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休憩場

休憩場

最終話

最終話【平和】











隼人が倒れた頃。

校長の部屋へと続く廊下に響く、1つの駆ける足音。怪我をした体で走っているのかその足音は重たく、しかしそれでも先に進もうとする速く力強い足音。その足音の主は、右腕に包帯を巻いた英二だった。

Gとの戦闘によって右腕を犠牲にしていた英二は怪我をした仲間を地上へと連れて行った後、応急処置を済ませこの廊下まで駆け付けていた。右腕はまだ傷が塞がっていないせいか包帯が血で滲んでおり、その右腕を抑えながら走る英二の姿は痛々しいものだった。

だが、ここで足を止めるわけにはいかない。自分よりも遥かに若い中学生の子供が凶悪な犯罪者と戦っているのだ。そう思う英二の足は止まることを知らず、ただただ先へと進み続けた。隼人と十兵衛を助けるためにも、そして、神校を倒すためにも。

そう思いながら英二が駆け進んでいたその時、それは目に入った。

英二の視線の先に見える廊下の壁に開いた、大きな穴。何か強い衝撃で壁を突き抜けたようなそれに英二は駆け寄り、穴の先に広がるうっすらと暗いリキッドホワイト製造室を覗きこむ。部屋の床はリキッドホワイトの粉末が混合した水で水浸しになっており、リキッドホワイトを製造していたのだろう巨大な機械が1つだけ床に倒れ破損している。そして、その水浸しの床に、鮫の魚人の如し姿の謙信が倒れていた。

謙信の姿を見た英二はその意外な光景に穴から水浸しの部屋に入り、謙信の傍に歩み寄り容体を見る。酷く感電しているのか体中が痙攣しており、丸く鋭い漆黒の眼を閉じて気を失っている。しかし微かに聞こえる呼吸の音から謙信はまだ死んでいないのを英二は知り、同時にこれが十兵衛の仕業であることを確信した。

「石動・・・まさか魚沼謙信まで倒すとは・・・。ルシフェル犯罪対策課に欲しいぐらいだな・・・」

謙信が倒れているというその光景を前に英二は冗談半分の言葉を呟き、謙信を倒した十兵衛の姿を探す。しかし、部屋を見回しても十兵衛の姿はなく、穴の開いた壁の傍に赤い血の跡が残っていた。

謙信の体に外傷はない。だとしたらその血は十兵衛のもの。穴の開いた壁の近くに血があるということはすなわち、十兵衛はこの部屋から出て先に進んだことになる。そう判断した英二はすかさず壁に開いた穴から部屋を飛び出し、再び廊下を駆け進む。

そして、すぐにその姿を見つけた。

腰まで下ろしたズボンの尻のファスナーから生やした爬虫類の尻尾に白いYシャツ、鮮やかな茶色に染まった髪と右半身を爬虫類の鱗で覆い、右側の頭部から3本の角を生やし、左肩と右腹を抑え壁に寄りかかりながら歩む少年。前方に小さく見えるその姿は、紛れもなく十兵衛のものだった。

「石動!」

今にも倒れそうな十兵衛の姿にすかさず英二はその傍に駆け寄る。英二の声に気付いた十兵衛はその首を英二の方へ向けると、意外な人物を目の前にして驚きを露にしていた。

「わ、渡辺さん・・・どうして・・・?」

「Gを倒してここまで来たんだ。それよりお前もどうしたんだ?魚沼謙信を倒したみたいだが、その傷だらけの体でどうしてここに・・・」

「校長の所に・・・行くんすよ・・・。隼人を・・・隼人を助けるために・・・」

「一文字は、もう校長の所に行ったんだな!?」

「はい・・・。だけど・・・・・あいつだけじゃ・・・ダメなんだ・・・。校長は・・・・・・・人間じゃねぇんだ・・・!」

十兵衛の呟いた言葉に、英二は自分の耳を疑った。校長が人間じゃない?だとしたら何だというのだ。そんな疑問を浮かべた英二は再び十兵衛に問いかける。

「人間じゃない・・・だと・・・?」

「・・・鮫野郎をぶっ飛ばした後、あいつが話してくれたんだ・・・。校長は人間じゃなくて『宇宙』そのもの・・・。俺達ルシフェルを作った・・・『宇宙』って名前の生物だって・・・!」

