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休憩場

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第32話

第32話【ゴッド】











(渡辺さん・・・十兵衛君・・・!)

自分を先に行かせ敵と戦っている者の名を心の中で切実に呟き、真っ直ぐに伸びた通路を駆け抜ける隼人。ここまで来るのに道を切り開いてくれた者達のことを考えると、隼人は今でもその足を止めてしまいそうになっていた。

だが、そうしたら当然校長を捕えることが出来なくなる。それはつまり、十兵衛や英二の努力が無駄になることを意味する。そんなことは絶対にしたくない、その気持ちが隼人の足に力を漲らせ、先の見えない通路をひたすらに駆け続けさせていた。

(この道は渡辺さんと十兵衛君が切り開いてくれた道だ・・・。最後の最後まで、後ろを振り向いちゃいけないんだ・・・!)

先に進み続ける、その決意を固めた言葉を心の中で吐いたその時、十兵衛の視線の先にそれは見えた。

先の長かった通路に聳える、大きな鉄の扉。強い衝撃を与えれば崩れ落ちてしまいそうな程に錆びついたそれを目にした時、隼人はそれの先にある部屋が校長が潜んでいるだろう部屋だと確信した。そしてそう確信したからこそ、隼人の走る速度は次第に速さを増していっていた。

錆びついた大きな鉄の扉の前まで迫ろうとしている隼人はその足を緩めることなく走り続け、鉄の扉に体当たりするかの如く岩肌のように黒く荒々しい皮膚をした両手で鉄の扉を押し開ける。ゴゥンッ!と鈍い鉄の音が響き渡り、隼人は勢いよく部屋の中に駆け入る。隼人が部屋に入った直後、鉄の扉は音を立ててゆっくりと閉まり始め、やがて再び響き渡った鈍い金属音と共に鉄の扉は完璧に閉じた。

そして、鉄の扉が閉じた時、隼人は自分が立つ部屋を見まわし驚きを露にした。

隼人が駆け入った部屋は、物が何1つ置かれていない広く薄暗い空間。天井はそれほど高くなく照明の数も十分にあったものの、その照明の1つ1つの光が弱く、部屋全体を照らし尽していない。その薄暗さに同調しているかの如く部屋の空気は無音に等しい程に静まり返っており、隼人の乱れた息の音だけが、今の部屋の中に響き渡っていた。

「来たか」

静かだった部屋に響いた、隼人以外の者の声。それは隼人の前方に広がる薄っすらとした暗闇から発し、隼人が目を凝らして見てみると、そこには確かに1つの人影があった。

隼人の視線を見て、声の主は口元を綻ばせ、隼人の方へゆっくりと歩み始めた。自分の姿が見えていない哀れな子羊にその姿を晒し示そうとする狼の如く、ゆっくりと。

足音が響き、それが次第に隼人の方へと近づいていく。それに従い隼人の目に声の主の姿が少しずつはっきりと見えるようになり、薄っすらとした暗闇の羽衣に包まれていた声の主の姿が隼人の前に晒されていく。やがて足音は隼人の前方のすぐ近くで止まり、同時に声の主の姿が隼人の前に現れる。

そして、隼人は驚愕した。

「あ、あなたは・・・!そんな、だってあなたは・・・もう・・・!」

「死んでいるはず、か?死人がここにいて、お前は随分驚いているな」

「な、なんで・・・」

驚きの余りに、隼人の声を発している口は震え出した。声の主、すなわち、神校の校長が、以前に自分が出会った人物であったからだ。それだけではない、その人物は自分の想像に該当するはずのなかった程の者だった。

その人物の名を、隼人は思わず口にする。

「どうして・・・あなたが・・・・・・・・神田比沙子さん!!」

それは、かつて隼人が薫と遊園地・東京ドリームスペースに遊びに行った時に出会い、神校に襲われていた所を助けた、ルシフェル擁護委員会会長の女性。特徴的な求導女の如し真白い服に身を包み、羽毛のように軽そうな髪をした比沙子は隼人が助けたその日の夜に自宅が爆破されたことによって死去し、この世には存在しない者となっているはずだった。

