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休憩場

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第8話

第8話











メキドが死んだ。いや、殺されたと言ったほうが正しいか。

普段は一言多くて生意気な奴だったが、空気を読んで素の優しさを見せてくれたりした。そんなメキドは俺の友達と言っても良いだろう。

そのメキドが今日、俺の掌の中で粉になった。

粉は空高くばら撒いてやった。奴は空を飛べる人喰魔だったから、粉になっても空を飛んでほしいと思っての行為だった。

粉をばら撒いた俺は、今は河川敷の帰路に発っていた。友達の死を目の前にした後に飯を食う気も起きないからな。それに友達が殺されたからといって殺したヴァルキウリアスに復讐しようなんて考えもない。ヴァルキリアスが人喰魔を殺すこともその逆も日常茶飯事だからだ。

空からは未だ止まない強い雨が降り、実体のない俺の体を通り抜けアスファルトの地面に音を立てて衝突している。その雫の1つ1つを見ながら先に進んでいるうちに、俺の4つ目から涙は消え去っていた。

だが、悲しい・・・。ベガとユデムが死んだ時は何も思わなかったが、今はすごく悲しい。ベガとユデムに関しては直接見てないのも影響しているだろうが、何よりもメキドは俺の知り合いであり、友達だった。だからこそ今まで感じたこともない悲しさが込み上げてくるのだろう、今の俺は心にぽっかりと穴が開いた気分だ。

今だからこそわかる気がする。何でメキドが自分の死をクシャルに言うなと言ったのかを。

メキドとクシャルは小さいときからずっと一緒だった。となれば関係は幼馴染、まさに友達以上だ。そんなクシャルにメキドが死んだなんて言えば、まず間違いなくクシャルは悲しむ。だからメキドは自分の死を言うなと言ったんだ、ずっと一緒にいた大事な人喰魔を悲しませないために。

「メキド・・・」

ふと言葉が零れてしまった。しかし悲しいもんだ。友達が死んだというのに、それを1番傍にいた奴に言えないなんて。だがこれはメキドの遺言、既に口は裂けてるが例え口が裂けてもメキドの死はクシャルに言っちゃいけないんだ。

そんなことを考えている内に俺は河川敷に辿り着いた。さっきも言ったことだが未だに雨が降り続けているためか、河川敷を流れる川の水面が激しく動いている。まぁだからといって何かあるわけでもないので、俺はオルガ達のいる橋の下へと急いだ。

少しして俺が橋の下に辿り着くと、そこにはチィとオルガ、そしてクシャルが雨宿りしているかのように橋の下の影に並んで雨を見上げていた。遊んでいる途中に雨が降ってきたから橋の下の影に身を寄せたのだろう、まぁもっとも人喰魔は普段は実体が無いので濡れるということはまず無いが。

「あ、ドルトー!」

俺に気付いたチィが声を上げると、チィは俺に向かってトコトコと走ってきた。既に体のサイズが最小限の状態にあるためチィと接するには問題なかったため、俺は飛びかかって来たチィの体を受け止め、そのままチィを肩の上に乗せてやった。

と同時に、オルガが声を掛けてきた。

「遅いじゃないかいドルト。あんたがいないからチィちゃんお腹空いちゃって大変じゃったんじゃぞ?」

「ん?あ、あぁ・・・そうだったのか」

「っ?・・・まぁわしとクシャルがチィちゃんと同行して飯食わせてやったんじゃけどのぉ」

「そうそう、あたい達感謝されるべきだよねー」

「あ、あぁ・・・ありがとさん」

そう答えながら、俺は3人がいる橋の下に入りその影に身を寄せた。はぁ・・・なんかメキドの死を間近で見たせいでなんか変な気分だ。悲しいのにそれを表に出せないもどかしさという奴なのだろうか、とにかく変な気分だ。それよか今の俺、まともに会話出来てる?