「ルシフェルを・・・作っただと・・・!?馬鹿な、ルシフェルは新型インフルエンザを取り込んだ細胞の突然変異で出来たものだと――――」

「それもひっくるめて・・・全部校長が仕組んだことだったんっすよ・・・!そんな奴が相手じゃ・・・隼人1人で勝てるはずがねぇ・・・!」

「石動・・・」

「だから・・・早く行かねぇと・・・!早く・・・ぃ・・・」

言葉を発しながら十兵衛は壁を支えにして歩くが、しかし、その足はふいに力を失い、十兵衛は床に膝を落とす。その体を英二が慌てて腕で抱き止め、倒れそうな十兵衛の体を支えた。

「馬鹿、無茶をするな!この傷で動いてる時点で、既に危険な状態なんだぞ!」

「い、痛みが・・・残ってるだけで・・・傷なら・・・とうの昔に塞がってる・・・。だから・・・早く・・・行かねぇと・・・」

「もういい、わかったからこれ以上動こうとするな!一文字の所には俺が行ってやる、だからお前は――――」

「嫌だ!」

英二の言葉を制するように、十兵衛は出せる限りの力で声を発した。強い感情の籠った十兵衛の声を聞き英二は思わず言葉を止めてしまい、それに乗じて十兵衛が更に言葉を放つ。

「ここまで来て・・・俺だけ置いてけぼりなんてまっぴらごめんだ・・・!それに・・・隼人が危ねぇって時に・・・助けてやれねぇダチなんて・・・ダチじゃねぇんだよ・・・!!」

「お前・・・」

「だから・・・行かせてくれ・・・!この体が動かなくなるまで・・・戦う・・・だから・・・」

「・・・・・わかった」

英二はそう答え、倒れそうな十兵衛の左肩の脇下に包帯を巻いた右腕を差し込み、怪我に触らない程度の力で十兵衛の背中と腰を支えた。十兵衛も左手で英二の背中の服を掴み、英二は十兵衛の体を支えながら廊下を出来るだけ早く歩み進んだ。

「サンキュー・・・渡辺さん・・・」

「本当だったらお前も地上まで運んでるところだがな」

「ヘッ・・・。でも・・・今は・・・」

「あぁ。相手がどんな奴だろうが、今は・・・俺達が行くまで、一文字が無事であることを祈るしかないな」

「隼人・・・頼むぜ・・・・・・負けてんじゃ・・・ねぇぞ・・・」

そう呟きながら、2人は先へ進んだ。校長と隼人がいるだろう、先の見えない廊下を。










体が、動かない。

あぁ、そうだ。僕は比沙子さんの攻撃を受けて、地面に落ちてたんだ。

その記憶すら飛んでしまってたんだな、僕は。

・・・胸が痛い。

まるで酷く火傷したみたいだ。

それに呼吸する度に、針が刺さってるみたいに胸が痛くなる。

僕はこのままどうなってしまうんだろう。

死んでしまうのだろうか?

いや、違う。

比沙子さんの言う「陽」の戦力にされるんだ。

ここまで来たのに、僕は比沙子さんを倒せないで、連れて行かれるんだ。

・・・嫌だ。

まだ、連れて行かれたくない。やることがいっぱいあるんだ。

罪を犯すルシフェルや犯罪者を逮捕していかなきゃならない。

街の平和を守らなきゃならない。

それに、明日香の所に帰らなきゃならない。

僕の大事な、幼馴染の所に。

約束したんだ。

神校を倒して、必ず明日香の所に帰るって。

その約束を守れずに連れて行かれるなんて、絶対に嫌だ。

僕は・・・・・明日香が好きだ。

だから、絶対に帰るんだ。

僕の大事な、明日香の所に。

・・・どうしてだろう?

さっきまで痛かった胸が、痛くない気がする。

それに、どうしてだろう?