その比沙子が、今隼人の目の前にいる。神校の校長という存在で。

「どうして・・・か。どうやらお前は、校長が我のような女性で、既に死んだ者だとは想像していなかったようだな」

「あの時と話し方が全然違う・・・。やっぱり、あなたは・・・」

「そう、我こそが神校の校長。お前達ルシフェル犯罪対策課を欺き、行動してきた神校の頂点に立つ者だ」

優しそうな表情とは裏腹に、悪意の如し不気味さに満ちた声で比沙子はそう答える。その見た目と発する言葉のかけ離れ過ぎた違いに隼人は驚きながらも、目の前に存在する校長、神田比沙子を睨みつけるように凝視し、再びその口を開く。

「遊園地の襲撃の後の爆死・・・あれは、偽物だったということですか」

「まぁ、そういうことになる。死体など捜せばいくらでも手に入るものだからな。それに、爆死した遺体が偽物でなければ、我はここにいないだろう?」

「そうですね・・・。でも、ルシフェルを守るルシフェル擁護委員会会長のあなたが、どうしてこんなことを・・・」

真に聞きたいことを、隼人はついに口にした。ルシフェル法が生まれ、しかしそれでも差別を受けるルシフェルを守るルシフェル擁護委員会に身を置き、その会長ですらあった比沙子が何故神校という犯罪組織の頂点に立っているのか。校長が神田比沙子だと知ったものなら誰もが思う疑問、それが隼人の1番に知りたいことだった。

驚きにふためきながらも犯罪者を相手にする真剣な眼差しを向ける隼人のそんな疑問に、比沙子はゆっくりと口を開いた。

「・・・逆に聞くが、お前は何故、我が神校の校長で、お前達から見て『悪事』な行動をしていると思う?」

「それがわからないから聞いてるんじゃないですか。それとも、答えたくないんですか?」

「まさか。ただ・・・・・相変わらず、この星の生物はわからないことをすぐに聞きたがるものだ」

「この星の生物・・・?それは、どういうことですか?」

「言葉のままだ。この『地球』という星の、『人間』という生物、そういう意味のこと。それ以外になんと言えばいい?」

隼人の問いかけに、比沙子は答えながらも逆に問いかけるように呟く。その様子もそうだったが、隼人は比沙子が人を1つの生物としてしか見ていないような話し方に疑問を抱き始めていた。上から目線、そんな言葉ではとても納まりきれない、その途方もなく高い視線からの話し方に。