そんなことを考えていた時、ふとある声が俺の耳に入った。

「ねぇドルトー」

それは俺の目の前からした。見るとそこには宙を浮くクシャルがいて、クシャルのグロテスクな眼球に俺の4つ目の顔が映っていた。いつの間に俺の目の前に来たのかやら、どうやらぼーっとして気付かなかったようだ。

そうしていると、クシャルは続けて口を開いた。

「メキド知らなーい?」

その言葉に俺は一瞬固まってしまった。メキドはもう死んでしまっているのになんでそんなことが言えるんだ。俺は一瞬そう思ったが、思えばそれを知っているのは俺だけであり、クシャルやチィやオルガはその事実を知らないのだ。そう問われるのも当たり前か。

「いやさぁー、あいつったら飯食いに行ったっきり帰ってこないじゃーん?だからどうしたんだろうなーって思っただけで・・・・あっ!べ、別に心配で心配でたまらないってわけじゃないんだかねー!」

明るく、それでいてなんか自爆してるような感じでクシャルは話続ける。つまりはメキドが今どうしているのか心配しているようだが・・・・・なんて返事すればいいんだ・・・。メキドは死にました、そう素直に答えるべきなのか?

いや、メキドはクシャルに自分の死を言うなと言った。その遺言を破るわけにはいかない・・・か。

「メキドなら・・・この街出て行ったぞ?」

「え・・・?」

「いや、クシャルと別れたいってわけじゃなくて、何というかなぁ、この街の飯が少なくなってきてるから別の場所を先に探してくるらしいぞ?」

「ふーん・・・そう、なんだ・・・」

「なんだ、不満なのか?」

「べ、別に~。ただ・・・ちょっと意外だなぁって・・・」

「意外意外ぃ~」

「キャー!今のチィちゃん超かぁいいよー!よーし、またあたいと鬼ごっこするかー!」

「するーするー!」

チィが元気よくそう答えると、チィは俺の肩から腕、足、そして地面と順にジャンプしていき、元気よく河川敷を走り始めた。それをデレデレの表情のクシャルが追いかけ、2体で鬼ごっこ(というより追いかけっこ?)を始めていた。

・・・つか、随分適当な嘘ついちまったな俺・・・。まぁこれでメキドの遺言も守れたから良さそうだが、なんというか・・・なんか変な気持ちだ。

「ドルト」

ふと、俺の横にいたオルガが俺の名を呼んだ。その声に反応して俺がオルガの方に目を向けると、オルガは随分と神妙な表情を見せていた。

そして、こう呟いた。

「メキドに・・・何があったんじゃ?」

あぁ・・・オルガには何もかもお見通しか。オルガのその一言を聞いた時、俺はオルガにメキドの死を隠そうと思えなかった。今ならクシャルもチィも鬼ごっこをしてこの橋の下から遠く離れて雨の降る芝生のグランドにいるため、いろいろと丁度良い。

俺はオルガに全てを話した。俺の掌でメキドが死んでいったことを。

それを聞いたオルガは随分と悲しそうな表情を見せ、静かに呟き始めた。

「そうかい・・・あのメキドが・・・」

「奴は最後にクシャルに自分が死んだことを言わないでくれって、そう言ったんだ・・・。自分の1番傍にいたクシャルを悲しませたくないと思って・・・」

「なるほど・・・それであんな下手糞な嘘ついとったわけかい」

「下手で悪かったな。どうせ俺は不器用な人喰魔だ」

「ま、今のあんただったら十分なこって。じゃが・・・その嘘、いつまで通るかのぉ」

「さぁな・・・」

「もしクシャルが嘘に気付いたら・・・どうする気じゃ、ドルト?」

「その時は・・・その時だ」

そう答えるしかなかった。今の俺にはオルガの真剣な問いかけに対してまともに答えることも出来なかった。

ただ、俺はメキドの遺言を守りたかった。遺言を守って、クシャルを悲しませないようにしたかった。それだけしか、今の俺の頭の中になかった。










3日後。

天気は雲が少なく青空がいっぱいに広がった晴れ模様。太陽の光が俺のいる河川敷の芝生のグランドに降り注ぎ、暖かなそれが俺を暖めてくれる。まぁ別に寒いわけじゃないので暖かくなったところで特に何もないわけだが。