なんだか・・・体が・・・

・・・動きそうな気がする。










万華鏡のような空間に倒れた隼人を上空で浮遊しながら見下ろしていた比沙子はその七色に輝く体をゆっくりと降下させ、隼人が倒れた地面に爪先から足をつける。七色の皮膚に包まれたその足を動かし、比沙子はゆっくりとうつ伏せで倒れる隼人に歩み寄る。

「意識を失っているな。無理もない。あの至近距離で我の力で生み出した爆撃を受けたのだ、普通の人間なら即に死んでいる所だ。その点、お前は実に丈夫だ、一文字隼人」

口をきく事ができない人形に話しかけるかの如く比沙子は呟き、隼人の近くまで歩み寄る。そこで足を止めた比沙子は物を見るかのような視線で隼人をじっと凝視し、綻ばせた口から微笑の声を発した。

「フフフ、これほど強力な戦力が手に入れ続けられれば、我らの勝利は確実だ。ソルジャー達を失ったのは少々惜しいが、これから更に強い者を集めて行けば問題はない、フフフ、フハハハハ」

笑いながらそう呟き、倒れる隼人を眺め続ける比沙子。今は満身創痍であろうと、「陽」の所へと向かえばその傷は瞬時に癒え、戦いの場に送り込むことだろう。比沙子はそう確信し、これから本格的に始まるだろう戦力の収穫に期待で胸を満たしていた。

だが、その時だった。

比沙子の七色の皮膚に感じる、電流が走るようなピリピリとした感触。それはつい先程までは感じなかったものであり、それを感じたと同時に、倒れている隼人のツメが微かに動いた。

「ば、馬鹿な・・・!」

比沙子の感じた感触の正体は、闘気。そして、それを放つのは、倒れている隼人。その事実を比沙子は否定したが、それを打ち砕くかの如く隼人の腕は動き、ゆっくりと立ち上がる。

失いかけた目の光を取り戻し、その視線を比沙子と同じにした隼人は、血で汚れた口元を巨大化した黒い手の甲で拭う。鮮血の汚れを拭い取った隼人はその口を開き、言葉を放つ。

「僕は・・・負けない・・・。神校を倒して・・・明日香の所に帰るまで・・・」

「どういうことだ・・・何故立てる!?我の力を間近で受け、意識を失っていたはずなのに!」

「負けない・・・・・負けるわけに・・・・・いかない!!」

視線を比沙子の方へと向け、鋭い睨みと同時に力強い言葉を放つ隼人。その瞬間、比沙子の体に今まで受けた以上の闘気が襲いかかり、その七色に輝く体を押しつぶすかの如く圧力を掛ける。

だが、比沙子に襲いかかったのはそれだけではなかった。肌には感じない、直接体の心に襲い来る刃物のように鋭い圧力。言いようのないそれが体に襲いかかり、比沙子はそれに驚愕する。

「こ、これは・・・!?馬鹿な、な、何故お前がこの力を!?」

驚きのあまり思わず声を震わせる比沙子。闘気とはまた別に襲いかかってきた圧力がどんなものかを比沙子は知っていたからだ。驚愕しきっている比沙子を前に、隼人はゆっくりと巨大な手を構え、そのツメを比沙子に向ける。そして力強く地面を蹴り飛ばし、比沙子目掛けて突進した。

――――もう、容赦はしない。

比沙子に迫った隼人は構えていた右手を振り下ろし、比沙子の体をそのツメで引き裂こうとする。人でない者なら、親を死なせるきっかけを作りだした者なら、抑え込んでいたツメの威力を解き放つ。隼人の振り下ろした右手のツメはその意味を示すかの如く、凄まじい勢いで比沙子に襲いかかる。

だが、比沙子はそれを前に後方へと跳躍し、同時に勢いよく空中へと浮遊した。隼人の振り下ろしたツメは凄まじい威力で万華鏡の如し空間の地面に激突し、ハンマーで叩きつけたかの如くその地面を叩き砕く。