その疑問にも答えるかの如く、比沙子は再び口を開いた。

「何故我が神校を作ったか、それが知りたければ教えてやろう。だが、我の話を信じられればの話だがな」

そう呟き、比沙子は話し始めた。神校創設の全てを、そして、自らの正体を。










「宇宙」という名の空間。

それは銀河系という名の星の集合体が作り出す無限の空間、そうお前達は解釈しているだろう。事実、それは正解に近い。

だが、その宇宙自体が、1つの生物であることをお前達は知らない。

姿もなく、形もなく、お前達から見ることもできない。だが、それでも命を持つ立派な生物。

1つの生物と言っても、宇宙はお前達と同じように、たくさんの同じ個体が存在する。お前達「人」と同じように、な。

だが、その宇宙は2つに分裂した。理由は簡単だ、互いの意見が合わなかったからだ。意見が合わなければ対立する、それが自然の流れ。

その分裂は「陰陽」の関係と同じようなものになった。陽が強まれば陰が無くなり、陰が強まれば陽が無くなる。それと同じ。

分裂からほどなくして、陰と陽は戦争を始めた。どちらが1つの宇宙として存在するかをかけた、互いに相手を侵食する戦争を。

陽が強まれば陰が無くなり、陰が強まれば陽が無くなる。その言葉の通り、陰と陽は侵食し合い、互いに宇宙としての存在を奪い合ってきた。

だが、陽は陰の侵食を止めることが出来ないところまで来ていた。その理由は陰の方が強かったからだ。

陽は陰の侵食を止めながら、新たな戦力を探した。星々を駆け巡り、無限に広がる星の世界を。

そして、陽は見つけた。地球という名の、青く輝く美しい星を。

そこは陽にとって宝の宝庫だった。宇宙と同じように生命に溢れ、活発に進化を続けている。

この星から戦力を得れば、陰に対抗出来る。陽はそう確信した。

そして、我を送り込んだ。地球という未知の世界へ。

我が地球に降り立った時、そこは無限の進化の可能性を秘めた世界だった。今の人という生物が小さな猿のような生物で、進化を続ける緑で大地は埋め尽くされていた。

我は後に人になる小さな猿の体を侵食し、長い時の進化を観察した。我が侵食した猿も人へと進化し、巨大な生物達が絶滅し、新たな命が芽生える。

その繰り返しの中で、人は「文明」を生み出した。

言葉を作り、武器や衣服を作り、住み家を作り。人は時が経つにつれて、その文明を強くさせた。

そして、その文明という存在の進化の流れで、我は「人」の戦争を見た。

場所を問わず、互いが互いを殺し合う。理由は簡単だ、互いの意見が合わなかったからだ。

闘争本能を持つこの人という生物の幾多の戦争は、陰と陽の戦争とよく似ていた。互いに対立し、侵食するように相手を殺す。それが人の戦争だった。

我は確信した。この「人」という生物の持つ闘争本能こそが、陽の戦力になると。しかし、陽の戦力にするには「人」には足りないものが多すぎた。

闘争本能という確実な力を持っていた「人」だったが、ただそれだけでは陰には到底敵わない。闘争本能というものだけで勝てる程、陰は脆弱ではないのだ。

それを知った陽は、我に「種子」を撒くように命じた。

「種子」は我々宇宙の放出する物質。それを与えれば、種子に選ばれた者は我々とほぼ同等の力を得る。それによって力を得た生物は、地球を見つけるまでに他の星で何体かいた。

この生命に溢れた星ならば、数体しか手に入らなかった力を得た生物を大量に手に入れられるかもしれない。我は迷うことなく、地球に種子を撒いた。時にしたら何十年も前のことだ。

人の間ではそれは「新型インフルエンザ大流行(パンデミック)」と呼ばれるようになった。

選ばれた者は生き、選ばれなかった者は死ぬ。そんな種子によって人の半数以上が死に逝ったのだ、そう思われてもおかしくはなかっただろう。我としては滑稽な話だ。

やがて、種子は開花し、人は宇宙の力を得た。種子に選ばれてなお開花しなかった者もいたが、開花した数の膨大さを思えば気にすることでもなかった。

だが、この時想定外のことが起きた。

人は宇宙の力を手に入れた。だが、その力は人によって違い、その強さも変わっていた。同じ力を手に入れられると思っていた陽にとって、それは致命的な誤算だった。

開花した人の数は計り知れない。その中から戦力となるものを取ることは我らでも不可能に近かった。急がなければ陰の侵食が進んでしまう。陽の焦りは増す一方だった。

そして、追い討ちをかけるように、陽に情報が入った。

青く輝くこの地球の死が、近づいている。

活発な進化を続けてきたこの地球も、あと数十億という年月で滅びる。古い星が死んで行くように、古い地球も、やがて死んでしまう運命だったのだ。その事実が、陽を更に焦らせた。

時間に圧され、悩みに悩んだ末に、陽は思い出し、そして思いついた。人には闘争本能があることを。その闘争本能を利用すれば、戦力となるものの抽出は容易になるかもしれないことを。