そんな俺は何をしているかというと、いつものようにグランドで体を丸くして横になっている最中だ。今は昼過ぎで飯もとうの昔に食い終えているし、特にすることがないわけで食後の昼寝をしているのだ。食っちゃ寝食っちゃ寝してると豚になる、なんてことわざもあるらしいが、でもそんなの関係ねぇ!って奴だ(だから太るわけだが)。

ちなみにチィとオルガはと言うと、またしても鬼ごっこで遊んでいた。チィの教育のためとはいえよくがんばっているこって。俺には食後に遊ぼうなんて精神はこれっぽっちもないのに。

そうそう、ショッピングモールで負った怪我で直りきってなかったオルガの右腕が昨日からようやく生えてきたようで、今は肘の部分まで右腕が再生している。まぁだからといって俺に都合のいいことが起こるわけではなく、むしろまた無謀な要求を突きつけられそうで嫌な予感しかしないわけだが・・・。

そしてクシャルなんだが・・・3日前の嘘を聞いてからなんか様子がおかしくて、俺ら(正確にはオルガ)と一緒に行動しているのだが、なんか元気がないような感じだ。現に今も大好きなチィとオルガが遊んでいるのを前にしても、橋の下の影でボーっと空を眺めているばかりだ。

・・・やっぱりあんな嘘をつくべきではなかったのだろうか。メキドの死を知らないからこそ、クシャルはいつか帰ってくると思ってずっと待っているのかも知れない。それともこの街を出て行った先で死んでいるかもしれないと不安になっているのか。わからないが、どんな理由にしろメキドのことが気になっていることは事実だ。

メキドが死んでからもう3日。あんだけ心に引っかかっていた悲しみもなくなってもう平気になった俺だが、クシャルはメキドの1番傍にいた人喰魔だ。3日経ったとしても心配は消えないのだろう。そんなクシャルがメキドの死を知ったらどうなるか・・・想像しただけでも胸が痛む。

まぁそんなことを考えてたら切りがないので、俺はこのまま夜まで眠りにつくとしよう。夜になったらまたチィと飯を食って今日は終わりだ。

と思ったその時だった。

「・・・ドルト」

ふと傍から聞こえた声に、俺はゆっくりと4つの目を開く。開いた眼に移ったのは、俺の目の前で泳ぐように宙に浮かぶクシャルの姿だった。俺が寝る直前まで橋の下にいたのに、一体どうしたというんだ?

まぁこのまままた目を瞑るのもあれなので、とりあえず体を起こしてクシャルと面を向かせ、話を始めた。

「なんだし?」

「ねぇドルト・・・」

「だからなんだし」

「・・・ホントに、メキド・・・この街出て行ったの?」

その問いかけに俺の肩が一瞬跳ね上がった。嘘だとバレたのか?そう思った俺だが、今思えば心配でまた確認したいという気持ちがあるのも無理もないことだ。なので俺は以前言った嘘を繰り返すように返事を返した。

「あぁ。前にも話したろ?飯を探して別の街に先に入ってるって」

「そう・・・」

「そんな心配すんなって。あいつなら元気でやってるはずだっての」

「・・・心配できないわけ、ないじゃん・・・!」

静かに、それでいてどことなく力強い声でクシャルはそう返してきた。それだけではない、クシャルのグロテスクな眼球が俺のことを睨みつけるように俺を凝視し、クシャルの表情もどこか険しくなる。

そうしている内に、クシャルはまた口を開いた。

「だっておかしいもん!いつもならどっか行く時はあたいに一声かけてから行くし、次の街に先に行くのも自分だけ行く必要がないし・・・。おかしい・・・絶対おかしいよ・・・!」