上空へと飛んだ比沙子を見ると、隼人は背中の翼を力強く羽ばたかせ、比沙子のいる上空へと飛翔した。その隼人に比沙子は左手を向け、その掌から無数の光の弾丸を放った。雨の如し数で放たれる光の弾を前に隼人はその場から横に飛翔して避け、その速度を抑えずに飛行し比沙子の周りを旋回する。自分の周りを飛び回る隼人を捕えようと比沙子は左腕を変形させ、その形状を細く長い鞭状に作り変える。比沙子はその鞭の腕と化した左腕を振い、隼人の足を捕えんとする。

その瞬間、隼人はその場で急停止し、比沙子の振ってきた鞭の左腕を自身の巨大な左手に絡ませた。絡みついた鞭の腕を隼人は怪力を誇る腕で引っ張るが、比沙子もそれに負けない程の力で自身の左腕を引っ張り、互いに互いを引っ張り合っていた。

だがその時だった。隼人の左手に絡みついていた比沙子の左腕が突如として煙を上げながら溶け始め、煙と共に左腕は万華鏡の如し空間に消滅した。突然のことに比沙子も隼人自身も驚いていたが、隼人は自分に利のあることだと受け止め、まだ纏わりついている比沙子の左腕を払い除ける。

同時に、比沙子は感じていた。隼人の体から放たれる、体の心に襲い来る鋭い圧力を。

(この・・・侵食するような力・・・。こ、これはやはり・・・あいつらと同じ・・・!)

「はあああぁぁぁぁ!!」

隼人の怒号の如し声に我を取り戻し、比沙子は視線の先にいる隼人がこちらに迫ってくるのに気づく。突進してくる隼人に比沙子は下していた右手と元の形状に戻した左手を隼人に向け、右掌から青い炎を、左掌から無数の光の弾を放つ。2つの攻撃に隼人は両手のツメでそれらを防ごうとしたが、隼人はあえてそれをせず、先程起きた出来事に賭けた。もしもさっきのが何か訳があってのことなら、また起きてもおかしくない。そう思っての、隼人の確信にも近い賭けだった。

そして、それは確かに確信なものだった。

隼人に迫った青い炎と光の弾は、隼人に触れる寸前に空間に溶けるように消滅し、隼人の体は傷つくことなく比沙子に迫っていく。その事実に比沙子は更に驚愕し、焦りを見せた。

「こ、小癪なぁ・・・我に勝てると、思うなぁ!」

乱れ切った声で比沙子が叫び、同時に迫りくる隼人の前方に見えない壁を作り出す。その壁に触れた隼人はその体を動けなくし、隼人は歯を食いしばり強引に体を動かそうとする。

「ぐっ・・・またこれか・・・!」

「どうだ!それは我の力が作り出す何物をも弾く壁!この力の前では、例えお前であろうとも我に近づくことは出来ない!」

「なら・・・それを打ち砕く!!」

そう叫ぶと、隼人は出せる限りの力を両腕に注ぎ込み、体を押さえ付ける見えない何かに抗い始める。その瞬間比沙子の体の心に再び鋭い圧力が襲いかかり、同時に隼人を押さえ付けていた見えない何かが消滅していき、隼人を押さえ付ける力を弱くしていく。

そして、隼人を押さえ付けた見えない壁は完璧に消滅し、隼人はそれを突き抜け雄叫びを上げながら再び前方にいる比沙子目掛けて突進した。

「そ、そんな・・・馬鹿な・・・!?わ、我の力が・・・!」

見えない壁を打ち砕かれたことに比沙子は驚倒しそうになり、その間にも隼人は比沙子に接近していく。やがてその距離は目と鼻の先にまで縮まり、隼人は巨大な右手のツメを高く上げる。

「僕の断罪の爪よ、目の前にいる者を・・・・・砕けえええぇぇぇ!!」

凄まじいまでの闘気と、比沙子の体の心に襲いかかる鋭い圧力を込めた力強い声を上げ、隼人は高く上げた右手のツメを凄まじい力で振り下ろす。迫りくる巨大なツメを前に、闘気と鋭い圧力を間近に受ける比沙子はそれを避けることは敵わなかった。

そして、隼人のツメは、七色に輝く比沙子の体を引き裂いた。

七色の皮膚が抉れ、その内に隠れた赤い血肉を抉り、肩から腹部にかけて出来た大きな傷から真紅の血を噴き出させる。噴水の如し勢いで噴き出した血は万華鏡の如し空間の地面に滴り落ち、床と衝突した血が不気味な水音を奏でさせた。