そう、「戦争」だ。

戦争は宇宙も、そして人も起こす侵食のぶつかり合い。闘争本能を持つ「人」ならば、戦争によって生き残った者こそ陽の戦力になる。

その礎として、我は「神校」を作った。

強いものを集め、戦わせ、それで得た強いものを侵食し、また戦っていく。その戦いはやがて世界へと広がり、地球には強いものしか残らないだろう。その強いものを陽の戦力とし、陰と侵食し合う陽の所へ送り込む。

古い地球はやがて死ぬ。それは運命ではなく、必然。ならば、その必然が訪れるよりも先に、強きものを集め、手に入れる。それが、今の我が受けた使命なのだ。










「天魔興志郎、魚沼謙信、虫野勤二、地田露緒羅。この4人も強い力を得たものとして陽の戦力となるものだった。我の話を信じた上で、奴らは協力してくれた」

「・・・・・」

隼人の表情には、驚き以外の何も存在しなかった。俄かに信じがたい話、だが、全く信じられない話でもなかった。事実、比沙子の話には隼人が以前に英二から聞いた話といくつか一致している所があったからである。

その隼人の顔を見て、比沙子は口元を綻ばせながら口を開いた。

「信じられない、と言ったところか。無理もない、目の前にいるのが『人』でありながら『人』ではない者なのだからな」

「・・・その話が本当なら・・・ルシフェルは、あなた達によって作られたんですね」

「そうなるな」

「もし・・・それが単なる偶然や事故で起こしてしまったことだったら、僕でも許せる。けど・・・あなた達は違う!」

驚きに満ちていた目を研ぎ澄ませ、犯罪者を睨む鋭い視線を放つ隼人。その視線をそのままに、隼人は強い口調で言葉を放つ。

「何かを助けるわけでもなく、何かを救うためでもない、ただ戦わせるためだけにあなた達は僕達をルシフェルにした!そのせいで、僕達は親や・・・大事なものを失ったんだ!それなのにあなた達は・・・まだ懲りずに戦わせようとしている!そんなあなた達を、僕は・・・どんな存在だろうと、許すわけにはいかない!!」

怒号の如し隼人の声が部屋に響き渡ると、隼人は全身に力を入れ、その体を変身させた。

Yシャツの袖のボタンが外れ露出した、肘まで岩肌の如し黒く荒々しい皮膚に包まれた腕は一瞬にして巨大化し、それに乗じて指の骨も巨大化して指の肉を突き破る。肉を突き破り姿を見せた指の骨は巨大化に伴い尖鋭化し、指の骨は巨大で鋭い「ツメ」を作り出す。更にYシャツの背中に設けられた大きなスリットから黒く荒々しい皮膚に包まれた長細い肉が飛び出し、薄暗い部屋にその姿を晒す。やがてその肉に赤い表皮をした膜が張られ、巨大な蝙蝠の翼を作り出す。

変身した隼人の姿は怪物の如し巨大な手を持つ悪魔。変身し真の姿を見せた隼人は右手を伸ばしてツメを比沙子の方へと向け、前方にいる比沙子を睨む。変身し戦う姿勢を見せた隼人に、比沙子は口元を綻ばせた。

「やはり、人の闘争本能は素晴らしいものだ。どんな人であろうと平等に与えられ、育まれてきたものだからな」

「あなたの言う通り、今僕が戦おうとする気持ちは闘争本能かもしれない。でも、僕はこれ以上、あなたの好き勝手にさせないために戦う、それだけだ!」

「フッ、心地良い闘気だ。お前から闘争本能の昂りを感じるぞ。それでいい、それでこそ我の意欲が高まる」

そう呟くと、比沙子は右手を軽く上げ、その掌を軽く開く。瞬間、比沙子の足元からいろいろな色が混ざった空間が広がり、その空間は一瞬にして部屋の壁を覆いつくした。いろいろな色が混沌するその空間は万華鏡のように色の形を変えていき、次々と空間の色を変化させていく。まるで万華鏡の中にいるかのようなその異様過ぎる空間に、隼人は驚きを隠せずにいた。