「そんなこと言われても、こっちはあいつから言われたことをそのまんまお前に伝えただけで――――」

「嘘だよ!!」

怒号にも似たクシャルの声に、俺は思わず声を止めてしまった。その大声に鬼ごっこをしていたチィとクシャルがこっちの方に顔を向け、様子を伺っている。

だが、クシャルはそんなことお構いなしと言わんばかりに大きな声を張り上げた。

「そんなの絶対ありえないもん!!メキドは何かあったら絶対あたいに言うし、それがあたいのことならあたいに直に言うもん!!」

「だ、だけどよぉ・・・」

「ねぇドルト、知ってるんでしょ?メキドは何処なの?なんでドルトがそんなこと言わなきゃいけなくなったの?メキドに・・・何があったの!?ねぇ・・・ホントのこと話してよ!!」

それは本当にメキドのことが心配で心配でいられない、クシャルの心の叫びだった。嘘がバレちまったか・・・。メキドの遺言を守ってたつもりだったが、返ってクシャルを困らせていたみたいだ。

メキド、ごめん・・・。

「・・・死んだし」

「え・・・?」

「死んだんだよ・・・。ヴァルキリアスにやられて、死ぬ寸前まで痛めつけられて・・・」

「嘘・・・嘘だよ・・・!!あのメキドがヴァルキリアスにやられるわけない・・・!!」

「嘘じゃない・・・現にあいつは俺の手の中で死んで、俺の手の中で・・・粉になった」

「そ、そん・・・な・・・」

俺の言葉を聞いてクシャルは悲しそうな表情を浮かべ、力尽きるように芝生のグランドに体を降ろしていく。4枚のヒレで地に立ったクシャルはグロテスクな眼球から大粒の涙を流し始め、身に溜まった悲しみを吐き出していた。

・・・クシャルは小さくなっていた。体がとか、そういう意味じゃなくて、なんというか・・・悲しみで心がしぼんでいっている、そんな感じだ。

「・・・メキドはな、お前を悲しませたくないと思って、お前に自分が死んだことを言うなって言ったんだ」

「・・・・・・」

「嘘をついてて悪いとは思うが、そのメキドの気持ちだけは――――」

「信じない・・・」

俺の言葉を遮って、クシャルは一言そう言った。その言葉に俺が疑問を抱いた直後、クシャルは再び口を開く。

「信じない・・・そんな話・・・。メキドは生きてる・・・絶対何処かにいる・・・いるんだよ・・・!」

「おい、クシャル・・・」

「信じない・・・あたいは絶対・・・絶対・・・・・・信じないんだからぁ!!」

涙を押し殺して声を張り上げたクシャルは俺から体を反らし、その場から駆け出し始めた。大粒の涙を流し、宙を浮きながら突き進むクシャルを止めようとしたが、クシャルは逃げるように前へと突き進んでいく。