「そう・・・か・・・わかったぞ・・・。お前の・・・体に・・・目覚めた・・・種子は・・・」

言葉を放つ比沙子の口からも血が噴き出し、比沙子の言葉を封じこむ。比沙子の吐血が地面に落下し水音を奏でた時、浮遊していた比沙子の体も、重たく地面に落下した。

比沙子の体が背中から地面と衝突したと同時に、周りに出来ていた万華鏡の如し空間がみるみるうちに消えていき、姿を隠していた元の薄暗い部屋の壁や床、天井が姿を見せる。元に戻っていく部屋を前に隼人はその体をゆっくりと降下させ、元に戻った部屋の床にその足をつける。

床に着地した隼人は床に倒れた比沙子を見つけ、その傍に歩み寄る。七色の皮膚に包まれていた比沙子の体も元の人の体に戻っており、求道女のような服や羽毛のようにふわりと軽そうな髪を見せる。しかしそのどちらも自身の体と口から噴き出した血で赤く汚しており、大量に血を失ったその目はほとんど光を失いかけていた。そんな比沙子は隼人が近づいてきたことに気づくと、光を失いかけている瞳を隼人の方へと向け、血で汚れた口を動かす。

「フ・・・ハハ・・・。まさか・・・この我が・・・こんな姿を・・・見せるとは・・・」

「もう・・・あなたは死んでしまうのですね・・・」

「その・・・ようだ・・・。もう・・・意識が遠のいて・・・いく・・・」

「でも、それは『人』の体での話・・・ですよね?」

「そうだ・・・な・・・。この体が死ねば・・・我はまた・・・この星の外へと向う運命だ・・・」

苦しそうにそう答えると、比沙子は血で汚れた口元に笑みを見せた。光の失いかけた目に血で汚れた笑みはどこか不気味な表情だったが、今の比沙子にそれを想像する力は残っていなかった。

「しかし・・・我も予想外なことだった・・・。まさか・・・我らだけでなく・・・・・『陰』すらも・・・・・この星に種子をばら撒いていたとは・・・」

「ど、どういう・・・ことですか・・・?」

「フ・・・ハハ・・・まだ気付いていないのか・・・?お前の体に目覚めた・・・種子は・・・我らのものではない・・・。我らと敵対する・・・者の種子だ・・・。故に・・・我の力が・・・無力にされた・・・」

「そう・・・だったんですか・・・」

「だが・・・ばら撒いた数は・・・こちらの方が多い・・・はずだ・・・。フフフ・・・時期にまた・・・良き戦力を取りに・・・我らの使者が・・・来るだろう・・・」

「・・・その時は、また倒します。あなたの言う・・・『陰』の種子にかけて」

「フッ・・・そうか・・・。古い地球はやがて死ぬ・・・それは運命ではなく必然・・・。それだけは・・・忘れる・・・な・・・」

そう言い残すと、比沙子の口から血が噴き出し、それに合わせて隼人の引き裂いた傷からもゆっくりと血が滲み出し、服や床を汚していく。そして、その血と共に命が流れ出たかの如く、比沙子は静かに死に逝った。

自らが流した血の泉に倒れた比沙子の目は完全に光を失い、半開きになったその目は不気味に濁っている。それを前に隼人は血で汚れていない左手のツメで顔を傷つけないようにゆっくりと比沙子の瞳を閉じさせ、比沙子の体を安らかな眠りにつかせた。

「比沙子さん・・・古い地球はやがて死んで、それが必然だとしても・・・・・人を戦いの材料にするのなら、僕は戦い続ける。この命が尽きる・・・その時まで・・・」

もうどこかに消えた「陽」の比沙子にそう呟き、隼人は血肉のこびり付いた右ツメを払う。ツメについていたものが払い落とされたことを確認すると隼人は体の変身を解き、翼を背中の肉に戻し、巨大化した両手を元の大きさに戻す。

