた時からあったもので、英二の必殺技的なものとしてありました。モチーフは前作BEAST SOLDIER 2に登場した寄生魔・カオスパラサイトに寄生され、右腕が変形した「クラウサー」で、この時変形した右腕の形をそのまま英二の方でも使ってしまってます(蹴。

Gの頭部を貫き、Gを倒す英二。そしてその間にも、隼人と十兵衛は先に進んでいく。果たしてこの後何が起こるのか、それは次回のお楽しみ~。


英:マシンハンド・・・か。またマイナーなものをモチーフにしたな。

管:まぁゴジラシリーズを知らない人には何が何だかわからんだろうねw。でも本当だったらマシンハンドは電気も流れてる訳だから、それと比べたらGの腕はそこまで強くはないんだよねぇ。

英:・・・それはそうと、マシンハンドをモチーフにしたと言いながらマシンハンドとほとんど一緒な気がするんだが・・・もしやまたパクったか?

管:な、何を言うか!(☆Д☆;)いくらなんでもそれはねぇってのw。

英:ほぅ?ならどうしてそんな慌てているんだ?パクってパクってパクったとしか言いようがない。

管:だあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!そんなパクったパクった言うなああああぁぁぁぁぁぁ!!!

ドサッ!(気絶)

英:・・・「パクリ」という言葉にとことん弱いと言わざるを得ない。さて、管理人が倒れてしまったのでこのまま続けても仕方がない、そろそろあとがきコーナーも終わらすとしよう。それでは皆、次の話に乞うご期待!


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