「あ、クシャルー!」

何処かに行こうとするクシャルを見て様子を見ていたチィが大きな声で呼ぶが、その声にも耳を傾けず、クシャルは何処へと消えていった。

俺は、いや、チィもオルガも、消えていくクシャルの背中をただただ眺めていることしか出来なかった。










あたいはひたすら前へ突き進んだ。涙を零しながら、ただただ前へと。

信じられなかった、ドルトが言った言葉が全部。ただどれも本当のことで、それが嫌だったからあたいはこんなことになってる。

でも、メキドは・・・もういないんだ・・・。

そう思うとあたいの体は止まり、また地面にヒレをついた。河川敷に変わりはないけど、ドルト達の場所から随分と離れた場所だ。

そこで、あたいはまた悲しんだ。

「メキド・・・」

涙が止まらない。どうしてこんな悲しいんだろう。たかが人喰魔の1体殺されただけなのに。

・・・ううん、違う。メキドは「たかが」で呼ぶような存在じゃない。もっともっと、あたいにとって大切な存在だったんだ。

『大切な存在?・・・ヘッ、そんなこと大っぴらで言ってんじゃねぇよ、恥ずかしい』

・・・メキドの声がする。聞いてると憎たらしいけど、絶対に憎めない。そんなメキドの声。

『おいおい、それオレのこと褒めてんのか文句言ってるのかわかんねぇじゃねぇか』

ハハッ・・・ごめん。でもね・・・でも・・・。

『あん?なんだよ?』

あたいね・・・そんなメキドが好きだったんだよ?初めて会ったときから、ずっと・・・。

『・・・オレもだ』

その言葉が嬉しかった。一緒に行動して、一緒に生活して、一緒に子供作ろう・・・なんて話もしたっけ。

でも・・・そのメキドはもういない・・・。もう・・・いないんだ・・・。

ねぇ・・・どうして死んじゃったの?ねぇ・・・答えてよ・・・。

「メキドォ・・・!」

・・・何やってるんだろ、あたい。悲しくて、涙も止まらなくて、挙句の果てには昔のことなんか・・・。

その時だ、あたいの前方に人間が見えた。美味しそうなオーラを感じる、あれは食べれる人間だ。

瞬間、あたいは思った。メキドを殺したのはヴァルキリアスなら、全ては人間が悪いんじゃないかって。

そうだ・・・メキドを奪ったのは人間だ・・・。飯の分際で・・・あたいの大切な・・・大切なメキドを殺したんだ・・・!

許せない・・・許せない・・・許せない許せない許せない許せない許せない!!

「食い尽くしてやる・・・・・人間も・・・ヴァルキリアスも・・・みんな・・・みんな・・・・・あたいが食い尽くしてやるぅ!!」










あれから時が流れて、夕方。

空はもうすっかりオレンジ色に染まり、夕日の光が河川敷をオレンジ色に染める。その夕日は徐々に地平線に沈んで行き、夜になろうと準備を始めているようにも見えた。

そんな中、俺達は橋の下で何もせずに佇んでいた。クシャルの泣いた姿を目にした後にチィと遊ぶことも出来ず、チィもクシャルの泣いた姿を見てか少し気を落としている。自分が悪いわけでないにしても、あの時のクシャルがチィには少しかわいそうに見えたのだろう。

しかしそんなチィも流石にじっとしているのがつまらないらしく、橋の下に生えた草を弄くっている。もっとも実体がないため触れることは出来てないが、チィはそれでも暇を潰すように草達を弄くり回した。

そんな時、俺の隣にいたオルガが話しかけてきた。

「クシャル、遅いのぉ」

「だな・・・」

「全く、嘘がバレてホントのこと話すからこんなことになるんじゃい」

「しつこいし。もう昼からずっとその説教じゃねぇか。大体お前だったらあの時どうしてたし」

「わしじゃったら、そうじゃのぉ・・・それでも嘘を貫き通した、かのぉ」

そう言うと思ってましたよクソ婆。あんな状況に陥ったらホントのことを言うか嘘を貫き通すかの2択しかないだろう。これ以外の選択肢と言えば無視したり話を逸らしたりする程度だろうが、あの時のクシャルを前にしたらそんなことじゃ話は終わらせなかったはずだ。

「じゃが・・・まさかクシャルがあんなに泣いてしまうとはのぉ。ま、今までメキドと一緒じゃったから仕方ないことじゃけどのぉ」

「メキドにとってクシャルは大切な存在だったみたいだが、クシャルにとっても、メキドは大切な存在だったみたいだな」

「そういうことじゃのぉ。じゃが、生き物は生を受けたときから死は決まっているもの。例えそれがヴァルキリアスに殺される運命であったとしてもじゃ」

オルガは意味深にそう言った。オルガの言うとおり、生き物に死は付き物。ただメキドはその死の形が悪かっただけなんだ。もっとも、その形の悪さがクシャルを悲しませることになったのだが・・・。

ふとその時、俺は3日前にオルガに聞こうとして聞きそびれていた疑問を思い出した。

「オルガ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なんじゃい?」

「お前の傷を癒したエネルギーを送る『現象』ってのは、送れる奴と送れない奴を選ぶものなのか?」

「んんー?・・・あぁ、なるほど。メキドの最後でどうして現象が起きなかったのか気になっとるのか」

「まぁな」

「確かに・・・あれはエネルギーを送るものを選ぶ。じゃがその選び方は非常に緩い」

「緩い?」

「例えばじゃ、今あんたの前に怪我をした2体の人喰魔がおったとする。片方は擦り傷で、片方は腕が切り落とされてしまっていたとして、そいつらにエネルギーを送る現象を試みたとき、お前さんはどうなると思う?」