さぁ、帰ろう。元の姿に戻った隼人がそう思った、その時だった。

胸から全身を駆け巡る、とてつもない激痛。忘れかけていたその痛みに隼人は膝を崩し、視線の先に見える出口を見ながら、隼人は体を倒した。

「くっ・・・こんな所で・・・!明日香の・・・所に・・・帰らなくちゃ・・・いけないの・・・に・・・」

激痛が襲いかかる中で言葉を吐く隼人。その意識は次第に遠のいていき、そして、隼人は気を失った。

部屋の扉が開かれ、十兵衛と英二がそこに駆け付けたのは、それから数分後のことだった。










それから、2週間の時が過ぎた。

空は雲1つ無い、快晴の青空。あと数日を迎えれば季節は初夏を迎えるだけあり日差しは強く、妙に暑い。熱を持った日差しを紺色のブレザーと赤いネクタイやリボン、そして灰色のズボンやスカートを来た四木中の生徒達が陽の光とアスファルトの熱にめげず、まだ衣替えの出来ていないままのその制服で通学路を歩いていた。

その生徒達の中に、漆黒の髪を結わき小さなポニーテールにしている少女が1人。歩く度にその小さなポニーテールは軽やかに靡き、暑さが広がる空間を通り抜けていく。そして、その隣にはもちろん、黒く荒々しい皮膚をした両手を持つルシフェルの少年が1人。

そう、隼人と明日香だ。

「で、どうなのよ?その新着のYシャツとネクタイ」

「ん~・・・新しいYシャツだからやっぱり襟が固いかなぁ。ネクタイは前と変わらないからいいけど」

「ふ~ん。ま、別に関係ないけど」

「じゃあなんで聞いたの?」

「別に。ただ、そのYシャツ背中にスリットとかあって特注でしょ?値段も馬鹿になんないのに、何でお母さんに頼らなかったのかなぁって」

「いやほら、明日香のお母さんにお金借りるのも悪いし、今までルシフェル犯罪対策課で稼いできたお金もあるんだから別にいいかなぁと」

「まぁ私達のことを思ってるのはいいけど、なんて言うの・・・もっとその・・・甘えても・・・」

「ん?今何て言ったの?」

「な、なな何でもないわよ!2度も言わせない!」

「そ、そんな大声で言わなくても・・・・・わかったよ」

明日香の反応に隼人は半ば気を落としながら答え、とぼとぼと歩く。しかしそんな隼人も明日香も元気な表情で2人で肩を並べて歩き続ける。こうして2人が元気なのは神校の襲撃を受けしばらく休みだった学校がようやく始まったこともあったが、それ以前に久し振りに隼人の体調が良くなったのもあった。

比沙子との対決の後、隼人は十兵衛と英二に助けられ、その日のうちに病院に運ばれていた。その時隼人は瀕死の重傷だった。夜遅くに運ばれた隼人の所に明日香や涼子が駆けつけ、それからずっと明日香は隼人のことを見守り続けた。その後ルシフェルの高い回復力もあってかすぐに退院し、今に至っている。

そんな2人は会話を交わしながら周りを歩く生徒達と共に通学路を進んでいき、やがて四木中学校の校門まで辿り着く。校門をくぐった隼人が視線を前に向けると、そこにはまだ神校との戦いの傷痕が残った、それでいて太陽の光を糧にしているかのような活力に満ちた校舎が堂々と建っていた。

その校舎を前に隼人と明日香が犬走りを歩いていた時だった。

「おーい、はーやとー!」

声がしたのは、隼人と明日香の前方にある玄関前のベンチ。明るく楽しそうな少年の声がしたそのベンチに2人が目を向けると、ベンチの前には爬虫類の尻尾を垂れ下げた十兵衛と、トランペットの入ったトランクケースを手にした薫が立っていた。2人の姿を目にした隼人と明日香は2週間ぶりに見る友達の顔にその足を2人の所まで運んだ。