「なっ、これは!?」

「フッ、我なりにこの空間を彩らせてもらった。いつまでも暗い部屋ではお前も退屈だろう?」

そう呟き、比沙子は綻ばせていた口元に更に笑みを浮かべる。隼人にとって万華鏡の如し空間に立つ比沙子の姿は異様なものであったが、それでも比沙子を睨む視線を怠らすことはなく、驚いて下に向けてしまっていた右手の爪を再び比沙子に向けた。

「闘争本能を維持出来ているな。良いだろう、この我自らが、お前の強さを確かめてやろう」

口元に笑みを浮かべながらそう呟くと、比沙子は両手をゆっくりと大きく広げ、ゆっくりと顔を上げて万華鏡の空間に包まれた部屋の天井を見上げる。その直後、比沙子の体から強烈な光が放たれた。

比沙子の体から放出する光は比沙子の全身を包み、その体を光で見えなくする。その凄まじく眩い光に隼人も思わず巨大な左手で顔を覆い隠し、眩い光の刺激を遮る。やがてその光は輝きを失っていき、隼人は顔を覆い隠していた左手を下ろし比沙子に目を向ける。

その瞬間、隼人は変わり果てた比沙子の姿に驚愕した。

形こそは人の体そのもの。だがその体は淡く輝く七色の光に満ちており、それが皮膚のように全身を覆っている。七色の皮膚に包まれた比沙子の顔には目や鼻といった者が見えず、目の位置に出来た窪みだけが大まかな顔の形状を示していた。その姿はどれにも例えようのない、「七色に輝く人」そのものだった。

「へ、変形部位・・・全身。み、見たことないゲノムコード・・・」

「ゲノムコード、それはルシフェルの種類を示すものだったな。ルシフェル犯罪対策課で数多の犯罪者と戦ってきたお前でも、我のゲノムコードは見破れないか」

そう言葉を発した瞬間、地に足を付けていた比沙子の体がふわりと空中に浮き、そのまま隼人の頭上高くまで浮遊していく。比沙子の七色に輝く体は空中で止まり、見えない翼で空を飛んでいるかの如く神秘的な姿を見せた。

「言うならば、我のゲノムコードは『ゴッド』。神を意味するその言葉の通り、我には無限の力がある」

「ゴッド・・・!?そんなゲノムコードが存在するなんて・・・!」

「有り得なくはないだろう?ここは地球、あらゆる進化の可能性を秘めた星。そして、我はお前達ルシフェルを創生させたものなのだから」

頭上高く浮遊した比沙子は両腕を軽く広げながらそう呟き、眼下に立つ隼人を見下ろす。その七色の皮膚に包まれた比沙子の姿は正に「神」と呼ぶに十分な神々しさを見せており、同時に言いようのない殺気と威圧感が隼人に襲いかかっていた。隼人はその2つの襲撃に耐え、それらを振り払うかの如く比沙子を睨む。

「さぁ来い、一文字隼人。我にお前の力を見せてみろ」

「言われなくても、行きます!!」

力強い声でそう叫び、隼人は背中から生えた巨大な蝙蝠の翼を羽ばき、飛翔した。空を飛ぶ隼人は空中に浮遊した比沙子目掛け一直線に突き進み、比沙子を捕えんと構えていた巨大な右手を比沙子に向けて勢いよく突き出す。

だが、隼人が迫り来ているにも関わらず、比沙子はその場から動こうともしなかった。そして、比沙子の七色の皮膚に包まれた顔の口の部分の皮膚が不敵の笑みを浮かべるかの如く少しだけ動いた瞬間、突き出された隼人の巨大な手が見えない何かによって防がれた。何が起きたかわからない、だが、凄まじい威力の突風が隼人の手と衝突したかの如く隼人の突き出した手は防がれ、比沙子に届くことはなかった。その事実に、隼人は驚きを隠せない。