「どうなるって・・・腕が無いほうに優先して現象が起きるんじゃ?」

「ところがどっこい、違うんじゃなぁこれが。例え擦り傷でも、腕が切り落とされていたとしても、現象は2体の怪我をただの怪我と判断して、同時に2体に現象が起こるのじゃ」

「まぁわかるにはわかるが、それで何が言いたいんだ?」

「つまりじゃ、どんな大きな怪我でも小さな怪我でも反応する現象がメキドの時は反応しなかったということは・・・・現象は怪我を治せないと判断して現象を起こさないのじゃ」

「てことは・・・死ぬ寸前じゃ現象は出ないわけか」

「そういうことじゃ。死は生を受けたときから決まっているもの。それを覆すことは出来ないということじゃの」

そういうことか・・・あの時現象が発生していればメキドは助かったと思ったが、元より現象が起きないのだったらどんな形にしろあれがメキドの寿命の迎え方だったのだ。まぁメキドが死んで3日も経った今更にそんなことを考えても仕方ないことだろうが。

「・・・いつまでも過去にしがみつくなってことか」

「そうそう。形はどうあれどうせいつかはみんな死ぬんじゃ。そんなこと気にしてるんじゃったらほれ、さっさとチィちゃんの遊び相手になってやんなせぇ」

「そうだな」

俺はそう答えながらオルガの傍を離れ、前方にいるチィの傍に近づく。チィも俺の存在に気づいて体を俺の方に向け、なんか嬉しそうな表情をしている(気がする)。

「どうしたのぉ、ドルトォ?」

「暇か?」

「うん、ひまー」

「じゃあ鬼ごっこするか?」

「うん!するー!」

「よーし、じゃあ俺が鬼になるからさっさと逃げろー」

「わーっ!ドルトが鬼だぁ!」

楽しそうに大きな声でそう言うと、チィはトコトコとした足取りで芝生のグランドへと駆け始めた。鬼は確か10秒数えてから動き始めるんだったな。えーっと・・・。

いーち・・・。

にーぃ・・・。

さーん・・・。

「ク、クシャルゥ!!」

数を数える俺の声を遮るかのようなチィの大きな声に、俺はすぐさま反応してチィの方に顔を向ける。そして、俺の4つ目が映したのは残酷な光景だった。

前方に広がる芝生のグランドにいるのはチィと、体の半分が無くなり、大量の血を垂れ流しながら地面すれすれで宙を泳ぐクシャルの姿だった。酷過ぎるクシャルの姿にチィは驚きを隠せずにいるようで、言葉も無くただただ近づいてくるクシャルを見続けていた。

「チ・・・チィ・・・ちゃぁん・・・」

力無くクシャルがそう呟いたと同時に、クシャルは血を垂れ流すその体を地面に落とした。それを見た俺とオルガは慌ててクシャルの元へと駆けつけ、すぐ近くにいたチィもまたそんなクシャルの傍に近づいた。

俺達が傍に駆けつけた時、チィはクシャルのすぐ目の前でクシャルと目を合わせていた。だがグロテスクなクシャルの目は血で滲んでおり、充血よりも酷く赤い目になっていた。赤い目を持つ奴はチィもそうだが、クシャルの場合はかなり痛々しい目だった。

「クシャルゥ!大丈夫なの、クシャルゥ!?」

チィが必死になって声をかけている。それにクシャルは返事を返そうとしているようだが、体の傷が酷いためかそううまくいかないようだった。傷からは相変わらず血が流れ続けている。何か強い衝撃で胴体の下半分が吹き飛ばされたような感じの傷だが、一体どんな奴と相手したんだ?