「おはよう、十兵衛君、薫さん」

「いよぉ!退院したてなのによく学校なんか来たな!」

「そりゃ来るに決まってるじゃない。隼人はあんたみたいな不良とは違うのよ」

「そうですよ石動君。隼人君はまじめで、とってもいい人なんですから」

「いやそんなの俺も知ってるけどさぁ、神校に襲われてもなお授業するこのヘンテコリンな学校に真面目に来るってのもどうかと思うんだよなぁ」

「それ言ったら十兵衛君だってそうじゃないかな・・・?」

「俺はただお前の顔と、上御霊の顔が見たかっただけだからな。もうやること済んだしさっさと帰るぜ」

「感心しないな、ここまで来て教室まで入らないとは」

ふと十兵衛の背後から発した声に、十兵衛は思わず肩を跳ね上げる。隼人と明日香、そして十兵衛と薫がその声のした方向に顔を向けると、そこには竹箒を手にした馬のマスクを被っていない英二の姿があった。こっ汚い作業服の襟を正す英二は竹箒を杖のように手にしながらじっと十兵衛を睨み、ニヤけた口で声を掛ける。

「石動、お前神校と戦ってた時の正義感っぷりは何所に行ったんだ?その正義感に物を震わせて教室で授業を受けるという気にはならないのか?」

「わ、渡辺さん、脅かすなよ。授業なんて受けなくても点さえ取ればいいんっすよ」

「また言ってるわ、十兵衛の点取ればなんでもいい発言」

「まぁいつものことですし、もう聞き慣れちゃいましたね・・・」

「うん・・・。でも、それが十兵衛君らしさを出してるんだからいいんじゃないかな?」

隼人はクスリと微笑しながらそう呟き、英二と十兵衛の会話に耳を傾ける。傍にいる明日香もそうしながら呆れた表情を見せ、薫はどうしたらいいかわからず苦笑している。十兵衛や英二、明日香や薫のそんな光景を目にする隼人は、ふと、背後に広がる青空に目を向けた。

空は快晴。真っ青な空には雲が1つもなく、輝かしい太陽が空に浮いている。空がそうであるように、今の四木中学校、否、今の自分達の周りは、ひとまずの平和に戻った。

だが、今も何所かで蔓延る犯罪者達によって、その平和はいつか崩れる。それは隼人も承知していることだ。だからこそ、隼人はこれからも戦い続ける、平和を崩そうとする犯罪者達と。

その前に、ほんの一時だけ、平和を味わおう。快晴の空と傍にいる人々の顔を見た隼人は微笑みを見せながら、そう思うのだった。










fin...


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あとがきコーナー




管:はいやって来ました、あとがきコーナー!ついに最終話!そしてこのあとがきコーナーも最後!というわけで、いつも以上に張り切って頑張りたいと――――。

隼:読者の皆さん、ここまでのご拝読ありがとうございます。

十:今まで懲りずにここまで読んでくれてサンキューだぜ!

明:これからもGENOMEを・・・って、もう今話で最後だったわね。と、とにかく今まであ、ありがとね!

薫:いつもより騒がしくなってますが、本当にありがとうございました。

英:これからもニヤニヤ動画をよろしく頼む。

管:ちょwwwww!?(☆Д☆;)GENOME主役フルメンバーすかwwwwww!?

十:だってよぉ、今話で最終話なんだろ?だったら当然じゃねぇか、なぁ隼人?

隼:うん。まさか管理人さん、最終話なのに誰も呼ばない気でいたんじゃ・・・?

管:そんな訳ないでしょうがwww!俺がツッコみたいのは英二がまたニヤニヤ動画を頼むって言ってたことDAwww。

英:なんだ?ニヤニヤ動画のことをもっと話してほしいのか?

管:違うっつのwwwww(☆Д☆;)。全く、話にならんぞ話にwww。

明:それはいいとして、管理人さっきから「w」が多すぎるのよ。もっと少なくしなさい。

薫:あ、それ私も思ってました。

管:シャラァァァァップ!!(☆Д☆;)と、とにかく最後なんだから張り切って頑張るんだよ!それじゃ前置きが長くなるのもあれなんで、最後のあとがきコーナー、早速始めたいと思います!