その直後、右手を防がれた隼人の体はその右手を防ぐ見えない何かから放たれた衝撃によって大きく吹き飛び、隼人は突然のことに驚きながらも背中の翼を羽ばたきその勢いを静止させる。空中で体制を立て直した隼人は理解し難い出来事に困惑しきっていた。

「な、なんだ・・・今の・・・!?」

「フッ、ただ突き進んできただけでは、我に触れることもできないぞ。我には無限の力があるのだからな」

「今のも、その無限の力と言いたいんですか・・・!」

「その通り」

そう答えると、比沙子は右手を隼人の方へと向ける。その右手の掌を軽く開いた瞬間、掌から青色の炎が勢いよく噴き出した。火炎放射器を放射したかの如しその青い炎は隼人に向けて一直線に進み、迫りくる炎に隼人は驚きながらも横に飛翔して避ける。

だが、比沙子は左手を隼人の方へと向け、その掌から夥しい数の弾丸状の光を放った。放射した光の弾達は青い炎を避けた隙だらけの隼人に襲いかかり、それを目にした隼人はとっさに両手のツメで体を覆い隠し光の弾の雨を防ぐ。ツメによって防がれた光の弾は弾かれると同時に光を失って消え去り、しかしその光の弾の雨はやむことなく隼人に襲いかっていた。

しかし、隼人も防ぐだけではなかった。力強く翼を羽ばたかせた隼人は比沙子の放射する光の弾を防ぎながら、勢いよく比沙子目掛けて飛翔した。その行動を予期していなかった比沙子は驚きを露にしたが、左手から放射していた光の弾を止めその場から後方に移動し、隼人から距離を離す。その後を隼人は追いかけようとするが、隼人の体を先程右手を防いだ見えない何かが押さえ、吹き飛ばす。

翼を羽ばたかせ体制を立て直した隼人はすぐさま比沙子の方へ眼を向けると、比沙子は距離を離した所で同じ高さで浮遊していた。その表情は七色の皮膚によって判別し難かったが、どこか驚きを隠せない表情に見えていた。

「我の攻撃をも防ぐ指、いや、ツメか。なるほど、流石ソルジャー達を倒したことはある」

「このツメは鋼よりも硬い、悪を倒すためにある断罪の爪。相手が悪だとわかれば、このツメはいくらでも強くなる」

「・・・面白い、実に面白いぞ一文字隼人。お前がこれほど強い能力を手にしているとは、闘争本能の高さといい、お前は我らが求める理想の戦力の1つだ」

「僕はあなた達の『モノ』にはならない。あなたの好きがってには、絶対にさせないんだ!」

「ならば、我らの『モノ』になってもらおう。その血肉を削り、命の灯火を磨り減らしてでも」

不敵の笑みを浮かべたような表情を見せながら比沙子はそう答えると、右手を高く上げて構えながら隼人に向けて突進した。背中に見えないジェット機がついているかの如く凄まじい勢いで隼人に接近し、突進する中で比沙子の高く上げて構えた右手は身の丈はあろう長く巨大な剣の形へと変形する。そして瞬く間に隼人の目の前まで接近した比沙子は、変形した右腕を力強く振り下ろした。

迫り来る七色の刃を目にした隼人はすかさず左手のツメを振り上げ、比沙子の刃と化した右腕を防ぐ。比沙子の斬撃はとても腕から繰り出されたものとは思えない程に重く、斬撃を防いだはずの隼人の巨大な左手にはツメを通じて衝撃が走り、隼人の左手を痺れさせる。しかし、隼人はその痺れを歯を食い縛ることで押し殺し、隙の出来た比沙子を掴もうと巨大な右手を力強く突き出した。