その疑問を代弁するかのように、隣にいたオルガがクシャルに声をかけた。

「クシャル!一体どうしたんじゃ!?何があったんじゃ!?」

オルガは大声を張り上げ、そうクシャルに言い放つ。その声に苦しんでいるクシャルはようやく声を出した。

「グフッ・・・やられちゃった・・・。オルガが・・・ショッピングモールで相手した・・・ヴァルキリアスに・・・」

「なっ!?」

俺は思わず声を上げてしまった。ショッピングモールでオルガと相手したのは2人組みのヴァルキリアス。そしてそれはベガやユデム、そしてメキドすらも葬った奴らだ。そんな奴らがクシャルまで・・・。

「クシャルゥ・・・!」

痛々しい声のクシャルを目にしてか、チィが悲しそうな声でクシャルを呼びかける。その声にクシャルはチィの方に顔を向け、痛々しい声で返事を返す。

「チィちゃん・・・チィ・・・ちゃん・・・」

「クシャルゥ・・・!?ねぇ、クシャルゥ!」

「あ、あたい・・・ね・・・死ぬ前に・・・チィちゃんに・・・オルガに・・・ドルトに・・・みんなに会いたくて・・・ここまで来ちゃった・・・」

「ば、馬鹿!諦めてんじゃねぇし!まだ死ぬかどうかなんて――――」

「わかる・・・よ・・・。だって・・・体が・・・どんどん・・・冷たくなってくんだ・・・」

「冷たいのぉ!?じゃあ、チィが暖めるぅ!」

そう答えたチィはクシャルの血で汚れた体に自分の体をくっつけ、クシャルを暖めるかのように体を擦りつける。死なないで、そう本能的に示しているのか、わからないがとにかくチィはクシャルを助けたがっていた。

だが、それに反するかのようにクシャルは口から大量の血を吐き出した。その血はチィの足を汚し、芝生のグランドに滴っていく。

「クシャルゥ!?」

「ゴブッ・・・ガッ・・・!!」

「クシャルゥ!チィが暖めるから・・・暖めるから・・・!」

「チィ・・・ちゃん・・・・・ありがとう・・・・・」

「え・・・?」

「ゲフッ・・・こ、ここまで来て・・・ホントに良かった・・・」

「な、何言ってるの?聞こえないよぉ、クシャルゥ・・・!」

「・・・優しいチィちゃん・・・。優しくて・・・かわいくて・・・・・なのに・・・あたい・・・死んじゃう・・・」

「し・・・死ぬぅ・・・?なに・・・それぇ・・・?」

「ハハッ・・・そうか・・・。チィちゃんには・・・まだ難しいか・・・」

「クシャルゥ・・・」

「チィちゃん・・・あたい・・・死にたくない・・・・・死にたくないよ・・・!!でも・・・もう・・・」

そう呟いた瞬間、クシャルはまた口から血を吐き出した。さっきよりも更に大量の血だった。同時に体の傷からも血が流れ出し、クシャルの体から全て血が出て行ってしまうのではないかと思えるぐらいの出血量だった。

「ク、クシャル!?」

「クシャルゥ!」

「おい、クシャル!」

「・・・ドルト・・・オルガ・・・それに・・・・・チィちゃん・・・・・」

「クシャルゥ・・・!?」

「い・・・今・・・まで・・・・・あ・・・り・・・・・・が・・・と・・・・・・ぅ・・・」

それが、クシャルの最後の声だった。クシャルの体や辺りに広がる血が一瞬にして灰色に染まり、そして、チィの目の前で粉塵となって砕け散った。

そう、クシャルは・・・死んだのだ。

「クシャル・・・」

俺は思わずクシャルの名を呟いた。何故かはわからない、ただ・・・クシャルの死が俺には衝撃で、それでいて悲しいことだったからだ。それは隣にいるオルガも変わらないだろう。

だが、チィは俺達よりも酷く悲しんでいた。

「クシャル・・・嫌だよぉ・・・・・・クシャルウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

チィは大きな声で泣き叫んだ。赤い目から大粒の涙を流し、足元に広がる粉を前にして慟哭している。そんな姿を見て、俺とオルガも目から涙が溢れ出していた。

夕日の光が俺達に降り注ぐ。俺に、オルガに、チィに、そしてチィの足元に広がる灰色の粉に、平等に夕日は光を当てる。

チィはそんな夕日の光を浴びながら、しばらく泣き続けていた。

初めて知る「死」を目の前にした悲しみで・・・。










To be continued...