今話は最終話ということもあり、隼人と比沙子の決着がつかれる内容がメインとなっています。と言いつつ会話場面もそこそこ多いため、今話は珍しく戦闘場面と会話場面が両立した話になっていると思います。

英二、負傷した十兵衛と共に校長(比沙子)の所へ。この辺の設定は当初からあったもので、この設定に連動する形で第31話の最後の場面が描かれています。まぁ実際の所はこの後負傷する隼人を救出する人を示すための場面みたいになってます(ぉぃ。

比沙子の攻撃を受けて倒れた隼人の言葉に出ない声。前話でもあったのですが一人称視点の文章にあまり慣れていないせいか少々変な部分もあったかもな不安要素MAXの場面ですが、この辺の設定も以前から考えていました。平和を取り戻すため、明日香との約束を守るため、隼人は立ち上がる。そんな気持ちを表す場面となっています。

隼人、復活。そして比沙子と再び激突する。この場面では前話で「比沙子>隼人」の力関係だったものが「比沙子=隼人」、そして瞬時に「比沙子<隼人」になった場面でもあります。隼人が比沙子を上回ったのは丁度隼人が比沙子の左腕を消し去った時からで、この比沙子の力を無力化するような設定は実は当初には無かった設定でした。ですが、「陽」と「陰」という対立しあう存在の設定上、どうしても陰の種子を持つ隼人(この設定については↓で)が比沙子よりも段違いな強さを持って倒す、というような形にしたかったので、今回のような結果となりましたw。でもこの設定は自分としてはかなり気に入ってたりします(ぁ。

ルシフェルの源ともいれる種子。これは比沙子を含む「陽」がばら撒いたものでしたが、実際は「陰」も地球を見つけ、「陰」もまた「陽」と同時期に種子をばら撒いていました。ばら撒いた量に違いはあれど「陰」の種子はごく少数の人に繁栄し、隼人のようなルシフェルが生まれたわけです。この設定自体は当初からあったもので、比沙子を打ち破る有力なカギとして考えていました。ちなみに、陽と陰の種子をばら撒いた量は、陽が数兆個としたら陰は数千個ぐらいの割合です。

古い地球はやがて死ぬ。それは運命では無く必然。そう言い残し、隼人に敗れた比沙子はその命を絶つ。最後に神校(というよりも比沙子)のキャッチフレーズを呟く設定は実は比沙子というキャラの設定ができた直後からあったもので、他のキャラの設定よりも結構こだわっちゃってたりしていますw。でも、このセリフがあったからこそ、最後まで陽が目的のために尽くすということを示せたのかもしれません。

神校との戦いが終わり、再び隼人達に平和が戻る。しかし、戦いはまだ終わらない。平和を守るために、隼人はこの先も戦い続ける。この物語はあるルシフェル達の話。平和を守るために戦う、勇敢な戦士達の話。もしかしたら、あなたの平和も彼らが守ってくれるかもしれません。


英:最後だけ中二病と言わざるを得ない。

管:ちょwwww(☆Д☆;)良い空気ぶち壊されたwwww。

隼:まぁ最後だから許せるかもしれないですけど、でも・・・ねぇ?

十:あぁ、微妙だな。

明:奇遇ね、十兵衛と同意見だわ。

薫:わ、私も・・・。

管:セイセイセイ(?)。ちょっと待てお前ら(☆w☆;)。何か、俺の最後のセリフが気に入らないと言いたいのか?

全員:その通り!

管:な・・・なんてこったい\(^o^)/。

英:その反応が中二病と言わざるを得ない。

管:グスッ・・・もういいよ、もういいよぉぉぉぉぉぉgさdhうぇぁうfでぃじゅldhflhbfjkhsでゅjdkjlhfふじ子dbhsdfhljかえd!!!(失神)

隼:か、管理人さんがまた倒れた・・・!?

十:今度は意味不明語全開だったぜ・・・。

英:全くもって意味不明と言わざるを得ない。

薫:で、ですね・・・。でも、最後なのに倒れたままにしちゃっていいんでしょうか?

明:別にいいじゃないあんな奴。さ、今話で最後なんだから、みんなで読者の皆さんに挨拶するわよ。

隼:うん。いくよ、せー・・・のっ!



全員:読者の皆さん、今までGENOMEを読んでいただき、本当にありがとうございました!!


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