だが、比沙子はそれを予期していたかの如く後方へと勢いよく下がり、隼人から距離を離す。それに合わせて比沙子は左手の形状を細く長い鞭状へと変形させ、しなやかに動くその左腕で距離を離した所にいる隼人の足を絡め捕る。突然のことに反応が遅れてしまった隼人はそれを避けることも出来ず、比沙子の左手によって片足の自由が奪われてしまう。

しかし、空を飛び空中にいるこの状況下において、それは体の自由を奪われたも同然だった。比沙子が左腕を大きく振り回すと、隼人の体は縄に縛り付けられた人形のように軽々と振り回された。隼人が翼を羽ばたかせてその勢いに抗おうとするも、比沙子の怪力にも等しい力にはとても逆らえない。隼人を振り回す比沙子はやがて左手で絡め捕った隼人の足を放し、隼人の体を大きく吹き飛ばした。

ハンマー投げの如く吹き飛ばされた隼人は出せる全ての力を翼に込め、巨大な蝙蝠の翼を全力で羽ばたかせる。それによって隼人は吹き飛ぶ勢いを緩めさせ、空中で体制を立て直した。

だが、その瞬間、比沙子は隼人の目の前にいた。

両手が元の人のそれに戻っている比沙子を眼前で見た隼人の表情は、突然過ぎる驚きと疑問が渾沌していた。それを他所に、比沙子の七色の皮膚に包まれた右手が隼人の胸に触れる。そして、その掌が隼人の胸に完璧に触れた瞬間、比沙子の掌から凄まじい爆発が起きた。

紅蓮の炎と漆黒の煙、そして鼓膜を突き破るような爆音と共に掌から起きた爆発は隼人の体を強烈な威力で吹き飛ばし、Yシャツやネクタイを焼き去り、その内側に広がる黒く荒々しい皮膚に包まれた胸や肌色の皮膚をした腹部を焦がす。内臓器官にすら響き渡った爆発の衝撃に隼人は音のない断末魔の叫び声を上げ、その口から大量の血を吐き出す。その隼人の体には翼を羽ばたく力もなく、重たく地面に落下していく。

そして、隼人は万華鏡の如し空間の地面に胸から落下し、そのまま倒れ込んだ。

血で汚れた口元をそのままに、ツメの先1つ動かない隼人。ピクリとも動かなくなった隼人を空中で見下ろす比沙子は、その表情に笑みを見せていた。

「言っただろう?その血肉を削り、命の灯火を摩り減らしてでも、我らの『モノ』になってもらうと。フフフ・・・フハハハハハハハ」

空中で浮遊しながら、声を上げて笑う比沙子。その比沙子の眼下で、隼人の体は依然として動くことはなかった。










To be continued...

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あとがきコーナー




管:はいまたしてもやって来ました、あとがきコーナー!ここまでのご拝読、誠にありがとうございますm(_ _)m。

比:これからもGENOMEと、神校をよろしく頼むぞ。

管:ちょwww(☆Д☆;)!?校長ver比沙子じゃねぇかwwwwwww。何しに来やがったwwwwwww。

比:何をしにとは心外だな。以前にもここに出ていたのだし、今回も良いだろう?

管:ま、まぁ確かに今話の内容的にはお前が適任だろうけど・・・やっぱ何しに来たんだってなるZEwwww。

比:物を話すごとに「w」がつくのがうるさいな。この星にはこんな生物もいたのか。

管:うるせぇwwwww!まぁいい、これ以上話して変な方向行くのはヤバいから、早速あとがきコーナーを始めるぞ。


今話は「神校最終戦」の終盤、隼人対校長(比沙子)の戦いを描いたものとなっています。そのため前半が正体を明かすための会話場面、後半が戦闘場面とはっきり分かれています。これぐらい綺麗に別れると、自分としてはなんか気持ちいい(ぇ。