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あとがきコーナー




管:はいどうもー、またまたやってきましたあとがきコーナー!毎度ながらここまでのご拝読、真にありがとうございますm(_ _)m。

ク:・・・これからもドルトの日常をよろしくお願いします・・・。

管:ちょwwwwwwwwwwどうしたクシャルwwwwwwww!?

ク:だってー・・・今話であたいの出番が無くなっちゃったんだもーん・・・。

管:あぁなるほどね。そういえば前話でもメキドが同じように落ち込んでたしなぁ(☆w☆;)。一瞬デジャブを感じたぐらいだしw。

ク:もういいからー、さっさと始めてよー。

管:なんつうめんどくさそうな発言wwwww。まぁ言われずとも始めますとも。それでは早速始めまーす。


今話は前話と同じくドルトの知り合いが死んでしまうというバッドエンド的な感じなのですが、内容的には前話とは大きく違った構築の仕方になっていて、全体的にクシャルのイメージが強くなるような構築になっています。

そんな今話の始まりはメキドが死んでから少し時間が経った後からで、ドルトが河川敷に戻ってきてクシャルとの会話の場面となります。この辺の設定は当初から考えていたものなんですが、細かい設定がすっげーあいまいで、どんな感じに河川敷まで戻るかまるで考えてなかったり、ドルトとクシャルが会話してその後に続くドルトとオルガの会話までの間どうするか等もまるで考えてませんでしたw。なのでその辺はほぼ即興になっちゃってます(ぁ。

その3日後、クシャルがついにドルトに追及する。そしてクシャルはメキドの死を知って悲しむ。この辺の設定も当初からあったもの・・・ではなく、実はつい最近になって考えたものです。当初の設定では粉になったメキドを隠していたドルトがその粉を手にしてクシャルの前に現れるというものでした。が、そうなると粉を何処に隠したのかを考えなければならなくなり、設定上隠す場所もなさそうだったので没行き。今の設定にあいなったわけです。

クシャルがドルト達から離れ、遠く離れた場所で悲しみにくれる。この場面では今までドルトの視点だったのが一変してクシャルの視点に変わり、クシャルの感情がよりわかりやすく映し出せるようにしました。この表現の仕方は当初から考えていたもので、客観的からではわからないクシャルの気持ちを映し出そうといった感じで作り出されました。

夕方になり、チィと遊ぼうとするドルト。だがそこに、体が半分なくなった瀕死寸前のクシャルがやってくる。この設定も当初からあったもので、チィの前で最後を迎えるエンド、っという感じで考えていました。実際物語中でもそれを描くことができて良かったのですが、そこにいたるまでの会話がなんかgdgdになってしまって・・・(汗)。ワンツーマンの死に際ならまだしも、複数を前にした死に際はいろいろな意味で難しいです><。

初めて目にする「死」を前に、チィは悲しみで号泣する。残酷な結末を前にドルトとオルガもまた涙を零していく・・・。果たしてこの後どうなるのか、それは次回のお楽しみ~。


ク:なんかあたいの時だけ設定変更があるのは気のせいー?

管:まぁ気のせいといっちゃ嘘になるけど、でも意外と日々設定変更は起きてるんだよねぇ。まぁここでは言えないが(☆w☆ )。

ク:なんで言わないのー?

管:いやほれ、ネタばれになるから(☆w☆ )。

ク:別にいいじゃーんネタばれしたってー。

管:いやいや良くないでしょ!?(☆д☆;)これからのお楽しみにしなかきゃダメ、絶対。

ク:ネタばれしないと食べちゃうぞー?

管:なんという脅し・・・だが断る!

バクッ!(管理人、クシャルに食われる)

ク:ふぅ・・・。あ、管理人がいなくなっちゃったからもうやることないよねー?じゃあ終わらせちゃおうかなー。

それじゃみんなー!あたいがいなくなっても次のお話もよろしくねー!










管:THE・復活( ̄w ̄ )。

ク:っ!?何処から飛んできたのあんたー!?


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