隼人、ついに校長の所へ辿り着く。だが校長の正体は、かつて隼人が助け、神校によって殺されたと思われていたルシフェル擁護委員会会長、神田比沙子だった。校長=比沙子という設定は当初からあったもので、第18話にしか登場させてない比沙子ですが、実は隼人達主役キャラに次いで生まれていたキャラだったわけです。ちなみに第18話のあとがきコーナーで書かれている「とてつもない秘密」というのは、この「校長=比沙子」ということです。

比沙子が校長ということもあり、必然的に爆死が偽物だったことや、遊園地で勤二に襲われている所は演技だったことなどが浮上してきます。それを案じさせるように前半の会話場面を構築したのですが・・・設定上比沙子の話し方が変わったせいでどうしても変になってしまいましたOTZ。

比沙子の正体。それは「宇宙」という生命体の「陽」の勢力の1人。物語を読んでる限りだと宇宙人なんかを想像する人が多いかもしれませんがそうじゃなくて、「宇宙」という空間が生き物で、その生き物たちが2つの勢力に分かれたうちの「陽」側の者。それが比沙子です(厳密にいえば体は地球の生物で人格が比沙子)。この設定も当初からあり、設定のモチーフはニンテンドー64の「罪と罰」というゲームの本編ではあまり語られていない裏設定がそれ。攻略本にしか書かれていなかったから、罪と罰というゲームを知っててもその裏設定を知らない人が多いかも?

比沙子の正体を語る所で、ルシフェル誕生の謎が解かれる。新型インフルエンザを取り込んだ細胞が起こした突然変異でルシフェル誕生=陽のばら撒いた「種子」によって選別された人で力が開花した人がルシフェル、という設定も↑に続いて当初からあったもので、ややこしくなってますが要は「新型インフルエンザ=種子」で考えてくれれば、ルシフェルが何故生まれたのかわかると思います。

比沙子、変身。比沙子の変身した姿も当初から考えられていて、モチーフはニンテンドーDSのスマブラXに出てくるラスボス「タブー」です。まぁぶっちゃけた話パクッたようにも感じられるのですが、タブーの体色は青色染みているのに対し、比沙子は七色。あと↓で語りますが戦闘においての能力なんかがまるで違うので、丸々全部パクッた、というわけではありません。

比沙子のゲノムコードは「ゴッド」。能力は無限の力なだけに、文字通りいろいろな攻撃を繰り出すキャラになっています。この辺の設定も「タブー」がモチーフになってはいるのですが、流石にタブーがやっている瞬間移動だったりOFF波動(知らない人はググってみよう)だったりを使ったら隼人が勝てないのは必然的なので、ある程度隼人でも対応できそうな攻撃にしました。ちなみに、隼人の攻撃を防いだり吹きとばしたりした「見えない何か」というのは空気をコントロールする能力で生み出した「空気の壁」です(風ではないです)。

比沙子の起こした爆発によって、隼人は地に伏す。動かなくなった隼人を見て、比沙子は声を上げて笑う。果たして隼人の運命はどうなるのか、そしてこの後何が起きるのか。それは次回のお楽しみ~。


比:やはり、終盤というだけあって当初からの設定が多いな。

管:まぁラスボスの登場場面だからねぇ。前作、前々作でもそうだったけど、俺ってキャラ設定の時必ず主人公から決めて、必ずラスボスも考えるんだ(☆w☆ )。

比:その設定のモチーフが、「タブー」というかの有名なゲームのラスボスというわけか。全く、管理人のパクリ力は凄まじいものだ。

管:グッ・・・(☆w☆;)。さりげなく言われたところがまた痛いが、まだまだ平気だ・・・!

比:ならばもっと言ってやろう。その血肉を削り、命の灯火を摩り減らしてやる。

ガミガミガミガミガミッ。(比沙子、言葉攻め中)

管:・・・・・・オワタ\(^o^)/。

バタッ!(気絶)

比:フッ、人間など所詮この程度の忍耐力だ。さて、管理人も倒れてしまったことだ、そろそろ終わりにするとしよう。

ではまた、次の話で会おう。


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